夢という事象に、思い当たる事のある人間は数多くいるだろう。夢というものは、眠りについた時記憶を整理する段階で見る、過去の出来事が主だった要因…と言われる事象である。
夢そのものを知覚する人間もいるもので、例えばそれが夢であると判断する場合はあまりにも馬鹿げたことが起こり、そこに理性が働いたりする場合、それを夢と認識する者達がいる。
そして、そんな夢が夢であると認識する為の要因は、人それぞれに違いがある。
ニャアンは…今、自分が夢の中にいるのだろうという事を自覚していた。
そう、目の前には愛していた筈の両親がいて、一緒に手を繋いで歩いている。ただ、問題が無いわけではなくて2人の顔がよく分からないのだ。
記憶は整理するごとに摩耗して行き、己の意思と関係なく脳がコレは使わないと、そう思った記憶そのものを削除していく。
そして、それは大切であったはずの記憶もまた削られていく運命であるのだ。
ニャアンには…、もう両親の顔がどの様なものであったのかハッキリとは、分からない。
霞がかって、その顔は雲のように真っ白になっていること…、笑っているのか泣いているのか…わからないということ。
それが、今彼女が見ているものを夢だと自覚するには充分な要因であった。
眠りにつく前に、自分が何をしていたのか?ゆっくりとだが…、確実に思い出しつつそれがトリガーとなることで、意識は確かに浮上していく。
身体が痛い…、息が苦しいし頭も痛い。
でも、それは確実に自分が生きているのだと言うことの現れであって、決して悪いことではないのだ。
「うっ……く、はぁ…。どう…なったんだろう。」
自分の意思で、出来そうだとやれる範囲の事をやろうとザクのコックピットに乗り込み、ザクを駆って安全な場所を探す筈だったのだが、何故かザクの持っていたマシンガンを、見慣れないモビルスーツに撃ち込んだ…。
そこまでは覚えている。
イヤにスムーズに事を起こしたものだと、自分からして驚いている。こんなにも誰かの為に動こうと思ったのは、初めての出来事であったからだ。
「そうだ…シュウちゃんは……、何処?」
画面の潰されたコックピットの中、外の気配には決してシュウジのソレと、分かるようなものがない。と、彼女はそれを自覚した。彼は何処かに行ってしまったのかもしれないと、そう想いザクのコックピットを開放すると……
「おっと、動かないでくれると助かるんだけど。」
一度だけ会ったことのある人が、白いモビルスーツのコックピットから顔を出して、ニャアンに拳銃を向けているのだ。
それに驚いたものの、逃げる気などサラサラ無い。そんな事をしたとこらで、ザクの性能じゃどう見ても目の前のそれには勝てそうにないし、何より…
「マチュ…ジークアクスは?」
そんな事よりも、マチュの事が気がかりだった。
シュウジは何のことかよくわからないが、いなくなっている事にある種の見限りをしたが、マチュは違った筈である。
最後に見た光景の中で、微かにだが確かにマチュの気配がしたような…そんな気がしたからだ。
そして、マチュのジークアクスが持っていたその武器が、あの巨大な機体を狩り倒すべく首と胴体とを切り離しさようならにしているのだから、必ず彼女は生きているのだと確信を持っていた。
「誰を探しているのかは知らないけれど、投降してくれないか?これ以上手荒な真似はしたくない。」
渋々と言った風に、ニャアンは手を上に上げ戦う意思が無いことを示す。それを、確認した彼…エグザべは直ぐにコックピットへと移り彼女を掌へと納めることで、その場を後にした。
その時薄っすらとだが、ジークアクスが近くにいるのが目に見えた。
この時、何処かの望遠レンズが彼女の事を撮影していたのだが、当の本人がそれに気が付くことはなかった。
シャリアはこの事態が誰の手で行われたのか、ということに対して明確な認識を持っていた。
ギレンによるキシリア暗殺計画、それを地球連邦と共に謀殺という形で成そうとする等という、ジオン独立戦争が一体何の為に行われたのか、意味が分からない事態となっている。
そんな彼の機体、キケロガは機能を停止したジークアクスを抱きかかえるように、その機体内部のフレームによって支えていた。
コックピット内部の人間が意識を失っている事を確認しながら、これ以上の面倒事が増える事を嫌ったのだろう。彼は機体をコロニーの外へと移動させていた。
ソドンがコロニー外へと移動する中、エグザべの機体がキシリアを護衛しながら誰かを引率している。
そんな感覚を確認しながら、彼は今回の襲撃犯を見下ろしていた。
「アレの始末は…彼等が為すのでしょうね…。」
そんな言葉が自然と溢れるも、初対面である筈のハイザックと呼ばれるあの機体のパイロットに何か違和感を感じながら、
これにジオンが関わっていることが公のこととなれば、益々もって情勢不安となる事には、何の感慨も湧いていない。
寧ろ、コレによって地球連邦の関与が強いとなれば、サイド6はよりジオン寄りとなる事を、ギレンの計画であったのならば動きづらくなる事に、憤りを覚えた。
「それよりも…このお嬢さんがどれだけ出来るのか、調べなければなりませんが…。」
グッタリとしたジークアクスを抱えながら、彼は夜闇を抜ける。
……
それは…時間と共にやって来た。
必然というものであろうか?大きな事件となり、シェルターが起動し多くの市民がそこへと逃げ延びた。
全てが終わったと告げられた時、人々は安堵とともに現実を直視する時間がやってくるのだろう。
ミノフスキー粒子が霧散し、コロニー内部の通信インフラが元へと返ったとき其れ等の衝撃によって、立ち直れなくなる者達もいる。
それは、タマキ・ユズリハもその例外ではなかった。
「嘘……嘘よ!!」
シェルターを出て、オフィスの中へと戻り事態の収拾のために動かなければならないと、各省庁との連携の為に動こうと連絡を取ろうとしたとき…、彼女に1つの文言が飛び込んできた。
「御息女のアマテ・ユズリハの行方が分からなくなっています。」
それを聞いた途端に、彼女は周囲が真っ暗になったかのようなそんな錯覚を覚えた。
ミノフスキー粒子の影響で連絡が一時的に取れなくなった。それによって、インフラが復旧する迄は連絡は我慢しよう…。
あの子ならきっと大丈夫だからと、そう自分に言い聞かせていたのだが、いざ現実となったとき…彼女の脳はパニックに陥った。
咄嗟にデスクから飛び上がるように立ち上がると、急いで外へと駆け出そうとする。
だが、そんな彼女の動向を見た部下たちはそんな彼女を止めようと、両肩をつかみ羽交い締めにする。
「なにするの!離して!!あの子のところに、あの子を捜しに行くのよ!!」
「落ち着いて下さい!!気持ちは分かりますが、今あそこに行っても足手纏になるだけです!」
部下達の言っていることは尤もである。そもそもデスクワークの彼女、それどころかコロニーでの上級職についている人間が、果たして肉体労働こそが必要となっている現場に出て、果たして使い物になるのか?いや、なる訳が無い。寧ろ邪魔だ。
頭は頭の変わりしか出来ないし、手脚は手脚の仕事しか出来ない。
「でも…でも!!うっ…くっ…うぅ…ふぅぅ…」
ポロポロと、彼女の頬から涙が伝い床へと染みていく。
膝を付き、ガックリと首を下へと下ろした彼女は力なく涙を流す他無い。
お腹を痛めてまで産んだ子供、それも今までずっと育ててきた愛しい我が子。
最近では反抗期になってしまったが、それでも可愛い可愛い子供なのだ。
そんな子が、戦闘に巻き込まれて行方不明となったかもしれないと、そんな現実受け止めたくないだろう。
「夕刻ほどに、戦闘区域で彼女の記録があったそうです…。難民の子と一緒に、歩いていたと。」
涙で瞳を腫らし、真っ赤になったその目でその画像を見る。
黒髪の浅黒い肌をした、身の丈に合ってない服を着たアマテと同じくらいの歳の子。
それと一緒に、笑顔で道を歩いているアマテの顔。最近ではとんと見ることもなかった、そんな笑顔が…まるで遺影のように見えて、
「アマテ……。」
タマキは更に深く悲しみに暮れた。
周囲の面々はそんな彼女の姿を見て、居た堪れない想いであったが、どうしようもない現状に手を上げるだけであった。
戦争とはかくも悍ましいことか?彼女のように愛しいものを失う人々があとを絶たず、そして無力にも悲しみに沈む。
だが!アマテ・ユズリハは死んではいなかった!
「う……ん?どこここ?」
瞼を上げれば見知らぬ天井で、何より硬い床…。無機質な壁と肌寒いと感じさせる空間…、重力は小さく身体が下に押し付けられる感覚も薄い。
それがココが、コロニーの中ではないということを意識するには充分な証明であった。
硬いベッドから這い出ると、廊下の見える格子戸を手に取りそれが開かないことを確認する…。
自分が一体どこへと連れて行かれるのか…、そんな事を想いながらも1つ…気掛かりな事があった。
「あっ……帰るの遅くなるって連絡するの忘れたなぁ…。」
家に帰って、色々と話さなければならないことがいっぱいあるのに…と、彼女はベッドの上で膝を抱えて眠りについた。
……
多くの建物が瓦礫となり、大地は熱により融解しコロニーは外壁部への損傷が無いのかと…調査を進めていく。
そんな中で、今回の首謀者となるであろうモビルアーマー、そして損傷し大破したモビルスーツの残骸が、辺り一面に散乱する。
胴体とサヨナラした頭部には、人が出入り出来るようなそんな構造があり、コックピットはザクのような通常シートではなく、全天周囲と呼ばれるそれだった。
だが…残念なことであるが、そのコックピットには人の姿は無かった。
一体どこへと行ったのだろうか?軍警は厳戒態勢のまま、周囲への捜索を続行、事態を重く見た彼等は難民区への強制立ち入りを強行し、難民達はそれに反発する。
暴動へと発展する寸前にまで緊張感が沸騰する事により、一触即発と言った雰囲気が作り出された。
そんな渦中にあるイズマコロニー、そんな混沌の中にあっても2人の男はその事に目もくれず、1つの物をみていた。
厳戒態勢の最中、モビルアーマーの落着地とは正反対の区域から、望遠レンズを通してみる風景を見ながらその機体を詳細に記録していた。
「間違いなく、サイコガンダムだ。昔キリマンジャロで戦闘したことがあったろ?機体特性はともかく、紛れもなくサイコガンダムだった。」
「そうだろうな、あれ程の巨体だサイコミュの小型化が出来ていない。だからこそのあの姿だからな。」
2人は良くも大っぴらにその話をするものの、その周囲に軍警の人間はいない。
なによりも、彼等を監視する理由も無いからだが。
「パイロットはやっぱり強化人間だったか?」
「ああ、君の言った通りムラサメ研究所の強化人間だった。尤も、強化人間と言ったところでニュータイプのような、優れた感覚を持っているとは言い難い。寧ろ、オールドタイプに近いのだろうな。」
ドゥー・ムラサメ、それがサイコガンダムのパイロットの正体であると調べ上げ、2人はまだ年端もいかないその姿に醜悪さを覚えている。
「良く調べるな、あの機体の資料…いったいどこから持ってきたんだ?」
「知人が多いからな、尤も…こちらの私のネームバリューを勝手に使わせてもらっているよ。自分に振り切らないのは、まあやりやすいさ。」
パイロットを道具としてしか見ていない、ニュータイプの事を欠片程にも理解していない、そんな地球連邦軍が作り出したそれは、サイコ兵器としてはあまりにもお粗末である。
そもそも、装甲を兵装の一部とすることにいったい何の意味があるのか?
だが、その資料を熟読したアムロの脳裏には別の解釈があった。
「この世界に来たとき…色々なモビルスーツに違和感があった。ザクを言えば、推進タンクが剥き出しでサラミス級にはエンジンノズルが巨大過ぎる。
メカニック的な部分に差異があって、実際言うならお粗末な部分が目立った。
それに対して…ジークアクスやガンダムのサイコミュ技術は、あまりにも先進的過ぎる。」
彼はこの世界に来て、様々な技術的差異を目にしてきた。ジャンクに触れる度に、それが彼の脳裏にこびり着いた。
あまりにも歪な世界、ある一定の技術だけが突出している。有り得ないと言わざるをえないと。
「この世界のサイコミュは、バイオセンサーですら無い。もうバイオコンピューターと言ったほうが正確だろうな。」
「技術的なところは深くはわからん…、だがキシリアのあの姿もあって考えさせられるよ。まだ希望があると。」
そう口に出すと2人は歩き出す、夜がやって来るのだとそう語るように。
「本当に良いんだな?」
「あぁ、ニャアンもそしてあの子も、ここにいるよりは安全だろう…、騒乱がやって来る。」
その口元は何かを決意したかのように、固く閉ざされた。
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