猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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指導と始動

 

「さて、面倒な事になった…と言いたいところだが、そっちの方の対処はギレンが上手くやるだろう。

エグザべ少尉…、どうした?不服か?」

 

キシリアは礼装からいつもの彼女の軍服へと着替えると、彼女の乗艦であるチベ級パープル・ウィドウの艦橋に立つと、自らが指揮を行いながら離れていくソドンを見送っていた。

その後ろには、キシリア隷下のスパイとして行動していたエグザべがおり、少し不満そうな顔をしていた。

 

「いえ……、本当に自分が任務から外れてもよかったのでしょうか?それに…」

 

と言いかけて、横へと目を移す。

ムッス〜という顔をした、1人の少女が眉を顰めてキシリアの方を向いており、それを目にしたキシリアは

 

「お前の任務はもう良い、目的は果たせたのだからな…。それに…非常に有意義であったよ。」

 

嬉々として、それを否定してみせる。何より、何処か嬉しそうな言い回しで一層に不気味だろう。

 

「お嬢ちゃんは、コレからどうしたい?」

 

「どう…とは?」

 

エグザべによって連れられてきた少女は、そのままキシリアがこの艦へと招き入れた。

それは何かしらの勘のようなものが働いたからか、この少女を手元に置いておいた方が何かと良いことがあると、そう思ったのだろう。

 

だが、ジークアクスの操縦者であるもう1人の少女のことも、キシリアは知っていた。

知っていてあえて、この艦へと招き入れなかった。彼女としても、爆弾を抱えたいとは思っていない。

件の少女の服装は、どう考えてもサイド6においてそれなりの地位の人間、その娘だろう事が分かっているのだ。

 

そのまま送り返しても良いが、その場合寧ろ外交問題の方が大きく、寧ろそのまま使うのであればその少女を懐柔した後、テロリストに拉致されていた事にしたほうが、使い道が大きいと判断した。

そして…一番の理由は、シャリア・ブルがそのまま謀反を起こせば、テロリストに仕立て上げる事もできるという、手軽な相手であった事も大きいだろう。

 

そんな腹黒い事をキシリアは意識はしていたが、表立っては先方の理由であり、シャリアに押し付けた形となっている。

尤も、シャリアはその事に既に勘付いているであろうが、そんな事はどうでもいい。

 

「我々はこのまま、月面都市グラナダに向けて航行する。お前はサイド6に戻るのか?という話だ。」

 

キシリアにとってこの少女、ニャアンは別にどうでも良い相手であった。エグザべが拾ってきたという分には興味はあったが、本人が言うには元は難民である以上、利用価値は高くない。

それよりも、彼女にはある情報を渡してあるだけだ。

 

「私、向こうだとテロリスト扱い…なんですよね?帰ったら最後、捕まるからそれは嫌です。」

 

「ほお…、文字はきちんと読めるのだな。………済まなかったな。」

 

キシリアは煽るようにそう言うが、ここで普通の難民であれば頭に血がのぼるかどうかするだろうが、この少女からは何処か高等な教育の匂いがした。それに少し申し訳なく謝罪する。

その語りはとても独裁を敷いているザビ家の人間とは思えない程に、腰が低い。普通こう言う手合いは、そういう弱みは見せないものだからだ。

 

「2人には…迷惑かけたくないし…。」

 

「2人か…、名を言ってみよ。なんなら一緒にグラナダに招待しても構わない。」

 

キシリアは先程の件とそれとともに、機嫌が良いからか気前よく言う。

そうすれば彼女は遠慮無しに2人の名前を言う、その躊躇の無さに驚きとともに人畜無害なその感じが、キシリアは気に入った。

 

「グラナダに付いたら適性検査をやろう、もしかするとと言うことも有るからな。なあ、エグザべ少尉。貴様のその勘信じてみることにしよう。」

 

「は、は!ありがとうございます!」

 

いきなり話を振られたエグザべが少し驚きつつ、キシリアに言葉を投げかけられた事に嬉しくする。

そんな2人の間柄にせよ、ニャアンはこのキシリアという女性が決して端から悪い人間ではないと、そう思った。

 

 

……

 

イズマコロニー襲撃事件から刻々と時が過ぎ、1日が過ぎて行くと、人々は徐々に元の生活へと戻って行く。

一般的な職業に就いているものは、日常へと帰り何気ない日々を謳歌するであろうが、ことコロニーの運営側の人間たちにとっては、これからが大事な仕事となっていた。

 

攻撃により傷ついたコロニーと、その外壁。死者行方不明者の集計と、被害状況の確認。

それから、被害額や修復までかかる日程の調整とその予算の概算請求等々、やるべき事は沢山あるもののそんな中であっても被害者となってしまった文官達も中にはいるものだ。

 

そんな彼等に対して、同情的な見方をするものはそれなりにいる。なにせ一年戦争が終わって、いまだ10年も経っていないのだから、親族を失った人々は無数にいる。

それ故に、批判しようとすれば其れ等の人達を矢面に立たなければならず、余計に物事が拗れるのだ。

 

この日、1人の役員…。部長クラスの人間が自らの仕事を行えないほどに、精神的に追い詰められていた。

愛していたはずの一人娘を失う事がどれ程辛いことか、それは本人にしか分からない。

だが、体調を崩すには充分なものだったろう。

 

そんな彼等彼女等の穴埋めをする為に、上級役員クラスの人間が様々な仕事を肩代わりする事もある。

そう、例えばこのサイド6の大統領補佐官ともなる人物にまで、其れ等の仕事が回ってくることはあるのだ。

 

「ええ、わかりました。充分に気をつけて下さい、亀裂があれば直ぐに報告を上げて下さい。はい、それでは。」

 

電話を終え、耳から其れ等を話すとハァ…と、深い溜息をつきながら、その男カムラン・ブルームはあからさまに疲れたような顔をしていた。

そもそも、この事態を招いた根本的な問題である。非合法の賭け事である。モビルスーツを使った所謂クランバトル、それに金を出しているのは、サイド6そのものであるというところであるのだ。

 

彼自身、今まで知らなかったこともあるとは言え、この事態の原因を作った人間であると言えた。

彼自身はとても優秀であり、腐敗とは無縁の実に健全な男ではあるのだが、流石にこの事態に対しては深く反省を示していた。

それもコレも身から出た錆、そのせいで1つのコロニーが被害がでているのだから申し訳がたたなかった。

 

電話を終えた彼が、待たせてある送迎用の車へと乗り込むと……そこには既に先客がいた。

 

金髪でサングラスを掛けた不審な人物ではあるが、そんな人物と彼は面識があったのだろう。何の感情もなく話を始めた。

 

また(・・)貴方ですか、良い加減にしてもらえませんか?これ以上の話は。」

 

「いや、今回はその件ではなく…コロニーの被害とその原因についてお話したいことがあるのですよ。」

 

その男の語り口はイヤに皮肉に満ち満ちていた。

 

「私共の調べたところ、クランバトルという非合法の競技、その資金源となる人物が浮かんでまいりましてね?

そう…それはとても有名な人物でして、特にここサイド6・リーアでは恐らくは一番の有名人でしょう。」

 

その言葉に、カムランの額には汗が滲み出ていた。要するに大統領と言う男が、不正を働きそして今回の事態を引き起こした根本原因であると……そんな情報を持っているぞという、あからさまな脅しであった。

 

「さあ……、その情報の出どころがどこであれ私は黙秘しなければならないと言うことですか…、いやはや嫌な話ですね。」

 

「ええ、とても嫌な話でしょう。ですが、もしこれが外部に流れでもしたら……、とても大変な事になるでしょうね?

なにせ、今回の事件の被害者はこのコロニーの住人なのですから?いったいどうなるでしょうねぇ?」

 

「わかりきった事を聞く…」

 

どうなるか?ジオンや連邦への反発から一転、大統領という個人への批判へと波及し、速やかにその挿げ替えをしようと民衆が動き出す危険性がある。

それだけならまだしも、今回の件でリーアの住人は痛いほどわかったことだろう。

 

自治をしたいのならば、他人の力を利用するだけでなく個人でその力を持たなければならないと。

今でこそジオンに護られているが、今回はそんなものを破壊するかのように現実が襲ってきたのだ。そうなれば、このリーアの軍備を増強しろという、そんな話も出ることだろう。

 

そうなれば、ジオンは勿論のこと連邦との関係も急激に冷え切っていく。

 

「我々に何をしろと?君達に資金を…、これ以上の資金を流せというのか?」

 

カムランは目の前の男の画策していることがあまり良く分かっていない。

だが、サイド2の残骸付近で何かをしていることは確かである。その証拠に、アナハイム等の各企業が秘密裏に暗礁宙域に集結したという不確かな情報がある。

 

それも、この男の呼びかけなのだろう。

 

「既に準備は着々と進んではいる。各コロニーで同志を集め、再び立ち上がれる者達には話は通してある。少し早いが、後数年だろうな。」

 

本当に計画を進めているのだろう、今この地位に就いているものはカムランであるが、心底この男が恐ろしいものに見えていた。まるで蛇どころか、鬼のようだと。

 

「では大統領閣下にお伝え下さい、我々はいつも貴方を見守っているのだと…。」

 

男がそう言い終わると車は止まり、男がそこから降りる。すると全く別の車に乗っていき、その姿は掻き消えていった。

 

「全く…次から次へと問題が来るのか…。嫌な時代がまた来るのか…。本当に、考えたくもない。」

 

カムランは空を見上げて呟いた、ああ休みたいと。

 

 

 

……

 

「ゔううう、ゔぁうぅぅぅ」

 

と何かの唸り声が聞こえる。獣か?だがそれにしてもそれは少し音としては高すぎるものだろう。

咆哮というよりかは、人の発するそれと同じく声帯から発せられるに違いない。

 

医務室であろうその場所が、辺り一面に様々な物がバラバラと取っ散らかり、あたかも戦場になっているかのようになっているその元凶の存在。

 

その声の主は幼く、実際あまりにも華奢なその姿は病的にまでか細い腕と手足を地に着け、獣のように1人の男と対峙していた。

 

「落ち着いてくれないか?手荒な真似はしないと約束しよう。」

 

警戒一色、その顔は当に恐怖と怒りと憎しみが入り混じった、混沌としたものである。

温かな光を知らない、そんな子どもがしてはならないようなそんな色を、男・アムロは感じ取った。

 

「余程に警戒されているな、俺が男だからか…。それとも…」

 

そもそも彼が警戒されている理由は、良くもわからないものだった。

ここ、に彼が来た瞬間にその事態が巻き起こったのだから、本当に彼として気の毒である。

眠っていた筈のこの娘がいきなり飛び起きて、暴れたというのだからよっぽどだろう。

後で、医務長に謝っておこうと彼はそう決意した。

 

問題であるのは、この警戒を解く方法が果たしてあるのだろうか?

彼には心当たりがあったのだが、果たしてそれを実行に移した。

 

徐々に近づいていく、手を少しだけ広げ警戒されないようにその掌が見えるように、何も持っていない事を彼女に教える。

それでも彼女は警戒を辞めない、それどころか更に瞳孔を開き彼の一挙手一投足にまで反応する。

 

それは常人の動きではないことは容易であり、あまりにも反応に過敏な為にアムロの確信は更に加速した。

後1m程となった時、彼女・ドゥーは彼に飛び掛かった。

 

強化人間の肉体は薬物等のドーピングによって、肉体強度を上げたり筋肉のリミッターを解除していることが多々ある。

彼女もその例外に漏れず同様に肉体の力は、その華奢な身体からは信じられない程に怪力であり、握力にして100kgは下らないだろう。

 

そんな力で飛び掛かられれば、普通どんな格闘技を会得していようとも、瞬時の判断ではその力をいなす事は容易な事ではない。

容易な事ではないのだが、この時は相手が悪かった。

 

ドゥーは知らなかった、いや殆どの人々がこの男の素性を知らないのだが。数々の戦場を駆け抜け、時には白兵戦をもこなせる程に実戦経験豊富な男であり、尚且つ自分よりも体躯の良い相手に殴りかかるなど、かなりタフなものがある。

 

そして何より…、その戦い方は剛と柔を兼ね備えた正しく戦闘のプロである。

 

コレがドゥーがナイフを持っていればともかく、素手であったことも影響するのだが、わざと服を掴ませると徐ろに緩く着ていたそれを使って巻き取るように腕の方向を変えていく。

所謂合気だとか、そういうものの類であるのだが、この男の身体の使い方は誰よりも上手かった。

 

相手の力を用いて相手を無力化する。最近肉体が衰えてきていることを自覚してきている彼は、トレーニングを欠かさなかった。

どれだけ力を出しても筋肉に力が伝達されない、それは力が加わる方向をズラされているのだろう。

 

唸り声を上げながら、彼女は簡単に無力化された。

 

「落ち着け、俺は別に君を取って食おう等とは思っていない。それよりも、大人しくしてくれないか?」

 

彼は優しく問い掛ける、その言葉以上に彼女に対して何かしらの思念を送っていたりもしているのだろうか?

唸っていた彼女は、次第に落ち着きを取り戻していき……静かな寝息を立て始めた。

 

「凄いですね、締め落とした…訳ではないのですか。どうやったので?」

 

「俺もあまり良くは分かっていないけれど、俺の考えている事を受け入れてくれただけさ。

済まないな散らかして。」

 

困った顔をしながらも、彼は眠りについているその姿に何処か憐れみを感じながら、彼女の様態について医務長に聞き取りを行った。

 

 




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