猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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和らぎと固執と思い出

 

「フフ、ハハハハそうか…その様な事もあるのだな。家族というものは実に良いものだな。」

 

キシリア、彼女はチベの私室において楽しげに談笑していた。その相手は…、なんとニャアンであった。

キシリアは、難民という彼女の出自を聞いた時、ふと何かを思ったのか護衛もなしにタイマンで話をしようと言いだした。

 

側近であるアサーヴは勿論のこと、ニャアンを連れてきたエグザべもその行為に対して反対はしたものの、キシリアはその制止を振り切って強引に強権を発動し、いつの間にか部屋へと彼女を連れて行ったのだ。

 

グラナダに到着するまで暇であるから、そう言う時間に執務をやる事が多いのだが、この時のキシリアはそんな気には慣れなかった。

何より暗殺されかけたのだから、呑気にしていられない筈である。だが、完全に宙に浮いた存在であるニャアンという少女は誰よりも心を許すには画期的な相手であったようだ。

 

高笑いするキシリアに対して、ニャアンはそんな姿に何処か悲しげなものを見た。

 

「ハハ、お前の保護者は面白いものだな。そんなにもいつも取っ組み合いをしていても、いがみ合っていないのであろう?それは良い事ではないか。」

 

「いがみ合ってはいないんですけど…、ちょっと偶に変な空気になる事があるんです。クワトロが変な契約を取ってきたときとか…。」

 

キシリアはクワトロという男の事を情報に知っていた。いや、彼女にとってはあのキャスバル坊やであろう男だと、心のなかで勝手に決めつけていたが、当たらずとも遠からずではあった。

その直感は実に優れたものであったが、ズレが有るのは仕方のない事だった。

 

「まあ…そんな事もあろうさ……・・」

 

そう口にすると、キシリアは虚空を見つめるように天井を見上げて、何かに憂いたようにしている。

それを見たニャアンは、そんな彼女に対してやはり一抹の不安を覚えていた。

そう、キシリアには心を許せるような相手がいないのだ。

 

「大丈夫ですが?心配事でも有るみたいですけど…。」

 

「うん?フッ……そうだな…、確かに心配事と言うか…お前が羨ましいのだ。

お前も知っての通り、私はザビ家の女だ。そんな女が、マトモな家庭で育ったかと言えば…普通ではないだろうな。」

 

ポツリポツリと、一言一言彼女は何かに助けを求めるようにニャアンに言の葉を紡ぐ。

ザビ家にいる女は自分一人であること、兄弟は皆男であり母親は既に他界していること。

そして、父であるデギンからは女として育てられていない事、等など愚痴にも似たものを、何故だかニャアンに話してしまった。

 

弱音を吐いている、と言うのが正確なのかもしれない。今、ザビ家の内部はどうしようもなく分裂している。

デギンは老いさらばえ、ギレンは先鋭化し、唯一の良心であるガルマはザビ家から一歩引いた位置にいる。

ドズルの娘であるミネバは未だ幼く、結局はギレンの目の届くところにいて、自分の味方と成れるものなど誰一人いない。

 

そんな言葉を言ってしまう。

 

「私は何を話しているのだろうな、お前のような難民にはわからないだろうに。…何をする!?」

 

「大丈夫ですよ。だって、エグザべさんだってキシリアさんを募ってるじゃないですか。」

 

いつの間にやらニャアンはその手を、キシリアの手と重ねて撫でるように包みこんでいた。

そんな行為に対して、キシリアは拒もうとはしたものの悪い感じもせず、ただ今はそれに身を任せても良いのだろうか?と、思案した。

 

「すまないな……。礼とは言ってはなんだが、今度手料理を振る舞いたい。お前の検査も済んだ頃に、どうだろうか?」

 

「わかりました。出来るだけ急ぎますね。」

 

そう聞いて、彼女は少し頬をほころばせ内心ホッとした。

これでもし、このニャアンという娘が本当にニュータイプであるのなら、自分の手元に置いておける良い口実となるのだと。そう下心を持ちながら。

 

……

 

 

アムロは、投映される映像を大きな画面を通して俯瞰して見る。それを分析する姿は、正しく研究者のそれのようである。

だが、問題はその格好である。

トランクパンツにランニングシャツ1枚、物凄いラフな格好であるが、それが彼のプライベートの部屋での過ごす姿であれば別に問題とはならないだろう。

 

その姿と表情の温度差は、しかしその不自然な格好に対してイヤに似合っていた。

寝食を忘れるように、マジマジと見ながらも思考を巡らしながらそれを思案しているのである。

そしてその試案の果に、それに対する明確な答えを彼は出していた。

 

「意図的にか無意識的にか外しているんだろうな、恐らくは生命の律動を感じたか…。俺とはまるで逆だな、優しい子だよ。」

 

そんな呟きが人知れず虚空へと消えていく。

彼が見ていたのは、サイコガンダム。それから得られた先のコロニーでの破壊活動、そのデータである。

サイコガンダムの残された頭部、それから抽出された戦闘データから、ドゥー・ムラサメの性格を読み取ろうとしていたのだ。

 

だが、その思惑から一転してジークアクスのパイロットである、マチュ…アマテ・ユズリハという人物が如何に純粋な人間であるのかと言うのをマジマジと見せられていた。

サイコガンダムへと飛び掛かり、その頭部と胴体を綺麗に2つに切り分けた動作は、無自覚にもコックピットを避けていた。

 

コレはマチュと言う人間が、潜在的に人の死と言うものを嫌っている証拠であり、同時に良く常識を弁えているということでも有る。

人殺しはいけないことだ、と言うことが如何に彼女の中で理性となっているか。狂気に飲まれながらも、懸命に常識が彼女を護っていた証でもあった。

 

と、その様にアムロの中でのマチュ像が固定化されて来ていながらも、同時にそのデータからドゥーと言う人物がどういう思想で強化され、己をどの様に評価していたのかというものも観ていた。

 

「戦闘用か…にしては精神への作用は固執という類いか…。」

 

キラキラと言うのがキーワードなのだろう。

そのキラキラが一体何であるのか、アムロには検討もつかない。いや、彼はそのキラキラの正体を知っていて尚、キラキラと言うものに対して非常に夢の無い答えを導き出している。

 

それは、時の流れであると同時に他者との分かり合うための空間である。深層心理と言うものに近いのだろうか?

コレによって、距離も関係無しに相手のことが分かるのだと。

 

ただ、そんなものはどうでも良い。

 

キラキラというものはニュータイプの本質ではない、にも関わらず、ドゥーと言う少女はキラキラに固執している。

それが見えるものが、そこから様々なものを観るのがニュータイプである事の証であると…、そう地球連邦では解釈されているのだろうか?

 

それを見るに、ジオンもまた似たような思想が定着しつつ有るようで、戦闘の方ばかりに捉えられているのがその証拠であった。

戦争によって現れるニュータイプと言う存在に、彼等は固執しているのだ。

 

これに対する明確な答えをアムロは持っていた。それは、ララァと共に見た、ララァの事を知ったときから彼の内にあるニュータイプと言うものの本質だ。

 

ニュータイプと言うものは決して特別なものではない、それは例えばニャアンの生活態度に良く現れていた。

 

ニャアンは自分がなんとなく自信がある時に色々と行動し、なんか良くないなぁと言った時に行動を抑制する。

 

それはマチュにも当てはまり、自分がなんかやりたい事があると直感してその通りに動いた時に、思い描いたような事が起こったりする。

 

一見すればその2つに共通点はないが、互いに自分の感覚に従って行動すると言う共通点がある。

 

つまり、ニュータイプと言うものの力は本来、日常の延長線上で発揮されるものであり、決して戦場にでているから覚醒しているということでもない。戦場ではハッキリと分かりやすくなっているだけで、実際のところ平時であってもニュータイプと言うものは確実に数を増やしているのだ…。

 

それを、ジオンも連邦も誰も彼もが理解していない。

木星帰りが勘が鋭いというのも、結局は木星帰りという部分だけが先行していて、別にそんな物は些細な違いでしか無いのだ。

それを、アムロは一年戦争のあの時ララァと共に共有した。

 

だからこそ、シャアと意見が分かれる原因となったのだが…それはもう別に良いだろう。

そして、もう一つの案件である

ゼクノヴァと呼ばれる現象に関して言えば、アムロはそんな物に一切の興味を示さなかった。

 

そもそも、時間と空間の壁を越えてきてしまった自分達が、こんなところにいるということは、つまりはララァが言ったように人は時間さえも支配出来うるという可能性が現実のものとなっている。

 

という、アムロにとっては喜ばしい事象であってゼクノヴァもそれの類似現象であるというのが、彼の結論であった。

だからどうというのもなく、そんな技術が確立されればもっと世の中は良くなるだろうと、プラスの思考に舵を切るだけだった。

 

宇宙(そら)が、ざわめいている…表舞台に出たくはないが…、子ども達の為にやらなきゃならないだろうな…。それが大人の…俺への罰だろうな。」

 

彼は人知れず部屋を出で、静かに静かに動き出す。向かう先は何処であろうか?それは恐らくは、この世で最も大きな禁忌だろうか…。

幾つかの通路を越えて、ハイザックへと乗り込むとその機体を再び宇宙へと飛ばす。 

 

彼の機体を追うように、幾つかの機体が着いていこうと追いすがる。

それに気が付いたのか、彼の乗る機体は後ろを振り向くこともせず、ビームライフルを数射すると放った数だけ火球が灯る。

 

シャクルズに取り付き、航続を限界まで延ばす措置をするハイザックに追い付けるものはなく、その足跡をつける者もない。彼はその脚で暗礁宙域…、サイド5における茨の園へと向かうのだった。

 

 

 

……

 

キィ……カランカラン、と鈴の音が鳴り響く。

カップを拭いているバーテンダー、その身は細くそれでいて鋭い眼光を放ち、その入ってきた筆髭に小太りの(おとこ)の客を見て口元を緩めた。

 

「クランプ、調子はどうだ?繁盛はしているか?」

 

「ぼちぼちですね、少佐も…なかなかどうしてあまり来ないじゃないですか。」

 

元だ元、等と茶化しにそう返答すると彼は店の奥の席、そこに座る1人のマドンナの方へと歩いていく。

 

「アナタお帰りなさい。今日はお客人も一緒なのね?」

 

「あぁ、ただいま。そうさ、先客がいるらしいからな、それと合って話がしたいそうだ。」

 

入って来たのは彼一人のはずである、だが再び扉が開くと幾人かの男たちがゾロゾロと現れ、何やら一人の小綺麗なスーツを着た者をひっ捕まえて現れた。

 

「は…離せ!私が何をしたと言うんだ!」

 

「それくらいにしてあげたらどうだ?話すにも話せないだろうに。」

 

そんな男を哀れに思ったのか、先客…金髪の男クワトロはそう口に出すとその連れられた男に手を取るよう言う。

その行動に怪訝な話をするにしてもと、男たちはそれぞれの席へと着くと、連れられた男を睨むように見据えた。

 

「それで…、キシリア機関の人間が何のようだ?」

 

「いや…、キシリア機関等というものは…」

 

「惚けるなよ!素性は上がってるんだからな!!」

 

周囲の脅しにも関わらず、怯えたような男の本心はそれを何とも思っていないのだろう。その眼光は、そんな態度とは裏腹に周囲の物をよく観察しようとしていた。

 

「率直に話そう、私にいったい何のようだと…そう聞いている。」

 

「………、はあ。素性が割れているのなら話早いか…、ここにいる者の中でギレンの手がいないと確信が持てるな。

こんなにもダイクン派が潜んでいようとは、夢にも想うまい。」

 

そんな前口上を垂らすと、その口から一字一句物を語りだした。

 

「キシリア様からの言伝だ。アンタの娘を預かっているから、共にグラナダへと来ないかと…そう聞いている。」

 

また(・・)勧誘か?残念だが、私は私で忙しいのでな。娘の事は了承したが、妙な真似はするなと…そう伝えておけ。私は手荒な事は好きではないからな。」

 

それだけ聞くと男は立ち上がりそこを離れようとするが、男たちが立ちはだかる。

 

「とりあえず今日は私の奢りだ、きちんと飲んでから帰らなければ、却って目立つだろう?」

 

諜報員と言うものは却って酒を飲むものは少ない、多少ならばまだしもそんな事でポロポロと情報を出すと言うことも、無きにしもあらずだからだ。

 

どれだけ薬剤耐性を着けるにせよ、浴びるほどの酒を飲まされた人間の末路というものは酷いものだろう…。快楽に酔った人間ほど脆いものも無い。

そんな汚い手口はラルも想うところはあったが、今は仕方のない事だと割り切った。

 

ラルは思い出す。このサイド6に移住したばかりの頃、何処からか流れてきた噂を辿りながら、仕事を探しながら暮らし皆が路頭に迷わぬようにした事。

そして…、目の前にクワトロと言うあのキャスバルの、年老いた姿がそこにはあった日の事を。

 

信じられない物を見た彼に、自らの事を嘘偽りなく語るそんな歳をとった若様の姿。

そんな若様の隣に立つ天パの面識のない男が、何かの度に若を叱咤するそんな姿を…。

 

「フッ…」

 

「どうかしたの?」

 

思わず鼻で笑ってしまうほどに、自分が滑稽に思える様に信じられない世界が、この世にはある。

ニュータイプだとかそういうものが、こういうものならば今一度見てみたい。

思想だとかそういう物はどうでも良く、ただキャスバルの思い描く世界を見てみたいと、そう思った彼の決断。

 

「いや……、人は変わっていくものだな。良くも悪くも。」

 

「フフッ、そうね。」

 

今はこのひと時を心に留めておこうと、そう想いながら。

 

 




最新話見ましたよぉ…、いやぁ良い感じに繋げられるかな?

ということでね、ラルはキャスバルの事を知っています。そして、彼がこちらの世界の者では無いことも。


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