猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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生と選択

 

「うっつっうう……、何処ここ?」

 

薬品臭い部屋、仕切りのカーテンと点滴が横に並び立ちそこから垂れた管は、自らのか細い病的に痩せた腕へと延び、栄養剤を肉体へと送っている。

その光景自体は珍しくもない、自らのいたムラサメ研究所にも大なり小なり似たような物を見たことがあった。

 

誰の気配もなく、ただ一人放置されているのだろうか?監視の目もない、あるのは部屋に一つのモニターがあるくらいだった。

 

そうして周囲をぐるりと見渡して、顔の側へと手を伸ばすと…ふと自らの顎に手が触れる…。

そこで気がついた、可怪しいと。いつもであれば、そこにあるのは薬剤の入ったマスクがあってそれから吸気が行えるようになっている筈である。

だが、それが何処にもないのだ。

 

それに気がついたのか徐々に息が荒くなっていくのを感じるが、どうした事だろうか息苦しさを感じないいや寧ろ…苦しさというものが無いのだ。

頭が混乱しそうになる、がその時だプシューと言う音とともに誰かが部屋へと入って来た。

 

「おや…起きてたのかね?これまた随分と静かになったもんだ。」

 

「アンタ誰?ここはどこ?ゲーツは?」

 

自らの相棒であったはずの存在の、そんな気配を感じることも出来ない。それどころか……、サイコガンダムのそれすらも何処へと消えたのか?

 

「混乱するのもわかるよ、暴れられた時はどうしたものかと思ったが、開いてみればこうだ。君は丸3日寝ていたんだよ?」

 

そう言われて記憶には全くない、何処から記憶がないのか?辿っていけばそう、サイコガンダムのコックピットその付け根を狙われて落とされた。

その時にショック的に気を失ったのだろうというところに行き着いたまでは良いのだが、この医者風の男は一体誰だのだろうか?

 

「皆忙しい、健康体なのは良いことなのだがね?それにつけても、君のような子供にあの様な事をさせるとは、連邦も落ちる所まで落ちたわけだ。」

 

独白にも似たようなその医者の言葉、しかしその言葉には彼女に対する実験動物を診るような目はなく、ただ怪我人に接する医者であった。

 

であるならば話が早いと、立ち上がろうとして異変に気がついた。

へなへなと、足に力が入らずそればかりか腕も上手くコントロールが効かない。

 

「本来であれば君の筋力はその程度しかない。見たまえ、その細い腕を脚を肢体を…。脳のリミッターを弄くり回し、薬物によって人体の限界を底上げする行為。それは生命に対する冒涜に他ならず、君に処置をした人間は倫理観に欠けている。ドゥーなど言う、名前にもならないものを与えてまで。」

 

「僕に…!何をした!」

 

食ってかかろうにも力が入らない、そればかりか歩くこともままならない。

 

「君の体内にある薬物、其れ等を全て人工透析させて貰った。もう、君の人体を侵すそんな物は存在しない。」

 

「キラ……キラ。」

 

医者の言葉を聞いて、ドゥーは頭を抱えようとするが上手く抱えない。手を下に振り下ろそうとしても、それほど加速することも無い。その細い腕は、誰かを害することなど出来ないのだ。

 

「キラキラ…僕の…僕のキラキラを返してよ!!」

 

無いものをねだる姿は、如何にも年相応の子供ではあるが、その反応はどちらかと言えば薬物中毒者のそれによく似ていた。

医者はその姿に心を痛めるも、今の彼女には空を舞う翼すら無い。

 

だが、彼女は人なのだ。人なのだから幾らでも可能性はある筈だ、四肢が無いわけでも心が死んでしまっている訳でもない。今は再び立ち上がれるだけの、リハビリをしなければならなかった。

 

だが同時にそれは、パイロットとしての自らの死という現実を受け入れなければならない日々の始まりであった。

 

 

……

 

人の生命を手にかける事は、最大限やってはならない行動だ。それは道徳観における一つの定義ではあるが、生物として言う場合、それは適応されない。

そもそも、明確な理由で他者を殺害してはならないというものは、別に何処にも理由等無いのだ。

 

いけないことだからいけないこと、やってはならないからやってはならない。それは理屈抜きにそういうものであるからだ。

だからこそ人は自らに縛りをつけ、その様な行動を行ったものに罰を与える為、法を創った。

人はそういう行為が危険だと判断した時、神すら創り出すだろう。

 

ミゲル・セルベート、彼は実直な人間であった。自ら信念を持ち、正しい事を正しいと決めその行いを正当化することも厭わず、ただ目的を完遂することに何の罪の意識も持っていなかった。

それ故に、他者を害する行為もまた彼は正当化する事も厭わない。

 

ただ、その行為が危険だと判断した彼は、それを行う害する者を的確に処理していくことこそ、未来の為に必要だと判断し実行する。

いつもそうだった。友人であったものに手をかける等、道義に反する行為と分かっていながらも彼は止まらない。

その業を背負う覚悟でそれを実行していた。

 

その日もそうだった。

何気なくエグザべが彼に紹介した人間は、友人になるべき者であり同期の人間であるはずであった。

だが、そんな事などどうでも良い。危険だからこそ排除しなければならない。

彼の直感がそう告げる…。なんとしてでもこの女は手にかけなければならないと。

 

やり方はいつも通りの筈だった。

祝いと称し、それを受け取らない人間はいない。その筈だった。人は善意を受け取る事に躊躇するものの、それを受け取れないとは言い辛い生き物である。

 

だが、その女はあろう事かそれを拒み自らの行いを看破した。ミゲルは生まれてこの様な人間に会ったこともなかった。

なんとしてでもコレに乗ることを阻止しなければならない、ジフレド。あのΩサイコミュを搭載したかのジークアクス、その2号機。そのパイロットに選ばれた者、それはあまりにも危険過ぎる。

 

理由等その程度で良かった。

食べ物が駄目ならば、自らの手を汚してでも手をかける。そんな覚悟はあったにせよ、銃を人に向けるのは初めてであった。

 

彼が一瞬躊躇する間に、エグザべが現れ女を庇う。

それによって計画にズレが生ずる。

苛立ち、焦りが積もる。

どうして理解しない、どうして解らない。アレがどんな危険を孕んでいるのか?

 

ニュータイプ等というものは本来まやかしに他ならない、あってはならない。

ゼクノヴァ…あの様な、人一人の行いとしてはあまりにも大き過ぎる事を為す、化け物たち…。

そんな物を作り出してはならないのだと。

 

それが彼の正義であった。

だが、それが彼の最後であった。

力を持つものはその力を自覚し、正しいと思うものを行わなければならない。

 

女…ニャアンにとってその力とは生きるための糧であった。

何かあった時、閃きとともにその道筋を見せてくれるものであった。そして、生命を狙われるその時も同じ様にその閃きは力を与えてくれる。

 

その意識は正当なる防衛に突き動かされ、意識的にせよ無意識的にせよ、その生命に対する冒涜的行動を抑制する為に力を発揮する。

ジフレド、その機体の小さい刃が一瞬にしてミゲルを焼き払い、ニャアンを護るために動き出す。

 

彼女の行動は褒められたものではないものの、生命を狙われた人間としては当たり前の行動であり決して反論の余地はない。それはあの2人から学んだことであり、きっとあの2人でさえもその様な相手に対しては手加減をせず、生命を奪う方向へと走るだろう。

 

ただ一人、生命を刈り取ったことのないマチュのみがそれを、行わないのだろう。

 

だからこそ、この行動においてニャアンは自らをその産まれの罪を呪う。

羽虫も殺せない、そんな人間には彼女は戻れない。日常という中に死という文字すらあったあの日に既に、彼女の覚悟は決まっているからだ。

 

 

……

 

「それは本当かね?あの娘が目覚めたと?それで容態は?なるほどな、暴れる様子もないか?わかったありがとう。

 

さて、協議中に電話をして申し訳ない。何か不服なことがお有りなら、直ぐに申し上げてほしい。

なに、手荒な真似は致しませんよ。」

 

冷や汗が流れ出る、それは背中を流れシャツに染み渡り広がる。そして揮発し、それは空気と混ざって再びその部屋にいる者たちの肺へと入って、循環する。

 

サイド6・リーア大統領であるペルガミノは、その皮下脂肪と内臓脂肪に覆われた恰幅の良い姿を小さくしながら、この大統領府貴賓室の中でとある人物と会談していた。

 

その相手は、いちジャンク屋の社長でありながらも昨今一部の界隈では支持を集めている人物である。

ジオン・ダイクンと同一視するものまで現れているというところから、その影響力の高さは大統領であるペルガミノをして、舌を巻く。

 

そんな人物は一見してジオンから見ても危険人物であるのだが、それすらも意に介さず。

ペルガミノ及び、サイド6政府はその影響を拡大してきたその人物と、初めて直接的に顔を合わせた。

 

多くの人々が口にするだろう、その姿立ち居振る舞いはまさに王の如く、品格もあり容姿も整っていた。

ペルガミノはそんな人物を前にして緊張を崩せなかった。

 

立場は自らの方が上であることは揺らぐことはない、だがそんな彼をして重圧が身体を包んでいる事に気が付くには、それ程時間を要しながった。

 

対して、相手であるクワトロはと言えばこの場に対して何の感慨もなく、ただ目の前にいる為政者に対して一定の敬意を払いつつもその態度を硬化させたままであった。

 

「貴方方が今まで行なっていた、このクラバというもの。その資料を我々は充分な量を確保し、既に運用するのを待機している状態だというのは、お話したとおりです。」

 

「だ…だからなんだと言うんだ!クランバトルの運営権は我々を通したものではなく、別の人間から通っている筈だ!」

 

焦りからか違法賭博を大統領府が率先して行っていたことに、異を唱える事などせず寧ろ彼は開き直った。

しかし、内心は焦りと動揺に渦巻いている。

 

キシリアを相手に、意気揚々としていたのもつかの間、今度はキシリアと同じ様な立場に自らが追い詰められていると言うことに、彼は歯ぎしりする。

 

言っておくが、このペルガミノという男。内政に関していえばそれなりの能力を持ち、情勢不安定の中サイド6を安定的に運営するということに関して言えば、非常に能力が高いのである。

であるから、決して無能という訳では無い。

 

ただ、今の彼に対して言えば何をするか分からない相手との交渉には、決して向かない質であるとは言えた。

例えば、ジオンに対してであれば金をせびってくる相手であると、そう弱みを知っているからこそ自らを大きく見せる。

そして、ジオンはそんな態度をするサイド6に対しての攻撃は、禁忌と言えた。

 

破壊するのは簡単だし、利用価値のあるものだけを生かすことも出来る。

だが、問題は現在のジオンの財政は非常に逼迫しているという事であり、そんな時に重要な貿易額でありつつ、半植民地であるこの場所を破壊出来ない。

 

そんな相手に対してならば、ペルガミノは力を発揮することが出来た。

 

だが、目の前にいるクワトロと言う男に対して言えば、ある種無力であった。

 

諜報能力のある者たちをこの男にけしかけ、内情を洗いざらい詮索しようともいつの間にか、その諜報員は寝返っている。

一体どういう手品であろうか?その影響範囲は既に、サイド6の各地に張り巡らされていた。

 

「我々はサイド6…このリーアの為を思っていっているのです。軍警は確かに、治安維持に最低限必要な力と言えるでしょう、ですが!前回の件でハッキリしたと言えます。その力はあまりにも矮小であるということを。」

 

男の言い分はこうだ。

テロリストが持ち出してきたものに対して、治安部隊が何の成果も挙げられず。ただ、乱入者がそれを解決していては軍警の権威は地に落ちた筈だと。

 

ペルガミノもそんな事は百も承知であり、実際問題彼の支持率の急激な低下が起こっていた。

有事の際何の意味もない軍警等必要ない、ジオンのせいで平和が崩れた。

難民達のせいで、何故税関でそれを停められなかったのか!と。

 

格好の政権批判の的である。

 

だからこそ、大々的な政治転換を行わなければならないという、それこそ必要な物だとも。

だが、そんな話を振ってきた相手は裏社会で勢力を拡大する危険人物…。そう簡単に首を縦に振る判断は出来ないと、彼は理性を持っていた。

 

「ジオンとの地位協定は破れば最後、連中が何をするか分かったものではない!

万が一というときに、我々はこの国民を護る義務があるのだ!」

 

「ではその義務を負う者達がこれほど弱く非力な力しか無く、これで国民を護れると思うのか?

確かに、貴殿の手腕は認められるべきだ。だが、その力は平時にのみ発揮されるべきだ。有事にはあまりにも無力だ。」

 

だからこそ、目の前の男・クワトロは言う。

我々こそが力となれる、ジオンに痛手を負わせることのできる数少ない者達として、ジオンと対等に相手をできると。

 

リーア防衛義勇軍は、既に軍警を超えたのだと。

 

それを裏付けるように、幾つもの資料を提示する。

月面のアナハイムや地上のヤシマ。果てはジオニックに苦渋の舐めさせられた、一年戦争後それぞれの企業から降りた技術者たち。

 

多くの資金源を下に作られたその企業達の力は、第三勢力を形成するには十分足りえ、同時に後は拠点となる足場を欲していた。

金を使わずに力が転がり込んでくる、リーアにはまさに必要な物がただで手に入る。

だが、ペルガミノは恐れた。それによってこのリーアも、ジオンのようになるのではないかと言う、一つの憂いがあったからだ。

 

故に、早々に折れるわけにはいかなかった。

 

 




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