椅子のようなものに座る、見覚えのある天然パーマが目を瞑りながらヘッドギアを着けている。
そのヘッドギアは、コードによって後ろの椅子のような物に繋がっており、それに呼応して周囲の空間にその信号が表示されている。
よくよく見ればその椅子は空中に浮いたようになっていて、まるで空を飛んでいるかのようにその外の世界を映し出す。
格納庫の中、人々が浮きながら作業を進めている中にあって、彼だけはそこに座っているのだ。
『レイ君調子はどうかな?不具合のようなところは無いかね、我々には専門的なところは難しいからな。』
その声はヘッドギアにある機能によって、耳に伝わってくるを瞳を閉じながら、彼はその言葉に耳を傾けながら周囲の物事を深く洞察している。
その言葉の通り、その調整は彼にしか出来ないものだ。反応は過剰な程に精密で、モビルスーツのクセに単純ミリ単位の誤差すら修正してみせる。
「ええ、サイコミュとファンネルの同調は完璧です。
後は、機能が上手く動作するかですよ。それは宇宙空間で実際にテストしなければなりませんから…。…ん?」
『どうかしたのか?』
心配をするような言葉を発するハンに対して、アムロは何かを感じ取ったのかその正体を探ろうとした。
その感覚は何処かで感じた事がある、古い古い記憶の中で。
「いえ、機体の事は関係ありません。ですから、次はライフルの方に行ってもらっても?僕はこのままもう少し調整していきます。」
『わかった』
そう言葉を締めくくると、画面の下にいた作業服を着た人々は別の方へと進んでいく。
何やらまたぞろ調整をしに行った様子であるが、そんな事は構わずにアムロは、先ほど感じた違和感を探りに己の知覚を最大限に拡げた。
サイコフレームが彼の力を増幅し、この格納庫の中だけでは飽き足らず、茨の園から先へと飛び出しちょうど地球が見える辺りにまで彼はそれを、目にすること無く視る事が出来た。
「なんだ…?…コレは俺は昔感じた事がある。嘆き?悲しみ?いやもっと根本的な…、渇望か…?」
その感覚には一つの既視感と言うものを、彼は感じていた。その昔感じた事のある、身に覚えのあるそんな物を。
一体それが何であったのか、そして何時何処で誰がそれを発していたのか…。そう考えたその時、彼はその正体に気が付いた。
〘ラ…ラァ・スン?一体何処に、いや彼女はあのエルメスに乗っている?だが、アレは俺が…。どういう事だ、いやそうか、君が夢に出て来た理由がようやくわかった気がするよ。〙
一人コックピットの中で、彼は静かに物事を洞察する。彼の力は大きく、強大なそれは瞬く間に多くを理解に導く。そう、ちょうど地球軌道上から、サイド2のレーザー攻撃が減っていくことを察知していた時のように。
そしてそれは、一人の人間の知覚できる範囲を大きく超え、宇宙を駆け多くを圧迫する大きなプレッシャーとなる。
遠方、アムロが意識を飛ばすところにちょうどソドンがあった。
今、彼等は地球から再び宇宙へと上がり、薔薇を届けようとしているさなかであった。
「シャトルから分離した後牽引していきますので多少タイムロスはあると思いますけど、だいたいこのくらいで行けそうですね。」
コモリは絶賛建造中となっていた、イオマグヌッソへの到着ルートと時間の概算をシャリアへと報告する最中、妙な違和感を覚えた。
尤も、その違和感が何であるかなどということは、彼女には別に関係のない事であるし、第1そんな物を信じる事はしなかった。
だが、彼女以外の人間。例えばそう、シャリアはその圧迫感を感じ取り、敏感にその圧迫感の正体を探ろうとした。
「コモリ君、何か感じませんか?」
「何って…何も感じませんけど。」
『何か気持ち悪いと言うか?変な物はあるけど、どうせ気の所為でしょ。』
別にどうということはないという建前と、何かを感じている事を隠す。そんな物はシャリアには筒抜けであったのだが、同時にこの圧迫感を彼女も感じていることが、どれだけ恐ろしい事であるかと、シャリアは肝を冷やす。
『これほどのプレッシャー…、まるで壁のようだ。何を探しているのか?』
誰かが、何かを探しているようなそんな気がする。
それだけであるが、同時に誰かが薔薇をエルメスを探しているのだと、そう直感が告げていた。
そうしている内にそのプレッシャーは止み、彼は内心の落ち着きを取り戻す。もし、これほどのプレッシャーを放つ者が敵となって現れた場合、果たして勝てるのだろうかと言う一抹の不安が脳裏をよぎる。
彼は人知れず冷や汗をかいていた。
同じ頃、士官室という名の二人部屋を分け与えられたマチュもまた、この感覚を覚えていた。
二人部屋というからには同居人がいるわけであるが、その隣には美しい褐色の肌を持つ女性、ララァ・スンもまたいるわけである。
そんな彼女はも、それを感じていたのだ。
「これって…あのオジサン?何で…」
「見つかったのよ。あの方が、彼が彼女を見つけたの。」
二段ベッドに腰を掛け、二人並んで1段目でそれを感じ取る。マチュの呟きに隣にいたララァは答えるようにそう言うと、徐ろに立ち上がりマチュの前で膝をついて、手を手で覆うようにすると目を瞑る。
そうしてマチュにも流れ込んで来たのは、一人の少年の物語。
幾度もの戦いの果てに行き着いた先に待っていたのは、少女ララァとそれと共に戦う赤い将校の物語。
少年は1人、孤独に戦うも最後には帰る場所を見つける。そんな、マチュの経験したことも無い事を語る物語。
その少年の姿は、何処となく彼女の知っているあの天然パーマの姿と酷似していて、そして直感的に彼の少年時代の姿であると、そう思うのだ。
そんな、途轍もない戦士が一人の少女を見つけた時、その瞳がそれを覗き込んでいるのだと。
「もし彼と出逢うのならば決して戦ってはいけない。それは、貴女の終わりとなってしまうから…。」
「じゃあどうすれば良いの?」
ララァはマチュを心配しているのだ。彼女の行く末の向こうには、戦いの最中生命を落とす事すらあるのだ。
「彼は優しい人よ?だからきっと、話そうとすれば話を聞いてくれるはず。だって……私の好きだったもう一人の人だもの。」
その言葉は虚空へと消えゆくものの、自然とマチュの中へと入っていく。好きな人と言うものを理解するに、マチュは一人の人と重ねていたからだった。
そして同時に思った。
「ねぇ、色々と終わったら家に来て欲しいなって。お姉さまなら、きっとお母さんも分かってくれると思う。」
「ありがとう…、でもそうね。まずは口下手を治さなくてはダメね。フフフ」
時は進み日は暮れ、大地は赤く染め上がるも宇宙にそれは闇が拡がるように映る。
それは1日の終わりを意味していた。
……
キシリアの喜ぶ顔と、嬉しそうな声色。そして、与えられた広い部屋。そんな家の中でニャアンは配達された物を手に取り、それを開封する。
ニコニコと、そんな擬音がよく似合うようなそんな顔をしながら手紙を読む。
宇宙世紀において手紙と言うものは、正直に言えば古典という部類に入る連絡手段である。伝統芸のような物であるが、他者への思い遣りという物を相手に伝える為に偶に使われる手法でもある。
筆跡は達筆で、この時代の文字を崩しつつ完璧に使いこなす。それだけでなく、その流れるような軌跡はその人物の感情を現すようである。
『今はまだ、迎えに行くことは出来ない。故に、必要な物は少しずつ送ることとした。
色々と新生活の不安もあると思うが、くれぐれも無理をしないようにし、自らを磨く良い機会としてほしい。』
内容を掻い摘んで言えば、ざっとそんなものだろうか?
送り主の名前も、その住所も記載はされていないが、大凡誰が自分に物を送ってきたのかと言うことは、予想が出来た。
何より、見慣れた文字なのだ確実にあの人なのだろうと、サングラス姿の金髪オールバックがチラつく。
これと共に送られて来た物は、ニャアンがサイド6で使っていたものばかり。中には衣類なども入っているものの、それは会社の女性社員が入れたと、注意書きまで丁寧に書いてある。
マメな事だが、曲がりなりにも年頃の女の子であるニャアンは、そういうところが敏感なのではないか?という、ある種の気遣いであった。
「皆、私の為にやってくれてるんだから、失望はさせたくないなぁ。」
と、一人その場で思っていると時間は直ぐにやってきてしまう。
「あっ!そろそろ行かないと…。」
新しい日常の中、彼女は新たな仕事を行っていくだろう。それが人殺しを行うことと同義であったとしても、決してそれに臆すること無くやり遂げる。
そんな覚悟が彼女にはあり、同時にこの生活を提供してくれたキシリアや、自らを保護してくれていた2人への感謝の意味も込めて、より籠の中の自由というものを満喫しつつも前に進もうとする。
彼女にとっての新たな職場、ジークアクス2号機たるジフレドの正式なパイロットとして、彼女はそれを駆り。
そして、その力を以ってして其れ等を邪魔する者達を蹴散らす事すら厭わない。そんな決意を胸に秘めながら、今日も慣熟訓練へと明け暮れるのだった。
……
荒廃した大地と崩壊した街並みが続き、今も尚其れ等を修復しようと、人々は日常を創り出す。
争いの種もありながら、其れ等を制する為に各々が働き衣食住その他を行う為に、彼等はよく働きよく食べる。
そんな者達の中にあって、人々の酒盛りの歌を歌いながら多くの者に支えられているものがいる。
人差し指でその特徴的な紫髪の前髪を弄り、彼等の賛辞の声を照れるように否定しつつも、悪くないという風に其れ等を捉えている。
「アナタ、そろそろ戻って来てくださいませんと。」
「ハハハ、あぁ済まないな。皆、今日も済まなかったなここでの食事は私の奢りだから、この後も付けておくように!
さっ、行こうか。」
声を張り上げて人々の群れの中から身体を起こし、それぞれに礼をしつつ、彼は妻であろう人と共に歩み始める。
近くに置かれた車と、その周囲に幾人か配された使用人たち…いや彼等からは使用人という雰囲気は無く、寧ろ軍人としての気迫があった。
そんな光景に男は眉を顰ませ、呆れたように溜息をつくと徐ろにその者たちに声をかけた。
「皆ご苦労…だが、コレはあまりにも大袈裟な態度だな。街の人々が萎縮してしまうよ。君等に護って貰わなくとも、彼等は私を害するような事はしないさ。」
そんな言葉に一同唖然としながら、その中の一人白髪で長髪な男。一同の中で、尤も厳格そうな雰囲気を醸し出している男が、その言葉に相対するように発した。
「お言葉ですが、街の人々は兎も角それ以外の者達は貴方の生命を狙っている可能性は充分にあります。
この人数に対してまだまだ少ないと言えるでしょう!いや、寧ろ増員すべきと、具申いたします!!」
「そんな硬くしなくても良い、私はもうザビ家に連なる者ではないのだ。それに、貴公等もまたジオン軍人ではないのだぞ?今更、階級がどうだとか家柄がどうだとか、そんな物を考えたところで意味はないのだ。
だから、もっと肩の荷を降ろしてくれ。」
その言葉に何を思うのか、一部の者達は涙を流しその言葉一つに感涙している。
彼等の行動を見るに、この男は嘗てジオンの特にザビ家に近い男だったのだろう事は明らかで、そんな彼の言動を周囲が心配するのは、暗殺を懸念していたのだ。
「もう戦争はたくさんだ。この街を見ろ、我々がいったいどれ程の事を行い、どのような大義を掲げこんな災禍を齎したのかを。
私はその償いをしなければ気がすまない!!男というものは、そういう強い信念を持って行動すべきで、現実に目を瞑ったりしてはならないと…、私はそう思っている。」
そんな言葉を言われて、周囲の人間は思うのだ。あぁ彼こそがザビ家を継がなければならない、にも関わらずどうしてこうも地球というこの大地に縛られなければならないのか。
「家名など所詮は道具にすぎない。だから私は道化に成ろう、どのような事をしても人々をそしてこの大地を、平和を取り戻すのだ。それがせめてもの償いなのだからな!
さっ!共に行こう!」
そこまで言って、隣に立つ婦人の方を向き片膝を突くように座るとその手を取る。
「共に着いてきてくれるかい?我が愛する人よ。」
「ええ、勿論。私はあの時から片時も、貴方の事を疑った事などないわ。ですから……、皆さんも共に帰りましょう?」
その言葉に呼応するように、その集団は車ど護衛車両と共に動き出す。
車に揺られながら、男は一つの封筒を手渡されその場で開きそれを読む。懐かしい文字は、彼の鼓動を速くした。
車が去った後、その光景を見て周囲の人々はため息混じりに見送るも、その瞳にはその男に対する禍根だとか、そういう物は決して混じってはいなかった。
あったのは、これほどの事の元凶の一人であるはずなのに、自分達に嬲り殺しにされる可能性があるにも関わらず、自ら動きその姿を実践する。そんな姿が非常に眩しかった。
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