猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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「アマテ、ご苦労さまです。」

 

「うん!ありがとう、いつもごめんね雑用とか任せて。」

 

タオルを受け取るマチュと、それを渡すララァの光景はここ最近ではそれなりに見慣れた光景となっていた。

カバスの館の件から幾週も経ち、慣れ始めた世界は平穏を謳歌していた。

 

「ほら、コモリンも突っ立ってないで行こうよ!」

 

「コモリンってねぇ…」

 

「フフフ、こういう事嫌いじゃないようですけど?コモリさん?行きましょう?」

 

自由な2人を見て、コモリは実際羨ましいという気持ちもあった。軍の規律に縛られず、かと言って自由すぎてもいない。何より、ジオンには無い。そんな平穏な世界。

 

ニュータイプ…、ジオンにはそう呼ばれる人達を選別し、それを兵士として徴用しようというそんな動きがある。

自分自身、そんな行いに使われるような人々がニュータイプであると言うことを、信じたくはなかった。

 

コモリの信じるジオン・ダイクンの提唱したニュータイプは、争いを必要としない。相互理解の果てに、世界に平穏を齎す人々の事だ。決して、木星帰りの様な特殊な力を持った人々の事ではない。

 

だけれども…もし、もしニュータイプというものが本当に実在するのだとすれば、こんな平穏の中の1頁にこそあるのではないか?争いの世界にはなく、人のそれを機敏に感じ取り察しの良い人々。例えばそう、目の前の二人の様な。

 

「また変なこと考えてるでしょ…、そんな事考えてたら小皺が増えるよ〜。」

 

「小皺って、怒るわよ!!」

 

「そんな事言っては駄目ですよ?真剣に考えているんです、そうでしょう?」

 

だから今はその一時を胸に刻もう。

この世界こそが正しく、あの戦乱の中にあった人々のほうが異常であったと。

 

「先に行っていてください、私はあの方と少しお話があるので。」

 

そんな3人をシャリアは遠くから見守っていたが、それに気がついたのか、ララァはその姿を一瞥するとコモリの背を押す。先に行けと。

 

押されたコモリは足早に、マチュを追いかけた。

 

「よろしいので?」

 

「ええ、今はこの時を大切にしなければなりませんから。」

 

向き合う2人は互いの瞳を覗き込む。互いの出自の差は有れど、互いに似たような力を持つからこそ、その心境も視えてくる。

 

「アナタの行動が、必ず良い方向に転がっていくわけでは無いのです。それでも、やるのですか?」

 

「ええ、決心は揺るぎません。たとえこの身潰えようと、私は必ずやり遂げます。」

 

ララァはシャリアを自分と重ねていた。他人の思いに縛られ、他人の夢に縛られ自らが良いと思っている事が、その実自身を不幸にしているということに。

気が付いていても、止まることも顧みる事もできない。そんな、哀れな自分たちを。

 

「あまり…あの子を巻き込まないであげてくださいね?」

 

「ええ、彼女こそニュータイプです。ですからきっと、道を違えないでしょう。」

 

それは、シャリアの心からの願いだった。

 

 

……

 

 

イオマグヌッソ建造における一種のパレードのような催し物、完成式典に出席する為主催者であるジオンは、一足早くその場へと出席するために各員の関係者が集結しつつあった。

 

その中には現ジオン公国公王と呼ばれる地位に就く、ギレン・ザビも久々の公の場に出てくるなど、周辺状況は厳重な警備が敷かれていた。

その中にあって、建造の直接的責任者であるキシリアも当然の如く出席するものの、数年ぶりとなる兄妹の会談は思った以上に冷え切った物となっていた。

 

キシリアと言う女性は、その生まれからか非常に愛情深く育った。愛というものに渇望を抱いていたとすら言えようか?誰かを愛したい、誰かに愛されたいというそんな渇望があったのだろう。

 

ザビ家の女として育てられた彼女は、父デギンに異様なまでに執着していた。

それは、一人娘として生まれたからこそ愛されたと言う、そんな側面もあるのだがそんな事はどうでも良い。

 

弟であるガルマに対してもまた、その愛を与えたとすら言えた。

だが対して、兄であるギレンや亡きサスロはその才覚故にキシリアを下に見る傾向があった。

それでもキシリアは二人の兄に対して、愛そうとしたものの自らが褒めて欲しい、認めて欲しいと言う言動に対して2人はそれを毛嫌いした。

いや、邪魔とすら言える行いを続けた。

 

そうなると自ずと方向は変わっていき、愛は憎しみへと転化される。

 

そしてそれは、引き金を軽くするには十分なものだったのだろう。一度はサスロに手をかけた。我慢の限界だったのだ。

 

そして今、彼女の周囲は敵ばかりとなり最愛の父を殺した憎むべき兄がそこに座る。

躊躇など無い…と、そう心に言い聞かせながら、兄やその側近達と言の葉を紡ぐものの…、その変わりようは気持ちの良い物ではなかった。

 

恐怖と惰性の中でいる日々は、あの日の兄とはまるで違うような人をより恐怖するように、怯えた表情…。

滑稽であまりにも哀れな、苛烈な人物であった面影などそこにはなかった。

 

キシリアただ一人に怯えているように、周囲を秘書官と自らの右腕のみにしている事に、その恐れ様は計り知れた。

 

一縷の望み、もし兄が昔のままであればこれ程の腑抜け様は、有り様も無かったろうにと…、それを哀れに思いキシリアは瓶に手を掛けようとしたその時だ。

ふと、目の端に誰も座っていないソファが一つ置かれているのが見えた。

 

「招待客がまだ来るのですか?」

 

違和感を口にするも、その言葉に対して周囲の声はあまり芳しくない。

まるでそれはキシリアが用意したのではないか?との、そんな思考を読み取れた。

 

ただ、そんな余計な思考等と思い、アンプルを指で折ると捲し立てる様に言葉を吐く。

その言葉は、別にどのような、ものでも良かった。相手がこの場の空気を吸えれば、深呼吸でも良かったのだから。

 

それでも、思考の端では誰がそのソファに座るのだろうか?と、そんな事が気になった。

 

事は順調に進んでいると、そう思っていた。エグザベ率いるニュータイプ部隊は、効果的にビグ・ザムを足止めし、ニャアンはアレに着いたのだろうか?と、そんな思考が過ぎる。

余計な事だろうか?どうしても、彼女のことが気になった。果たして、彼女には覚悟があるのだろうか?と。

 

そんな余計な思考の端で…声が響いた。

 

「姉上…、お久しぶりです。」

 

聞くことはないだろうと、そう思っていた。彼が…ガルマがこんなところにいるはずがないと…。

 

「どうしてお前がここにいるのか!!」

 

当然のはずの感想は、吐き出した言葉と共に霧散する。彼の周囲にはやはり、彼と共にジオンを去った者たちがおり今ここに彼の全てが有ると、そう思わせるほどである。

 

「姉上がここにいて、後ろに兵を伴っている…ということは、兄上を殺ったのか!!」

 

察しが良かった。青二才と、若さと甘さのあったあの弟が、そんな事も言う。

キシリアにとっての誤算、それは彼がここにいること。そして、彼の顔を見てしまったと言うことだ。

 

それだけで、唯一残っていた憂いが外へと顔を出しある種の後悔の念が湧き上がる。

そう、自分が弟がいる地球にまで手をかけようとしていたという、そんな事実が。

 

「だとしたらどうだというのか、あの男は父デギンを殺した逆賊である!!それ相応の報いを受けて当然の事の筈だ!それとも、自ら捨てたザビ家内部でのお家騒動に、今更首を突っ込むのか?お前は…。」

 

「私はそういう事を言いに来たのではありません。どうして、争い合う事しか頭に無いのか?話をしようとしに来ただけだった…けれども。」

 

その言葉と共に、ガルマの前に幾人かが躍り出る。

それこそ、彼を庇うため彼等が彼に忠誠を捧げている唯一の証。

 

「ガトー…、私の前に立たなくても良い。姉上は私を撃つことはしない。」

 

「しかし!!」

 

「その言葉、他人を信じ過ぎる癖は治っていない様だな。」

 

その声には焦りがあった。ガルマという男が如何に恐ろしいか?その瞳は、デギンの目指すものに尤も近い感性を持っていたとすら言え、地球に暮らしてなお人々から忘れ去られてはいない。

ジオンではギレン以上に厄介とも言える。

 

「姉上こそ、人を未だに信じられるのです。だからこうして、コレを創り上げた。周囲を騙してまで。」

 

「私がか…?」

 

キシリアは人を愚かと思っていた反面、人を信じていた。だからこそ、計画に嘘を混ぜることによりコレの建造を行えたのだ。でなければ、この計画は最初から破綻していた事だろう。

 

「私は決心しました。ジオンは…いや!この地球圏は今のままでは駄目だと、覚悟しておいてください。」

 

その言葉を最後に、彼は姉に背を向ける。その後ろを、彼の付き人が付いて行く。それを、キシリアはただ眺めていた。

 

「よろしいので?」

 

「構わぬ。どうせ達成の暁には、どうしようも無いのだからな。」

 

キシリアはそう言うと、一人に指揮を任せ独自に行動を開始する。

それは、彼女が今コレを誰の為に行っているのかという。そういった、一連の思いを伝えたいが為であった。

 

 

キシリアと離れたガルマは、一路シャトルへの避難経路を進んでいた。

彼は、伝を頼り一般企業としてこの事業に参画していた為、このイオマグヌッソ全体の事をある程度把握している。

図面の入手も容易であり、それ故に…コレがどのようなものであるのかという事をいち早く理解したのだ。

 

それもコレも全て、ある人物からのリークの上で成り立っていたが、確かにコレを目にしたガルマには決意が宿っていた。

 

シャトルへの道すがら、その人物とすれ違う。

 

「僕にコレを見せたかった理由がわかった…、後のことは」

 

「ああ、頼む。君の家は嫌いだが、君のことは嫌いではなかったからな。」

 

壮年の男が、すれ違いざまそう口にする。

ガルマは一人、その男が誰であるのか胸に秘めながら自分の成すべき事を目的に、動き始めるのだった。

 

 

……

 

 

ズズズズ

 

と言う振動と共に、巨大構造物であるイオマグヌッソは今当に攻撃を加えられていた。

1条の光が降り注ぎ、その力はビグ・ザムのそれを上回る。

 

分厚く、そして何より頑強に創られたその構造材が熱によって融解し、幾つかの外装がそれによって破甲を開く。

中にいた人々は、その振動により転倒ないし吹き飛ばされ、幾人かが頭部を強打する。

 

エネルギーを溜め込んでいたイオマグヌッソは、その捌け口を求め暴走しそれが行われた時、幾つかの物を飲み込んだ。

確かに座標はズレ込み、照準は大きく反れた。ただ、その為に余計な物を呑み込まなかったがために、それは人の感情のうねりを余計に加速させた。

 

「なんだコレは…、コレがゼクノヴァだとでも言うのか…!」

 

キシリアは動揺するイオマグヌッソ、その内部において道を行きながらそう口にする。

割れるような頭の痛みと戦いながら、彼女は前へと進み続ける。

 

確かに様々な要因があるにせよ事態は彼女の想定の方向へと転がり始めていたが、この事態だけは容易に想定できていなかった。

ビグ・ザムを落とすために創られたギャンと、ビグ・ザムの交戦。

そしてニャアンの力を利用した、ゼクノヴァ攻撃。

 

それは彼女の計算の内だった。

だが、外部からの強烈な一撃は彼女の予想を反し、ア・バオア・クーとは全く別の方向から行われたのだ。

 

意識外からの攻撃に、戦場に動揺が駆ける。

そして、攻撃は決して一度だけでなく。寧ろ、数度来るのが当たり前であるかのように、再び光が降り注ぐ。

そこに割って入るようにビグ・ザムが立ち塞がり、そのIフィールドを持ってしてそれを防ぐ。

 

反撃の射撃を口吻から行うがその一瞬、三度ビームが来るとビグ・ザムの攻撃に合わせるようにその口吻部へと吸い込まれるようにビームが当たる。

今度はIフィールドが機能すること無くビームがビグ・ザムを貫徹すると、イオマグヌッソにその残骸が降り注いだ。

 

再び振動するその巨体は、ゆっくりと軌道を変えていく。

 

エグザベを筆頭に、そのビームの方角を視る者達は驚愕する。意識の遥かに外に有り、センサーは一切の反応することも無く、その起点を己が直感のみがそれを捉える。

 

たった1機のモビルスーツ…、それがその攻撃を為した。

 

ビームが効かないはずのビグ・ザムをビームで焼き、ピンポイントで1度目の射撃と寸分の狂いなく撃ち抜く精度。

それは並大抵の存在ではない事の証。

 

それは加速し、2つに分離する。1つはおそらくは強力なビーム砲なのだろう。

そしてもう一つこそが、その相手。

ギレン派のビグ・ザムの内の1機が再び躍り出ると、メガ粒子砲を放つ。それを多少の軌道で逸らすと、メガ粒子砲の終わり際に、その手に持ったライフルが光を放つ。

 

それは吸い込まれるようビグ・ザムに当たると、そのビグ・ザムもまた、炎と共に燃え盛る。

 

エグザベ達はこの機体が誰のもので、何処に所属しているのか分からなかった。

ただ誰であるかは兎も角として、明確な事はただ1つコレは決して味方ではないという事実があるのみであった。

 

 




戦場へと飛び出すニャアンは一つの決心を胸に、イオマグヌッソを起動する。その先にある物は、大切な人達の刹那の記憶と思い出だった。

次回 真実


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