猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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選択

静かに、しかし確実に背中に感じる圧力は、機体が加速をしている何よりの証として彼の身体をシートに縛り付ける。

メガバズーカランチャー、それは一体となったメインエンジンと共に、巨大なサブフライトシステムとして、νガンダムを戦地へと向ける手助けをしている。

 

増加装甲によって肥大化した機体は、その外観を一回りも膨らませ機体の機動が僅かに減少するという致命的な欠陥を齎しているものの、現状その戦地においてはそれが最適解であると、アムロはそう判断していた。

 

己の感覚がより鋭敏になっている事を、ここ数年の間に彼は実感し、私生活の中で感じていた様々な人々との触れ合いが、彼を嘗ての高みへと至らせる。

 

戦場だけに留まらず、汎ゆる生命の呼吸をその意志を感じ取ることの出来る力。それはあの戦争以来、無意識に閉じていた自らの解放という意味でも、本来の彼を取り戻すものである。

 

そして、そんな彼が現状を把握する事が出来るのは必然であって、その結果を見た彼は直進しながらも目標を捕捉する。

データを充てにすることはない、彼は感覚でそれを把握しそして引き金に指をかけると彼は堪らず叫んでいた。

 

「辞めろ!ニャアン!!」

 

その言葉とともに、メガバズーカランチャーから光の奔流が出で、宇宙を直進し巨大な建造物に直撃する。

僅かにそれたそれから発せられたエネルギーは、その射線上の汎ゆるものを飲み込みながらその力を奮う。

 

アムロの脳裏には巻き込まれた人々の意思とともに、その力の発端となったニャアンの悲痛な叫びや、コレを感知したニュータイプ達の叫びを感じ取る。

 

だが、彼がこの現象を感じ取ったのは3度目であった。

一度目は、連邦軍艦隊を呑み込んだソーラ・レイのあの光を…。2度目はグリプス戦役での、同じくコロニーレーザーで溶けていく、人の意志を。

 

慣れるものではない、だが覚悟している人間はそれに対して気高くいられる。

だからこそ、彼は間髪入れる事をせず全力をもってそれを叩きつける事を選択する。

 

二度三度、ランチャーを放つと至近距離に近づいたことにより大きな隙が産まれると判断し、ランチャーとνガンダムを分離し互いに突撃する事を選択する。

一瞬の判断で、ランチャーの信管をセットすると分離し、νガンダムにライフルを持たせて、更に加速をかけながらビグ・ザムへと突っ込んでいく。

 

その口吻部からメガ粒子砲が放たれるも、それを僅かに逸らすとそこへとライフルを叩き込み、Iフィールドの隙間を撃つことによって、無効化しつつそれを破壊する。

と同時に機体に急制動をかけつつ、その宙域に自らが留まることを選択、新たに現れるだろう相手に対して迎撃の意志を示した。

 

コレに対して動き出したのは、現在この宙域の航宙優勢を確保しようとしているエグザベ等、キシリアのニュータイプ部隊であるが、それ以前の問題として彼等の前にいたのはキケロガに搭乗するシャリアである。

 

シャリアの目的はキシリアの暗殺であるが、この段階に至って誤算が、生じていた。

言わずもがな、νガンダムが戦場へと姿を現した事もそうであるが、キシリアの動きが想定よりも早かった事だろう。

 

暗殺のタイミング、それを見抜けなかったが故にキケロガを出すのに若干のタイムラグが生じ、それが原因となってエグザベ等との戦闘に陥っている。

 

シャリアもエグザベも目下の敵である互いの存在に気を取られつつも、νガンダムを牽制しなければならない。

特に、その存在と目的が分からない以上戦闘で消耗し切る訳には行かなかった。

 

そうなると戦闘が鈍化するのは当然のことで、互いに様子見が発生する。

キシリアを討つべく、消耗を抑えなければならないシャリアも、キシリアを護らなければならないエグザベ等も積極的な攻勢に撃って出る事が出来ない。

 

たった1機のモビルスーツが戦場に影響を与え、その与えられた影響の中で対話の余裕が生まれようとしていた。

 

 

一方、シャリアの手によってイオマグヌッソ内部へと侵入を果たしたマチュであるが、先程の攻撃を感じ取ったにしては元気があった。

元々心が強いというよりかは、ある種割り切りの良いタイプであるのがここに来て生きていた。

 

ゆっくりと進んでいくと、突如として大きな空洞へと突き当たりそこに合ったのは、やはりシャロンの薔薇…拘束されたエルメスとその周囲を漂う1機のモビルスーツ。

ケーブルで繋がれた其れ等を見て、マチュはこの機体のパイロットが先程のゼクノヴァを引き起こしたのだと確信した。

 

「お前が殺ったのか!?」

 

だが、それにしてはその機体が動くことをしない。ピクリとも動き出さないそれを見て、ゆっくりとそれに近づきその機体に触れると、それに誰が搭乗しているのか何となくではあるが分かった。

 

機体から伝わってくるその既視感、そしてその息遣いは一緒に過ごした時間の短さの割にはハッキリとしていた。

 

「もしかして…ニャアン…なの?」

 

マチュのその呟きが聞こえたのか、その機体ジフレドの中でうめき声が木霊する。

 

ゆっくりと浮上する意識の中、ニャアンが目にした光景は眼前にあるジークアクスの姿ではなく。

コックピットに座るマチュの姿、そう彼女には機体が透けているように視えた。実際に透けているわけではないが。

 

「マ…チュ?マチュ、どうして……ここに。」

 

「それはこっちのセリフだろ!!なんでそんなのに乗って、あんな事をしたんだよ!!」

 

マチュはあの光を感じ、射線上の汎ゆる物を呑み込んだ光景を目に焼き付けながら、それを感覚でさえも捉えた。

重苦しい感情を前にしてでも、彼女の心は壊れる事はなく寧ろ、怒りに燃える様に熱く煮え滾る。

 

「私は…2人を元に戻したかったから…」

 

対するニャアンのその姿をみれば、きっと心配するだろう事は目に見えていた。

青ざめた顔と、何かに怯えるような瞳は宙を彷徨う。

何が見えているのだろうか?そんな様子のニャアンを感じ取ったのか、マチュはジークアクスを使って強引にもジフレドをその場から引き剥がそうとする。

 

「こんなの着けてるから変な事考えるんだろ!!だから外しちゃえ!!」

 

「待って!辞めてよ!!」

 

ニャアンの拒絶はサイコミュを通してファンネルへと伝達され、直接的な攻撃本能へと転換されるとストレートに攻撃を始める。決してニャアンの命令ではない、ただやめて欲しいだけであるのに彼女には加減が効かないのだ。

 

其れ等の攻撃を見事に機体を逸らすことによって避けるマチュは、日々の訓練の大切さを痛感していた。

 

「サンキュー、ヒゲマン!」

 

もし、ヒゲマンことシャリアとの特訓が無ければ、今の攻撃を逸らすことはおろか撃墜されている事だろう。

 

「ご!ごめん…そんなつもりじゃ!」

 

自分の意図しないファンネルの動きに、ニャアンは戸惑いと混乱を更に加速させるも、その光景を見て黙って見ているマチュではない。

 

「ちょっとは頭を冷やせよこの馬鹿野郎!!」

 

バーニアを全開にした飛び蹴りが、ジフレドへとクリーンヒットすると、ニュートン振り子の様にジフレドは弾き飛ばされる。予想外の動きに対応できなかったのか、内壁に突き刺さるようにジフレドがそこに落ちる。

 

するとマチュはそれを見て満足すると、ジークアクスのリミッターを解除しその力を解放する。

触れられない物を触れるために、干渉できないものに干渉するために、ジークアクスの各部にミノフスキー粒子による収束が始まる。

 

「ララァは言ってた、自分を助けてって!だから!!」

 

という声と共に、エルメスに着いている装置を外すと弾き飛ばされるように、ジークアクスは内壁にめり込んだ。

 

 

そんな光景を観ながら、シロウズは通路を進む。自分の設計通りに、どの通路を通れば何処にたどり着き何処が一番近いのか…、そんな事を考えながら娯楽施設の劇場を横切る時、それは起きた。

 

「遅かったではないか…シャア。いや、キャスバル坊やと言ったほうが正確か?」

 

キシリアがそんな彼を先回りして待っていた。

彼女は、彼の思惑と言うものを理解していると、そう自負していたからこそ、彼がどこへと向かっているのかある程度わかっていた。

 

あの日から、多くの者を巻き込みながらこの計画を立て、そして実行に移した。

たった一人の男の為に、目の前の男の夢を叶えてあげる為に……。愛というものは時として残酷で、残忍な一面もあるがキシリアは愛に狂っていた。

 

「ダイクンの唱えたニュータイプ論、それに基づいてお前は動いていた筈だ。

舞台もそしてこの状態も、お前の望むニュータイプの為の世づくり、私はそれを叶える為に今ここにいる。

さあ…、共に新しい世界の為に私と来い!!」

 

それは口説きとしてはあまりにもガサツで、それだけに彼女が恋愛に疎い事の現れでもある。

実際、この歳になっても本当に心を開いた事のある人間が、身内以外にはニャアンくらいしかいないのだ。

 

「キシリア閣下、私は洞察に満ちた優しさを持つ者をニュータイプと思っています。

この様な事をせずとも、何れその優しさは世界を包むでしょう。」

 

彼のその言葉に対して、キシリアはライフルを突きつけるのを辞めない。それは、互いに相容れない物があるという事の現れでもあり、同時にそんな事信じられないというキシリアの想いでもあった。

 

その時だ。

 

パチ パチ パチ パチ

 

と4度手を鳴らす音が響く。

 

「実に見事な演劇でした。感服いたしますよ、キシリア・ザビ閣下。それに、キャスバル・レム・ダイクン。」

 

いつの間にそこにいたのだろうか、黄色いスーツを着た男が席から立ち上がり2人を前に声をかけた。

その顔は確かに老けてはいたものの、キシリアの前にいるキャスバルと似ていて、より彫が深いように視えた。

 

そう、人というものは苦労が顔に現れる。それこそ、幾多の苦労の果てにキャスバルが老ければ恐らくはその顔になるのではないかと言う、そんな顔である。

 

「お前は誰だ!」

 

そんな言葉を発するキャスバルに対して、その男は答えた。

 

「そうだな……、私はシャア・ダイクンとでも言えば良いか?情けなくも、道化を続けた果てのキャスバル…君の成れの果てとでも言えばいいか?」

 

「向こう側から来た者か…。」

 

その姿を見て、キャスバルは驚きつつも納得する。

あのモビルアーマーがあるのならば、向こう側から何らかの方法でやって来た者がいても、なんら不思議ではないとそう直感したからだ。

 

「貴様もここに来たのか…。あの時の礼をしていなかったな、しかしここに来るとは、いったい何が目的だ。」

 

その姿を見てキシリアは警戒を強めた。目の前にいるキャスバルよりも、歳をめしたこの男のほうが厄介そうだと思ったのだ。現に、キシリアの目的の半分をこの男が止めたと言ってもいい。ア・バオア・クーが完全に消滅しなかったというだけでも、誤算であるから。

 

「私は私の役目を果たさなければならないと、そう思っただけだよ。そう…、例えば彼女を救うというね。」

 

その言葉を聞いてキャスバルの眉が動いた。彼女という言葉は、あのモビルアーマーのパイロットの事であるという事が有り有りと見えていたからだ。

故に、キシリアもまたその言葉に反を示した。

 

「アレを取られるわけにはいかんのだ、だから…今ここで死ね!!」

 

キャスバルを狙っていたライフルの銃口が、シャアの方へと向く。それを予知していたのか、避けるように動く。

その時だ、劇場の壁をぶち抜いてジークアクスが姿を現した。

 

「いた!ララァが探していた人だ。」

 

ジークアクスのコックピットで、マチュがそう口に出す。望遠された映像に映し出されたのは、シャアである。

その顔に見覚えのあったマチュであるが、同時に似た顔が2つもあって少し困惑するも、映し出された方に手を差し伸べる。

 

『速くこれに乗って!』

 

「騒がしいものだな…コレも若さか。」

 

余裕があるように、シャアは差し伸べられた手に乗ると、二人に目をやり不適に笑った後告げた。

 

「キャスバル!貴様がやろうとしていたこと、確かに世界の為になるだろう。だが、貴様は世界の表面しか見ていない!!

もっと挫折を経験しろ!!」

 

そんな言葉を発するシャアを見送りながらも、キャスバルは工事シャフトへと降下する。

土埃とそれと共に漂う塊に、目眩ましを喰らうキシリアは、一人その場に取り残された。

 

「駄目……だったか。我ながら、哀れな女だな私も。」

 

その言葉には哀しみがあった。そう黄昏ようとした時、ジフレドが現れた。恐らくはジークアクスを追ってきたのだろうが、キシリアにして見てもちょうど良いタイミングとも言えた。

 

『キシリア様、大丈夫ですか!!』

 

大音量で耳を劈く勢いであるが、それに手を挙げることで応える。

 

「私を艦の方へと送れ、もはや手遅れかもしれんがな。」

 

『…?コックピットを開けるので待ってください。』

 

キシリアはその行動に少し頬を綻ばせると、一人想うのだ。

この事態を、もっと上手く事を運ぶ事は出来なかったものかと。

人を信ずるという事が、出来なかったのかと言うことを。

 

 




マチュの行動は、基本コミカルに描くのがベストなのでは?と言う結論に辿り着くも、それは難しい

誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
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