パチンッ!!
乾いた音が部屋に響く、良く調整された画角の様な古い調度品にそれこそまるで御伽噺にでてくるような、そんな飾り付が周囲を照らす。
そんな豪華絢爛でありながら、何処か古めかしい景色の中で、御伽噺に出てきたようなそんな二人の男女が向き合っていた。
女性の方は、その金細工のような髪を揺らしながら純白なスーツに身を包み、対して男はその金髪をオールバックに纏めていて、無難な濃い緑色のスーツに、身を包んでいた。
年齢はそれ程離れてはいないのだろうか?2人は実に絵になる様だが…そんな光景とは裏腹に、女性の掌は何かを振り抜いたかのように、男の顔の左側に腕がある。
対する男も、その振り抜かれた腕と同じ方向に顔を向けており、若干ではあるが左側頬は赤みを帯びていた…。
そんな光景を後ろ手に、髭を蓄えた武官風の男はその行動に呆気にとられている。
その直ぐ隣では、金髪の男と同じ様な風体の男がその光景を良い笑顔で観ながら、その横ではパーマ髪の男が何処か呆れたような顔をしていた。
そんな中にあって浮いている、ピンク髪とブレザーでカッチリと決めた少女と、細身の黒髪で同じくブレザーでカッチリと決めた長身の少女がヒソヒソと
「なんか…私たち場違いじゃない?」
と話をしていた。
イオマグヌッソの崩壊と消滅、ギレン・ザビの死とキシリア・ザビの叛乱。
それぞれの大きな物事が重なり、人々はこの大きな出来事を見て、世界の有り様をまざまざと見せつけられた。
地球圏、特にその中でも宇宙に於いて、ジオンの一強体制となっていた昨今は大きな諍いもなく、表向きは平和が続いていたのだ。
だが、家族間の不和と言う小さな亀裂から始まるこの大きな事件が、結果としてこの宇宙での勢力均衡を大きく崩す要因となった。
キシリアの叛乱によって、イオマグヌッソによる攻撃に晒されたジオンの重要拠点ア・バオア・クーは、その戦力の過半が消滅し大凡の戦力を削られるに至る。
コレによってギレン派と呼ばれた人々は、武力を背景にしていたその求心力を失い、勢力図が大きく塗り替えられる事態となった。
また、叛乱をしたキシリアはと言えば…戦場からの離脱を行なっていた艦を、サイド6にて秘密裏に用意されていた(ということになっている)艦隊によって武装解除され、今回の事の重大さも鑑み、ジオンの法廷へと引きずり出された。
軍事法廷とされるところを、一般的な最高裁裁判としたところにキシリアを軍人としてではなく、個人として裁かなければならないという、原告側の強い意志が反映された。
被告であるキシリアは、現ジオン公国において尤も強い権力を持つものであり、従ってそれを裁くことは軍事法廷に於いては不可能に近い。
しかしながら、それ行える人間が民間側に存在するというところが大きな影響を与えた。
原告の名は、ガルマ・ザビ。
キシリアにとっては数少ない心を許すことの出来る、身内の人間。家族として愛し愛された者同士の再びの出会いは、案外直ぐに行われたものであり、それが二人の最後の言葉を交わす機会となった。
「被告、キシリア・ザビはこれらの罪状を全て認めると…それで良いのですね?」
「くどいぞ…、其れ等の計画も掛けた金も人員も、全て私の指示通りのものだ。
私の意志を汲んだ者たちは、一部を除いて無関係だ…。」
その言葉に対して、法廷はそれを全面的に受け入れる事としキシリア・ザビに対して死刑を宣告した。
この時、キシリアはガルマを見て笑っていた…、その瞳には確かに優しさがあってまるで憑き物が落ちたかのように、清々しい面持ちであったという。
死刑の執行は間を置かず執り行われ、準備を含めると大凡14時間、キシリアは獄中の中で何を想像したのだろうか?
ただ、ひたすらに泣いていたと言う…そんな噂が実しやかに市中に囁かれ、民衆からは失望と嘲笑が送られたという。
そんな彼女の死刑を実行した者は…彼女の見知った人間であった。
紫髪のパンチパーマ、少し具合の悪そうな人相に細身の男…、ジオン公国軍大学学長にして、現在ジオン本国守備隊を預かるその男。マ・クベは、キシリアを自らの手に掛ける時そっと声をかけた。
「キシリア様…、私は貴女をお慕いしておりました。後の事は…全て私にお任せ下さい。」
キシリアはその言葉を聞いて…果たして何を思ったのか、その瞳は確かにジオンの宇宙を見上げていた。
彼女の考えていたことは、本人にしか分からない…。
正式な法廷で彼女が裁かれた後、ジオン公国では一つの即位式が厳かに行われた。
ジオン・ダイクンの実子にして、その子供のうちの一人…既に死んだと思われていた、アルテイシア・ソム・ダイクン。それが、ジオンの地に帰ってきたと…。
ザビ家に囚われていた人々は、その自らの行いを顧みることはなく、今度はまるで掌を返す様に帰ってきた彼女に対して好意の目を向ける。
その後ろには、追放処分とされていたもう一つの家。ダイクン派筆頭であるラル家の男、ランバ・ラルが彼女を護るように後ろを着いて歩く。
公家の失墜と王家の復興を象徴するように、そんな彼女等に対してガルマ・ザビは頭を垂れる。
ザビ家における全ての責任と、コレから起こるであろう政変の影響をその身で受け止める為に、彼は粉骨砕身の想いで事に当たることだろう。
そんな彼に対して幸いな事は、ザビ家憎しと言う人間もこの男に対しては何も言う事は無いというところだろうか?
ジオン・ズム・ダイクンが死んだあの時、この男は何も知らない子供であったのだから、そんな彼が全てを背負うと言うのだからそれに茶々を入れている暇など、ジオンの政治には余裕はなかった。
そんな、長々とした紛争の処理のあとには何時もの日常が回り回って巡る。
そうしている内に、アルテイシアの下へは一つの集団が現れた。
今回の件の首謀者であるキシリア・ザビの捕縛、並びに事件を解決した功労者として招かれたのは、テロリストとして指名手配されていた一人の少女と、それと同じくもう一人の少女が公式にその屋敷の中へと招待された。
ゴシップの記者達は、その勇姿を一目拝もうとカメラを構えるも彼女等の姿は一向にでてくることはない。
果たしてその少女たちは、本当に実在しているのだろうか?そんな噂も立つだろうが、事実として未成年の肖像権違反を行おうとした者たちは、即刻塀の中へと送られた事だろう。
仰々しいジオン公王庁舎、その中に入った事のある者はジオン公国国民も殆どいない事だろう。
本来であれば、政権の身内のみに許された場所であるがそんなところを自分たちが歩いている…等と、下手に緊張するようなマチュではない。
彼女に対する幾人かの護衛を差し置いて、好奇心旺盛な彼女はキョロキョロと辺りを見廻すと、見覚えのある絵画が目にとまった。
何処かで見た覚えがある、金髪の人物。その若い頃だろうか?家族全員が描かれていた。
「懐かしい物です、真ん中に座るのは私の母…一番背の高い人が父で、一番小さいのが飼い猫のルシファ…。そして私と…兄さん…。」
マチュが見上げる傍ら、美しい声が聞こえたと思うとその声の方を向く。声もそうだが、顔も勿論だがその立ち居振る舞いも実に王女様と言う風体の女性がそこに居た。
ドレスではないものの、きちんと決まったスーツに身を包んで彼女はマチュの前に現れた。
「おぉ…女王様だ!」
「えっ!ちょ、マチュ駄目だって気軽に話しかけちゃ!」
「フフフ、かまわなくてよ?さ、お連れの方々も一緒にこちらへ来てくださる?」
その言葉には、何処か棘があった。もっと言えば、一人の人物に対して非常に鋭い視線を向けていた、というのが正確なのだろうが。
お連れには、パーマの男。金髪オールバックが二人、この二人はかなり似ている。それと、褐色の女性。
兎にも角にも、アルテイシア先導の元客間へと一同は歩いていった。
「歩きながらで申し訳ないのだけれど、私が案内をやっていることは内緒にしていただける?」
その言葉がどういった意味であるのか、ニャアンには分からないがマチュは分かった。
「まあ、しょうがないと思い…ますよ?」
「敬語でなくて良いです。さ、着きました。」
通された部屋は、やはり綺羅びやかな調度品のあるこの国を象徴するような、そんな物がある部屋だった。
それを見て、アルテイシアは眉を潜め一人何かを考えていたが、ふと我に返ると微笑みながら言った。
「適当にすわってくださる?あ、そこの方…貴方は私の前に来てくださる?」
そこの方…という言葉に反応したのは、若く渋い色のスーツに身を包んだ一人の金髪の男。
その男は生唾を飲むと、徐ろに彼女の目の前に立つ……そして、
パチンッ!!
という小気味の良い音と共に、平手打ちが彼の顔にクリーンヒットした。
その光景を見て、マチュはこの二人がどんな関係であるのかと、邪推しつつもこの場所が気不味い空気に包まれようとしていることを察知した。
隣に座ったニャアンと共に、その光景を見た彼女は口にした。
「なんか…私たち場違いじゃない?」
と。
「良くもノコノコと私の前に顔を出せましたね…、キャスバル兄さん。ええ、言わなくともわかっているわよ?貴方がシャア・アズナブルとして、ジオン独立戦争に身を投じた事も。ソロモンには、私もいたのですから!!
今さら何の用でここに来たと言うの?まさか、また色々と物事を引っ掻きまわるつもりなのかしら?だったら…、今此処で引導を渡してあげますよ?」
捲し立てる様にツラツラと話す彼女は、心の中がグチャグチャになる思いであった。
特に、兄に出逢えた嬉しさと、その反面今更顔を出したこの薄情者に対する、複雑な想いが絡み合っているのだ。
そんな光景を目の辺りにして、何か口に出そうとしていたマチュであったが、それよりも早く一人の人が立ち上がった。
金髪オールバックの大人の男、と言う雰囲気を醸し出している、キャスバルと同じ様な顔立ちをしている彼だった。
「おい、いい加減意固地になるのは辞めろ…。お前も大人だろう、素直に謝れば許してくれるとそう言っている事に気が付かないのか?」
優しく諭すように言う彼は、何か複雑な事情を抱えながらも彼に助け舟を出した。それが、素直に話が出来ないこの兄妹に対する、この男なりの気遣いなのだろう。
その言葉を聞いて、声を聞いてアルテイシアは驚くように目を見開いた。
「……、私達の間に入らないでくださる?そちらの貴方には関係の無い話です。」
「そうだろうか?若い頃の自分が怒られているのを、黙ってみていられるほど、私は大人ではない。
それに……。」
言葉を続けようとして中断すると、その目をキャスバルの方へと向ける。綺麗にピシリとした直立不動の形を取ると、一気に頭を下げた。
「今更ながらになるが……、勝手に家を出て済まないと思っている。謝れば良いと言う話では無いと思うが、許してくれるだろうか……。」
意外にも彼は素直にそう口にした。周囲からの視線が痛いと言うところも有るのだが、一番はとある人物から脅されていると言う事もある。
その人物からのきちんとケジメを着けること、と言う言葉の通りに、彼は目の前の事柄に目を向ける。
「許します……だって…、生きていてくれているだけで嬉しく…ないわけ…無い…。」
その瞳からは、一筋の光が零れ落ちそれが床を濡らす。
お辞儀の姿勢から体勢を治していないキャスバルは、それを観ると徐ろに頭を上げて自然と彼女の頭に手を回し、ヒシと抱き合った。
そのまま頭を撫でると、慰める様に言葉が自然と声に出た。
「済まない…済まなかったアルテイシア…。お前に辛い思いをさせてしまって…私は……とんでもない大馬鹿者だ。」
たった二人の身内、血を分けた兄妹がそんな風にしているところを見て、褐色の女性ララァは目尻に涙を浮かべ、マチュとニャアンはニコニコとし、シャアはそれを見て笑っていた。
唯一、アムロだけが当然だなと言う風に、どこ吹く風と言う澄まし顔であった。
「私もこれからは、お前の為に色々と便宜を図ってやろうと思う。お前にだけ、重荷を背負わせるわけには…」
「それは大丈夫です。寧ろ、兄さんは何もしないでくださる?」
話を始めるとまるで先程までの空気が嘘のように、スッときりかわる。
その言葉に一番に驚愕したのは、キャスバルだろう。そして、当然だなとシャアは首を縦に振った。
「なぜだ…、私はただ。」
「自由に生きて欲しいって事じゃないのか?」
助け舟か、アムロはそう口にした。そんな彼に対して、アルテイシアは笑顔を向けながら静かに礼をする。
「ええ、その通り。それよりも、皆さんにお茶をお出ししなければね?」
その言葉の通り、使用人達が中へと入ってくる。
アルテイシアは直ぐにお茶とお茶菓子を用意すると、一つずつテーブルに乗せていく。
厳かなものであるが、何故か高そうに見える…いや実際高いのだろうが…、それを見てアムロだけが難しい顔をしていた。
その使用人の特に子供たちに、マチュは見覚えがあった。その使用人の子供も彼女を見てニコニコとしながらも、仕事が終わればまた外へと出ていく。
その後は…、難しい話やコレからの事を話し時間はゆっくりと過ぎて行く。一人一人と話をして…。
ニャアンにもマチュにも、迷惑をかけたことを謝罪しつつジオンの事を嫌いにならないで欲しい旨を言う。
そんな中、アルテイシアはキャスバルに好意を抱いているララァに、面と向かった。
「兄をよろしくお願いします。見ての通り、いい加減な人ですが貴方なら一緒に歩いてくださると、そう想います。」
「私もそう思っています。まあ、色々と事があればまた連絡させて頂いても?」
決して悪く無い雰囲気、その中でシャアだけが複雑な気持ちをしていて、アムロはそれを見て笑った。
そんなシャアの番になると、色々と思うところがあったのか、心配があれば連絡をくれれば色々と手を回そうとか、そんなお節介を口にする。同一人物であるからか、妙にアルテイシアに優しい。
彼がキャスバルと同一人物である事を、アルテイシアはランバ・ラルから聞いていたが改めてこの人がキャスバルであると言うことも、何となく納得が行った
最後の番になったのはアムロであった。
「彼の事をよろしくお願いします。」
「言われなくとも、それが俺の役目ですから…ただ、若い方の彼はもう一人の別の人に任せたいと思っています。
互いに分かり合っている方が、色々と分かりやすいので…。」
初対面であるはずなのにそんな事を言われる、一瞬で信頼をしたのだろうか?
アルテイシアの瞳は何故か、彼を離さない。
そんな光景を見て、キャスバルはシャアは何を思うのか?
「もう一つ、お願いしても宜しいですか?」
「ええ、俺の目の届く範囲であれば」
そう言うと、一人の人物が部屋へと連れてこられる。バツの悪そうな顔であるが、虜囚の身である事は明らかで…決して醜くはない。寧ろ美形である赤毛の女性は、アルテイシアを睨みつけるようにしている。
「この方の事……よろしくお願いします。」
「わかりました。」
誰もが目を疑った…、その女性は死んだ筈である。アルテイシアは、彼女を殺す事をせず生かすことによって求心力を削ぐことを決意していたのだ。
それは危険な行動であるが、同時に彼女を殉教者にすることを拒む意思表示であった。
キシリアは確かに生きていた。
誤字、感想、評価等よろしくお願いします。