猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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人妻と天パと戦争

 

その日…一人の女性が、家庭を顧みず何処かへと旅立った。

おかっぱの年若い女、シイコ・スガイはこれでも人妻である。戦争という惨禍の中から日常へと戻った彼女は、普通の家庭という幸せを手にした筈であった。

 

だが、そんな彼女の内のドロリとしたその復讐心はそんな日常を破壊するには充分な欲求を彼女に与えた。

 

彼女に連絡をした人間は、黒い服を着た黒尽くめの男たちを家へと送り、彼女に誘惑の言葉を投げかけた。

 

「赤いガンダムに興味はありませんか?」と。

 

その言葉を聞いた彼女は目を見開き、その瞳には確かに消えた筈の復讐の炎が灯るのを感じた。

彼女の内にあったそれは戦争の終わりととともに、赤いガンダムの消息が絶たれたと言う言葉と共に、消えた筈だった。だが、現実は違った。

 

それは長い長い間、燻っていたのだ。彼女の内に、静かにその時を待っていたかのように、彼女に復讐を忘れさせない為に。

故に、言葉を聞いた瞬間彼女の瞳は光を失い、その時点で全てを決したように伴侶たる男に言ったのだ。

 

「約束を果たさなきゃならないの、だから…ごめんなさい。きっと…戻ってくるから…。」

 

と。

 

 

その日、あるオフィスに通された彼女が見せられたそれは、彼女の目を疑う程度には彼女に衝撃を与えた。

赤いガンダム、それが元気に宇宙を駆け巡る姿。

彼女のMAVである人物を葬り去った、赤い彗星が駆るはずのその機体は確かにそこにあったのだ。

 

「コレは何時撮られたものなんですか?」

 

「数週間前、コロニー外縁部を飛行しているところを発見し、軍警が戦闘を行った。

見事に取り逃がしたようだが、現在指名手配中だ。」

 

不思議と彼女の手は握り拳となり、力がかかる。鬱血する彼女の掌は嘗てMSを駆っていた時よりも、日常という名の微温湯に浸かり柔らかくなっていたもののそんな事どうでも良いほどであった。

 

「正式パイロットに戻れば、このガンダムとの戦闘を行えるんですよね?」

 

再度確認するように言う彼女は、目の前のそれの虜となった。今度こそ、あの子の仇を。戦争はまだ…終わってなどいない。

そう、心の中の自分は彼女に語り掛け彼女はそれに答えるように、目の前のそれに怒りを煮え滾らせた。

 

「勿論、機体はコチラが用意するものだ。おって資料を送りますが、準備は十分にしてきてください。」

 

「わかりました…、お願いしますね?」

 

その言葉は彼女の決意を見せるには充分なものがあった、彼女の瞳には輝きはなく。囚われた自我が、彼女の表側に表われていた。

 

 

 

……

 

「意外と上手いじゃないか、本当に初めてなのか?」

 

アンディという名の男がそう言って、ニャアンが駆るコックピットを眺めながら嬉しそうにしている。

 

会社の地下に有るMS格納庫、その直ぐ側に有るシミュレーターに人集りが出来ている。

それに乗っている人物を見て、その事実に会社の面々は度肝を抜かれた。

 

「どうだ?ニャアンの実力が分かっただろう?皆、一度戦ってみたくはないか?」

 

アムロが誘うように提案する。それは余興の始まりの合図と言っても過言ではない。

 

「え…!いやちょっ!」

 

「お嬢ちゃんとねぇ、良いな。やらせてもらおうか!」

 

自分の腕に驚いていたニャアンは、そんな話を振られると少し戸惑っていたが、流されるように再びシミュレーターに入れられると、目の前の画面に宇宙空間が映し出される。またシミュレーターが始まってしまったのだ。

 

元ジオンのパイロットと言う男、輸送船の船長もやっている老年の男ガデムは、愛機である動力パイプの無いザクに乗り込むと、そのままオンラインに接続し、ニャアンとモビルスーツ戦を始めようとする。

 

俺も俺もと周囲の取り巻きも集うが、一人ずつだと制されそんなお祭り騒ぎは留まるところを知らず、その騒ぎの元凶であるアムロはその輪から直ぐに離れると、傍らに座るシャアのすぐ近くへと立ち、体重を少し壁へと寄りかかった。

 

「中々のセンスを持っているな、大凡素人とは思えない程だ。」

 

「そうだろう?初陣の時の…俺を観てるみたいだよ。」

 

アムロは嫌味のようにチクリと、シャアへと言葉を放つ。実際嫌味なのだろう、この呑気に座っている男がサイド7に3機のザクを送り込まなければ、彼がMSを操縦する事なんてなかったのだから。

 

「この世界の君は何をしているのだろうな?」

 

「さあな、大方何処かで野垂れ死んでるんじゃないのか?正直に言って、一人で生きられるようなそんなスキルを俺は持ってなかったし。何より、食事なんか気にもしたことがなかったからな。」

 

この世界は連邦がジオンに事実上の敗北を喫し、各サイドの再建が思うように行っていない。

コロニー公社はその財源を減らし、木星船団もまたその事業の再建に躍起になる程だ。

 

「君のお父上、確かガンダムの設計をしていたそうだな。」

 

「あぁ、向こうじゃ階段から落ちて死んでたらしいが…、こっちじゃどうなってるんだろうな?」

 

アムロは会おうとも思わなかった。会ったとして、きっと未練も何も感じなかっただろう。

それを自分が冷たい人間だと、そう思うか?それとも、単に他人であると割り切っているのか…、質問したシャアには分からないことであった。

 

「そろそろ時間だな。行ってくるよ。」

 

「あぁ、くれぐれも面倒事は持ち込まないでくれると助かるが。」

 

「誰の口が言っているんだ?資料を届けに行くだけだから、そんな手間もないさ。」

 

軽口を言う彼の背中は、何処か寂しげであった。

 

 

……

 

 

「アンキーの仕事場…何処だったかしら?」

 

昔からの付き合い、戦友とも言える彼女の会社に立ち寄ろうとそう思ったのは、偶々そのコロニーで自分のやる仕事が有るという情報が入ったからだった。

都合良く思い出したので、迷路のような難民街の中を縫うように一直線で向かっていたのだが、途中で場所が分からなくなってしまった。

 

特徴的な橋を渡った所までは良かったが、果たして殆ど同じ様な光景が続く場所である。

どんなに勘が冴えていたとしても、人目を気にしながら歩いていた彼女にとってそれは難しい事であった。

 

そんなところで困っていると、何処からか黒いポメラニアンを連れた男性が現れると、そのポメラニアンがお土産に釣られて彼女の周りをぐるぐると回りだした。

 

慌ててなんとかならないかと思っているが、動物というものはままならないものである。きちんと躾をしているのか?と思いながらも、男の方も困り顔だ。いつもと少し様子が違うのだろう。

 

そんな時、一人の少女が現れて事態を終息させた。

 

「バカ犬。」

 

シュン…となる犬とは対象的に、自信有りげなその子は何故だろうか?他人のような気がしなかった。

 

話をして見ると、犬の飼い主とこの子はアンキーのお店の子らしい。場所を案内されると、奇抜な髪型のあの娘がいた。

 

「お久しぶりね、どうかしたの?その髪型。」

 

「うん?あぁまぁ、ちょっとね。」

 

自然と薬指の方に目がいくと、そこにリングは無かった…。なるほどそういう事なのかと、無言で頷くと今度は話を切り替えて彼女を連れてきた少女の方へと進んだ。

 

「あぁ、うんまぁ…バイトだよ。」

 

「バイトのマチュです。」

 

バイト…ジャンク屋なのにこんな可愛い子供が?どう見ても良いとこのお嬢ちゃんで、何よりその制服には見覚えがあった。怪しい…、こんな難民街でこんな服装をしていること自体おかしい。

襲われでもしたらどうするつもりだろうか?

 

「そう…。」

 

多少の世間話をした後に、仕事でここに来たと報告する。また付き合いが始まれば良いなぁと、心の何処かで思っていると…会社のチャイムがなった。

 

誰だろう?仕事の依頼とかかなと、シイコがそう思うと慌てた様に部下の人がそれに対応する為に出ていった。

 

「どなたか今日こちらに来るの?」

 

「え…?あぁ、まあそうだな。うん、来る予定だった。」

 

玄関の方から静止するような声が聞こえるが、足音が近付いてくる。止められないようで、どうやらアンキーに用事が有るようであった。

 

「仕事中だったかい?出直したほうがいいかな?」

 

見たこともない男だった。シイコよりも歳上で尚且つ、落ち着いた雰囲気を醸し出す彼は天然パーマで青い目をした…日系人。

穏やかな声は、心を何故かリラックスさせるようなそんな響きがあった。と、同時に何故だろうか?シイコは彼に力強い物を感じた。

 

「あら…アンキー、新しい彼氏さんかしら?」

 

冗談を言ってみる。

  

「言っとくけど違うからね?」

 

それに対するアンキーは能面のような顔をしつつ否定した。

 

「あらそう…。いえ!お構いなく、仕事で昔の知り合いの近くに来たので寄って見ようかと、そう思って来ただけですから…!」

 

何故だろうか?年甲斐もなく大きな声を出してしまった。シイコは己のその言動に驚いた。意図していないのだから。

 

「いや、こちらもそれ程重要な案件ではないから…、資料を置いたら直ぐに立ち去るよ。ただね、防犯の都合上手渡しのほうが良いと思ってね。」

 

何かあるのか、態々そういう事を言うということは裏がありそうだと、シイコはそんな気がした。

 

マチュがその人を見つめながら、何か不思議そうな顔をしている。いったいどういう人なのだろうか?気になって仕方がなかった。

 

「いえ…、私ももうすぐ帰るところなんです。そろそろ夕方でしょ?ここいらは危険だって聞くし。」

 

「なら、私も帰ります。そろそろ門限とかもあるし…。」

 

シイコが帰ろうとすると、それに着いていこうとマチュも声を出す。そこまでは良かったのだが、次の言葉に二人とも驚いた。

 

「そうなんですか?では、資料も渡し終えましたので自分も帰りますよ…。女性二人をこんな危険な場所で、しかも二人きりで歩かせるのは気が引けますので。」

 

いらないお節介だと、マチュはそう思った。どうしてこの普通の人は、自分の近くに現れるのだろうか?

そんな人に懐いているニャアンにも分からないが、どうしてか気に入らない。けど…、ここで否定したらなんか駄目な気がした。

だから、マチュは否定しなかった。

 

「ああ、ここいらは物騒だからな。」

 

「では…また後日に。」

 

元軍人相手に物騒だという言葉はあまりに無意味だと、アンキーは思いながらも。そこは不自然にならない方向へと、普通に対応し3人に帰路へとたたせた。

 

「なんです?その資料。」

 

「ちょっとした…報告書だよ…。」

 

アンキーの手元には、ジークアクスのシステムに対する1つの考察が入っていた。

 

 

 

事務所から去った3人は、川辺を進みながら駅の方へと歩いていく。

途中、ポツポツと話をしながら女性と少女と叔父さんという…ある意味家族のような姿がそこにはあって、不思議な事に人々はそれに意識を割かなかった。

 

話を続ける内にこの女性がなんのためにここに来たのか、アムロは気がついた。

赤いガンダムを撃ち果たそうと、こうして戦場に戻ってきたということだ。

家族も捨てる覚悟をしながら、様々な後悔があることを承知の上で。

 

「お子さんがいるのに何で?」

 

子供は正直だ…、色々な制約の中でそれだけしか取り柄がない。だからこそ質問をする特権がある。

そうしている中で、ふとこのシイコという女性に対する違和感の正体がなんなのか、彼は理解した。

 

確かに彼女は死人に引っ張られているのだと。今まで戦場で散っていった人間は、何かと執着していた者が多い。誰かの為に、なんの為にアレコレと理由を着けて。

ただ、自分が負けていることが嫌だという事を隠すために。

現実を受け入れる為に、失ってしまった全てに精算をつけるために。

 

「ニュータイプとか言う選ばれた人達なら、それが出来るのかしら?」

 

それは心からの叫びが口に出たものだろうか?そう願いたかった事なのだろうか?

 

「出来ないさ…!」

 

それに対して、アムロの口は勝手に開きその言葉を否定した。

 

「え?」

 

今まで主体的に話していたマチュは、突然に割って入ってきたそんな答えに、戸惑いを覚えた。

どうしてこんなにも普通の人が、お母さんとも全然違うこの人の言葉の答えを切り出そうとするのかと。

 

「ニュータイプは決して、選ばれた人々ではない。すべからく、汎ゆる人達にその可能性はある物だ。」

 

「どうして、そんな事が言えるのかしら?」

 

どうして?そんな事を聞かれたところで、答えはきまっている。汎ゆる可能性は0ではない、どんな人でもそんな可能性は転がっている。だが、それは論理的なものではないということも。

 

「子供が…すきなんだろう?」

 

「ええ…、愛している(好きよ)?」

 

そんな彼女への問いかけに、さも当然のように彼女は答える。確かに愛情は有るのだと。だが、それとコレを切り離してしまっているのだろうとも考えた。

 

「なら、子供は君のことを愛しているんじゃないかな?」

 

「だとしても…、コレを諦めることは出来ないわ。これしか機会が無いもの。私に、諦めろってそう言いたいのよね?」

 

その通りだ。

 

「そうだ、君が哀しいからじゃない。その子が可哀想だから、だから諦めて欲しいんだ。」

 

「そう……、なら私は母親失敗なのかしら?」

 

どうあがいても理解出来るが納得が出来ないのだろう。

 

「失敗するもしないも、まだ君は母親らしい事をいっぱいやらなきゃならない筈だろう?それと今とを、天秤に賭けてもやらなければならないのか?」

 

シイコは俯く、けれどそれは感情の発露であった。

 

「貴方に何がわかるって言うの?私は…!帰れるところが無い、貴方に!!」

 

シイコのその言葉にマチュは隣に佇む男を見上げる。

その顔を見た瞬間、マチュは背中に多くの栗毛が立ち鳥肌が全身を駆け巡る。

何を見ているのだろうか?この場にいる誰よりも、この目の前の男が恐ろしいと思った。

冷徹とも違う、まるで全てを見透かしているようなその瞳を。

 

「そうかい…、わかったよ。なら、くれぐれも気をつけてくれよ。こんなところで居なくなったら、子供が可哀想だからな。」

 

「ええそうね…善処するわ…。そこのお嬢さんも、また会いましょ?今度はガンダムのパイロットも一緒にね…!」

 

この場にいた3人の中で、誰よりもマチュは恐怖というものを知らなかった。

ただ、確かに…その片鱗だけは目にしていた。

 

 





風邪引きや 会社で移され暇となり ただゴロゴロと暇を持て余すばかりか

子供は皆ニュータイプ。


誤字、感想、評価等よろしくお願いします。




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