「おいおいおいおい!!なんだよコレ!誰がやったんだ!」
カネバン有限公司の事務所の中で、クラバを観戦していたジェジーが叫ぶように言った。
一体何が起こったのかと言えば、中継用TV衛星のうちの1台がどうやら軍警によって止められたという事実であった。
「不味い…まずいぞコレは!」
「軍警に通報されたのか?でも誰が…。」
各々心配する声を上げ、ハッとなって今回も出場者として試合宙域にいるマチュへと通信を入れようとして、
「待ちな、それじゃあウチが関与してると公表している様になる。」
「じゃあ、あの嬢ちゃんを見捨てろってそういう事かよ!」
アンキーの発言にジェジーは抗議した。クラバに搭乗者として参加していたジェジーにはわかる。軍警に包囲されれば最悪の場合、撃墜も視野に入れなければならないのだと。だからこそ、子供になんかやらせたくないのだ。
「そうじゃない、でも私達が捕まれば帰る場所も失うのはアイツ等も同じ事だ。」
「だからって!!」
苛立ちながらも画面を観ることしか出来ない自分に、拳を強く握りしめながら歯痒さを覚えていた彼であるが、MSパイロットとしてクラバに挑んでいた彼はある事に気がついた。
様々な角度から映るカメラ映像の中に、軍警のそれとはまた違った光が流れるように動いていることに。
「なんだ……?」
その呟きは空気の中へと霧散していった。
急ぎ僚機に追い付こうとスラスターを連続して使用するもドンドンと距離を離され追いつくことが出来ない。MAVと言うものは基本2人で行うものだが、自分の僚機は執拗に赤いガンダムを狙うだけとなっていることに、緑のゲルググのパイロット・ボカタは苛立ちを覚えていた。
「おい!!1号機!!」
そんな最中
ビービーという秘匿回線からの通信を傍受した彼は、急ぎ回線を開いた。
「今は取り込み中だ!いったい何…」
「2号機…今すぐ僚機と共に現宙域を離脱せよ!」
それは矢継ぎ早に言われた命令であった。
その意味を問い質そうと口を開きかける前に、畳み掛けるように声が入る。
「誰かから今回のクラバの情報が軍警にリークされた。我々の技術を連中に押収されるわけには行かない、今すぐに宙域を脱出しろ。コレは命令だ!!」
今回の戦闘に際して、シイコの機体へはマグネットコーティングと呼ばれる、検証段階の技術が使われていた。
コレは概念理論は1年戦争当時、既にあったものであるが、戦後その利用の意義を失われていたものだ。
コレによってMSの戦闘力だけでなく、多くの分野に役立つだろうと…、開発者のモスク・ハンは語る。
そんな代物をみすみす、理由もわからない軍警に奪われたくはなかったのだ。
「1号機には!」
「通信回線を切っている!だから早くしろ!」
その一言に彼女の苛立ちは頂天になったものの、一周して冷静に物事を考えると回線を切り替えて対戦相手である、ジークアクス…マチュへと声をかけた。
「おい!対戦相手!聞こえていたらで良い!俺達は今軍警に包囲されかけてる、だから協力しろ!」
その物言いは横暴であり、一方的なものだった。それに対するマチュの答えは…、現状への理解度のないものであった。
「は?どういう…」
と言いかけてコンソールを覗くと、何やら光点の数が増えている事を理解すると、一瞬にして現状を理解した。
「シュウジ!!停まって、このままじゃ不味いから!!」
その言葉は虚空に消え去るように、無意味に宙を舞う電気となる。
マチュの願いも虚しく、ガンダムのパイロットであるシュウジは焦りの中にいた。
それもそうだろう。マチュの思念へと答えを出すよりも前に、目の前のこの女性…シイコの執拗な程の攻撃を掻い潜らなければならなかったからだ。
ギリギリと身体を締め付けるほどの殺意と、読み辛い機体のその挙動。
果たしてそれは
どちらかがどちらかの首を取るまで、消し炭にするまでそれは終わることはないだろう。
シイコの執着はそれ程までに根深く、そして暗く世界を照らす。
嘗て戦場で汎ゆる敵を葬り去ったスティグマ戦術…ワイヤーにより敵と自機を繋げ振り子のように軸として機能させる、所謂ワイヤーアクション戦闘法
は、今も完璧に機能しそして同時に嘗て己の編み出したそれの上をいく3本のワイヤーを使用する。
それによってコーティングとの併用により機体各部は悲鳴を上げる。
限界にまで機体を使ったそれは、今の戦いのために研いたのだと遂にガンダムの動きを止めた。
と瞬間に腕が分解しほんの一瞬だけ、ほんの一瞬だけ気をそちらにそらしてしまう。今まで目の前にいたガンダムに向けて、最後の一撃をと言う気でスプレーガンを構えると…
「……!?」
目の前のガンダムは掻き消え、その残影すら何処へと行ったのか解らなくなっていた。
ほんの少し、目を動かしその行方を探ろうとしたその時…
『待っているんだろう!!』
と言う声が脳裏に響き渡り、それと同時に思考する間もなく身体は動いていた。
いつの間にか背後にいたガンダムの背部からの攻撃は、ゆっくりと流れる時間の最中、ゲルググの左脇腹を抉るように前へと突き出された。
間一髪、紙一重の距離。コックピットの真横を通過するサーベルが、その熱を武器にして彼女を襲う。
だが、その熱傷はパイロットスーツを溶かしその肉体を焼き切るような熱波を感じながらも蕩けたそれは皮膚と混じり合い彼女の生命を救っていた。
ガクンッ!と機体に一瞬のロックがかかり、操縦系がダウンする。直ぐに明滅し、再び起動されるもその間に機体の武装は全損し、彼女の敗北は決定的なものとなっていた。
朦朧とする意識の中…彼女はその微睡みの中で、声を聞いた…。
〘ラ…ラァ……ラ…ラァ…〙
と言う誰かが呼ぶような声が聞こえる。その中で彼女を傷付けたパイロットであるその人物…シュウジと、初めて対面するもののその中にはまた1人、知ったような人がいた。
『君が…ガンダムのパイロットなんだな。』
『そう言う貴方は…どうして?』
『私は……死んだの?』
見たこともない景色、しかし恐怖は感じない。寧ろ暖かさと安らぎがそこにあって憎しみも無く、ただ自分が宇宙の一部となったようなそんな感覚もある。
『彼女を赦してくれないか?君が何を望むのか分からないが、彼女にはまだ帰りを待つ人がいる。だから…』
『僕も…行きたいところがある。邪魔されなければ、戦いなんかしない。』
互いに相槌をし合う姿を、そんな傍らからシイコは眺めているだけだった。
そんな光景も外から見ればおかしなものだった。
特にラ…ラァという音に関して言えば、ジオン軍にはもはやトラウマものの代物であったが、そんな中で唯一シャリアは静観するようにその光景を眺めていた。
「興味深いものですね…、対話を願うにも関わらず私の介入を許さない…。NTとしてはかなりの手練なのでしょうか?」
少なくとも自分よりも高い世界を認識しているのだろうと、そう結論をしている彼を他所に、その世界の住人となったシイコは意識をハッキリとさせながら、声をかけてきたその人物に問いかける。
『貴方は…、アナタもなのね。ごめんなさい。』
『君には帰れるところがある。それ程嬉しいものは無い、だから…悲しませないようにしなくちゃな…。』
そんな声を聞いて彼女の意識には、まるで後ろに引っ張られるようにドンドンと浮上していき…鈍い痛みと共に未だ正面のモニターが明滅するコックピットで目開ける。
ズキズキとする左半身、焼け爛れているのだろうスーツが傷と癒着している。
はぁはぁと、息も絶え絶えの中今自分の置かれている状況を理解しようと、首を左右に動かすと左側の僅かな隙間から宇宙が見て取れた。
このまま、何も出来ずに死んでいくのだろうか…?いっそのこと、意識を取り戻さずにあの状態のまま死んでしまったほうが良かったのではないか…?
自分が誰に負け、そしてどうなったのか彼女は理解すると共に現状に無力を感じ…、やっとコンソールに通信が入っている事に気が付いた。
「コチラ…シイコ…スガイ。機体は半損、現状航行能力はあるものの指標は取れず…。」
聞いているか等という言葉は浮かんでくるものの、どうでもいいかも知れないという、そんな無味な感想が頭を過る。
「自力での帰投は困難と判断…救助を求む。」
でも……行きなきゃ…そうしないと坊やが悲しむから…と、自分を奮い立たせ、力も出ない足に鞭打ってスラスターを漕ぎ出す。
ゆったりと機体が加速するような、そんな感覚があるもの激痛が徐々に肉体を蝕みながら意識を刈り取ろうとする。
朦朧とする中目にしたものは…、真っ白いザクが目の前一杯に拡がってこちらを見下ろす様に何処かへと運んでいこうとする…そんな光景だった。
シュウジとシイコの激闘を遠巻きにしか見ることの出来なかったマチュは、彼等の戦いの最後に見た光景に嫉妬を覚えていた。
今の自分ではその光景を享受する事は愚か、同じ位置に立つことすらままならない、そんな自分に腹が立った。
覚悟も実力もないそんな自分に…、そしてアノ得体の知れない男が、そんな中にズケズケと足を踏み入れていることに。
それでも危機的状況が刻一刻と迫ってきていることに、シュウジへとそれを伝えなければとその機体を前に進めるが…そんな時だ。
周囲に幾つもの閃光が瞬き、それは彼女等を包囲するように配置するMSが放ったものだと理解するには、彼女は俄に幼かった。
全周波数に向けて放送が入る。
「コチラサイド6軍警察だ!貴様等は完全に包囲されている!抵抗する場合は、撃墜もやむなしとして貴様等を撃墜処分する!!」
数は圧倒的に向こうが上だ。
そんな状況下であっても、シュウジのガンダムはその相手の側に未だに居続けている。
動かなくなった機体を護るように、一歩も動いていない。逃げなければならないのに。
「シュウジ!逃げないと駄目!」
既に相手方のもう一方のゲルググは、姿を隠した。どうやらもう三機だけしか残っていないのだ。
「ガンダムが言っている、彼を信じろと。」
またあの男の話だ。どうして信じようと思うのか?まだ会ったことすらない筈なのに、自分よりもシュウジの事を理解しているということなのか?
それにシュウジも…あの男の事を…。
そう思ったのも束の間、マチュはそれを目にした。
まだジークアクスが認識するよりも遥かに遠く、そしてあまりにも煩雑としたコロニーの意識に混ざっている。
そんな軍警のMS隊がいるはずの場所が瞬く間に火球が灯り、幾つもの機体が屠られていく。
右往左往する姿とは裏腹に、その機体たちは皆撃墜される様なものもなく、四肢をまるで的確に破壊するのは遠距離からのビームの光。
誰も認識することの出来ない程の遠距離攻撃…、かと思えば1つのノズルの光が軍警の中へと飛び込んでいった。
「なんだ…!いったいこりゃ!」
簡単な任務の筈であった。確実に捕まえられるという公算があった。高々数機のMS、数で叩きのめせばどれだけ高性能な機体であろうとも、それを覆すことは出来ないと…その場にいたパイロットは皆そう思っていた。
戦いは数だ。
どれだけの猛将と呼ばれたジオンのドズルですら、連邦の数の暴力の前には無力を下した様に、どれだけ強くとも圧迫してしまえば良いのだと。
だが……、現実は違った。
何処からとも無くビームが降り注ぐと、武装を手にしていた腕が宙を舞う。
どころか、それぞれがMAVとしていた者達だけを狙っている。
つまり早々に2機1組のプランが破綻する。
簡易的な戦術として、やられていない僚機どうしカバーするようにするがそれも直ぐに終わりを迎える。
今度はスラスターの着いている片足を破壊されると、機動力を削ぎ落とされていく。
相手のやりたいことがなんなのか良くわからない、軍警の面々はその異様な精度に恐怖を感じ始めていた。
それもそのはずで、コレは報告のあった者達とは全く関係のない第三者が攻撃を仕掛けているということで、状況はより混乱を招いた。
と、同時に1つの光が宇宙を駆けるとそれが点から瞬く間に機体と識別出来る距離になって直ぐに、完全にメインカメラを破壊される。
コレはまさしく意図的に其れ等を潰して回っているという証であり、脅しであることは明確だった。
やろうと思えば、お前達などものの数分で全機落とせるんだぞというそんな意志の表れ。
眼前に迫り、必要最低限の回避で反撃をそらしていくその姿は優美な物とすら思えるほどに、一切の無駄がない。
回避1つ取るだけで、それがどれ程難しいことか?
たった数十センチの間隔を縫うように突き進んできては、次々とダルマにされていく。
まるで後ろに目がついているのか?後方からの攻撃も意に介さず、寧ろそれを見越して反撃を食らう始末。
そうして気がついてみれば、軍警のMSは一様にダルマのようにされると、残ったのは僅かな推進装置だけ。せめてもの慈悲というのだろうか?
ただ1つ、そのパイロットが思っていることが有るのならば
こんなお遊びで生命を捨てるなんて馬鹿馬鹿しい
と言うことだろう。
一連の動きをサイド6全域に秘匿回線を用いて公表された軍警は、大恥を掻くことは確かでありそれは同時に、その威光が失墜した何よりの証であった。
其れ等が終わるとその機体、ハイザックはシイコのゲルググへと近付いていく。
「彼女を貰っても?」
「良いよ、僕には関係のない人だから。」
そう言われ、その機体はゲルググを回収するとまた何処かへと消えていった。
共にいたマチュとシュウジは、その光景を眺めるだけとなった。
そして……、その日のクラバはドローとなり互いに痛み分けとなった。
ただ、マチュはシュウジにもっと近づきたくなったし、シュウジは己の覚悟を再認識し、シイコは大切な人を思い出すことが出来たとすれば、全員が勝者だったのだろう。
無理矢理感否めない
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