猫と2人のおっさん   作:丸亀導師

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目覚めと猫は知っている

……、……、…………。

 

……

 

「……う……ん?」

 

暗い暗い闇を抜け、瞼の先から光が入り混濁した意識の中から、手探りで進んでいく。

 

何処から声が聞こえるようなそんな気もして、何かが身体の上に乗っているようなそんな気がして…。

鼻腔を突く、何やら薬のような匂い…。スベスベとしたリネンのような手触りが、動く右手で感じられた。

 

重い瞼を開いてみれば…、真っ白で無機質な見覚えのない天井と薄ぼんやりとした、カーテンとそのレールが目に映る。

重い半身の方へと目をやれば左側太ももの上に見知った、小さな頭が乗っている。

 

自分と同じ髪型に、愛らしいその寝顔…何処からどう見ても、坊やのそれであった。

髪を梳こうと少し起き上がろうとして、ズキリと左腕が痛む。

 

それでも手を伸ばし、そこで自分の手がどうなっているのか始めて目にした。

左手薬指と小指がある筈の場所は、包帯によって塞がれていてよくよく見れば、腕全体がまるでミイラのように包まれている。いや、左掌が三分の一消えてしまっていた。

 

ズキリと、また痛みが拡がる。

今度は脇腹だ、病院服を少し捲って見れば左脇腹から何やら染み出している。

それはきっと体液なのだろう、それがじんわりと包帯を湿らしていた。

 

ガラガラガラ

 

と古風な引き戸の音が響き渡ると、スタスタとスリッパの歩く音が聞こえる。

 

シャッ!

とカーテンが開くと共に、そこにあった顔はいつもの見知った男性の顔であった。

 

「シイ……ちゃん……。」

 

隈が出来ていて、なんというか疲れたような顔をしている。いったいどれだけ寝ていないのだろうか?

彼は徐ろに手を伸ばし、彼女の顔へと手を伸ばし確かにそこにいるのだと言うことを確かめ、同時にその頭に腕を後ろへと掛けた。

 

「良かった……本当に良かった!!…ゔっ…ズズ」

 

啜り泣くようなそんな声が聞こえてきて、身体がわずかに震えているのを感じその声に驚いたのか、坊やが目を覚ます。

 

父親が泣いているのを感じ取ったのか?共感性が高いのか?合わせるように泣き出した…。

 

と、同時に視界が僅かにぼやけ、頬に僅かに水が滴る。

 

「ご……ごめんなさい…、ごめんね…本当にごめんね…。」

 

謝罪の言葉が、無意識の内に流れ出し今自分が生きているのだという事を、シイコは確かに感じていた。

暫くそうしていると、彼女の夫は気を取り戻しまだまだ泣いている坊やをあやす為に抱き上げて、背中を擦るようにする。

それでも何処かぎこちなく、それでいて優しい手の動きを感じ取ったのか、スヤスヤと寝息を立て始めた。

 

それと同時に、この光景を目に焼き付けながらも自分が何故ここにいるのかと言う、そんな疑問が沸いてきた。

 

 

目を覚ましたという事もあり、幾つかの健診を行いながら精密検査も順調に終わる。

どうやら奇跡的に致命傷を受けずに済んだという、内臓への熱傷も無いのだとか。

全治数ヶ月で退院出来るのだという事と、もう掌は元へと戻らないと言うことを聞かされた。

 

高度医療を使えば戻すことも出来なくはないらしいが、そんなお金は無いのだということは確かなのであった。

尤も、あったとしてやるかと言えばやらないだろう。何故なら、もう心配はかけられそうも無いからだ。

 

面会時間もたけなわに、2人は一度帰宅すると言う。夫の方は、流石に疲れたのだろう、ぐっすりと眠ってもらいたかった。

2人が出ていき、病室に静寂が訪れたのも束の間、1人の男…天然パーマの彼がやって来た。

 

改まった格好でもなく、ラフなスーツだ。

 

一言も発せずに、ただ横の椅子へと腰をかけ彼女の側へと座る。まるで見定めているかのようだ。

 

「貴方が助けてくれたのよね?ありがとう…と、言ったほうが良いのかしら?」

 

彼女は目の前の男を前に、少し緊張を持っていた。恩人ではあるものの、その動機が良く分からなかったからだ。

 

「礼はいらない、俺は俺がやりたい事をやった……それだけの話だ。それよりも、憑き物が堕ちたようで何よりだよ。」

 

「憑き物…?私がどう変わったと言うの?」

 

彼女の事を良く知っている夫が、何故泣き彼女を抱き締めたのか。目の前の男が何故憑き物が堕ちたと言ったのか?当事者である彼女は良く分かっていなかったが、彼女から発せられる何かしらのオーラのような物が確かに無くなっているのだ。

その為か、その瞳にある諦めの色は何処となく落ち着きを持っていた。

 

「さあな?ただ、もう君は戦えないのは確かだろ?なら、それで良いんじゃないかって、そう思っただけさ。」

 

「そう…。確かにそうね。」

 

自らの手を見てそう思う。もう、まともに操縦桿は握れないだろうと、そしてだからこそ普通に戻れるのだと。

 

「それなら安心出来たよ。それじゃあ、もう会うことは無いかな?」

 

と言って、椅子から離れると短い面会を切って部屋を後にしようとする。

そんな後ろ姿を見送りながら、彼女は一言発した。

 

「入院費はお返ししなくても?」

 

それを聞いて少し笑いながら、彼は振り向く

 

「それは良いさ、良いアテが出来たからね。」

 

そのまま彼は消えていった。

そこに残された彼女は、病室の窓から外を見る。何処までも続かない人工の空。

ただ、その時は何処かそんな光景に彼女は安堵していた。

 

 

……

 

コロニーの夜道、繁華街の光の中。そんなところへと似つかわしくもない集団が、1つのバーへと入っていった。

カランカラン…、ベルが鳴り響くとそこのバーカウンターの店主へと、先頭の歳が行った男が二言三言話すと数名を連れて、奥の個室へと案内された。

 

そこは特定秘密を護るために創り出された、所謂VIPルームという場所である。

こう言った店は、そういう類いの客が来たりするものであるが、この集団は一見すればそうも見えない。

寧ろ、一人一人はそんな腕っ節も強そうでなく、ヒョロリとした者もいる。

だが、確かに何かしらの技術者のようでそういった体格の人間もいた。

 

「待たせたようだね。」

 

その中の代表と思われる最年長の白髪の男は、先客としてその個室に座る1人の人物と顔合わせした。

 

「いえ、こちらも先程着いたばかりですよ。ところで、話の内容は理解されている?」

 

金髪の男、サングラスをかけその瞳を窺い知ることは出来ないものの、やり手であるとそれだけは理解できた。

 

「私は、モスク・ハンだ。一応駆動系の技術者をやらせてもらっている……、いやいたと言った方が正確だろうか?」

 

「いた?とは…、なるほどそういう事ですか。」

 

モスク・ハンと名乗った男は、今回ポメラニアンズと戦闘を行ったクラン〘CRS〙のチーフメカニックマンであった。だが、表向きは民間軍事会社であるドミトリーセキュリティの技術顧問としての肩書を持つ。

尤も、彼自身は今現在かなり落ちぶれていると言っても過言ではない。

 

そもそも、企業内の最新技術実証としてクラバには参加しているのだが、それが今回裏目となりその損害責任を取る形として、チーム全体が解散の危機にあった。

 

元々地球連邦軍の軍事技術者であった彼が、ここにいるのは彼の技術が陽の目を浴びる事無く、埋没してしまったからに他ならないのだが、それの初舞台で手痛い敗北。

それも、裏ルートから得た正規軍の使用するMSを喪うという大失態。データすら持ち帰ることも出来ず、更には機体を持ち去られてしまったのだ。それはあまりにも大きな損害であった。

 

そんな彼等がどうして今、こんなところに呑気にしているのかと言えば…、目の前の金髪の男。

 

「私はクワトロ・バジーナと言います。以後お見知り置きを。」

 

胡散臭い笑顔が顔にこびり着いた、そんな男が回収した機体とそのデータを持っていると言ったからに他ならなかった。

 

彼等肝入の技術たるマグネット・コーティングは、次世代のMSの根幹ともなる技術である!!

という売れ込みでの試験と相成ったのだが、その必要以上に敏感となった駆動系は、動画の中では可哀想な事だが見事にその欠点が露呈するものとなっていた。

 

そもそも、連邦系列の技術たるフィールドモーター駆動という、ジオンとはまた違った駆動系を持った機体でしか使用出来ないという、既存の機体のそれにはあまり使い用の無いものである。

その為、サイド6で主流となっているザクの流体パルスとは相性が悪く、この実験が成功しなければ資金が打ち切られる瀬戸際となっていたのだが…、案の定駆動系の破損という事実だけは捻じ曲げようが無い。

 

データが供出されるのならばまだ良かったが、それすら出来ないとなれば…もうお役御免である。

 

「それで…、我々にそのデータを渡してくれる…ということですよね?無論、タダではないでしょうが。」

 

「ええ、勿論。相応の金額は提示してもらえなければなりません。ですが…、後ろ盾がなくなったため今、貴方からそれを出資する事はできない。違いますかな?」

 

足元を見られる結果になることは、分かりきっていた。

そもそも現物がある以上、それを下にリバースエンジニアリングの精神で解析されれば、どうしても革新的部分は露呈する。

屈辱以外の何ものでもなかった。

 

だが、この事にハンは一切の気の緩みも見せなかった。

 

「確かに、我々にはそれまでのコネはありません。ですが、断言出来るでしょう。この技術こそが、次世代を担うのだと!!」

 

熱く語る彼は、利益など二の次で実利を求めた。

 

「そうですか…、まあ我々も鬼では有りませんよ。ですから…、こちらから貴方がたにチャンスをと…そう思いましてね。」

 

差し出されたそれは、見覚えのないロゴの会社の名前であった。

 

「我々ならば必要なだけの研究機関を用意しましょう。サイド6には旧連邦の施設が、今なお残っていますからな。」

 

その言葉を聞いたハンは、驚愕した。つまりは自分達だけの施設を用意するのだということだ。

 

「どうでしょう?金も土地もある。」

 

高々新興のジャンク屋である。というおごりとも言える認識を改めなければならないと、ハンはその言葉に首を縦に振ることとなる。

 

「わかりました…是非ともお任せください。」

 

彼は何処まで行っても技術者である。だからだろうか…、信頼出来る相手ならば、悪魔にだって心臓を捧げられるだろう。

再興を御旗に、彼等の行き先は決まっていた。

 

後に彼等の失踪は、所属企業にとって大きな損失となるがそれは別のお話。

 

 

……

 

いつもの橋の上…、自転車を橋に寄り架けコロニーの天井を見上げる。何も変わりない無機質な空、そんな中でも人々は暮らしている。

雲の切れ間から観ることが出来るそんなありふれた日常の中には、クラバでの出来事などまるで無かったかの様に繰り返される日々。

 

そんな毎日が続く…、勿論1人ではなく互いに奇妙と想い合っている相手と共にそんな情景を眺めているのだ。

 

「ねぇ…、ちょっと質問というか相談なんだけど良い?」

 

「何?私に相談?」

 

いっつも二言目にはシュウジの話題を振ってくるマチュに、物珍しい事もあるものだなぁと、ニャアンはそう思いながら彼女の話に耳を傾けた。

 

「自分の親…というか、保護者に関してどう思う?」

 

「どうって言うと…?う〜ん、感謝はしてるって感じだと思う。」

 

唸り声を上げて答えを捻り出したニャアンは、それ以外の感情をあまり良く知らなかった。

所謂親の愛情を知らない彼女は、そう言った質問に対しての答えを持ち合わせていなかった。

 

「ふぅ〜んそうなんだ。私さぁ…、おかあ…親がさなんか普通だなぁってそんな風に思ってるんだけどさ、ニャアンもそういう事無い?」

 

「別に無い、逆に普通の何が駄目なの?」

 

ニャアンにとって普通とは幸せである。

食べ物に何不自由無く、学校にも通えるし何よりそんな考えを持つことが出来るのが、どれだけ幸せなことか…説教臭くなってしまうだろう。

 

「なんて言うのかなぁ…、私さぁニャアンみたいな子に憧れを持ってたりするんだよねぇって……。嫌?」

 

「別に嫌いになる理由にはならないけど、それはちょっと誤解があるかも…。

会いたくなくても顔を見れるのと、会いたくても顔も声も聞くこともできない、それが良い事だとは思わない。」

 

チクリと釘が帰ってきた。

そう…ニャアンの本当の両親は、彼女がまだ小さい頃に戦争に巻き込まれ、離れ離れになってしまったのだから。

戦後の混乱に、戦死者不明の大戦争は連邦の完成された戸籍管理システムを破壊した。

 

難民はその為に、誰が何処にいると言うことすら分からない。 

 

「そうなんだ…、大変なんだねぇ。」

 

マチュのその好奇心は、漠然として判然としない己の目標や夢に対する年齢相応の感情で、別に珍しいものではない。

逆に言えば恵まれているからこそ、非日常への憧れからそう言った思考になる。素行不良と呼ばれる人々はそうやって生まれるのだ。

 

それだけに、そう言った子供がどれだけ自分が恵まれた立場であるのかと言うものを考えつつも、それを打破したいという欲もでる。

そして……、キラキラこそが彼女の非日常との接点。その中心にいる彼への興味、そう言った事が普通とは違う。という認識だった。

 

だが、ニャアンはそれが日常の延長線上に存在する別の日常であるという事を知っているが、マチュはそれが分からない。いや、分かりたくない。

 

どんなに今に不満を持っていても、それはまた次の日へと続いていくのだ。

 

「私もマチュみたいな生活に憧れてた…、でも今は周りに大勢の人がいるから…それで満足してる。」

 

「そうなんだ。」

 

互いに望むものが直ぐ側に有る。

だが同時にそれは、互いに別の物を見ているのだということでもあった。

 

だからだろうか、2人は仲良くすれ違う。

 




なんかなぁ、いまいち進め方が分からない。取り敢えずシイコの出番は終了

誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
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