獣耳吸血鬼少女の売れないなろう作家が自作品を電子書籍にするようです   作:左高例

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7月30日、アルト・ザ・ダイバー1巻発売記念ぶっちゃけ話

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外伝『Fランなろう作家のカレーちゃんの新作が書籍化し、カレーちゃんのなろう作家ランクがEランクに上がった話』

 

 

Fランなろう作家のカレーちゃんの新作が書籍化し、カレーちゃんのなろう作家ランクがEランクに上がった話

 

 

 

 

「出版社から新作小説が出たじゃ!」

「おめでとうございますわ!」

 

 ここはK県の片田舎にあるアパート『メゾンド・ビヨンド』の一室。

 そこに住む自称小説家の獣耳吸血鬼少女カレーちゃんと、大家の女性ドリル子はクラッカーを鳴らしてお祝いのムードを作っていた。

 テーブルには豪華にダルカリー、チキンサグカレー、スープマトンカレー、ポークビンダルカレーなどのカレーとホカホカ湯気を出しているナン、それにビールなどの酒類が置かれている。

 この日はお祝いであったのだ。

 

「いやー、まさかランキング取ったりとか派手な活躍もしておらん儂がまた書籍化するとは思わんかった!」

 

 そう、カレーちゃんは以前に出した書籍化小説が打ち切られて以降、地味な同人小説で生活保護ギリギリレベルの稼ぎを得て食っていた。

 ところがついこの前、出版社の人から連絡があって書き下ろし新作を出してみないかということになり、トントン拍子に本が出ることになったのである。

 

「それにしてもよくもまあ、カレーちゃんなんて打ち切り実績があるだけで同人小説をほそぼそと書いているような零細作家に目を付けましたわね」

「そこは儂も正気を疑ったのじゃが……編集会議とかで『このカレーちゃんに完全新作を書かせましょう』とか言ってよく通ったなと」

「普通は『いやそんな作家よりランキング上位をスカウトしたほうがよくない?』って反論が飛んできそうですわ。どうやって通しましたの? 担当さん」

「権力で強引に通したらしい」

「やり口が強火すぎません!? 出世してやることがカレーちゃんスカウトなのが、なにか催眠系の技とか使ってませんわよねカレーちゃん……」

「知らん……まあ話を聞いてちょっとこわ……って思ったが」

 

 謎の推され方をしたカレーちゃんは困惑もしているのであった。

 

「しかしスカウトって、『こういうの書いてください』みたいなのはありましたの?」

「うーむ、基本的に自由だったのじゃが、編集さん的になんかダンジョン系を推しておるフシがあったような無かったような」

「匂わせですわね!」

「逆に流行りの追放とか悪役令嬢とかやります?って儂の方から聞いたら『カレーちゃんが書くテンプレの話なんて読者は誰も求めてませんよ』って嫌そうな感じじゃった」

「酷い言われようですわね!」

 

 まあ、カレーちゃんとしてもそういった流行りジャンルはあまり得意とするモノではない。

 どうしたってそういうのを書くとなるとやたら変な癖を付けて逆張り系になるかもしれないだろう。主人公がパーティから追放されるとデッキからカードを三枚ドローできる系の能力者だとか、異スラム世界で奴隷下剋上悪役令嬢してマムルーク朝開きます!とか。

 ただそういった一発ネタでは長く続かないに違いない。

 出版社としてはちゃんとヒットさせて、しっかり巻数を重ねて儲けが出るようにしなければならないのだ。

 

「あと得意な神話系は『最近世間もセンシティブなので……』って感じじゃったのう。前に書いたときも別の出版社じゃが『ユダヤ人は面倒なことになるので出さないでください……』って言われたりしたのじゃ」

「カレーちゃんの神話改変は若干アレですものね。一部界隈で『ぐろう小説』って呼ばれてますわ」

「日曜聖書ロードショーを纒めて同人誌にするの自分でも躊躇っているぐらいじゃしな……それこそ挿絵を宗教画で学習させた生成AI使うべきかもしれんが……というわけで書いたのが現代ダンジョン系、海洋冒険小説じゃ!」

「調べたところによると、出版社には現代ダンジョン系の先輩作品もありますわね。アドバイスやノウハウもあるのかもしれないですわ」

「うみゅ。とりあえずそれで反応を見ようと、冒頭部分……最初の冒険、チュートリアル的なところを書いて提出したのじゃ!」

 

 それを読ませて、この路線で行けるかどうか判断を仰いだのである。

 駄目なら駄目で早いうちに路線変更して別作品が書ける。カレーちゃんはとりあえず2万字前後の話を書いて出した。

 舞台説明。主人公登場。想定外のピンチ到来。魔物解説。特異な武器の活躍など要素を入れた、まさにチュートリアルな話である。

 

「それで大反響でしたのね!」

「いや……『うーん……主人公がチンピラ過ぎて魅力がイマイチ』的なことを言われた……」

「なんでですの!? そのネガティブ評価は!?」

「でもまあ、一応この路線で大丈夫ってことになってメゲそうになりながらも一冊分書いたわけじゃ」

 

 大変だった。具体的には二ヶ月ぐらい掛かった。

 カレーちゃんも本気になれば一ヶ月で一冊分(10万字ちょっと)は書けるのだろうが、二日に一日はバイトをしていたので倍時間が掛かる。

 中華料理屋で一日三時間、昼間にバイトしていただけでその日はなにも書く気力を失うのだ。

 世間のできる小説家などは本業を持ちながら副業として小説を書いているのだが……そもそも働くのが嫌で生活レベルを落としてでも消極的小説家をしているカレーちゃんにそんなパワーはないのである。中華料理屋でバイトをしているのは昼飯代と夜飯代が浮くからだ(昼の賄いをお腹いっぱい食べることで夕食も我慢できるライフハック)。

 

「一応初稿を出したあたりで、編集会議で通して本決まりになったわけじゃな」

「よかったですわね!」

「そこから地獄の校正作業なのじゃが……」

「カレーちゃんの嫌いなやつですわね」

「うみゅ。誤字脱字は当然として、書いていたら気づかないけどよくよく読み返したら主人公の独白と行動がチグハグで支離滅裂だったりする部分も見受けられたり、キャラクターの口調が安定していなかったりするのじゃ」

「行動がチグハグ?」

「例えば……

 

・「こんなモノ食えねえよ」と言う→次の場面で普通に食べている。

・「こんなモノ持っていかねえよ」と言う→持って行く。

・「女の世話にはなりたくねえ」と言う→泣きついてカネを借りる。

 

 とかのう」

「意思薄弱ってことでギリギリ行けそうですわね」

「嫌じゃろ。そんな主人公……しかし主人公のう……儂は『第一印象はチンピラだけど実はいいやつ』を目指して書いたのじゃ」

「そんな感じにするって前に言ってましたわよね」

「書き終わってから確認したらほぼチンピラ行動しか取っておらんかった」

「ただのチンピラですわ!」

「担当さんも十回以上は『チンピラすぎません?』って言ってきた気がする。あれ警告みたいな確認じゃったんじゃなあ」

 

 カレーちゃんは密かに反省。

 こういうキャライメージの剥離は、作者の脳内だと『実はいいやつ』という情報が前提として存在しているので、キャラがチンピライズされた行動をしても(でも本当はいいやつなんだよな)と勝手に補完してしまうのである。読者には伝わらない。

 特に今回の主人公は社会性と倫理観がかなりアレなところがあり、挨拶代わりに中指を立てる癖まである。かなり悪党だ。でもいい奴なんすよ……(伝わらない)

 

「まあ恋愛系でもそうじゃが、最初の印象を最悪にしておいて徐々に好感度を上げていくのはセオリーみたいなもんじゃろうし……」

「でも最近は『最初カスな行動してたやつは後から改心してるっぽく見えてもカス』って評価する読者も声が大きいですわよね」

「声が大きいだけで少数だと思いたいのう」

 

 そもそも万人に受ける小説などあまりない。同時に、万人に好かれるキャラクターというのも難しい。

 誰からも好かれるキャラクターというのは、嫌われるような尖った個性のない……好かれるというよりも嫌うほどの設定がない、薄いキャラなのではなかろうか。

 とりあえずカレーちゃんはカスみたいなキャラを作る度にそんなことを考えて自己弁護している。

 

「それにしても繰り返す話じゃが、久しぶりに校正会社から送られてきた原稿校正作業が大変じゃった……自作電子書籍化の際に自分校正はずっとやっておったが、やはり会社を通すとより厳しいのう」

「カレーちゃん、10日ぐらい掛り切りになってましたものね。でもカレーちゃん、原稿と言っても本1冊分ですわよね。ページ数にしたら300ページぐらい。ライトノベル1冊ぐらい、数時間で読み終わるものなのではなくて?」

「そりゃあ読者なら早ければ1時間ぐらいで読み終わるかもしれんが……儂の数ヶ月が1時間か……」

「突然世界を恨みだしましたわ!」

「……それはそうとして、ただ読むだけではなく、間違いがないかじっくり一行ずつ見て回るのじゃから時間も掛かるし疲れる。校正さんから鉛筆書きで確認事項が書かれているのを考えなくてはならんしのう。セリフや一文を丸々書き直す場面も少なくない。数ページ読んだら投げ出してゲームを起動させたくなる」

「ゲームの無いところで作業なさいな……喫茶店とか」

「クックック。儂らの住んでおるクソ田舎オブザデッドに喫茶店なんてオサレなところあるわけなかろう。スタバどころかマクドナルドすら無いのじゃぞ。地元の図書室はエアコンの設定温度が28度で涼しくもなんともないし」

 

 そんなわけでカレーちゃんは誘惑の多い自宅で作業することを強いられているのだ。すぐに休憩するしネットを見るしゲームもするし部屋の掃除や洗濯などの家事を言い訳に作業から逃げたがる。 

 実際のところ田舎とはいえ個人経営の喫茶店はあるのだが、そういうのは常連が通ってマスターと世間話なんかをしたりする店なのだ。カレーちゃんが原稿と戦うにはアウェイすぎる。下手をすれば話しかけられることもある。

 

「そういえば校正でちょっと面白い指摘があったのじゃ」

「なんですの?」

「うみゅ。センシティブな話題じゃからXとかに書いて変なのに目を付けられたらアレなので黙っておったのじゃが……」

「なんでカレーちゃんはそうセンシティブな話題を作品に出しますの……?」

「違うわ! 完全に無意識な部分というか、『え? そこ問題なの?』って感じのやつじゃ!」

「ナチュラルボーン愚弄……」

「ええい! ともかく、こんな感じの文章があったのじゃ。『台湾やベトナムはパチンコ屋が盛んで、パチンカーたちが行ってみたい国ランキング上位である』って感じじゃな」

「どこが問題でしたの?」

「『台湾を国って認定してますが大丈夫ですか?』と指摘された」

「だいぶセンシティブですわね!」

「どっちに肩入れしても問題ありそうじゃしな……とりあえず『国』じゃなくて『海外』と表記することで事なきを得たが」

 

 もしかしたら海外でも売るかもしれないことを無駄に考えてしまうカレーちゃんであった。

 

「とまあ、そんな校正も終わったのじゃが……今度は校正と別の作業が入ってきたのじゃ」

「なんですの?」

「『特典ペーパー用SS』執筆じゃ!」

「ああ……本屋で買うとついてくる小冊子みたいなのですわね」

「初めてやるので要領がわからんで苦戦した……前に書籍化したときはそういうのなかったしのう」

「前向きに考えると、今回は期待されてる感じがしますわね。なんでカレーちゃんにそこまで期待しているのかさっぱりわかりませんけれど」

「儂もわからん……こわ……とにかく、『文字数2000字ぐらいでショートストーリーを一作』……これが結構難関じゃった」

「そうですの? カレーちゃん、頑張れば一日で1万字ぐらい書けるのでしょう?」

「ううみゅ、そもそも儂はだいたいいつも、8000字から1万字前後で起承転結の話を考えておるからのう。2000字という短さじゃと状況説明だけで終わりそうじゃったのじゃ。なにせ、書籍のページ数で言うと6ページだけで一話書く感じじゃからな」

 

 例えばカレーちゃんは主人公が4年前ぐらいに野球で甲子園に出た話を書こうかと思った。過去編など本編では断片的にしか描写されないので丁度良かろうと思ったのである。

 しかし書き始めると、作中で五年前に起こった震災とその影響。それによって一年間中止になった高校野球選手権が、翌年に震災復興の祈りを込めて待望の再開をした経緯。

 主人公が閉校寸前の地元高校で、同級生たちに誘われて野球部の助っ人になった話。県大会に優勝して地元から応援されながら全国大会へ向かう場面。

 全国大会の一回戦で優勝常連校の強豪と当たったが主人公チームが完封勝利して相手チームがショックを受けるところ。

 その日の夜に主人公が宿舎近くのパチンコ屋に行って遊んでいるところをパパラッチされチームごと失格を受け、マスコミにボロクソに叩かれるオチ。

 そういうのを書くととてもじゃない2000字では書ききれなかった。

 

「基本的に儂、ラノベは電子書籍で読むから特典ペーパーとか買ったことあんまり無いしのう。どういうのを書くのかというノウハウも知らんかった」

「というか私たちが住んでいる街が田舎すぎて本屋さんが存在しませんわ」

「そうじゃのう……コンビニとかも無いから通販以外で本を手に入れる手段がほぼない街じゃ」

「街って名乗るのが恥ずかしくなりますわね……」

 

 そんな田舎がまだ日本にもあるのです。

 

「まあそれで頭を捻ってなんとか書いたのじゃが……次なる仕事が襲ってきた!」

「なんですの?」

「『九州店舗限定フェア用特典SS』じゃ。作品の舞台が九州じゃから、九州の書店限定で特典を出そうということになって、別のSSを書いてくれと」

「九州限定!? そ、そんなのありますの!?」

「知らん……あるんじゃろ業界では。あんまり大きめの本屋に通ってないから知らんかったが。というわけで、2000文字前後に加えて『九州っぽい要素入り』という指示でSSを書くことになったのじゃ」

 

 これにはカレーちゃんも頭を悩ませた。そもそも別に彼女は九州に詳しいわけではない。

 いや──普通の人よりも知識量は低いかもしれない。なにせ旅行は行きたがらない出不精なのだ。正直言うと地理系の知識も苦手だ。

 

「色々悩んで書こうとしたのじゃ。とりあえず、その小説ではまず大震災が鹿児島県南の海で起きたことになっておるのじゃ」

「そうですわね」

「それに誘発されて南海トラフ地震も起きて、中央構造線断層も激しく揺れて東北以外の日本がヤバいことになっておる」

「そういった崩壊寸前の状態だから、支援を餌に好き勝手日本近海で外国企業がダンジョン開発してるってことでしたわね」

 

「うみゅ。で、九州は特に酷い状態なのじゃ。鹿児島は当然震源地だから沿岸部は津波でやられ、長崎も離島が壊滅。宮崎から大分も南海トラフで流され、熊本は中央構造線による地震で粉砕。阿蘇山を初めとした火山が次々に火を吹き、あちこちの道路は寸断され救助は来れず、佐賀の畑には灰が降り積もり、灰を吸い込んだ飛行機が福岡空港から外れて市街地に墜落……」

 

「ひ、酷い状況ですわね……」

「……と、そんな状況をまず説明する文章を書いて出したら担当さんから『九州で販売するのに九州を壊滅させんでください』と言われた」

「根本的な問題ですわね!」

 

 舞台背景として九州は福岡、佐賀以外は相当やられているのだが、直接的には描写しないことにして解決した。

 被災者数も千万人規模で発生しているのだがそれを出しても生々しい。それに小説を発売中、実際に大地震でも起きたら不謹慎だと叩かれかねない。

 主人公はさっぱりした性格で、モロに被災して親も死んで借金まで引き継いだ悲惨な環境だが気にせずパチンコを打っている健全な若者なので、作中の日本が悲惨な状況でもサラッと流すぐらいにしておこうとカレーちゃんは思ったのであった。

 

「まあ……無難な九州出身の冒険者たちと飲み会してパチを打ちに行く話にしておいたのじゃ。割とあの島では日本人の冒険者組が協力し合っていて仲が良いという描写じゃな」

「書けたならよかったですわ」

「ただ……二つぐらい書けばよかろうと思っておったのに実は五つ書いてくれと発売日一ヶ月前ぐらいに言われてのう」

「五つも!?」

「ゲーマーズ特典、メロンブックス特典、九州限定特典、Kindle限定特典、アンケートに答えた読者限定特典じゃ」

「へえ……どれを読めばいいんですの? コンプリート大変ですわよね」

「4冊は買わんといかんからな……ただどれを読むといいみたいなのを作者が明言すると売上に関わるかもしれんし、別のを買った読者が損したと思うじゃろう。だから言えぬのじゃ」

「それでなんとか特典もできましたのね」

「うみゅ。儂がやる分はのう」

「カレーちゃんがやる分以外に特典がありますの?」

「なんか担当さんが、キャラのアクリルスタンドとタペストリーを限定版特典にするって」

「なんでですの!? いやそんな限定版とかアクスタとか……普通、人気作に付ける特典じゃありませんこと!?」

「じゃよなあ……」

 

 カレーちゃんの新作は人気作どころかまさに一発目の作品である。登場するキャラも読者にとっては思い入れもない初見。だというのにアクスタ。

 むしろ経歴からすれば打ち切りを食らっているし、なろうの日間ランキングなどほぼ入ったことはない。

 途中で書店向けに新刊取ってくださいと配るためのパンフを見たが、カレーちゃんのことは『知る人ぞ知るWEB小説家』と書かれていた。凄まじく地味な評価だが、それ以外言いようもない。マジで。

 

「イラストレーターさんがムチムチ系のお色気ピクチャーじゃからそれで一本釣りする戦略なのかもしれん。担当さんも『金髪巨乳は強いですよ!』と言っておった」

「それにしてもカレーちゃん、特典といい限定版といい……妙に推されてますわね」

「どうしてか知らんのじゃ……こわ……」

 

 身に覚えのないぐらいの担当さんのやる気にカレーちゃんは密かに恐怖していた。

 ここまでお膳立てしてもらっておいて売れないとなると……それを想像するだけで胃がキリキリ痛みそうである。ただでさえ、宣伝目的で小説の内容を小説家になろう、ハーメルン、カクヨムに投稿してみたのだが、そこまでポイントは付かなかったというのに。まさに知る人ぞ知る状態である。

 

「ついでにサイン色紙も出すので書いてくれと言われたのじゃ……」

「サイン色紙!? 誰が欲しがるんですの!?」

「地味に酷いこと言うのう儂もそう思うが……なんか書店に飾る用らしいがのう? ほれ、よく知らん作家の小説でも、新刊コーナーにポップと特典ペーパーとアクスタと作者のサインが置いてあったら、なんか凄い小説なのかも? と思って新既読者が手に取ってくれる的なのを狙っておると見た」

 

 近所の高校生ファンのためにサインの練習をしていてよかった、とカレーちゃんはゲンナリした。

 正直なところ恥ずかしいという思いが強くてまったく乗り気ではないのだが、1冊でも多く売るための協力を怠っては、爆死した際の責任は作者が負うことになる。それは避けたい。

 ちなみにXで『アルト・ザ・読書』のハッシュタグを入れて感想を呟けば読者に抽選プレゼントされることになった。(PR)

 できる限りの協力を。カレーちゃんは強迫観念に襲われていた。最近、不安からか酒量も増えている。

 

「それにしても……本当に謎の熱意ですわね担当さん……なんというか暗い情熱を感じますわ」

「いやまあ、儂だけじゃなくて他のラノベにもやっておるのじゃろうがのう。儂なんぞ自作の準備するだけでヒイヒイ言っておったのに、大変お疲れ様なのじゃ」

 

 大変お疲れ様です。

 

「ただこうなると、儂も宣伝に協力しなくてはならんという『圧』を感じて結構大変じゃった」

「協力というと……WEB投稿とかですわね」

「うみゅ。しかもただ『小説家になろう』一本で投稿するだけでは宣伝が足らん気がしてのう。最近のなろうでオリジナル現代ファンタジーモノでランキングに上がるのは困難じゃし。というわけで『ハーメルン』と『カクヨム』にも投稿することにしたのじゃ」

「ふむふむ」

「じゃがいきなりその二つにオリジナル作品ぶん投げても、そもそも普段から儂の活動しているサイトではないのじゃから無名作家の無名作品じゃ。そこでちょっとでもサイト内で固定ファンを付けるために過去作をまずマルチ投稿して……と迂遠な方法で頑張ったのじゃ!」

「偉いですわ!」

「まあ別にポイントは伸びずランキングは最大瞬間風速で10位前後じゃったが……」

「そ、それでもちゃんと宣伝したことで、本が1冊でも2冊でも多く売れれば御の字ですわよ!」

「うみゅ。協力できることを『恥ずかしい』とか『面倒』とかでサボった結果、売れずに終わったら儂の責任じゃからな……」

 

 そもそもカレーちゃんはマーケティング能力に乏しい、趣味系作家なので売れている作家がどういう宣伝活動をしているのかさっぱりわからないのではあったが。

 それでも努力はしてみたのだ。

 

「ともあれ、新作が出ることで儂もとうとうFラン作家から格上げかのう」

「そうなんですの?」

「なろう作家ランクでいうと、恐らくFからEランクに一気に上がったことじゃろう! これからEランク作家と名乗れるはずじゃ!」

「E……Eですの? もっと上ではなくて?」

「Dランクまでは行かないと思うからのう」

「カレーちゃん、自分をFランクなんて卑下してるものだから『そもそも書籍化作家がFランクなわけねーだろ』とかネット掲示板で叩かれてましたわよ」

「基準があるんじゃ! 基準が! そもそも、FランクだのDランクといったのは最低限なろうで書籍化した作家のランクであって、未書籍化作家は評価対象外じゃ!」

「傲慢じゃありませんこと!?」

「ええい、わかりやすく異世界ファンタジーで例えてみるのじゃ!」

「わかりやすいんですの!?」

 

 カレーちゃんはむしゃむしゃとチーズナンを食べながら紙ナプキンにサインペンで書いて説明をする。

 

 なろう作家ランクとはなろう読者、作者の間では有名な階級で、AからFまである。

 これはいわばファンタジー小説における冒険者ギルドランクや、ハンターランクといったものだ。

 

 この場合、書籍化という試験がギルドランクに入るための条件にあたる。一方で、諸事情で書籍化はしていないものの小説は面白く評価も高い作品だって無数にある。

 それらはファンタジー小説における『組織外に居る隠れた実力者』みたいなものだ。『このギルドでは評価されない能力ですからね……』と苦笑混じりで謙遜しつつも大勢のギルドメンバー(なろう作家)から認められている的な存在である。よくファンタジー小説で見かけるだろう。

 そういった存在は小説内容の好みや、流行り廃り、完結済みかエタっているかなど客観的な評価の基準が非常に難しい。そのためにどれほど面白かろうが、ランク外となっている。

 また、めっちゃ面白いのにすぐ打ち切りになったのも『ランクは低いけど一部の人から評価されている実力者』みたいなものである。コミカライズとかでいきなり跳ねるときはざまあ系の下剋上なのだ。

 

「一方で書籍化作家はその実績によってランク付けされておるのじゃ。多少、ランクの境界は曖昧なところはあるがのう」

「初めて聞きましたわ」

「まあ……あんまり基準を明確に提示すると『カレーちゃんとかいうカス作家が他の作家をFラン扱いしていた』とか荒れるから詳しくは言わんが……だいたいは知名度の問題じゃな。儂の場合、二作目が出たからEランクといったところかのう」

「……あら? カレーちゃんって一作目が終わったあと、すぐに次の作品を出していませんでしたかしら。1冊だけ。メジャーな出版社から」

「あれは扱いがセンシティブになりそうじゃからちょっと見なかったことにしたいのじゃ……」

「なんでですの。ユダヤ教とかヤハウェとか黒人とか捏造珍説とか天皇とか朝鮮とかLGBTとか弥助とか取り上げていただけでしょう?」

「全部センシティブじゃ!」

 

 自分で書いておいて何だが。当時の担当さんが書けって言ったのだ(責任逃れ)。ただしカレーちゃんの実家の母親には大層評判がよくて一番好きな作品とか言われた。誰だよカレーちゃんの実家の母親って。

 担当さんが蒸発したので企画消滅し、結果的に1冊だけで終わったが実は続き物になる予定ではあった。まさか当時は弥助がここまで荒れるコンテンツになるとは思わず、書かなくて良かったとも思う。 

 

「……とにかく、実績を上げると高ランクになるってことは、アニメ化したらAランクなのかしら?」

「アニメ化はBランクじゃ」

「それでもBですの!?」

「とはいえ冒険者ギルド的にはBランクでも相当上位じゃからな。ゴブスレで言うところの銀等級じゃ」

 

 知名度的な意味合いでも冒険者ギルドシステムが参考にされている。

 つまり、普通のラノベ読者でもほとんどFやEランクの作者なんて知らないか覚えていないことがほとんどであろう。これはFランク冒険者が駆け出しみたいなもので知られていないのと同じだ。

 

 Dランクに上がってくるとコミカライズといったメディア化がなされ、全くその小説を知らなかった人でも、買った漫画雑誌や無料コミックの配信などで目にすることがあるかもしれない。

 

 Cランク冒険者……じゃなかったなろう作家は作家買いするファンが増えてくる、順調な中堅どころといった風になる。或いは小説で食っていけるラインとも言えよう。だがここからBランクの壁が高く厚いのは冒険者もなろう作家も同じだ。

 

 Bランクなろう作家はついにアニメ化といったなろうドリームを叶え、今まで自分の小説に興味がなかった人も自作品を目にするようになる。これはBランク冒険者となれば冒険者にそれほど興味がない一般人であっても、Bランクとなれば凄いんだろうなと漠然と思うぐらいの上位ともいえる。

 こうなれば上等のアガリ、栄華の極みと思うかもしれないが……悲しいかな現代日本は次から次へと新作アニメが供給されていく社会だ。なろうアニメだって一期に2つも3つも放映される。

 一期のみで終わったなろうアニメはやがてそれほど興味がなかった人からの記憶から薄れ、やがて『昔は結構売れた人』ぐらいの位置になってしまう。

 とはいえそれでも数多くいる小説家からすれば頂点に近いのだが。

 

 そしてAランクとなればアニメは覇権ヒット、関連のグッズなども売り出され、ゲーム化やフィギア化などもされ、原作小説に興味がないオタクからも知名度を得ることになるのだ。

 

「た、たしかにAランク冒険者というと、なんかこう一般知名度が出てくる感じですわね。領主とか大商人とかから指名依頼を受けたりする……それがメディア化ですの!?」

「そんなところじゃ。なろう作家は皆、Aランクを目指しておるのじゃ! しかしさすがにAランクになるのは一握り中の一握りじゃな……」

「カレーちゃんも先は長いですわね……」

「うみゅ! 目標は高く……更に高く! Sランクなろう作家を目指すのじゃ!」

「Sランクがありますの!?」

「これは機密事項じゃが……」

 

 カレーちゃんが声を潜めてチキンサグカレーの緑色で紙ナプキンに隠されたランクに関する情報を記した。

 

 

 Sランクなろう作家条件:パチスロ化

 

 

「……パチスロ化ですの?」

「そうなのじゃ」

「……不健全な感じが」

「なにを言っておる! ほれ、なろう発のあの作品も、あの作品も、パチになっておるやつはSランクと言っても差支えがない感じのやつばっかりじゃろ!」

「それはそうですけれど……」

「Sランク冒険者となれば一般の知名度が国民の多くに知られておるようなもんじゃ。パチになった作品はラノベにもアニメにも興味がない層にすら知名度が出てくる。そこらの爺さん婆さんやドカタのおっさんたちですら、レム(リゼロ)とかアクア(このすば)とかリムル(転スラ)とか知っておるのじゃぞ!」

「う、うーん……カレーちゃんが作中の登場人物みたいなこと言ってますわ……」

 

 微妙そうな顔をするドリル子さんにカレーちゃんは声を潜めて大事なことを言う。

 

「そしてパチ化はめっちゃ儲かるらしいのじゃ。作者が」

「本音が出ましたわね!」

 

 とはいえ確かにパチ化されているのはアニメ化作品の中でも上位の層ばかりである。嫌な納得ができそうであった。

 ファンタジーのSランク冒険者といえば民衆の英雄で、田舎の爺さんでも知っているような設定であったりする。確かに田舎の爺さんはパチをよくやっているので知っているだろう。新聞折込にもちょくちょくフルカラーの広告が入る。

 

「ちなみにSランクの中ではガチャというか、運次第なのじゃがSSSランクとかそういう分類もあってな。これはどの会社に台を作って貰えるかなのじゃ」

「そんなの違いがありますの……?」

「SSSの最強ランクは満場一致で『大都技研』じゃな! ドリル子さんも知っておるじゃろ!」

「知りませんわよパチンコのメーカーなんて……良いところですの?」

「なろう作品でいうとリゼロを作っておるところじゃ。リゼロ台のヒットは凄くてのう。日本中のパチ屋が殴り合って機種を奪い合ったと言われておるほどじゃ。生産が追いつかんぐらいでな!」

「へえ……いい作品を作るメーカーなんですのね」

「……」

「カレーちゃん?」

「リゼロは……いいんじゃが……結構な割合で相当にアレな台を出すんじゃ……」

「駄目じゃありませんこと!?」

「じゃがな、リゼロが良すぎたせいで、アレな台でも買っておけばリゼロの続編が出たときに台を入れさせてくれるという契約でパチ屋は買い求めるので、常に大ヒットなのじゃ!」

 

 あまりに熱く語りすぎているが、つまるところカレーちゃんの思いはひとつだ。

 

「はあ……作品が売れてパチスロ化して欲しいのじゃ……」

「担当さんにも、もしそういう話が出たら積極的によろしくと伝えておいたらどうかしら」

「あっ、実はもう言ったのじゃが『いやあ……主人公が違法改造パチで遊んでいる作品だと、メーカーさんが嫌がるかも……』って言われてしまったのじゃ……なんでじゃ! カイジの『沼』とかやっとるじゃろ今更!」

「売れると良いですわね……」

 

 

 そんなわけで、新作小説『アルト・ザ・ダイバー 1 異海ダンジョンに挑む冒険者と魔物握る寿司屋』が発売されるのであった。

 

 売れるといいね! カレーちゃん!

 

 

 

 




※この物語はフィクションでランクとかいうのはカレーちゃんの脳内にのみ存在する妄想であり、左高例の思想ではありません。
それはそうと読者さんたちの協力でカレーちゃんのランクを上げよう!
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