獣耳吸血鬼少女の売れないなろう作家が自作品を電子書籍にするようです   作:左高例

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7話『校正原稿が返ってくる&カレーちゃんにだってファンもいる』

 

 

「うげえーまたXバズっとるぅー……嫌じゃなー……なんなら儂が小説投稿したときにバズらんかい」

 

 カレーちゃんはビリヤニ作成動画とそれを紹介した自分の呟きにどういうわけか大勢が押しかけていた。

 カレーちゃんは元々そこまでフォロワーもいない弱小アカウントである。あまり他人の書き込みも見に行かないので、せいぜい昔から読んでくれている読者とコメ欄で会話する程度だ。

 なのに本人がキャラの濃いファンタジー存在だという話が出回り、急にフォロワーも増えているし知らない相手からコメントも多い。コメントの種類も『どこ住み?』という直結厨から、『顔出しや名前出しは特定されて危ないですよ』という心配コメント。読者の『いいからはよSS投稿しろ』という励ましのメッセージ。『野菜も食べたほうがいいですよ』というクソリプ。『年齢は?』『ドリル子さんとの関係は?』『調べてみました!』『わかりませんでした』『いかがでしたか?』……

 

「あーもう、面倒! 儂の若い頃にあった『トピ主に100の質問』みたいなことばっかり聞いてきおって」

 

 ※明治生まれである。

 しかしコメントの中には本人か疑うようなものも多く含まれている。なにせトンチキでギリギリで時にアウトな内容のなろう小説を書いているのが、獣耳吸血鬼を抜いても金髪碧眼の美少女だとは中々信じがたい。

 なおカレーちゃんはサーチしていないがバズった影響で顔が知れ渡たり、普段から隠しているわけでもなければ大学(オタク人口がかなり多かった)にも通っていたので、実際見たことのある人から情報が流されたりしていたのだが。

  

「『なろう作家美少女受肉』とか意味のわからん単語まで使われておる……元々この体じゃっちゅーの。ん? 『カレーの付け合せは福神漬派ですか、らっきょう派ですか』じゃと。ふふん。通のオススメを教えておいてやろう。『刻みネギがよいぞ』と」

 

 相互フォローというかいつもコメントくれている読者やなろう作家の知人にだけコメントを返して後は見なかったことにしておいた。

 

「身バレとか言うが、こんな田舎の安アパートで貧乏生活している身がバレてどう影響があるというのか。別に隠者でもあるまいし。強盗でも来たら相手の体液を全部カレーに変換する術で返り討ちにしてやるのじゃ」

 

 ブツブツと独り言を呟きながらXのページを閉じる。ドリル子の部屋で留守番中であった。彼女は注文のあったドリルを発送するために出かけている。

 

「ちぃーっす! 御符箱沢っすけど、カレーちゃん先生居ますかー?」

 

 玄関からノックと声が聞こえてきた。

 

「先生の原稿、校正して持ってきたんすけどー」

「おお、ちょっと待っておれ。今開けるからのう」

 

 カレーちゃんは「やっと来たか」と小さく呟きつつ立ち上がった。御符箱沢に初稿を貸してから丸4日ほど経過していた。

 表紙も作り、振込先も作れば後は原稿を待つばかりであった。自作出版の大変なところは──当然だが──9割は原稿作成にある。初期のアカウント設定が若干面倒なぐらいだ。

 まあ初稿を返してもらってもまだ原稿作成は半ばなのだが……

 カレーちゃんが部屋のドアを開けると、西日が一瞬差し込んで眩しいので目を細めたが、その光を遮るように男の影が立っていた。

 茶髪にピアス、着崩した制服とチェーンアクセサリーを身に着けたヤクザか童顔のホストみたいな槍鎮。カレーちゃんはコミュ障だが、何度か会えば一応は耐性もつく。槍鎮が玄関先にいることに心の準備をしてドアを開けたのだが。

 その槍鎮の後ろに、ピットブルという凶暴な犬種を人型にしたような、全体的にいかつくて眉の肉が皺を作っている目つきの悪いスーツ姿の男──ヤクザならいい迫力だろう──と、更にもうひとり。まるで銀行員が突然悪に目覚めたようなオールバックに黒縁メガネを掛けた痩身の男が冷たい目をしてこちらを見ていた。

 想定外の見知らぬ男が二人。カタギには到底思えない。カレーちゃんは一瞬固まって、玄関を即座に閉めて鍵まで掛けた。ガチャガチャ。

 

「うわっ!? ちょっ、ヤバ先と会長、だから二人は下がってろって言ったのに! カレーちゃーん! 大丈夫っすよー! この二人、うちのガッコの現文のセンセーと生徒会長だから! カレーちゃん先生のファンっすから!」

「嘘じゃー! きっと儂を拉致って内臓とか売り払うつもりなんじゃー!」

 

 カレーちゃんは怯えきった声で叫び返した。怖すぎたのである。いかに槍鎮が顔見知りとはいえ、突如裏切ってヤクザに売り飛ばすつもりかもしれない。もし三人がかりで家に押し込まれたらカレーちゃんに抵抗する術はない。相手の体液をカレーに変換する術は一度に一回しか使えないのだ。

 吸血鬼の内臓は高値で売れる。南米のチュパカブラハンターは実のところUMAを捕まえる名声ではなく、チュパカブラの血肉や内臓を求めてハントしているのだ。カレーちゃんも知り合いだったチュパカブラが何匹も狩られたのを目撃している。

 外から槍鎮の苛立ったような声が聞こえる。

 

「ほらー! 女の子の部屋に男が複数人で訪ねるとかメッチャ失礼じゃねっすか! カレーちゃん先生怖がってるっすよ! 二人は帰った帰った!」

「……待て。そもそも御符箱沢と矢原先生がどう見てもヤカラなのが悪い。僕だけなら単にファンがサインを貰いに来ただけで通る」

「いや会長も怪しい保険の勧誘員みたいじゃねっすか。ヤバ先がヤバいのは同意っすけど」

「お前ら停学にするぞ……先生は生徒を停学にしたり留年させたりするのに抵抗がないタイプの教師だからな」

 

 そのようなやり取りをしていてもカレーちゃんは警戒を解かないで、部屋に置いてあるドリルクロスボウ(バネの反発力で小型ドリルを発射する凶器)を手にしてドアを蹴破ってこないか不安げに見ていた。

 そうしていると部屋の中からでも聞こえるようなけたたましいエンジンの音が外から響いた。ドゥゥンバルバルバル。ドリル子さん特製の船外機をドリルに換装した高トルクのハイパードリルだ。重すぎて使えないと散々の評価で余らせているものだった。そんなものを持ち上げて、自宅の前にいる三人組に突きつけながらドリル子さんはエンジン音に負けないように怒鳴った。

 

「ちょっと! 人のアパートに押しかけてどちら様かしら!? うちはセールスも宗教勧誘も反社会的勢力もお断りでしてよ!」

 

 不審者がやってくるとドリル持って恫喝してくる大家。アパートの警備システムは万全だ。

 慌てて槍鎮たちは両手を上げて説明をしようとする。

 

「わわわっ、ち、違うんすよ大家さん! この保険の勧誘員とゴリラは怪しい人じゃなくて……!」

「え? そうですの?」

 

 ドゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴ。

 

「大家さん! ドリルが地面砕いてる! 砕いてるから! とりあえず止めて!」

「あっ、いけませんわ」

 

 コンクリートが破砕する音が鳴ったが、ひとまず止まり。

 とりあえず庭のテーブルにカレーちゃんも呼んでそこで話を聞くことにした。槍鎮の知人ではあるが、女性一人暮らしの部屋に男を三人も上げるものではない。幸いなことにドリルが趣味のドリル子なので、ドリル使用の副産物である椅子は無駄に沢山庭に置かれている。(本棚も無駄に作っていて、アパートの各部屋に置かれていた)

 

「えーとそれで、カレーちゃんに用事ですの?」

「はい! えーとこの二人は原稿の校正手伝ってくれたガッコの人で、メッチャ頭良い生徒会長と現文の先生っす」

 

 校正を頼まれた槍鎮であるが、彼とて一所懸命にやるつもりだが校正など初めてのことなので自信が無かった。

 そこで思いついたのが、カレーちゃんは「他人が校正することが必要」だから自分に預けたという事実だ。なので学校でも頭が良いと評判だった生徒会長、教師なので知識は豊富だろうと思った国語の教師に手伝いを頼んだのであった。すると二人とも快諾した。

 もちろん、その原稿は大先生から預かったまだ世間に発表していない作品であるので、感想やネタバレを他人に教えたりすることは無いようにと念押しをしてのことだったのだが。

 

「頭が良いかは彼が勝手に言っていることですが、英蘭(えいらん)高校の生徒会長をやっております、阿井宮(あいみや)高雄(たかお)と申します」

 

 オールバックにしている眼鏡の男がそう名乗る。見ての通り頭がいい。カレーちゃんはそう思いつつ、賢そうな相手はナチュラルに自分を見下してくるような気がして苦手だった。

 そもそも成績が優秀で立派な大学に行き一流企業に就職するような人生を歩む、つまりは頭のいい人間というものは娯楽を生み出す以外にはフリーターのような生活をしている作家を良くは思っていまい。虚業だと考えているに違いない。カレーちゃんは被害妄想でそう思った。

 

「あー私は国語を教えている矢原(やばら)八馬(やま)というもんでして。何分、小説家の先生なんて実際に会ったことがなかったもんですからつい気になって御符箱沢についてきたんです」

 

 獰猛な獣を彷彿とさせるむくつけき中年男が目を細めながら頭に手を当てて、謝るように下げてそう言った。

 

「それにしても、こんな小さな女の子が小説家先生とは……」

 

 若干疑わしい目でカレーちゃんを見る。確かに初見ではただの外国人少女だ。カレーちゃんも初対面の人から「ハロー」と挨拶されたことは何度もある。

 そんな少女がトンチキな設定の時代小説を書いてるとは中々信じがたい。

 一方で高雄がどこか自慢げな声で言う。

 

「僕は知ってましたが。動画も見ましたし、そもそも最近ファンになった御符箱沢と違って昔からファンでした」

 

 カレーちゃんの人間不信は「昔からのファン」は社交辞令に過ぎないと判断される。もうなんか、ファン対応と思えないような渋面を作って、

 

「昔からのファン~?」

 

 と、鼻声で返してしまった。明らかに疑っているその言葉に高雄は鷹揚に頷いて告げる。

 

「ええ。『小説家になろう』にWEB掲載している長編・短編の小説はもちろん全て読んでいますし、『ノクターンノベル』に別名義で書いた作品も目を通しています。『ハーメルン』『pixiv』『理想郷』に掲載していた別PNでの二次創作なども追いました」

「わー! わああー!」

 

 カレーちゃんは悲鳴を叫んだ。

 その報告はカレーちゃんにとってもショックだった。自分の過去作、それも十年ぐらい前の二次創作を始めたばっかりな頃に書いていたSSなどを掘り起こされたり、18禁で書いたエロ小説を読まれたことを面と向かって言われると恥ずかしさしか残らない。

 最近のなろう系ラノベ作家でも、何人も二次創作から小説書きを始めた人もいるから通った道とはいえ、当時のパッションな感覚のまま書いた小説は読み返すと普通に恥ずかしいのだ。

 しかしながらPNも変えているので、感想欄を細かくチェックしている読者の一部ぐらいしか知らない情報であるはずだった。読めば文体が似ているなどと言われるかもしれないが。

 

「え? なんすかパイセン、カレーちゃんの小説あのサイト以外にもあるんすか」

「フ……素人め。ファンなら作家のアマ時代の小説も漁るのが嗜み」

「ぐああああ! そういう痛い発言は止すのじゃ! なんだ素人って!? 玄人名乗ってるの!? 読者の! い、痛ァー!」

 

 カレーちゃんが悶え苦しむ! ひねくれているので真っ当なファンを目の当たりにすると何故か辛さしか生まれないのだ!

 槍鎮が高雄の裾を引っ張りながら恨めしそうに言う。

 

「どこで読めるのか教えてくださいっすよ~ねえおせーて」

「知らんでいい! 知らんでいいから! その話題終了!」

 

 無性に恥ずかしくなったカレーちゃんは大声を出して制止する。背中とか脇とかじっとりと冷や汗が出ていた。

 彼女が以前に別名義で書いていたSSなども、基本的には割と評価が高かった。感想だって好意的なものも多く寄せられていたし、好きな読者も居ただろう。それを恥じるというのはむしろ失礼とも言える。

 だがそれはそれ。これはこれ。自分の黒歴史とまでは言わないが、そっとしていて欲しい過去をほじくられると異常に座りが悪いのだ。死にたくなるのだ。成人後に中学の卒業文集を他人に朗読されている気分なのだ。

 

「本当に小説家当人なのか……」

 

 やり取りを見て唖然としている教師。彼も原稿を読んだが、色々と文体が未熟であったり表現が稚拙であったりしたものの、思わず笑うような箇所もあって面白い小説だとは思ったのだ。

 なにより本一冊分の物語をしっかりと纏めている、という原稿からは妙なパワーを感じた。

 彼とて国語教師として数多の小論文や作文に目を通してきた。それに本だって沢山読んでいる。文芸部の書いた短編小説の添削もしたことがあった。WEB上に掲載された長い小説も読むことがあった。あるいは若い頃に小説家になりたいと夢見て短い小説を書いたこともある。結局、一冊分の長編は書けなかったが。

 それでも目の前に印刷された一冊分の原稿を調べるように読むのは初めてであり、書いた小説家が気になってついてきたのだ。

 目の前の、弱々しい西洋人風の少女がそれを書いたとは。

 

「カレーちゃん先生は覚えていないかもしれませんが、僕は先生の作品に毎回感想も書いているんですよ」

「えっ!? そ、そうなの? ペンネームは?」

「『ゲリュオン太郎』として小説家になろうには登録しています。作品も……先生のに比べると非常にマイナーですが、一応投稿しています」

 

 カレーちゃんは全然知らなかった。

 

「あ~! はいはい。ゲリ…?太郎さんね。うんうん。知っとる知っとる。いつも感想ありがとうのう。お主のようなファンに支えられてるから作品を出せるんじゃよ~」

 

 誤魔化した。いつも読んでいるというファンに「いや知らん」とは目の前で言いづらかったのだ。

 すると高雄は膝を地面につけて「オオオ」と天を仰ぎながら手を伸ばした。

 

「す、好きな作家さんにそう言ってもらえるとは……嬉しすぎる……! 後でSNSにアップしていいですか……!」

「え? ああうん。まあ」

 

 知らんけど、と言いかけて止めた。まあ別にSNSはあんまり見ないからどうでもいいかな、と思った。

 高雄はカバンからカレーちゃんの『明治なのである』の本を取り出してカレーちゃんに頼む。

 

「本持ってきてますからサイン書いてるところを写真撮らせてください……! そこの不良生徒がサインをSNSで自慢していて屈辱で……! ニワカファンの癖に……!」

「先生のサイン1号俺っすからね!」

「うぐっ……サインの練習まだしとらんのに……」

「すっかり有名人みたいですわね、カレーちゃん」

「ちょっ、ちょっとドリル子さんや。サインペンとチラシの裏貸しておくれ……今からサインの練習するから」

「わたくしも貰おうかしら。サイン」

 

 皆でワイワイとしているのをやや遠巻きに、無言のまま見ている八馬教師にふとドリル子が気づいた。

 

「あら、国語の先生。あなたもいかがですか? サイン」

「あ、いや私は……ええと、そちらの小説家の方、カレーちゃん……というお名前で活動をしてらっしゃるので?」

「ええ。本を3冊出して、WEBサイトで色々書いてるのですわ」

「その……まずは色々小説を読んでから、ええとファンになったらサインを貰いに来ます。ファンでも無いのにとりあえず目の前に作家がいるから、という理由でサインなんてねだっては失礼ですから」

 

 慎み深いというべきか、遠慮気味というべきか。その態度にカレーちゃんはなんということか、実に安心した。

 ファンです! 全部読んでます! 本買います! と熱意を持って来られると、期待に応えられないような気がして不安になるのだ。

 一方で、へー小説家なんですか凄いですねー(それ以上突っ込んで聞かない)ぐらいだと期待もされていないが漠然と褒められている感じで悪い気はしない。

 ほとんど被害妄想から来るひねくれた精神の問題である。

 

「ええと、とりあえず今日は。突然お訪ねして申し訳ありませんでした」

「あれ? ヤバ先帰るんすか? なにしについてきたんすか?」

「迷惑になりそうだろう。お前も先生の邪魔をするんじゃないぞ。では、また」

「うむ。いずれまた」

 

 カレーちゃんはにっこりと社交辞令的な笑みを浮かべて手を振った。彼女の経験上、「また」で別れた相手とは二度と会わなくていいから気が楽だ。

 

「それでカレーちゃん先生」

「ああ、はいはい。サインサイン……ちょっと練習させて」

「フ……練習してからの正式なサイン第一号は僕だということだな、御符箱沢」

「なんなんすかその対抗意識!?」

 

 チラシの裏に何度も、字を崩したり位置をズラしたりしながら『カレーちゃん』と書いてみるカレーちゃん。しかしながらどうもイマイチ、サインらしい整った形にならないのはペンネームが『カレーちゃん』まで含むからだろう。『カレー』だけならまだなんとかなるのだが。

 

「うーむ……ど、どれがいいかのう」

「どれも微妙ですわね……あっ、カレーライスの絵を描くとかどうかしら。ほらこうやって横から見た感じで、お皿にご飯を盛って」

「それじゃとセクシーコマンドー部のアイコンみたいじゃろ」

 

 言い合っていると二人の若者が首を傾げた。

 

「なんすか? セクシーコマンドー部って。パイセン知ってます?」

「知らない」

 

 アラサーと明治生まれは苦しそうに胸を押さえた。

 

 あれやこれやとサインを試作して、どうにかサインっぽいデザインで、カレーちゃんが何度でも繰り返し書けそうなものをチョイスして決まり、ゲリ太郎の持ってきた『明治なのである』の書籍にサインを入れた。

 槍鎮のように初めてカレーちゃんの存在を知ってから買ったわけではなくて、

 

「発売日にそれぞれ3冊買いました。1セットは妹に譲りましたが……」

 

 と、言うのでカレーちゃんもこのありがたい読者に対して引きつった笑みで、

 

「そ、そうなの」

 

 と返すのみであった。読者の期待がプレッシャーとなり、重たく感じる。同時に嬉しくもあるのだが……

 とりあえずSNSにもアップされるらしいので(カレーちゃんはそのツイートを見ないようにしようと決めた)丁寧にサインを書いたものと、カレーちゃんの写真も撮影された。

 そして、

 

「本当なら小説について何時間でもお話を聞きたいのですが……」

「ひぃ」

 

 名残惜しそうな高雄の言葉にカレーちゃんは息が漏れる。彼女からすればあまり語るような構想は持ってないし、下手すれば昔に書いたものは忘れている内容も多い。

 酒でも飲めば気分が明るくなり口も軽くなるため、タイトルだけ思いついた小ネタなどをドリル子に話すように会話もできるのだが、相手は高校生だ。飲みに付き合わせるわけにもいかない。

 高雄は大事そうに本をカバンにしまって言う。

 

「これから校正作業でお忙しいでしょうから、今日は僕もここで失礼します。新作を不意打ち的に読んでしまったのは嬉しくもあり残念でもありましたが、とにかく出版を楽しみに待っています」

「あ、ありがとうのう」

「出たら3回ぐらい購入をします」

「いや1回でええから」

「では、これで! ありがとうございました。またお暇な時に創作論について語り合いましょう」

「語れるかのう……儂」

「僕は高校を卒業したら専業なろう作家になろうと思っていまして」

「普通に大学に行け!? なんじゃ高卒専業なろう作家って末路的な進路は!?」

 

 本当に彼は頭が良いのだろうか。若干疑問に思えてきたが、とりあえずファンの襲来をやり過ごしてカレーちゃんは一息ついた。

 槍鎮も、

 

「それじゃあ俺もバイト行ってきまーす」

 

 と、出ていったのでそこには校正済みの原稿が残されている。軽く開いてみると、自分が赤ペンを入れたときの倍以上なにやら修正が書き込まれていて、思わず校正が嫌すぎて呻いて原稿を閉じた。

 だがやらねばならぬのは確かだ。後はこれさえ済ませれば、ほぼ全ての作業が完了する。

 しかし……

 

「きょ、今日は精神的に疲れた……ドリル子さん、酒を飲もう」

「だらしないですわね。じゃあ『ドリルが底に付いていて自動で混ぜ混ぜしてくれるタンブラー』で飲むところを動画で撮影させてくれれば奢ってあげますわ」

「飲むー! 奢りじゃ奢り! 記憶が飛ぶまで飲むのじゃよー」

「……未成年飲酒に引っかからないように、明治生まれだって説明もしないといけませんわね」

 

 今日カレーちゃんが出版に向けて行った仕事は、校正に出していた原稿を受け取っただけなのだが。

 ファンとの心温まる交流により疲弊したカレーちゃんは今日の仕事を切り上げて酒に逃げるのであった。

 ドリル子も最近はカレーちゃんの動画出演でチャンネル登録者数も倍増、ドリルの販売も好調になったため奮発してドリルジンギスカン鍋を使った焼き肉を実演する動画を撮影した。

 

「唸る! 回る! 煙も油も吹き飛ぶ! これぞドリルの料理ですわ!」

「屋外でやらんと酷いことになるのう……屋外は屋外で騒音問題がありそうじゃが……ぐびっ」

 

 テロップにはずっと『※カレーちゃんは成人女性です』と入れるハメになったが、女二人が怪しげな螺旋回転をするジンギスカンを食べる動画でも、ある種話題になっている最中なので再生回数はかなり伸びたという。

 

 また、『ゲリュオン太郎』のXアカウントでサインを描くカレーちゃんの写真が投稿されたりして、金髪獣耳ロリのなろう作家が実在するということはネットに広まっていく……

 

 

 

 

 

 自作電子書籍化作業進展状況。

 

 1:下書きをメモ帳で作る CLEAR!

 2:下書きをWordに移して推敲・校正して初稿を作る CLEAR!

 3:初稿を更に校正・他人に確認して貰う CLEAR!

 4:表紙を描く CLEAR!

 5:KDPアカウントに登録 CLEAR!

 6:振込先の口座を作る CLEAR!

 7:返ってきた校正初稿をWordファイルに反映させる 開始

 

 

 

 

 

 キャラクター紹介

 

 阿井宮 高雄

 

 高校3年生。学年でトップの成績。英蘭高校生徒会長。

 医者の家に生まれて某大医学部にA判定を貰っているが、将来の夢はなろう作家というかなり残念な性格。

 カレーちゃんのファン。これまでWEBで出した小説は全て追いかけてWEB魚拓も撮っている。怖い。

 PNは『ゲリュオン太郎』。狙うは書籍化。投稿作品の評価数合計53pt。

 

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