お出かけ
その後結局行く当てもなかったボクは、アキラとリンの厚意で、彼らの経営するレンタルビデオショップ「Random Play」でアルバイトとして働くことになった。
「……ボクに上手くやれるだろうか?」
「うん、カウンターに座ってレンタルの対応だけしてくれるだけでも大助かりだから!」
とリンに言われて早一月。魅了の力もあってか客受けが良く、仕事は順調そのもの。売上は前月比で348%上昇(Fairy算出)しており、いまや看板アルバイトとしての地位を着実に築きつつある。一つ困ったことがあるとしたら、毎日のように複数人の客から”差し入れ”をもらうことくらい。
そんな感じで、アキラとリンに一般常識やプロキシ業のことについて説明を受けつつ、Random Playの店員として常連から新規まで様々な客に対応してきたが、時々、店長兄妹を訪ねて、どう考えても只人ではない者たちがビデオ屋を訪れる。
彼らこそ、兄妹のプロキシ業に対する客であり、そう言った人間を兄妹へと取り次ぐのもボクの仕事の内だ。
今もそう、ビデオの貸し出しの手続きをするボクを、壁際で観察するように、離れて見ている狼のシリオンが一人。じぃーっとこちらを見つめて、何か考えるような仕草を見せる。
「はい、ありがとうございましたー、また来ておくれよ……あの、ライカンさん?リンかアキラに用事かい?今は外しているけど……」
「!……これは失礼いたしました。私としたことが、要件もお伝えせずに」
彼の名前はライカン。ヴィクトリア家政という富裕層向けの家事代行派遣会社の凄腕エージェントであり、プロキシとしての兄妹の常連客でもある。
「構わないよ。でも、さっきも言ったけどリンもアキラも用事で外していてね、伝言があるなら頼まれるけど……」
「いえ、それには及びません。此度はアベル様、貴方様に折り入ってお願いがありまして、こちらに参った次第でございます」
「ライカンさんが?珍しいね、聞こうじゃないか」
普段、遠慮会釈、冷静沈着な姿勢を誰に対しても崩さない彼にしては、珍しくどこかそわそわとした様子だ。
「お願い、と申しましても、そう身構える必要はありません。例の件に関しまして少々、お時間を頂戴したく……」
「あ!もしかしなくてもお出かけの事だね!ようやく目途が立ったんだ!」
お出かけ。今ボクが望んでやまぬそれは、六分街に来て間もなく、リンとアキラによって出された外出禁止命令によって阻止されていた。
というのも、ここに来た翌日。ボクの生活物資を整えるため、ルミナスクエアに向かった時の事。
街中を歩いている最中に、帝高エンターテインメントグループや、パルカファクトリー・フィルムズの関係者を名乗る人々に、スカウトという名目で追い回され、その日は行動を断念。さらにはそれ以降、怪しい人物がボクの周囲を嗅ぎまわっているというFairyからの警告もあり、話し合いの末、ボクは極力Random Playから出ないようにすることになってしまったというわけ。
とはいえ流石にこのまま缶詰め状態では不憫、という兄妹の言葉で、二人と親交の深いヴィクトリア家政の協力のもと、外出計画が水面下で練られていたのだった。
「映画!映画は見てもいいのかい!?」
「もちろんでございます。アベル様のご要望に添い、映画、レストラン、リラクゼーション等各種アミューズメント施設への根回し、警護ルートの選定は済んでおります故、差し支えなければこちらのリストから、当日のご予定を決めていただけると幸いです」
そう言ってライカンさんは懐から茶封筒に入った資料を手渡してくる。ボクが夢中で資料に噛り付いていると、裏口からリンとアキラが帰ってきた。
「ただいま~、あれ、ライカンさんだ」
「今日は特に依頼はなかったはずだけど……」
「お二人とも、お邪魔しております。本日は———」
鼻息荒く予定を吟味するボクをよそに、ライカンは兄妹に事情を説明する。
「あ~その件か。良かったね、どうにかなったみたいで」
「ちなみに、日程はもう決まっているのかい?」
「急ではありますが、方々との調整の結果、明後日を予定しております。皆様にはご迷惑をおかけしますが、これもアベル様のため、何卒ご容赦いただきたく」
「いや、迷惑だなんてとんでもない。アベルもライカンさんにはかなり気を許しているみたいだし、これからも仲良くしてあげてほしい」
「お気遣い、痛み入ります。つきましては、アベル様にお渡しした資料を元に、お二人にもルートの共有をしていただきたいのですが……」
「わぁ~こんなにいっぱいの店から選ぶなんて……寿司?寿司ってなんだろ?、いやそれよりもやっぱりラーメン……ああこっちも気になる~」
「まずは、アベル様が落ち着きになられてから、でございますね」
「「だね」」