やる夫は冒険者の様です   作:aroma moko

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息抜き作品でーす


序章

 

 

 

笑顔で森の中を移動する男はホクホク顔だった。少し前に居た街で稼いだ金が中々の金額だったからだ。

 

一見すると変哲の無いただの旅人だが、羽織っている外套の裾からチラチラと見える鞘、手を覆う手甲、あきらかに野宿を頻繁に行うであろう大型の宿泊セットを背嚢に括り付けているのはただの旅人ではない。

 

金銭を得る代わりに依頼を達成し、それを糧として生きている人々。

 

『冒険者』である事が分かるであろう。

 

その証拠に彼が歩くたびに腰に付いた銭袋がじゃりじゃりと音を鳴らしている、冒険者ならこの音を聞いて気分が上がらない訳がない

 

まるで小躍りしているかの様なスキップで森を進むやる夫だが、ある時にピタリと足を止める

 

「…人がせっかくご機嫌に旅してるっていうのにお…」

 

やる夫は背嚢をずしんと地面に置いた…その瞬間

 

「ギギッ!!」

 

3体のゴブリンが彼の前に現れた、手に持つ武器は何処かの冒険者から奪ったのだろう錆び付いたダガー、赤黒い跡がついた棍棒、妙に綺麗なショートソードを持っている

 

その時やる夫は少し前に居た街で聞いた噂を思い出した、2人組の駆け出し冒険者のパーティがこの森で行方不明になったと

 

「…最近この辺りで冒険者達が行方不明になったとは聞いてたけど、お前らが犯人かお」

 

やる夫は外套を外し左手に巻き、右手で腰の直剣を抜く

 

「遺品は返してもらうお」

 

そう言うとやる夫はゴブリン集団は駆け出した、狙うはリーチの長いショートソード持ち…では無く全員

 

3匹共を狙う様に左から右へと大きく横薙ぎで剣を振るうと、ゴブリン達は

飛び上がる様に回避しようとするが、その時真ん中にいたゴブリンがショートソードの重みで体制を崩す

 

その隙を見逃さず剣を切り返し右肩から左腰まで深く切り付ける。

 

「一つ!」

その勢いのままやる夫の左側で体勢を立て直そうとダガーを両手で持ち上げコチラに向こうとしているゴブリンを股下から首元程まで切り上げる。

 

「二つ!」

 

腕を戻し突きの姿勢を取ろうとした時、やる夫の冒険者としての感が警告を発した、急いで転がると今までやる夫が居た場所を一つの投げナイフが飛んでいった、回避してなければ食らっていただろう

 

 

「危なかったお…」

 

額から顎下まで一筋の汗が流れる…が、ゴブリンは既にコチラに走り寄ってきており腕を大きく振り上げ手に持つ棍棒をやる夫へ叩き付けようとしていた

 

「っ!」

 

やる夫は左手を掲げ相手の棍棒を受け止める、威力が乗り切る前に迎えたが、丈夫な外套と革の小手を付けているとはいえ骨身に響く鈍痛が走る

 

「っおおおぉぉぉ!!」

 

痛みに怯みそうになるが、剣を持つ右手でゴブリンの顔面を殴り付ける

 

ゴブリンは棍棒を取り落としあまりの激痛に顔に手を当てる、その隙に蹴りをいれ地面に倒し直剣でとどめを刺す。

 

「…」

 

周囲の気配を探る。

 

匂い、音…何も異常は無い

 

「…ふう」

 

残心を解き直剣を納める。

 

ゴブリン達はぴくりとも動かない、傷口からも血が流れていない事を確認してから外套を確認する。

 

少し汚れてはいるものの無事。

 

 

一応討伐の証として三匹の鼻を削ぎ落として、専用のポーチに入れておく。ちょっとした小遣い稼ぎにはなる

 

武器は全て砕き地面に分かるように軽く埋めておく。これで他のゴブリンに再利用される事は無くなり、他の冒険者に“ここでゴブリンを殺した、他にもいるかもしれない”という警告になる

 

そして、辺りを軽く探索しておく。もしも冒険者達がこの辺りで襲われたなら何らかの痕跡が残っている可能性があった、なにか遺品の一つや二つ…いや、遺体を見つけられるのが1番良いが…

 

とにかく何かないかと辺りを散策すると、道から少し外れた獣道に何かを引きずった跡を見つけた。

 

やる夫は懐から懐中時計を取り出し時間を確認する、日没まであと8時間程ある

 

「せめて遺体は見つけて帰ってやりたいし」

 

やる夫は背嚢から左腕用の古錆びた小手を取り出し身に付けた

 

「待ってるお」

 

やる夫は獣道をずんずんと進んで行った。

 

 

 

 

途中途中立ち止まり罠や待ち伏せなどがないかを確かめながら慎重に進み、1時間程歩いた。

 

少し前からやる夫は煙の匂いが漂ってくる事に気がついていた、こんな森の中で火を起こすのは他の人間か盗賊、あるいはゴブリンなどの敵対的な亜人種のみ

 

もしゴブリンだったとしたら、そこに冒険者の遺体…骨や遺品が残っているはず

 

とりあえず様子を見て、ゴブリンの数次第で強襲するか撤退して仲間を呼ぶかを考えよう。

 

そう思っていた時、煙の漂って来ていた方角から悲鳴が聞こえてきた

 

その瞬間やる夫は駆け出していた

 

林を掻き分け開けた所に出た時視界に入ったのは、10程のゴブリンと1匹のオーク。檻に入れられ片腕が無く出血した女性とグッタリとして動かない男性の姿だった。

 

ゴブリン達は突然現れたやる夫を見てにたりと笑っている、オークはそもそも興味がないのかコチラを見ていない。

 

まずい状況になった…心の中でそう呟きながら剣を構える。

 

(やる夫1人でこの数は…迂闊だったお…)

 

どうしたら2人を助け出して自分も逃げ切れるかを考えるが、この数相手に武器無しの…その上負傷している2人を連れて逃げられるビジョンが浮かばない。そもそも檻のある所まで辿り着ける気がしない。

 

そうこうしているうちに木の枝を削った槍を持ったゴブリンがコチラを貫こうと走り寄ってきていた

 

(もう考えてる暇はない…ッやる夫、腹を括れ!)

 

外套を剥ぎ取る様に左腕に巻き、抜剣する

 

「ぎぎっぎぃ!!」

 

ゴブリンは地面を這う様な動きで下腹部を鋭く貫こうと槍を繰り出してくる

 

「ふっ!」

 

コチラの直剣のリーチに入ったと同時にゴブリンの持つ槍先を叩き軌道を逸らす、大きく姿勢を崩したゴブリンはそのまま地面に倒れ込む

 

そのゴブリンの首めがけ全力で踏み抜く、骨が砕ける感触を確かめる間もなく次にくるであろうゴブリンに備えようと構え直した時

 

背後から何者かが全力疾走している様な、ガサガサと草を掻き分ける音が迫ってきていた。

 

(この状況で増援かお!?)

 

半身になり背後を確認しようと顔を背後に向けた時、ガサっと音の正体が飛び出してきた。

 

精悍な顔付き、筋骨隆々の肉体、その肉体を覆う革製の鎧、腰には様々なポーチ、手に持つのは魔法使いの証である魔導書…魔導書?

 

「大丈夫か!?助けに来たぞ!!!」

 

誰とか声デカとかその見た目で魔法使いなのかとか言いたい事は沢山あったが、全てを呑み込みやる夫は叫ぶ

 

「助かったお!コイツらをなんとかしてあの2人を助けないといけないお!!」

 

「おーけーわかっただろ!」

 

そう応えると、彼は肉体強化魔法をかけ始めた…自分に

 

「なんで!?」

 

「『肉体強化』!『出血制御』!『拳神の加護』!…さぁ行くだろ!!!」

 

身体が淡く発光したその魔法使い?は、魔導書を懐に直すと拳を構えステップを刻み始めた

 

「さあ!死にたい奴からかかってこい!」

 

突然現れた乱入者に面食らったゴブリン達の中から刃渡の広いナイフと手斧を持ったゴブリンが魔法使い?に駆け寄っていた、援護しようとこちらも走り出そうとしたが、こちらにもゴブリンが寄って来たのであの魔法使いの事を信じて、こちらに対峙した。

 

今度のゴブリンは木製の盾と所々錆び付いているショートソードを持っている個体と、衛兵が持っている短槍を持っている個体だった

 

こちらとの距離の詰め方から見てベテランクラスのゴブリンだろう、少し厄介だ

 

それに、この2体の奥、オークの側にいるゴブリン、弓を構えている。こちらか魔法使いを狙っているかは定かでは無いが…あれが1番の脅威だ

 

「まずお前からだお!!」

腰にぶら下げていたハチェットを投擲する、教導官からは投げナイフの方が簡単だと教えられたが、自分にはハチェットの方が馴染んだ。

 

距離は少しあったが、ハチェットは吸い込まれる様に弓を構えているゴブリンの左胸に突き刺さった

 

「良い投擲だろ!!」

そう叫ぶと魔法使いは自分の周りで攻めあぐねていたゴブリンの一体に一呼吸のうちに接近し

 

「おおおらぁぁぁ!!」

 

キックを放った。

 

とてつもない轟音と衝撃波と共にキックを受けたゴブリンがオーク目掛けて飛んでいき、突っ立っていたオークの腹部に叩きつけられた

 

それを見て周囲のゴブリン達は狼狽えている…こちらの眼前にいる2体も

その隙を見逃さずに短槍持ちのゴブリンの脳天目掛けて上段で振り下ろす。

 

こちらの攻撃に一瞬遅れて気がついたゴブリンは短槍を掲げて防御態勢に入ったが甘い。

 

そんじょそこらのなまくらとは違いこの直剣は鋼で鍛えられた一級品、手入れも欠かさず、刃こぼれ一つ無い自慢の逸品。

 

「そんな物で防げるものかお!!」

短槍ごとゴブリンを真っ二つにする

「1つ!」

続いて隣にいた盾持ちを片付けようと目を向けると、視界いっぱいに木盾が広がる。

 

ゴブリンが盾を掲げ、視界を塞いでいるのだ。

 

(盾越しに攻撃してくるつもりかお!?こいつ、『場慣れ』してるお!)

 

盾の上か側面から手に持つショートソードを突き出し攻撃するつもりだろう、盾で視界を塞がれている現状、それを防ぐ手立ては無い

 

だが

 

「そんなもん!教官相手の試合で死ぬ程使われたわぁぁぁ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“いいかやる夫、人型の敵は一部を除き知恵がある。打撃を磨く者、斬撃を磨く者、刺突を磨く者、飛び道具を磨く者、防御を磨く者、魔法を磨く者達が数多くいる”

 

“その中でどれが厄介か…分かるか?”

 

“んー…魔法かお?”

 

“その心は?”

 

“自分のリーチの外から一撃必殺級の攻撃をされるのは想像したくないお”

 

“正解だ”

 

“おっ!”

 

“ギルド教範的にはな”

 

“お?…先生的には違うのかお?”

 

“ああ、この教範を書いた奴の言う事も間違いではない…が…俺の経験的に1番厄介なのは魔法使いではない”

 

“その心は?”

 

“俺の口癖…まぁいい…いいか、お前は何らかの遠距離攻撃手段を持って戦いの場に居る、敵味方入り乱れての乱戦だ…想像できるか?”

 

“おっ!”

 

“よし、そんな乱戦の中味方に当てずに攻撃を当てようとしてみろ”

 

頭の中で想像した状況で挑戦してみる………

 

“む、難しいお…”

 

“だろう?俺達冒険者ってのは基本的に複数人で動く、モンスター共も基本的にはそうだ”

 

“…じゃあ先生的に1番厄介なのは防御を磨く者かお?”

 

“正解だ…よく、分かったな”

 

“考えてみたんだお、そんな乱戦の中1人でも崩れない程防御が上手い奴がいたら…どれだけ鍛錬を積んでも崩さない程の防御上手がいたらって”

 

“はは!そうかそうか、だがそれは考えすぎだ”

 

“どうしてだお?”

 

“防御ってのは要は待ちなんだ、戦いの主導権を相手に握られ続けると遠からず負ける”

 

“…じゃあどう言う防御上手だと厄介なんだお?”

 

“防御しながら攻撃してくる奴だな”

 

“…ドウイウコトダオ?”

 

“ふふふ、稽古場に行こうか。実践してやる”

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(こう言う盾の使い方をする奴には…!)

 

上段で振り下ろした態勢のままやる夫は盾に向かってタックルした。ゴブリンの体格程度では抑え切れる訳無く、少しの拮抗の後ゴブリンは崩れる様に倒れた

 

ゴブリンの上に被さる盾ごと直剣を突き立てる、盾はパックリと2つに割れ、その下に居るゴブリンの胴体に剣が突き刺さる、剣を捻り抜いた所で周りを見渡すと周囲に残っていたゴブリンは四散し残るのはオークだけになっていた

 

「アンタもなかなかやるだろ」

魔法使いはオークを睨みながら、こちらに近づいてくる

 

「おう…でどうするお?あのオーク」

 

オークは先程と違い丸太の様な棍棒を手に血走った目でこちらを見てくる

 

「あの2人を助けてはいどうぞと返してくれる雰囲気じゃなさそうだ」

「違いない」

 

あの巨体相手に左腕に巻いてる外套など何の意味もない、剥ぎ捨て剣を構えなおす

 

魔法使いも深呼吸し拳を構える

 

「「だったらやるしかない(だろ・お)」」

 

先手を取ったのは魔法使い、正面からオークの巨体目掛けて走り寄っていく

 

「俺がアイツの注意を引くだろ!その隙にあの2人を!」

オークが振りかぶった棍棒をステップで回避しながら魔法使いが叫ぶ、お返しとばかりに拳打を繰り出しながら。

 

しかしオークの身体を覆う厚い脂肪と筋肉に阻まれ大したダメージにはなっていない

 

「冗談言うなお!そんなんじゃ1日かかっても倒れない!ここは2人で協力した方が早く終わるお!」

 

オークの右側面に回り込み、左膝を両手で構えた直剣で叩く様に切る、直剣は左膝側面に深く斬り込まれ何かを切断する感触と共に抜けた

 

「ぐぅぉおおお!?」

 

今ので腱を切った、これで奴は直立できない…その上頭の位置が下がったから魔法使いの攻撃も頭部に届く

 

「今だお!」

 

「感謝するだろ!!」

 

魔法使いは地面に亀裂が走る勢いで踏み込み、右アッパーを繰り出した、そのアッパーはオークの顎を破砕しながら進み頭部を破壊した。

 

「ええ…」

今というのは頭部を攻撃して気絶か何かさせてほしいというお願いであって、頭を消し飛ばせという意味じゃないという事を呑み込み深呼吸する事でなんとか誤魔化した

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

オークを倒した後、倒れてる2人に止血処置し急いで近くの街まで運び込んだ(近くにあった2人の手荷物はやる夫が、2人は魔法使いが)

 

2人とも重症な上栄養失調だった様だが、ギリギリ助かるラインで救助出来たらしい。

 

街のギルド受付嬢から謝礼金を受け取りながら、ふと隣を見ると魔法使いと目が合った

 

魔法使いは、にっと笑い

「俺の名はやらない夫」

と言った

「やる夫だお」

と答えると突然真顔になりこちらに向き直る

 

なんだ?と身構えていると

 

「お前には運命を感じる」

 

あ

 

「自分女の子の方が好きなんです」

 

これが俺とやらない夫の初めての出会いだった

 

〜やる夫は冒険者の様です・序章〜

 

 

 





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