その狩人、元勇者につき   作:じーじー

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思いつきによる投稿です。
というより試しに書いてみたという方が正しいです。


その男、狩人につき

 

 

 

 

 

 

朝霧がとある村を包みこむ。

木造の家々が並び、その一つである宿屋の煙突からは白い煙がゆるやかに昇っていた。

そんな村をとある狩人は、肩に鹿を担いで歩いていく。

革の鞄には森で採れた薬草が詰まり、腰には使い込まれた事が見ただけでわかるような剣。

首のペンダント―ある女性がくれたお守り― が、朝露に濡れて光る。

そんな村の雰囲気をアリウスは噛み締めるように味わっていた。

この村では、俺はただのアリウスでいい。

そう思えるのだから。

そして、そんな早朝にも日常の会話は起こるものだ。

 

 

「ん?アリウス!それは今日狩ってきた鹿かい!?

随分とでかいのを持って帰ってきたみたいだね!!」

 

 

ある女性がアリウスに話しかけてくる。

彼女はミリア。

村で宿屋を営んでいる女性だ。

一見若い年齢の見た目をしている彼女だがそれなりに歳を重ねている。しかし、その歳を聞いた者は生きては帰れないのだとか。

そんな彼女だが毎朝出店のような形で自身が経営している宿屋の前で温かいスープを作っている。

雪こそ降らないがアリウス達がいる村は朝はそれなりに冷えるのだ。

そんな鍋を火にかけて、かき混ぜたままアリウスに話しかけるミリア。

 

 

「おはよう、ミリアさん。これ、いつも通り解体してもらうからよろしく。宿屋で食べれる鹿肉、楽しみにしてるよ」

 

「任せておくれ!持っていったらちゃんと休むんだよ? 体壊してレアを泣かせちゃ、ただじゃおかないからね!!」

 

「…おっかねぇな、相変わらず」

 

 

アリウスの言葉を聞いたミリアは一瞬だけアリウスの方を向く。

 

 

「何か言ったかい?」

 

「…いや、何も」

 

 

もっとも、すぐに鍋に視線を戻したが。

そんなおっかないやりとりをしつつも、ミリアはアリウスのことを心の底から心配していた。

彼女はこの村で唯一、アリウスの「過去」を知る女性だ。

彼女から感じる、まるで母のような優しさにはアリウスもつい気持ちが緩んでしまう。

そんな彼女の横を通り抜けるとその先には広場がある。

広場では、姉のレアと弟のライルが走り回っていた。

『まだ、朝早いというのに』とおもいつつも元気な子供達を見ていると2人がこちらに駆け寄って来た。

 

 

「アリウス! また獲物狩ってきたの!?」

「うわっ、超でっかい! どうやって狩ったの!?」

「まあ、ちょっとしたコツがあるんだよ」

「まじかよカッケー!!俺にも出来るかな!!」

「バーカ! 無理に決まってるでしょ! けど…アリウスがいてくれたら…大丈夫かな!?」

「連れて行くわけないだろ?」

「「えーー!?」」

 

 

アリウスの胸に、子供たちの笑顔と言葉が温かく響く。

レンは思わずライルとレアの頭をクシャっと撫でる。

レアが照れて跳ね、ライルは嬉しそうにしていた。

この光景を見るたびにアリウスは頑張る元気を分けてもらえる、そんな気がするのだ。

 

 

 

 

 

 

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朝、日がしっかりと昇った後の市場は、馬車の軋みと村人の笑い声で賑わっていた。

アリウスは商人に鹿肉を渡す。

ガレンは帳簿を広げ、鹿肉の重さを計測する。

しばらくすると計測が終わり、代金をガレンから受け取った。

 

 

「まいど! 今回も随分いい肉を手に入れてきたな!!お前さんが贔屓にしてくれるおかげで俺も助かる!!!」

 

「そいつはよかった。まぁ、これからもよろしく頼むぜ…ガレンのおっさん。」

 

「しっかし…この鹿肉は…あの宿屋の姉貴に渡したらとんでもない美味いもんが食えるかもしれねぇなぁ!」

 

「お、さすが分かってる! 食いに行く時は呼んでくれよ?商人相手に言うことじゃないが、奢ってやるからよ」

 

「そいつは良いことを聞いた! じゃあ、そんときゃ2人で食いにいくか!」

 

 

ガレンは帳簿を閉じ、豪快に笑う。

アリウスも釣られて笑顔になる。

ガレンの軽いノリに、アリウスも心が軽くなる。

この時間は、アリウスにとって大切な時間なのだ。

 

 

「そういや、隣町の猟師がな?森の奥で変な足跡見たんだってよ!なんかへんなの見てないか?デケェ獣とか」

 

「いや…デカイのは見てねぇけど…なんか居た時は俺が狩っとくよ」

 

「おお!そいつは頼もしい!! けどよ、無茶すんなよ?」

 

「わかってるって」

 

 

 

 

 

 

 

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鹿を持っていき、時刻は昼時。

鍛冶屋の火炉が赤く揺れ、薪の焦げる匂いが漂う。

そこでは一人の若い女性が革エプロンを着て、剣を手に持って刃を眺めていた。

そして、刃の調子を確かめるように剣筋をそっと撫でる。

彼女はフェリシア。

幼い頃からこの村で育ち、アリウスと同世代の数少ない友人だ。

フェリシアは若い年齢でありながら、高い熟練度を誇り確かな腕を持った職人にも引けを取らない一流の鍛冶屋だった。

そんな一流の鍛冶屋フェリシアに、アリウスは一定周期で剣のメンテナンスを依頼しているのだが、今日がその日であったのだった。

そんな中、フェリシアはアリウスの剣を様々な角度から見つめながら何とも言えない表情をしていた。

 

 

「アリウス…。前々から思ってたんだけど…この剣、狩り用にしては切れ味が鋭すぎない?」

 

 

アリウスが使う剣は切れ味が凄まじいのだ。

力を入れずに岩だろうと鉄だろうと言ってしまうのだ。

フェリシアはそんな剣が気になって仕方がなかった。

 

 

「いや、昔から使ってるってだけでただの剣だよ。鋭く見えるのは剣を扱う俺の腕が良いだけなのさ」

 

「そんなこと言って~! いくらシアの腕がいいったって限度があるでしょ?」

 

「どうだろうな?まぁ、一人前の狩人ならこれくらいは普通だってことだ」

 

「カッコつけちゃって…」

 

 

フェリシアは剣を軽く振って笑い、火炉の炎に目をやる。アリウスは首にかけたペンダントをそっと握りつつ、冗談に笑う。

アリウスが首から下げているペンダントはフェリシアから貰ったお守りなのだ。

無事に狩りから帰ってきて欲しいというフェリシアからの願いが籠もっている。

アリウスはフェリシアと共にいる時に味わえる形容しがたい安心感が好きなのだ。

今もその安心感を味わっている。

そんなアリウスの様子に気付くことなく、フェリシアは思い出したようにアリウスに気になったことを聞く。

 

 

「そういえば、最近森の奥で変な気配したんだよね…何か異変とか…気づかなかった?」

 

「んー、どうだろうな。狼でもウロついてたかな」

 

「まぁ、ならいいけど。でも、アリウスなら狼くらい余裕で狩っちゃうでしょ?」

 

「まぁな」

 

 

フェリシアが薪をくべ、火花が舞う。

アリウスは剣の柄を撫でるように触り、すぐに離す。

アリウスは嘘をついた。

本当は違和感を感じていたのだ。

森の一部の場所が妙に静かだった。

それでいて森のざわめきも感じられた。

そんな森のざわめきが、心の奥を掠める。

何かが起こる。

そんな確かとも言えないような何かが…予感が、アリウスの中で静かに芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

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夕暮れの広場はオレンジ色に染まり、そよ風が草木をかすかに揺らす。

そんな広場では子供たちがアリウスを囲んで面白い話を聞きたいとせがんでいた。

ミリアはその様子を宿屋の2階の窓から見つめ、広場の端では村人たちが遠くで笑い合う。

アリウスの心に、村人たちの声が染み渡る。

アリウスにとって、この村は今もっとも大切で守りたいものなのだ。

 

 

「アリウス! 狩りの話! 教えて教えて!」

 

「何かスゴいやつがいいって! ビビっちまうくらいにデカイ森のヌシとやりあったとか!!」

 

「それならとっておきの話があるぜ」

 

「本当!? なになに!?」

 

「昔、すっごいでっかい…熊?みたいなやつをやっつけたことあるぜ。この村にいた時じゃなかったけどな」

 

「え! めっちゃスゲェじゃん!!」

 

「だろ?俺が狩らなかったらやばかったんだぜー?」

 

「まじかよ! まるで勇者みたいじゃんか!!」

 

 

一瞬…その一瞬だけだったが、広場の時が止まった。

少なくともそう錯覚させるほどに聞いていた者たちに緊張が走った。

アリウスは「…………。」と言葉を発することが出来なかった。

ペンダントを強く握る。

夕陽に手が震える。

『勇者』という言葉が、過去を思い出させる。

忘れていたいはずの過去を。

ミリアは目を閉じ、息を止める。

村人たちの笑い声が僅かに途切れ、広場の風だけが冷たく音を立てる。

 

 

「…ただの狩人だよ。」

 

 

アリウスはかろうじて僅かに笑い、聞いてきた子供の頭を撫でる。

炎に包まれた城。

魔王の咆哮。

血に染まる剣。

共に戦った3人の聖女達。

世界を救った過去が、心を締めつけてくる。

もう、あの頃のような戦いはしない。

そう誓ったはずだ。

ミリアは溜め息を吐きながら、母のような目を伏せる。

村人たちの笑い声が戻り、広場の草が揺れる。

そんな広場の様子を隠れてみていた一人は何かに気付いたように広場から離れていった。

 

 

「さて、俺は明日も早いんだ。

森に異常がないか見てこないといけなくてな。

だから、そろそろ解散だ」

 

 

 

子供達は「え〜〜!?」と不満そうにしながらも各々自分の家に帰っていった。

その後ろ姿をアリウスは複雑そうな顔で見ていた。

 

 

「勇者みたい…か…」

 

 

 

 

 

 

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夜、宿屋の自室は静寂に包まれる。

窓からキレイな星空が見える。

机には、鞘に収められた剣が置かれている。

まるで封印されているかのように。

アリウスはその鞘をなぞるように触れて、そっと手を離す。

この村でなら、俺はただのアリウスでいられる。

だが、心の奥で…何かが叫んでいる。

 

 

「………。」

 

『まじかよ! まるで勇者みたいじゃんか!!』

 

 

どうしても夕暮れの中で言われた言葉が頭から離れない。

 

 

『本当ですか!?それでは、まるで勇者のようではありませんか!!』

 

「…アイツと同じことを」

 

 

思い出すのはかつての仲間。

背中を任せた聖女の一人。

本来思い出したくないはずの過去を、今だけは思い出しても良いような気がした。

 

 

「アイツら…今、何やってんのかな…」

 

 

そう呟いても、良いような気がした。

 

 

 

 

 

 




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