でも書くたびに曇らせ系ファンタジーになっていくので、もうそういう路線を進んでいこうかなと
早朝、まだ日が昇る前。
薄暗い霧がかかった時間帯、宿屋からスープの匂いが漂う時間帯。
木造の家々からは生活音がせず、遠くの丘で鳥がさえずる声が鮮明に聞こえるほど静かな朝。
アリウスは鞄に薬草と保存食を詰め、腰に剣をぶら下げている。
そんな格好で森へとつながる道を歩き始めようとしていた。
そんな中、ミリアが宿屋の扉から顔を出して心配と言わんばかりに持ち物の確認をしてくる。
「保存食、ちゃんと持ったかい?
森の奥は長くなるかもしれないんだ。
腹が減ってはなんとやら、とも言うだろう?」
「ミリアさん…流石にしつこいんじゃないか?
俺だって子供じゃないんだ。
忘れ物するって年頃じゃない」
「忘れ物ってのは誰だってすることがあるんだ。しつこいくらいがちょうどいいってもんさ。
…とっとと様子を見てきて、早く帰ってきな。
美味しいご馳走をちゃんと用意しとくからね」
「本当か?そりゃ良いことを聞いた。
おかげさまでやる気もかなり上がった。
こりゃ頑張らないとな」
そんなやり取りをしている2人。
そこに朝早くに目が覚めてしまったのか、眠たそうにしている女の子が近付いてきた。
幼い女の子には似合わないネックレスをつけている。
女の子の名前はレア。
ミリアの義理の娘だ。
なんでも、親が居なくなって途方に暮れていたレアの面倒を見ているらしい。
「…おにーちゃん…何処かに行くの?」
そのレアは眠たそうな声でそう聞いてくる。
「森の様子がおかしいって話を昨日聞いてな。見に行くんだ」
「…すぐ帰ってくる?」
「もちろん!ぱぱっと終わらせて帰ってくるよ」
「約束だね…」
「ああ、約束だ」
レアとそんなやり取りをして森へと歩き始める。
森はまだ、霧に覆われていた。
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村を出てから、まだ時間がそうかかっていないような時刻。日がまだギリギリ昇ってこないタイミングで森に着いた。
森の中は薄暗く、湿った土の匂いが鼻をつく。
アリウスは森の様子を観察しながら木々の間を進んでいく。
すると、地面にあるものを見つける。
「…コイツは」
それは血痕だった。
何かがここで争ったのか。
そう思い周りを見ると、ある方向に血痕が続いている。
おそらくこの血痕を作った存在は、何かと交戦した結果敗北。そして、逃げたのだろう。
そして、そのタイミングで気付く。
森が、嫌に静かだ。
鳥の鳴き声一つ聞こえない。
『これはただ事ではない』そう思いながらも、アリウスは地面の血痕を辿ってその先に進んでいく。
日が昇ってしばらく経ってからのことだった。
アリウスは痕跡を追って進んでいた。
その過程で血痕の感覚が徐々に長くなっていた。
そうして進んでいくと、途中でその血痕が途切れた。
辺りを見渡すが他に痕跡らしきものは見つからない。
アリウスには何か嫌な予感があった。
その時だった。
鋭い殺気のようなものがアリウスに襲いかかる。
思考を省いたほぼ本能による反応によって、咄嗟にその場から離れると、先ほどまで自分が居た場所が爆発する。
(しまった…!これは…!!)
罠だ。
そう思った時には遅かった。
すると血の匂いが鼻を刺す。
アリウスは剣に手を伸ばしつつ、匂いのする方向に…背後に振り返る。
「ほう?今のを避けるとはな…。
あの時よりも衰えていても、まだ強さは健在ということか」
そこには、かつてアリウスが命のやりとりをした種族である『魔族』が1人こちらを見ていた。
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魔族は、まるで旧友と再会を果たしたかのように話しかけてくる。
もっとも、その言葉にそのような感情はないのだが。
「驚いたのはコッチの方だ。
まさか、こんなトラップを仕掛けてくるとは思わなかったぜ」
その言葉どうり、アリウスは驚いていた。
それもそのはずだ。
魔族というのはプライドの高い種族だ。
回りくどい小細工を嫌い、自分の力で獲物をねじ伏せようとする。
それがどうだ?
目の前の魔族は罠を仕掛けたことを隠そうともせずにこちらをただ見つめるだけだ。
『何かがおかしい』
アリウスは直感的に感じ取っていた。
「何が目的だ?
俺をこんな所に誘い込んで、お前に何のメリットがある?」
思わずそう聞いてしまうほどに。
魔族は何も言わずにこちらを見つめたままだ。
しばらく黙っていると、突如として魔族が笑い始めた。
まるで、子供か欲しい玩具を手に入れた時のように。
上機嫌に笑い出した。
「何がおかしい!!!」
思わずそう叫んでしまう。
魔族は笑いを堪えながらこちらに聞いてくる。
「自分で言ったではないか。
『こんなところに誘い込んで』と。
それがわかっているのならば、後は簡単なことだ。
わかるだろう?
目的はお前ではないのだ」
その言葉を聞いて、嫌な汗が全身から吹き出すような気分に襲われる。
「私の…いや、我々の目的は―」
その言葉を魔族が言い終わる前に。
アリウスは村の方に飛び出した。
「最後まで聞けばいいというの…に……?」
魔族はそれを見て残念がっていたが、気付いていなかった。
辺り一帯に勇者の魔力がとてつもない濃度で漂っていたこと。
自分の視線がズレていくこと。
…自分が、かつて魔王を斬り伏せた時に勇者が使用した技で真っ二つに斬られたことに。
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「……ッ!?」
それは、ある国のある城の一室で起こったこと。
その一室にいた女性は突然のことに驚きを隠せなかった。
彼女は、王室の中でも位の高い者が着る服を着ていた。
その日も彼女は与えられた仕事をこなしていた。
そんなある日、あるタイミングで。
彼女は感じ取った。
凄まじい気配。
凄まじい魔力。
そして、その魔力には覚えがあった。
しばらく経ってから、扉をノックする音が3回聞こえてきた。
「アナスタシア様、お茶をお持ちしました」
彼女の使用人が彼女にお茶を持ってきた。
いつも通りタイミング、いつも通りのやり方で。
アナスタシアの机の上にお茶を置きに来た。
「…?アナスタシア様?……おかしいな、アナスタシア様!入りますよ!?」
ただ、いつもと違ったのは。
「アナスタシア様……」
彼女の机の上には紙が置かれていた。
『少し出てきます』
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進む、森の中を。
全力で。
草が生い茂る森の中、木を蹴りながら加速して。
考えうる最速の動きで村に戻る。
そうしてわずか数十秒。
村に戻ったアリウスが見たのは…。
「う、嘘だろ?」
崩れて瓦礫の山になった家。
荒らされ尽くした畑。
散乱する果物。
そして。
「な、なんだよ…これ……?」
辺りに倒れている全身が黒のバケモノ。
鋭い牙や爪を持ち、まるで悪魔のような見た目をしたバケモノが辺りに傷だらけで倒れていた。
何が置きているのかわからず、混乱の極みに達しそうになっていたアリウスは…それでも無残な姿になっている村を進んでいく。
「誰か…誰かいないのか!?」
村の人達を探すために。
気付けば叫んでいた。
すると、背後から突如として気配を感じ取った。
アリウスが振り返るとそこには辺りに倒れているバケモノと似た姿のバケモノが立っていた。
「チィ…ッ!!」
咄嗟に剣を抜き、柄を握りながら警戒の構えを取る。
しかし、目の前のバケモノは襲いかかってこない。
それどころか動こうともしない。
すると目の前のバケモノは…。
「おにい…ちゃ…」
そう喋りだした。
「—————っ」
考えてもいない事態に言葉が出てこないアリウスだが、あることに気付く。
アリウスの視線の先。
そこには見覚えのあるネックレスがあった。
目の前のバケモノの〘首から下がっている〙。
それに気付いたタイミングで。
「おやおや、お早いおかえりで」
聞き覚えのない声が聞こえてきた。
アリウスは振り返らず、何も言わない。
耳障りな声が辺りに響いていた。
その魔族は気付かなかったのだろうか。
「しかし…ククク…!!
手遅れでしたねぇ?
間に合いませんでしたねぇ?
それでも頑張った方でしょうけどねぇ?
しかし、もう少し早く帰ってこれていたら面白いものが見れましたよ!!
それはもう面白い者が」
剣を握る力が
「村の人達は何処に言ったか!?
ずばり!教えて差し上げましょう!!」
ネックレスを見つめる表情が
「みーーーんな!!
私の実験体になりましたよぉ!!
いやー、素晴らしい光景でしたねぇ!
子供を助けようとする者!
立ち向かって来る者!
皆を逃がそうとする者!
みなさん人格者であらせられました。
なので合格!私の素晴らしい実験対象に選ばれたのです!!」
彼の周りの雰囲気が
「その後、全員には殺し合いをして頂きました。
いやはや、みなさん健闘していましたがねぇ…残ったのは1人だけでしたよ。
しかしそれで良い!!
それこそが我々の計画なのですから!!
魔王無き今!魔族たる我々に必要なのは同志!!
ですが我々は数を減らしすぎました。
そこでです!
我々は魔族を作ることにしたのです!!」
後から聞こえてくる声を聞くたびに
「…あっと、安心してくださいね?
バケモノになった後に人間の人格があっては不自由ですからねぇ?
もちろん、人間だったころの記憶等は消えるようにしてありますよ。
だって……」
目の前のバケモノを見るたびに
「そんなもの!!魔族になる上で必要ありませんからねぇ!!!」
変わっていったことに。
「もう、いい」
目の前の煽っていた男は
「お前はもう」
この世で最も怒らせてはならない存在であることに。
「ここで消えろ」
瞬間、辺りが白い閃光に包まれた。
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彼女は走っていた。
城を抜け出して。
魔力を感じた場所に向かって。
その距離は、普通の人ならば2日ほどかけて移動する距離だった。
その距離を魔力によって身体強化を施し、とてつもないスピードですっ飛ばしていく。
「もっと…もっと速く……!!!!」
それでも、まだ速さが足りないと思うほどに。
彼女は焦っていた。
彼女が感じた魔力。
それはかつて魔王を共に倒した者の魔力。
探しても探しても見つけられなかった者の持つ魔力。
その魔力を感じ取った彼女…アナスタシアは素直に喜ぶ事が出来なかった。
この世界において、強い魔力には感情が宿る。
そして、感情が強ければ強いほどに魔力も強くなっていく。
彼女は、そんな『魔力に乗った感情』を感じ取ることに長けていた。
そして、先ほど感じ取ったその魔力には…。
深い悲しみと激しい怒りが入り交じった感情が込められていた。
やがて、彼女は魔力を感じ取った場所にたどり着いた。
その時間、わずか半日も過ぎていないほど。
その場所には村がある、アナスタシアはそう記憶していた。
しかし、たどり着いた場所には見るも無残な光景が広がっていた。
とても、そこには村があったとは思えないほどに。
そんな瓦礫の山を歩いていくと、1人の男を見つけた。
瓦礫を椅子代わりにして座っていた。
その男を見つけたアナスタシアは静かに近付いていき、目の前に立った。
しかし、男は何も言わず動かない。
彼女は、それを見て…何も言わずに隣に座る。
そして、そっと彼を抱きしめた。
彼は泣くことは無かった。
しかし、彼女を押し付けることもしなかった。
その手には、綺麗なネックレスか握られていた。