その狩人、元勇者につき   作:じーじー

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その女性、聖女につき

 

 

 

かつて、平和な世界がそこにはあった。

だが、その場所にはかつて人が住んでいた面影はもうない。

そんな残骸しか残っていない場所で、アナスタシアはアリウスを抱きしめている時にあることをしていた。

 

聖女、それは神が人に与えた人類を導く存在。

この世界ではそう思われている。

なぜそうなっているかと聞かれれば、彼女達がそれぞれ持つ能力が理由にあたるだろう。

人はそれを、権能と呼んだ。

そして、アナスタシアが持っている権能は

『過去と未来を視る能力』

であった。

 

アナスタシアは権能を使ってこの村で起こったことを視た。

『何があったのか』

『どうして村が荒れ果てているのか』

そして、

『彼をここまで追い詰めたものは何なのか』

それを知るために。

 

そして、過去を視たアナスタシアは…。

 

 

 

「………。」

 

 

 

一瞬、苦虫を噛み潰したような表情をしつつもすぐに今後どう動くべきかを考えた。

 

 

 

「アリウス?」

 

 

 

出した結論は『彼を連れて聖王国へと帰ること』たった。

そこには勇者を連れて帰るという国への利益など微塵もなく、ただ『彼を1人にしてはダメだ』という感情しか無かった。

 

 

 

「…ここにいさせてくれ」

 

 

 

そして、彼女が自分を連れて帰ろうとすることを知っていたかのようにアリウスは返事を返した。

 

 

 

「視たんだろ?なら、気を利かせてくれたって良いんじゃないのか」

 

 

 

アナスタシアはその言葉を聞いて…目を閉じて少し黙った後にあることを彼に伝えた。

 

 

 

 

「アナタは…今、自分がどのような表情をしているのか…自分で理解できていますか?」

 

 

 

その言葉を聞いて、アリウスはゆっくりと彼女の方に視線を移していく。

移した視線の先には、2年間会うことのなかった大切な仲間が居た。

 

 

 

「…アナ?」

 

「そんな表情をしている人を、たった一人こんな場所に置いていくことなど…そんなこと、私には出来ません」

 

 

 

そう、彼女の言葉を聞いたアリウスは少しだけ微笑みながら…。

 

 

 

「…アナならそう言うと思ったよ」

 

 

 

そうポツリとこぼした。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

聖王国、一般の市民はおろか立場の高い者ですら知ることのないとある王城の一室にて。

二人の女性が、アナスタシアを待っていた。

その場所は、聖女が秘密裏に情報交換をする部屋…いわゆる隠し部屋。

なんとその部屋からは、直接城下町や国の外へとつながる道が用意されていた。

さらに、部屋の真ん中には三人がそれぞれ向かい合って話せるようにテーブルと椅子が置かれている。

その3つの椅子に腰掛けている2人。

そのうちの一人はレイルフェリス=アルフェルト。

通称フェリス。

赤い髪を高く結い、鎧に身を包んだ戦士のような聖女。

彼女の権能は『逆転させる能力』。

その権能は、今までいかなる逆境をも覆してきた彼女を象徴するような権能だった。

フェリスは模範的とも言える姿勢で静かにアナスタシアの登場を待つ。

 

 

 

「アナスタシアめ…一体こんなところに呼び出してなんだというのだ?」

 

「でもフェリさぁん…アナさんが緊急で話したいことがあるなんてぇ…よっぽどのことですよぉ?」

 

 

 

そんなフェリスを落ち着かせるように、何処かフワフワしたような雰囲気と喋りをする彼女。

三人目の聖女であり、この部屋で待つ二人目の人物。

彼女はセレナ=ローレライズ。

ピンク色の髪をゆるふわツインテールで纏めている。

そして、その服装は中世…西洋の看護婦に近い。

彼女の権能は『状態を強制変更させる能力』である。

その権能によって、不治の病を治し…様々な怪我を治療してきた彼女は市民より【癒しの天使】とまで言われる存在である。

彼女はフェリスの隣で祈るように手を組み、静かに言う。

 

 

 

「今はただぁ…アナさんが話すことが良いことであることをねがいますぅ…」

 

 

 

そんな中、扉が重く開いてアナスタシアが現れた。

フェリスが深くため息を吐きながら、彼女を見る。

アナスタシアは聖王国に帰還後、使用人からの説教を受けつつも身だしなみを整えており…その姿は聖女と呼ばれるに相応しい白をベースとした修道服のような服装に着替えていた。

 

 

 

「ずいぶん、遅い登場ではないだろうか。我々とて暇ではないぞ」

そういうフェリスだったが、アナスタシアのどこか暗い表情を見てどこか不安を覚える。

そして、不安を覚えていたのは彼女だけではなかった。

 

 

 

「なにかぁ…あったんですかぁ…?」

 

 

 

セレナもまた、心配そうな顔でアナスタシアを見つめる。

するとアナスタシアは事情を説明し始めた。

 

 

 

「アリウスを見つけました…」

 

「「…っ!?」」

 

 

 

その言葉を聞いた2人に緊張感が生まれる。

本来喜ぶべきことを、暗い表情で伝えられる。

その意味をなんとなく理解しているからだ。

 

 

 

「…では、そのアリウスはどうした?」

 

「…休ませてあります。今はその方が良いはずですから」

 

「それは…何処か具合が悪いのですか!?それとも大きな怪我を!?」

 

「落ち着いてくださいセレナ。彼には大きな怪我も病気もありません…いえ、どうでしょうか…体には無くとも中身までは分かりません」

 

「どういう…意味ですか…?」

 

「それをお伝えするために2人には来てもらいました」

 

 

 

セレナはフワフワした言葉遣いをせずに慌てている。

フェリスはいつもの厳しい雰囲気をまったく感じさせずにアリウスを心配する。

しかし、彼女達はこれから話すことを聞いてもはや何も言えなくなる。

 

 

 

「私が視たモノを、お伝えするために」

 

 

 

と言うより、何かを言える余裕が残るはずがないなのだ。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、別室にて。

アナスタシアから部屋での待機、および休息を強引に取るように言われたアリウスは豪華な椅子に慣れないように座っていた。

 

 

 

「こんな形で再開するとは思っておりませんでした」

 

 

 

そして、横からそう話しかけられる。

 

 

 

「…俺もです、セレスさん」

 

 

 

執事長、セレスティン=ジャクパッカー。

この国のトップに代々使えてきたジャクパッカーの家系であり、現ジャクパッカー家当主である。

 

 

 

「2年前、アナタが突如として行方をくらまして…私は大変悲しゅうございました」

 

「…返す言葉もありませんよ」

 

「…ですが、今はもっと悲しいことがあります」

 

「…?なんです?」

 

「お辛いことを体験したのでしょう?それをまるで隠すように振る舞っているアナタを見たくはありませんでした」

 

「…わかりますか?」

 

「はい、ジャクパッカー家当主兼執事長は伊達ではありません」

 

「…聞かないんですか?どうして居なくなって、今何で帰ってきたのか」

 

「聞きませんよ。話したくないのでしょう?世の中には無理に話すと辛いこともある」

 

「そう…ですね…」

 

「ですが…」

 

「…?」

 

「話したくなったらいつでも聞きましょう。話すことで楽になることだって世の中にはありますから」

 

 

 

それを聞いたアリウスは一瞬泣きそうになりながらも必至にそれを堪えて目を閉じ気持ちを落ち着かせる。

 

 

 

「…それはまたいずれ」

 

「ええ、お待ちしております」

 

 

 

彼に今必要なのは、休息であるのだから。

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

「「………。」」

 

「以上が私が視たモノです」

 

 

 

フェリスはアナスタシアが視たものを聞いてから思わずその場から動けずにいた。

しかし、セレナは…。

 

 

 

「そ、そんな…そんなことって…」

 

 

 

ポロポロと涙を流していた。

 

 

 

「…セレナ、落ち着いてください」

 

「だって…!そんなの酷すぎるでしょう…!?アリウスさんは…アリウスさんは…!!きっと平和に暮らしたかっただけなんですよ…!?誰よりも優しくて…2年前なんて魔族を斬ることが辛くて仕方がないのに…それでも剣を握って…!!なのに…なのに…!…こんなのってあんまりじゃないですかぁ…!!」

 

「……セレナ」

 

 

 

アナスタシアがセレナを心配する。

それを見かねたフェリスはセレナに自分の考えを伝える。

 

 

 

「セレナ、私とて思うことは同じだ。そして、それはアナスタシアも同じであろう。

しかし…しかしだ。

今、最も泣き叫びたい者が涙を堪えている」

 

 

 

泣いている顔をフェリスの方に向け彼女の話を聞き始めるセレナ。

 

 

 

「魔王と戦い…心に傷を負い…平和を求めて辺境の村に。

そうして過ごしていた村すら失ったアリウスの心には今穴が空いている。

私には、剣を握り…この国を脅かさんとするものを倒すことしか出来ん。

私に出来ることがあるとするのならば…せいぜいアリウスに少しでも休んでもらえるように努力することくらいなものだ。

とてもアイツの心を埋めてやることは出来ないだろう。

しかし、私にはお前が出来ない事があるように…お前にも私には出来ないことがあるはずだ」

 

「私にしか…出来ないこと…?」

 

「そうだ」

 

 

 

立ち上がり、セレナの方に近づき…彼女の肩に手を置く。

 

 

 

「頼めるか?私の分まで」

 

 

 

セレナは自身の方に置かれたフェリスの手を取り握る。

 

 

 

「…わかりましたぁ…!私、必ずやりますぅ…!」

 

「…その意気だ」

 

 

 

ようやく戻ってきたいつもの彼女に微笑むフェリス。

そうして、セレナはその部屋から急いで出ていく。

おそらく色々と準備をするのだろう。

部屋に残されたアナスタシアとフェリスは、やっぱりどこか悲しい雰囲気を出していた。

 

 

 

「すみません、フェリス…本来ならば私が言わなければならないことでした」

 

「……。」

 

「フェリス?」

 

「貴様も休め、アナスタシア。お前とて辛いものを視たのだろう?」

 

「…先ほど貴方が言ったではありませんか。

『今、最も泣き叫びたい者が涙を堪えている』と。

私が泣くのは後でも出来ます。

しかし、彼はもはや泣くことすら出来ないほどに悲しみの底に沈んでいるのですよ?

私が泣いている場合では無いでしょう」

 

「そうか…」

 

「…それにです」

 

「…?」

 

「泣きたいのは貴方とて同じでしょう?」

 

「…嫌と言うほど自分の無力さを痛感したが…それはお互い様というわけか」

 

「………。」

 

 

 

 

彼女達は、彼の休息を願う。

今はただ、それだけを願う。

というより…。

それ以外の事を考えられなかったのかもしれない。

 

 

 




書いてみた感想ですが
『あぁ!もうダメだ!戻ってこれねぇとこまで来ちまった!!!おしまいだぁ!!曇らせ率100%だぁ!!曇らせファンタジーだぁ!!!』
って感じです

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