『…なぜ泣く?』
『…わかんねぇよ…わかんねぇけど…悲しいことだけわかったから泣いてんだ』
『…お前の能力についてはなんとなくではあるが理解しているつもりだ。
私のことも全て視えたのだろう?』
『……。』
『お前は優しすぎる。
それは勇者としては模範解答であり、致命的な欠点でもある。
…放っておけないな、いずれ持たなくなるぞ』
『…なんでお前が俺の心配してんだよ』
『お前には成し遂げて欲しいことがあるからな。
ゆえに決めたぞ我は』
『…一体何を』
『我は…』
『我はお前の中に行く』
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「…………。」
懐かしい夢だな。
目を覚ましたアリウスはそう思っていた。
ベッドから上半身を起こし、窓を見る。
いつの間にか寝ていた。
そして、運ばれて寝かされていたのだろう。
外はもう夜だった。
見慣れた星空が広がっている。
「…ここは?」
見慣れない光景だったのは起きた部屋の内装の方だった。
少し薄暗い光を月が与え、それを補うように部屋には消えない炎が魔法として部屋を明るくしていた。
それでもまだ、部屋は薄暗かったが。
しかし、薄暗い部屋ではあったが自分以外にも人が居ることは気配からわかっていた。
そして、それを裏付けるように
「ここは治療室ですよぉ。
と言っても、ほとんど休憩室のようなもので過労で倒れた人を助けるためのですけどねぇ〜」
先ほどの呟きを質問として答えが返ってきた。
「…セレナか?」
「そうですよぉ〜お久しぶりですねぇ〜」
そこには、2年前に数え切れないほど自分の傷を治してもらった聖女が立っていた。
寝たまま話を続けることが失礼だと思ったのか、アリウスは立ち上がろうとする。
「おっと〜起きずに寝ていてくださいねぇ〜?」
「久しぶりの再会で寝たまま話をするやつがいるか?失礼になるだろうが」
「そんなことありませんよぉ〜。
お疲れなはずですのでぇ〜横になったままで良いですよぉ?」
「流石に寝たままってのは…」
「寝ててくださいねぇ?」
「…だが」
そんなアリウスは忘れていたことがあった。
「寝 ま す よ ね ?」
「…寝ます」
セレナとのこういう会話は大体負けるのだ。
さて、そんなやり取りをしているタイミングで気付く。
手元にあるものが無いのだ。
「悪いが俺が持ってたネックレスはどこなんだ?」
「…保管庫に保管してありますよぉ?」
「そうか」
「………。」
アリウスは彼女の何処か歯切れの悪い雰囲気を見て
「あぁ、そういう…」
なんとなく察してしまった。
「アナスタシアが視たと」
「……。」
「で、お前はそれを聞いたわけだ。
その様子だとフェリスも聞いたか」
「……憎いですか?」
「何にとは聞かない辺り、俺のことよく知ってるよな」
アリウスは思わず苦笑いする。
普段優しく朗らかでフワフワした彼女の口調は、ある意味彼女の一部だ。
セレナ=ローレライズ。
彼女が15歳の時から知り合いだったアリウスは、彼女のかつての口調を知っていた。
自分の意見を曲げずに、はっきりと誰に対しても物申す事が出来る性格も。
そんな彼女は2歳の時に父親を無くしている。
それ以来ずっと彼女の母親が一人で彼女を育ててきた。
しかし、今から4年前…彼女が16歳の時。
彼女は母親を失った。
それから、彼女は母親の口調を真似しだした。
その時アリウスは、悲しみの底に沈む彼女を見ていた。
必至になんとか自分を誤魔化そうともがき苦しむ彼女を見ていた。
放ってはおけなかった。
彼女を絶望からなんとか救い、人々から癒しの天使と言われるまで彼女を影から支え続けた。
アリウスはそれを誰にも話してはいないが、彼女はそれを知っていた。
ゆえに彼女は見たくなかったのだ。
「…誤魔化さないでください」
「誤魔化すって何をだよ」
かつての自分のように必至に自分を誤魔化しながら、ギリギリで堪えている彼の姿なんて。
「…………。」
無言でアリウスを見る。
何も言わずに、同情の表情も見せないように。
しかし、彼女の顔には何処か悲しげな雰囲気が漂っていた。
「…別に自覚が無いわけじゃないんだがな。
でも、今ここで俺が堪えないと…。」
「……はい」
「…全部駄目になっちまいそうな気がしてな」
「貴方も視たんですか?」
「ん?」
「魔族を…斬ったのでしょう?」
「…まぁな」
そんなセレナもまたアリウスの秘密を知っていた。
セレナだけでなく、アナスタシアもレイルフェリスも知っていること。
勇者が持つ事が出来る権能のようなもの。
2年前、彼がその権能に苦しみながらもその権能の力をもって魔王を討伐したことを。
「何を視たんですか?」
アリウスの権能…というよりアリウスの持つ勇者の剣が持つ権能。
それは『斬り伏せた者の全てを知り、自分のものとする能力』。
その剣で切られた者の能力や記憶、所有している権能まで。
全てを剣の持ち主のモノとさせる権能。
そして、村を襲った魔族をその剣で斬ったアリウスはその魔族が体験してきた過去を視ていた。
「村を襲った魔族には、親が居なかった。
人間に殺されてる。
友達と呼べるやつも人間との戦争で…。
アイツは仲間を失う恐怖から…失うことがないほどの強大なバケモノを作ろうとしていた。
そのために人間を捕まえて、改造していた。
復讐も兼ねてたみたいだが、心の奥底ではそれをやりたくはなかったらしい。
でも、もうそれ以外に道が無かったんだろうな。
心が限界そうだったよ」
「……そうですか」
「…それだけじゃないんだ」
「…え?」
「さっき、ネックレスが何処にあるのかって聞いたろ。
あれは村にいた小さい女の子が持ってた物なんだ。
かわいらしい子でさ、同年代の友達を作るのが苦手で…いっつも俺に頼ってきてた子なんだ。
口を開けば「兄ちゃん兄ちゃん」って…でも斬っちまった…魔族に改造させられてて。
本当は彼女だけじゃなくて、村の皆バケモンにさせられてたけど皆もう息をしてなかった。
色々試したんだぜ?人間の姿に存在を書き換えられないかとか…仮の体を作って彼女の精神をそこに移動させようともした。
でも、もう彼女に自我なんて残ってなかったよ。
もう斬るしか無かったんだ。
バケモンになってたのに「にいちゃ」ってずっと言っててさ。
流石に辛かったよ」
「それは…」
「彼女を斬ったらさ、彼女の記憶が全部流れてきて…全部視えたんだ。
楽しかったことや俺との思い出も…バケモンに変えられた時に俺に助けを求めてたことも」
「……。」
「本当は俺だって立ち止まりたいさ。
ずっとここで寝ていたい。
『どうやって償っていけばいい?』
とか
『どうやったらあの子に会えるんだ?』
とか、本当はそう言いたいさ。
でも…立ち止まっていたら…剣を置いたら…俺は何も守れねぇ…。
守れねぇってわかっちまったんだ。
だから……。」
それから数時間、セレナは黙って聞いていた。
吐き出すことで楽になる、そういうこともあると思ったから。
今度は私がこの人を助ける。
そう思ったから。
(今度は…私が助けるんだ…)
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聖王国から遠く離れた森の中。
「お前達、例の計画の方はどうだ?」
「なんでテメェに言わなきゃならねぇんだよ!!!」
「そう怒ることは無いでしょう?まったく、これだから単細胞は困りますわ…」
「言われちまったなぁ!すこしはお勉強したほうが良いんじゃねぇのかぁ?」
誰も居ないはずの森の中。
「魔王様無き今、我々は我々に出来ることをやらねばならぬ」
「それも参謀としての役割だってかぁ!?やることがちげぇなぁアンタも!」
「ああ。私は魔王様を蘇らせるためならば…」
また一つ、争いの火種が生まれようとしていた。
「どんなことでもやってみせよう」