Q.誰得ですか?
A.作者
二次創作の一番のファンは書いている作者自身って、昔から一番言われてるから。
「…………ずっと、嫌だった」
────一人の男が、今際の際を迎えていた。
「奪うばかりの
自ら切った喉からとくとくと、血が流れるのも構わず、言葉を紡ぐ。
「────やっと、何か残せた気がする」
「有馬さんッ…………!!!」
玉座を息子に譲り、希望を託し、一人先立つ。
脳裏には幼少期から過ごしていた
(…………声が、出なくなった。意識が…………遠のく……)
自身の体を支えている、息子の手の温もりが少しずつ感じられなくなり。
耳も聞こえなくなってゆき、穏やかな闇の中に微睡んでいく。
(カネキ、ケン…………いや、ハイセ…………)
音が消えた、温もりが消えた、命が────
(…………ありが、と……う……)
────消えた。
白い死神、特等捜査官────
享年32歳。
♢
「────…………此処は…………」
暗く深い闇に沈んだかと思うと、次に有馬が目を覚ましたのは見渡す限りの白い花畑だった。
「
自身の記憶の中から最も近い景色が言葉に出るが、流石に地平線まで花畑は続いていなかったし、何より空は霧が覆うように霞んでいた。太陽は見えず、時間は判別できなかった。
「地獄にしては…………綺麗だな」
戦闘時に捨てた筈の、
(此処が地獄なら…………他の
居て欲しくは無いが、ハイルや真戸さんもいるかな…………)
「あれー? 何だか見た顔だね」
「…………!」
サクサクと花畑を踏み分けて歩いていると、不意に声が掛けられた。不思議な物で、その声を最後に聞いたのは十数年も昔の事なのに、有馬はすぐに思い出せた。
「三波さん…………」
「やっほ、元気…………なわけないか。
久しぶりだね、有馬くん」
────彼らが殺した、喰種の一人。当たり前かも知れないが、高校時代の姿から全く変わっておらず夏の制服姿だった。
「でも意外だったなー、有馬くんが殺されちゃうなんて…………。
てっきりお爺ちゃんになるまで生き永らえると思ってたよ」
「…………ある意味、お爺さんなんだけどね」
「あぁ、“半人間”ってやつ? 大変だったね。
お互いに
殺した捜査官と殺された喰種、にも関わらず二人の間には全く険悪な空気は流れず。どちらからともなく、二人してその場に座り込み思い出話に花を咲かせた。有馬は情を抱かず流される事が無い様に喰種とは話さない様にしていたが、それも死んだ今となってはもう過ぎた話だった。
「有馬くん、さ…………覚えてる? 富良くんの言葉?
“いくら人間の生活に憧れたって人間にはなれない。
必要がないからって簡単に他人の命を奪う奴は人間じゃない”って」
「…………あぁ、覚えているよ」
「…………有馬くんにとって、隻眼の梟と隻眼の王以外の喰種の命は
────必要がないものだった?」
「…………」
膝を抱えて有馬には目を向けずに三波は呟いた。有馬は少し考えたが、答えは変わらなかった。そうすると彼は決めて、生きてきた。そうすると彼は決めて、死んできた。
「奪う
「────でも、そんな
「そうだな…………恨んでるか?」
「うん、恨んでるよ? 当たり前じゃん…………。
でも、私の死も貴方の人生にとって、無駄でも無意味でも無かったんだね」
“良かった”と彼女は自分自身の死を、自分の命を奪った相手に対して嬉しそうに笑っていた。何故だか有馬は、彼女を殺した事はずっと昔の事なのに、居た堪れなくなった。返す言葉が見つからず少しだけ沈黙が流れて、有馬が聞いた。
「此処は、地獄なのか? 三波さんは何時からいるんだ?」
「三波で良いよ…………で? 此処が地獄? 多分違うと思うよ。
気付いたら私も此処にいたの…………有馬くんに会いたかったからかな?」
「俺に? どうして?」
「好きだから────って言ったら、どう思う?」
「また殺す気なのかなって思う」
「…………有馬くんってさ、結構デリカシーないよね。
黙ってればモテそうなのに」
「俺は黙ってても別にモテてないよ?」
「ははは…………有馬くん、もしかして天然なの?」
三波は冗談めかして有馬を小馬鹿する、彼の事を知る者なら驚愕するか憤慨しそうな光景だったが、当の有馬と言うと疑問符を浮かべてキョトンとしていた。それがまた何だか可笑しく三波は微笑む。
「ふふふ…………話を戻すね、まぁ死後の世界には違いないと思うよ?
有馬くんも死んだ自覚はあるんでしょ?」
「あぁ、自害した」
「あっさりと凄い事を言うね…………。
私が思うに、有馬くんにはまだ何かやるべき事があるんじゃない?」
「やるべき事?」
有馬がまだ要領を得ないやり取りの最中、撫でるような風が吹いた。
彼の白髪と彼女の黒髪がふわりと靡き、風下に白い花弁が流れていく。
有馬はそれを視線で追うと、ずっと先の方に淡い光が見えた。
有馬には、その光が声も聞こえないのに呼ばれている気がした。
「地獄に落ちた罪人が罪を償うように。
天国に行った人が次の生を待つように。
まだ有馬くんには、やる事があるんだよ」
その光の先は、きっと喰種と捜査官が争っていた場所では無い。
何の根拠も無く有馬はそう感じた、彼自身ずっとこの花畑に居るつもりは無い。
しかし────
「────君は、どうする?」
「…………あの光は、私の事はお呼びじゃないみたい」
「…………」
彼女は少し困ったように、微笑んだ。
彼は少し迷ったのか視線を落とした。
「────行きなよ」
「…………」
「眼とか体とか、色々不安な気持ちは分かるけど。
貴方はまだ天国にも、地獄にも行けないみたい。
────だからさ、行きなよ」
また風が強く吹いた。無情に散らされていく花弁に、今まで殺してきた命を、今まで見送った命を、重ねて、彼は考える。奪うばかりだった人生を、死神と呼ばれた生涯を。
もしも、自分のすべき事が“待つ”事でも“償う”事でもないのなら…………
「太志が来たら、タバコは体に良くないよって言っといて」
「…………有馬くん、それは生前に言うべきだよ?」
それは、きっと────“救う”事だ。
「頑張って…………今度は“死神”じゃなくて、“
~花が咲いた昔話~
三波「へぇー富良くん結婚したんだ」
有馬「うん、幼馴染らしい」
三波「有馬くんは?」
有馬「してないよ」
三波「ハハ、何だかそれも有馬くんらしいや」
有馬「でも息子はいたよ」
三波「!!?」
有馬「二十歳ぐらいの孫も四人いたよ」
三波「???(宇宙猫)」