白眉の先生   作:七黒八白

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前回のあらすじ

有馬「前世も今世も公務員か」

無事に就職(ブラック職場)。


#003求人

 

 

 

 シャーレ連邦捜査部の担当顧問として就職した有馬は“捜査官”から“先生”となった。そんな彼は今────

 

「────有馬先生、次の道を左折して下さい!」

 

「あぁ、分かった」

 

 ────アロナをカーナビにして、車を運転していた。後部座席とトランクルームには様々な弾薬と食料が詰め込まれていた。ほぼ意味を成していない信号機を律儀に従い進んでいく。開けた窓から入ってくる乾いた風が、白い前髪を揺らすのを感じながら有馬は呟く。

 

「…………“アビドス高校”か」

 

 話は数日ほど遡る。

 

 ♢

 

「………………書類、多くないか」

 

 疑問形でなかったのは、それは誰に聞くでも無く、火を見るよりも明らかだったからだ。比喩誇張抜きで有馬専用のデスクは様々な書類の束が山積みだった、しかも分類訳などされておらず自分では対処出来ず、専門の部署に持っていかなくてはならない物も混じっている。

 

 ────仕事が開始して数時間経つというのに山は減らない、寧ろ増えた。

 

「有馬先生、ぼーっとしてる暇があるなら確認と調印をお願いします。私が勝手に押すわけにはいかないんですから…………」

 

 山の向こう側から声をかけてくるのはオフィスレディに似た学生服の少女、複雑高度な計算も素早く暗算で済ませる早瀬ユウカであった。有馬貴将が“先生”という何でも屋の様な部活の顧問になり数日、初日に出会った四人が当番制で仕事を手伝いに来てくれている。彼女達は皆、それぞれの自治区でも同じ様な仕事をしているのだろう。慣れた様子でテキパキと働いてくれている。

 

 ────しかし、それでも有馬の脳裏に過るのは“忙殺(過労死)”

 

「…………『714回』」

 

「…………はい?」

 

 突如として感情の一切が殺された有馬の声と、唐突な数字にユウカは聞き返す。

 

「この二日間で俺が“眠たい”と思った回数だ、

 ────同時にそれを押し殺した回数でもある」

 

 有馬は度(・)が(・)入(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)眼(・)鏡(・)を(・)畳(・)み(・)、書類を纏め、机にスペースを作る。

 

「────二秒で、寝れる」

 

「起きて下さい

 寝ないで下さい

 早く仕事して下さい」

 

 無駄に無自覚にスタイリッシュに、夢の世界に旅立とうとする有馬の頭部をユウカはバインダーでスパコーンと叩き阻止する。

 

 仕方なく有馬は渋々、またも果て無き書類仕事に向き合う事になる。有馬自身、自分が書類仕事を得意だとは思っていない。寧ろ自分は実働的な仕事に従事していた記憶が多い。実際に会議も部下に任せる事が常であった。

 

 だがしかし、それを差し引いてもこの量は異常な程多かった。数時間絶え間なく向き合い続けて処理し続けているのに、一向に減らないのは有馬の得意不得意や要領の問題ではない。自分と同じく白眉庭出身で、書類仕事が得意なこと意外CCGでは目立とうとしなかった同僚でも、この量を前にすれば“うわっ! なにこの量!! ヒクわ~”と呻く事だろう。

 

「純粋に人手が足りない…………」

 

「それは…………ホントにそうですね」

 

 彼の眠りを妨げ、忠言したユウカもそれは感じていた事だった。連邦生徒会長が行方不明となりサンクトゥムタワーが一時的に動かなくなっただけではなく、その彼女が今まで解決処理していた皺寄せが、代行官の七神リンと新米教師の有馬に降り注いでいた。

 

 最高権力者と言えども、たった一人居なくなっただけでこうも仕事は増えるのかと嘆息する。生前と言えばいいのか前世と言えばいいのか不明だが、寿命が尽きそうだったとはいえ後の事を全て任せた有馬は少し悪い気がした。

 

「リンに相談して人手を増やすしかないな」

 

「そんな簡単にいきますか? なんなら私や他の人のシフトをもっと増やすのも────」

 

「それは駄目だ」

 

 善意からの提案だと有馬は理解していたが、ユウカの意見を短く断った。

 

「ユウカも、ハスミも、チナツも、スズミも、

 ────学生生活は一度だけだ。青春というものをちゃんと経験しておいた方が良い」

 

(…………申し訳ないけど、なんか有馬先生が青春を語るのは似合わないわね)

 

 それはここ数日の間に何度か繰り返したやり取りだった。連邦生徒会長が居なくなった事により、悪化したキヴォトスの治安。その改善は有馬と代行官のリンの処理すべき仕事となっている。ユウカ達も決してボランティア活動でシャーレの当番に来ているわけではない、二人の仕事を手伝うことによって自治区の改善を期待しての事だ。

 

 だが、それはそれとして────有馬は生徒、正確には子供から時間を奪う事に少し忌避感があった。

 

 それは生まれながらに生き方が定められていたが為に、同じ様な生き方はさせたくないという彼なりの思いなのかもしれない。果たして銃や爆弾がコンビニで缶コーヒーの様に売られている世界の青春と、有馬が高校二年生の一時の青春をどこまで重ねていいのか、彼自身かなり疑問だがユウカ達を仕事漬けにしたくない慈悲は彼にもあった。

 

「少し休憩にしよう、ユウカ。その間に俺はリンに連絡を────」

 

「────その必要はありませんよ、有馬先生」

 

 生徒から勧められた“モモトーク”などの最低限のアプリしか入ってないスマホを手に取ると、件の少女がシャーレの扉から現れた。手には仕事に使うだろうタブレットと何か封書らしきものがあった。

 

「お久しぶり、でも無いですね。先生」

 

「やあ、リン。まだ仕事に忙殺されてないみたいだな」

 

「冗談に聞こえないから止めてもらえますか…………。

 多分、有馬先生は冗談とか言わない方なんでしょうけど」

 

「あぁ…………事実、俺はここ数日嘗てない程の書類に追い込まれてる。

 今まで部下に仕事を任せてきた事を悔い改めてる」

 

「…………大変ですね、お互い」

 

 いつも以上に感情が消え失せて、瞳に全くハイライトが無い有馬の姿に若干リンは引いた。現状キヴォトスで最も権力を有しており、最も過酷な労働環境にある二人の間には奇妙なシンパシーが生じていた。

 

「取り敢えず座ると良い、今からユウカとも休憩にしようと思っていたんだ。

 …………何か飲むか?」

 

「じゃあ、先生と同じもので」

 

 少しの間、有馬が給湯室に消えて。来客用の三つのマグカップを盆の上に載せて帰ってくる。リンはそれを受け取り香りを楽しみ、ユウカは熱さに少し舌を焼いてた。

 

「美味しいですね…………普段から淹れてらっしゃるんですか?」

 

「いや、ここ数日で始めた。

 以前はハ…………部下が淹れてくれたんだがな」

 

「…………」

 

 眠気覚ましに缶コーヒーを飲むぐらいしか思い入れがないリンにとって、有馬が淹れたソレは苦すぎず濃すぎず、記憶にある限りでは充分美味いと言っていい出来だったが。遠い目でカップを見る彼を見て、言葉に詰まった。

 

「そうですか…………では、冷めてしまう前に用事を済ませてしまいましょう。

 ────有馬先生、“S.C.H.A.L.E(シャーレ)”はまだ創立したばかり。人手が足りていないでしょう?」

 

 そういいながらリンが差し出してくる封書を受け取り、丁寧に封を切り中の紙を取り出す。渡された以上は断りはいらないだろうと、有馬はそのまま紙に書かれた丸みを帯びた文字を黙読する。

 

『連邦捜査部の先生へ。

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 今回どうしてもお願いしたい事がありまして、こうしてお手紙を書きました。

 単刀直入に言いますと、今、私たちの学校が追い詰められています。

 それも地域の暴力組織によってです』

 

「…………極道?」

 

「いえ、ただの不良。要するにチンピラでしょうね」

 

「成程、あ(・)ま(・)り(・)怪我はさせない様にしないと」

 

(…………もし本当に反社の相手だったらどうしてたんだろう)

 

 静かに横で聞いていたユウカは、有馬が初日で淡々と戦車を解体(力技)していた事を思い出していた。無論、有馬が生徒相手にそんな真似はしないだろうということはここ数日で充分に理解したが。

 

「ふむ…………要するにこのアビドス高等学校の助けになれば、シャーレの手助けになってくれるという事でいいのか?」

 

「そうです、お互いにメリットがある事ですし…………。

 連邦生徒会としても先生が大々的に動いてくれれば支援など行い易いので」

 

「────そうか、なら一通りの弾薬と乗用車を頼む」

 

 有馬の返答を待つようにリンはマグカップに視線を落とす。それに何を思ったのか、有馬の無機質な瞳が僅かに細くなるが、その場で頼んだのは支援物資と車の手配だけだった。

 

 ♢

 

「…………苦労しているんだろうな」

 

「え? 誰がですか?」

 

「皆」

 

(範囲広ッ!? あと返事短ッ!!)

 

 黙々とカーナビ(アロナ)に従って過疎化が激しい住宅街を進む。恐ろしいほど広大な学園都市キヴォトス、自治区の広さは学校によりけりだが中でもアビドスはかなり広い方だった。どのぐらい広いかと言うと街中で遭難する人もいる、なので有馬は仕方なく市街地を経由して補給をしながらアビドス高校を目指していた。

 

(道中で完全週休四日制を主張するデモと、市街地で温泉を掘ろうとするテロと、ゲテモノ料理を振舞うバイオテロ露店と、猫カフェで全財産叩いた人質立て籠もり事件に巻き込まれなければ、もっと早く着いたんだが…………治安が東京23区よりも悪い)

 

 ────そして、有馬は未だにキヴォトスの常識についていけないでいた、もしかするとこれからもついて行けないかも知れない…………それでも、一応見過ごさない辺り彼の人柄が伺える。

 

「有馬先生、もうすぐ目的地に到着します!」

 

「車中泊なんて初めてだったな」

 

「…………もしかして楽しんでます?」

 

「少し」

 

(結構子供っぽいな、この人…………)

 

 そんな事を話しながら砂で埋もれた廃墟を抜けてゆき、一つの高校にやっとの思いでたどり着く。所々に砂嵐の影響が見受けられたが小まめに手入れされているのか、道中の惨状よりはずっとマシだった。有馬は来客用駐車場に車を停止させてから正門へと向かう。

 

「砂漠化が激しいと聞いてたがそこまで暑くないな、寧ろ湿気が無いから割と快適だ」

 

「そうですね、普通に雪とか積もるみたいですし春先には桜も咲くみたいですよ」

 

(気候も植生も明らかに普通じゃないな…………。

 それに町の住人もロボットは未だしも、犬とか雀とか居たし…………。

 “喰種”とは違う知生命体が生まれて発展した世界なのか?)

 

 有馬はこの世界のキヴォトス以外がどうなっているのか、ここ数日で調べた限り“喰種”が居た形跡すらないこと以外は大きな差異は見受けられなかった。判明した事は。ここキヴォトスでは時折不可思議な事が起きたり、オーパーツ染みた科学力があるという事くらいだ。

 

「知れば知るほど、興味深いな」

 

「────ん、貴方はだれ?」

 

 声の位置と大きさからして、自分よりも頭一つ分程低く、距離は十メートル程遠い。かつての職業柄か瞬時に相手と状況を判断して振り返る。そこにはあまり寒くも無いのに水色のマフラーを巻き、やや灰色に近い銀髪にイヌ科動物を思わせる獣耳を生やした少女が居た。

 

「こんにちは、俺はシャーレ捜査部顧問の有馬貴将だ。

 アビドス高校の救援に来た。君が奥空アヤネさん?」

 

 感情の波を表すように、ピクリと獣耳が動く。しかし、それに反して表情の方にはあまり変化は見られない。まるでどこかの特等捜査官の近い天然の空気を纏っていた。

 

「シャーレの…………私はシロコ、砂狼シロコ。

 アヤネなら部室にいる。案内する、有馬先生」

 

「頼む、あと弾薬も持ってきた」

 

 有馬はシロコと名乗った女子高生と支給品を運び、校内に入る。意外な事に地区は衰退の一途を辿り、最早廃校寸前まで陥っているとリンに聞かされていたが内装は荒れている様子は見受けられない。ここに来る道中では砂に埋もれた廃墟も珍しくなかった事を考えると、少しだけ彼女達の苦労が忍ばれた。

 

「ん、ここが私達の活動拠点」

 

 階段を上がり、廊下を進み、少しだけ郷愁に駆られているとシロコがある教室の前で止まる。引き戸の上を見てみると『アビドス廃校対策委員会』と手書きの丸みを帯びた字で書かれた紙が貼られていた。

 

「みんな中で待ってる、行こう有馬先生」

 

 ガラリと開かれた戸の向こう側は、普通の教室よりもこじんまりとした内装で長机が二つ合わさり大きなテーブルとなっている。その上には文房具や、アビドス自治区の地図や、既に見慣れ始めた拳銃と実弾がいくつか転がっていた。

 

「お帰りなさい、シロコ先輩。帰って早速だけど今月の利息について

 ────って誰!? 大人!?」

 

「あら~、まさかシロコちゃんが男の人を連れてくるなんて。しかも大人の人だなんて☆」

 

「うーん…………愛に年齢は関係ないかも知れないけど、おじさんはちょっと関心しないなぁ。特に相手が子供とわかってるのに付き合う大人の方に」

 

「ち、違いますよ! 多分この方は────」

 

 猫耳ツインテールの少女、翡翠色の瞳に間延びした口調の少女、赤い縁の眼鏡をかけた少女、そしてひと際背が低いオッドアイの少女が三々五々に囃し立てる。女三人寄れば姦しいと言うが、正にこの状況に当て嵌まっていた。慣れない空気に少しだけ戸惑いながらも、一先ず有馬は誤解を解くことにした。

 

 ♢

 

「こんにちは、シャーレ捜査部の有馬貴将です。救援要請を受けてここにやってきた。

 そしてシロコとは校門前で会ったばかりの関係だ、君たちが憂慮する様な事は何も無い」

 

 不埒者の烙印を押されるという、ある意味で嘗てない危機を乗り越えた有馬は目の前の背が低い少女と握手する。キヴォトスでは普通かも知れないが見た目に反して力が強く、日常的に銃を握っているからか少し皮が厚いように感じた。

 

「はい、こんにちは! 私はアビドス高校一年生の奥空アヤネと言います! 

 この度は廃校対策委員会に来ていただいて────」

 

「固い固い固いよ~、アヤネちゃん。あ、おじさんは小鳥遊ホシノ。一応委員長やってるよ~」

 

(おじさん…………?)

 

 見た目小学生でも通りそうなオッドアイの少女が“おじさん”を自称し、有馬貴将(享年32歳)には疑問符が浮かぶ。思えばもうそんな歳かと、有馬は少しだけしみじみとした。

 

「これでヘルメット団が攻めてきても取り合えず対処できるわね。

 私は一年のセリカ、黒見セリカよ。よろしくね、有馬先生」

 

「お客さんなんて凄く久しぶりですね~。私は十六夜ノノミです。

 何か飲みますか? 紅茶? それとも珈琲?」

 

 少し警戒しているのか、黒い猫耳をぴくぴくと動かしているセリカと名乗る少女。それとは対照的に間延びした口調で穏やかそうなノノミと名乗った少女。既に名乗り終えているシロコは、そのまま支給品を部屋の隅において定位置だろうパイプ椅子で寛いでいる。少し彼女達を見渡し、歩いた感じ静かだった校舎から彼は思う。

 

「────もしかして、ここのメンバーで全(・)校(・)生(・)徒(・)なのか?」

 

 有馬のその疑問で気不味い、とまでは行かずとも沈黙が訪れた。ここに来る道中で薄々察していた事ではあった、散逸する廃墟、閑静な自治区。離れた場所にはブラックマーケットすら有るらしい。学校の戦力や権力が自治区としての治安などを維持するキヴォトスにおいて街が栄えていない事は、そのまま学校としての力や立場の弱さを示している。

 

「そ、そんな事アンタに関係────」

 

「まぁまぁ、セリカちゃん。別に減るものじゃないんだしさ、話してみるのもいいんじゃないかな? それに“アビドス廃校対策委員会”って集まりの時点で殆ど自白してるみたいなもんだしさ」

 

 動揺して隠そうとするセリカをホシノが宥める、対策委員会の面々がいつもの通りの席に着き同じ様に有馬も机を囲む。ノノミがクッキーと珈琲を有馬に差し出したのを見計らい、司会進行役のアヤネがホワイトボードの前に立って現在のアビドス自治区の状況を説明しだす。

 

「今、我が校は多大な借金をしています。原因は数十年前から頻発している砂嵐です。

 砂嵐自体はこの自治区では珍しくなかったのですが…………何故か、ある時期を境に前例がない程巨大な砂嵐が発生するようになったのです」

 

「この辺りが砂に塗れていたのは、そのせいか…………借金は砂の除去の為に?」

 

「はい…………そのせいで学校の敷地も債権に出して、それでも賄いきれなくて、

 現在、アビドス高校の借金は9億6235万円まで膨れ上がりました」

 

(ほぼ10億円…………SSレート喰種で賞金は約2000万円くらいだから50体で完済か)

 

 聞いた事がない借金額に驚きながらも有馬は捕らぬ喰種の皮算用をする。そしてキヴォトスでは、流石に喰種ほどで無いが結構な数の賞金首がいる。有馬はあとでアロナに頼むことを脳内でリストアップする…………因みに、SSレート喰種は特等捜査官でも一対一での交戦は極めて危険である、複数体との戦いなどもっての外だ。

 

「利息も凄そうだが、返す宛てはあるのか?」

 

「ん、バイトとか賞金首を捕まえたり…………でも利息で精一杯」

 

「はい、そこで本日は先生も交えて解決策を考えようと思います! 

 先生も何か案があれば教えて是非下さい!」

 

 “金利とかどうなっているんだろう”と喰種相手に戦う以外にこれといって自身の人生に特色がない有馬は、それでも一応考えてみるが同じ様に賞金首を捕まえる以外に思いつかない。特にキヴォトスでは兵器が日常的に売買されている為か、かなりの額の金銭が湯水の如く使われる。この世界に来たばかりの有馬には荷が重かった。

 

(俺がとやかく考えるよりも、リンや連邦生徒会に何か聞いてみた方がいいかも知れな────)

 

「あ! じゃあさ、このゲルマニウムブレスレットを道行く人達に買って貰うっていうのはどう!? 売れば売るほどインセンティブが────」

 

「セリカさん…………それマルチ商法ですよ…………」

 

「そうそう、いくら貧窮に喘いでも人としての道を踏み外しちゃいけないよ? 

 ここは穏便に他校のバスをジャックして無理矢理転校手続きを────」

 

「一行目と二行目で人格が変わったんですか!? ホシノ先輩!?」

 

「なら皆でアイドルになりましょう!! 先生も学ランとか着て踊ってみませんか!」

 

「何故か先生の学ラン姿がしっくりきますが却下です! ノノミ先輩! 

 …………あと、さっきから静かですけどシロコ先輩は何してるんですか?」

 

「────―ん、銀行を襲う」

 

「うがああああああああああああ(ちゃぶ台返し)!!!」

 

(────いやそんな事は無さそうだ)

 

 姦しくギャイギャイワイワイと、女子高生達の慣れない空気に圧倒される有馬。取り合えずひっくり返されたちゃぶ台はキャッチしておいた。

 

 このままでは最強の(元)捜査官は、マルチ商法の片棒を担がされ、他校のバスジャック犯となり、銀行を襲った後に、マヨナカをオールナイトでダンシングさせられる事になる。いかに三十路故に女子高生の感性について行けないとは言え、そっとしておく訳にはいかない。

 

「ねぇ!? さっきから黙ってるけど有馬先生はどの意見に賛成なの!?」

 

「合法なのはアイドルだけだが決めるのは早くないか?」

 

「そんな博打じゃなくてさ~転入届を書かないとバスから出させなきゃいいんだよ~」

 

「詐欺と似たり寄ったりだと思うぞ」

 

「…………(スッ)」

 

「…………もしかして手作りか? この目出し帽」

 

「先生! 私! 先生とアイドルになりたいです☆

 多分8年位働いたら返済出来る気がします!」

 

「いや、俺は歌えないし踊れないし学生じゃないから。

 それにその時には四十歳だよ?」

 

「「「「「…………先生、歳いくつ?」」」」」

 

 何故かノノミが執拗にアイドルになりたがるのに押されながらも、日は暮れてゆく。

 

 

 

 

 

 




~実は慣れてない~

ホシノ「これって先生の車?」
有馬「レンタカーだけどな」
シロコ「ん、銀行を――――」
有馬「襲わせない………そうだ、昼ご飯は皆で街で取るか?」
ノノミ「わぁ~☆いいんですか?」
セリカ「じゃ、ラーメンでも食べる?」
アヤネ「では先生、お願いします」

白眉運転中

ホシノ「………ねぇ先生?」
有馬「………なんだ?」
ホシノ「ペーパードライバーでしょ」
有馬「………前の職場では部下に任せてたから」
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