「だんだん動き良くなってきてるよ、目を閉じないように頑張って」
「目を閉じない、目を閉じない〜.........ひぃん!?」
目を閉じないようにと自分でも呟きながら上手く盾で凌いでいたユメは結局眼前まで迫った仕込み杖の蛇腹剣を恐れて目を瞑ってしまう。
もちろんシュクは当てるつもりなど毛頭ないが、こんなものが迫ってくれば誰だって怖いだろう
「......集中、集中〜......」
だが、ユメもそこで終わらなかった。
シュクの仕込み杖の猛攻を一定の距離を取り続けて回避を織り交ぜつつ後退。
さらには防弾盾を地面に突き刺し、初めて腰のホルダーから拳銃を取り出して拳銃のスライドをひいてチャンバーチェック
「っここ!!」
仕込み杖のワイヤーが杖サイズまで戻った瞬間、ユメはシュクに向けて発砲。
ユメ、初めての反撃である
「わっ、と......」
シュクの体に銃弾が当たり、ユメの決死の一撃は間違いなくシュクに届いた
「や、やったぁ!!」
「すごい成長だよ、ユメちゃん」
蛇腹剣を杖状に戻し、ユメもまた盾を元の形状に戻した。
「特訓二週間、もうタンクとして教えられることは僕にないかな。アタックだってできるんだから」
シュクは嬉しそうに息を切らすユメをにこやかに見つめ________________
「でもまだまだ詰めが甘いかな」
「へっ?________________いあいっ?!」
シュクは完全に武装状態を解いたユメの頭を軽く仕込み杖で叩いてやる。
コンッ、と小気味の良い音が鳴り、ユメは涙目になりながら頭を抑えた
「ひ、ひどいよぉ......」
「誰もまだ戦闘終了だなんて言ってないもんね」
屁理屈のように思えるが、これもまたとっくの一部。油断したユメが悪いのだ
「......でも、もうこれで大丈夫だよ」
シュクはシュクが教えられることは大体教え込んだ。
よって、ユメもわかっているだろうが_________________
「これで、ユメちゃんは前より強くなれたと思うよ」
戦闘中には見せなかった穏やかな瞳にユメは少し魅入られたように見つめ返すが、シュクの言っていることはつまり免許皆伝。
ユメの戦闘技能が前よりも格段に成長したことを示していた。
「っ〜〜〜〜!ありがとうございました!シュクくん先生!!」
「うへへ、はい、お疲れ様でした」
今度こそ、シュクは武器を仕舞ってユメとの特訓を終えた。
その日からである。
ユメとシュクの距離が、傍目から見ても異常に近くなったのは
________________________________
「ねぇねぇ!駅前にケーキ屋さんができたんだって!」
「ほんとだ、これって有名なところじゃない?」
シュクとユメはいつものように生徒会室で仕事を終わらせ、駄弁っていた。
ユメはシュクにスマホの画面を見せ、シュクはそれを見ながら手元の書類をトントンと音を立てながら片付けている
「.........何がなんでも、近づきすぎじゃないですか?」
「そ、そうかなぁ」
ホシノがそう言うのも無理はないだろう。なぜならユメは________________
シュクに後ろから抱きつき、またもやその発育をシュクの頭に押し付けているからである
シュクは気にしている素振りはないが、少なからず男女の距離ではないだろう。
実際ユメも多少恥ずかしいのかいつもより頬が紅潮しているようにも見えた
「......兄さんもなんとか言ったらどうですか」
「無理だよぉ最近コンプラとか厳しいらしいし」
「だからって距離が近すぎです、離れてくださいユメ先輩」
「......やだ」
「なっ!?」
「私の特等席だもぉん!」
「そんな駄々をこねた子供みたいなことを......」
ユメはホシノに諌められたが、それで離れるどころかシュクの白桃色の頭髪に顔を埋めてさらに抱きつく。
やはりシュクは気にせず作業を続けている
「っ......おに......兄さんだって男の人なんですよ!適正な距離感を保ってください!」
「やだぁ!ホシノちゃんだってシュクくんにいっぱい抱っこしてもらってるの知ってるもん!」
「なっ、なぜそれをっ!?」
ホシノはついに席を立って今もシュクに引っ付き続けているユメを剥がそうとするが、逆にカウンターを食らった。
「だ、だからって今それは関係ないです!」
「あるもん!私もシュクくんに抱っこしてほしいもん!」
「限度があるでしょーが!!」
ついにはユメ自身も何を言っているかわからなくなってきているが、もう後にはひけぬのだ
「......ユメちゃん、あんまりわがまま言ったらダメだよ」
「ううっ......でも......」
「僕は別にどこにも行かないから。ホシノちゃんも、ユメちゃんをあんまり目の敵にしないであげて」
「っ......私はっ......」
「ごめんね、最近ホシノちゃんに構えなくて」
「そっ、そう言うことを言っているんじゃ......っ」
瞬間、ホシノの脳裏に己が義父の言葉がよぎった
『シュクが取られそうになって、嫉妬しているのだろうさ』
嫉妬
確かにその通りだ
ホシノは嫉妬していた。
ゲールマンの一言でそれが覚醒したのか、それとも昔からそれを自覚していたのかはわからないが、少なからずホシノはシュクにべったりな自分の先輩を疎ましく思っており、同時にそれが羨ましく思えたのだ
嫉妬というのは、言葉を返せば相手への羨望
『隣の芝生は青い』という言葉をご存知だろうか。
他人の持っている自分にはないものが、どうしても羨ましく思えること。
ホシノはユメを羨んでいた。ガンガン兄へ距離を詰めに行ける間柄、『幼馴染』
今まで自分を一番に考えてくれた兄が、愛情の方向が二つに分岐したのだ。何か物足りないと考えるのは自然なことだろう
逆に、ユメもまたホシノを羨んでいた。
自分は勇気を出して近づかなければいけない相手に、これまでもこれからも愛を注がれる『家族』という間柄に
「うへ、仲良くしてくれたら、僕も嬉しいから」
だがこの男はずっと呑気なのだ。
2人が悶々としているというのに、それを気にすらしないのだから
そしてユメはまだ離れない。ホシノは若干諦めている
「それにほら、これ見てよ」
シュクはそう言って一枚の紙切れのようなものを取り出した。
それは大分色褪せているが、はっきりとした色彩を映し出していた。
「......砂祭りのポスター?」
「知ってる、すっごく昔のお祭りだって......」
「倉庫から見つけたんだ」
そして、シュクはそれを太陽に翳してその絵を透かして目に通した。
砂をモチーフにしたとは思えない青い色彩。
まるで今はなきオアシスを描いたようなそれは、シュクの蒼色の瞳に溶け込んだ
「......いつか、アビドスにもたくさん人が来てくれたら________________」
「きっと僕のことなんて忘れちゃうくらい、いい出会いがあるだろうから」
ホシノもユメも、それを黙って聞いていた。
「___________は?」
「________________え?」
奇しくも、2人の声は重なった。