願いの物語シリーズ【ヒナちゃんねる2】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
隣の部屋で陽菜ちゃんが配信の準備をしている中、私は光佑さんと一緒に隣の部屋の映像を見ながら、沙也加ちゃんを待っていた。
とは言ってもいつ来るか分からないし。来るかも分からないと陽菜ちゃんは言っていた。
でも、私は出来れば会いたい、会ってちゃんと話したいと思ったのだ。
だって、今は離れてしまったけど、沙也加ちゃんは大切な人だから……。
しかし、不安な気持ちは消えなくて、手が震えてしまう。
そんな私の手に光佑さんは手を重ねてくれて、笑いかけてくれた。
「加藤さんと会うのは、怖い?」
「……いえ。このまま、終わってしまう方が、怖いです」
「そっか。なら、俺も頑張って説得しないとな」
「光佑さんは……」
「ん?」
「どうして、ここまでしてくれるんですか?」
「んー。そうだなぁ」
光佑さんは目を閉じながら小さく息を吐いた。
そして再び目を開いた光佑さんは何だか遠くを見る様な目をしたまま柔らかい光を放ちながら口を開く。
「俺にはさ。ずっと憧れている人たちがいるんだ」
「それって、大野さんって、人ですか?」
「晄弘は憧れともまた少し違う感じかな。ライバルっていう訳でも無いけど。友達……いや、親友って言葉が一番よく合う気がするよ」
「親友、ですか。良いですね。でも、大野さんじゃ無かったら……」
「誰の事かは、内緒だよ」
人差し指を立てて笑う光佑さんに私は失礼なことをしてしまったと頭を何度も下げながら必死に謝ったが、光佑さんは特に気にしていない様だった。
そして私を安心させる様に笑いかけると、続きを口にした。
「これから話す話は、誰にも話した事がない話だから、誰にも話しちゃだめだよ」
「……!」
私は光佑さんの言葉に口をキュッと閉めて、何度も首を上下に振った。
「ふふ。ありがとう。ひかりちゃん。……俺が多分人生で一番尊敬している人は二人いるんだけど、一人は名前の通り、太陽みたいな人なんだ。とは言っても、この人の事はひかりちゃんもよく知ってると思うから、詳しくは言わなくてもいいかな」
私は頭に朝陽さんの事を思い浮かべながら小さく首を上下に振る。
「それでね。今回話すのはもう一人の人なんだけどさ。その人はひかりちゃんみたいに不思議な物が見える人だったんだ」
「……未来が?」
「いや、その人は未来じゃ無くて、過去が視えたんだ。物とか人に焼き付いた記憶さ。それも気が遠くなる様な昔の物も頑張れば視えるらしい。とは言っても、あまりにも昔の事だとかなり疲れるからやりたくないらしいけどね」
「……過去」
「うん。そう。それで、その人はその力を使って、視てはいけないものを視てしまったそうなんだ」
「それは」
「詳しくは聞けなかったけど、神様と呼ばれる存在の蛮行だったと聞いている。その人の奥さんが、一番の親友と決定的な決別をしてしまった原因だとも言ってた。でも、それを見てしまったから、触れてはいけない物に触れてしまったから。その人達は罰を背負った」
「バツ」
「うん。そうだ。罰だ。その人の血を分けた子と、その人の奥さんが名を分けた子の命を十七の年に奪うという罰だ」
「そんなの!!」
私はその理不尽な行いに怒った。
光佑さんに怒っても仕方ないとは思っていても、我慢出来なかった。
そんな私の反応に光佑さんは何だか驚いた様な顔をした後、笑って何故かお礼を言われた。
でもその疑問を口にするよりも前に光佑さんは続きを話し始めた。
「だからさ。あの人はずっと戦ってたんだよ。過去を視る事で人に恨まれて、お金を稼いで、人脈を作って、何かあった時に備えようとした。でも、過去を視る事は出来ても未来を視る事が出来なかった。だから、ひかりちゃんには感謝してるんだ。あの人は、例え血が繋がってなくても、家族としての公的な証明が無くても、娘の様に思って、大切にしていたからね」
「……? えっと?」
「まぁ、そんな訳でさ。その人はひかりちゃんに凄く感謝してるんだ。俺もね。だから、ひかりちゃんの為に行動がしたいって訳さ」
「な、なるほど?」
まったく意味は分からなかったけど、詳しく教えてくれる様な状態には視えなかったため、私はそれ以上何も言わずに頷く。
「それに、ね。俺はその人が、過去を視る事が出来るって事で苦しんできたのを知ってるんだ。謂れのない暴言を吐かれる事だってあったらしい。そして多くの人がその力を使わせる為に酷い事をしてきたのもね。だからさ。その人……いや、俺も、ひかりちゃんがそういう目に遭って欲しくないって思うんだよ。未来が視えるっていうのは、きっと過去を視る事よりも、人の欲望を惹きつけるものだからね」
私は真剣な眼差しで私を見る光佑さんに何もいう事が出来なくなっていた。
でも、気持ちは痛いほどに伝わった。
そして、私は、私という人間が、私が思う以上に危険な存在なんだと少しだけ理解した。
だからこそ、私はちゃんと沙也加ちゃんと話し合わないといけないんだって、よく分かったのだった。
そう、私が理解してすぐに、私たちが居た部屋の扉が勢いよく開かれたのを感じ、そちらへ視線を向けると、そこには息を切らした沙也加ちゃんが立っているのだった。
「ひかり! それに……立花君」
部屋に入ってきた沙也加ちゃんは私の前に来ると私と光佑さんを交互に見ながら何かを言いかけてから口を閉じる。というのを繰り返していた。
そんな沙也加ちゃんを見ているのは辛くて、私は沙也加ちゃんに椅子に座って欲しいと言い、自分も沙也加ちゃんの隣に改めて座り直す事にした。
「何から話そうか」
「なに、から?」
「これからの話とか、これまでの話とかさ」
「これから、って。また、アイドルをやるとか……その、一緒に住む、とかは、駄目なの?」
沙也加ちゃんは弱弱しく手を震えさせながら泣きそうな顔で呟く。
そんな沙也加ちゃんに私はさっき光佑さんがやってくれた様に沙也加ちゃんの手を私の手で包みながら笑う。
それだけで沙也加ちゃんは不安そうな顔から少しだけ表情を明るくさせた。
それが、なんだか嬉しくて、私は流石光佑さんだと、自分の友達が誇らしくなる。
「沙也加ちゃん。私ね。もう芸能界には戻らないよ」
「っ」
「それに、沙也加ちゃんの家にずっと閉じ込められるのも、嫌なんだ。私は、もう暗い部屋の中で膝を抱えていくのは、嫌なの。私はこの世界に生きている意味が欲しい。誰かの為に、生きたいんだ」
「なら! なら、私の為に生きてよ……ひかり」
「沙也加ちゃん……」
悲し気に、迷子の様に、沙也加ちゃんは私に縋りつく。
私はそんな沙也加ちゃんを見て、何を言えば良いか分からず、動きを止めてしまった。
情けない。
こういう時に、対人関係の弱さが出るのだ。
光佑さんや陽菜ちゃんならもっと、言葉がスラスラと出るのだろうに、私は、なんて情けないのだろう。
「さっきから黙って聞いてれば。情けない姿ね。リーダー」
「……?」
「まぁ良いんじゃない? 沙也加もずっと気ィ張ってるのも大変でしょ」
「由香里……アンタ、フォローしなさいよ」
「フォローって言われてもねぇ。結局沙也加はひかりじゃないと満足出来ない体になっちゃったし」
「言い方!」
「アハハ。久しぶりなのに鋭いツッコミだねぇ。美月?」
「そんなに時間経ってないでしょ」
私は呆然と入り口の近くに立っていた二人を見ていた。
そしてそれは沙也加ちゃんも同じだったようで、先ほどまでの暗い顔はどこへやら、前に私たちが一緒に居た時の様に口をぽかんと開けて、少し間の抜けた顔をしていた。
「二人とも、なんで……?」
「なんでってヒナちゃんねるに呼ばれたんじゃないの? いや、まぁなんでって言われれば美月の方が『なんで?』なんだけど」
「何? 私が居ちゃだめって訳?」
「そういう訳じゃないけど。アイドル辞めたでしょ? 美月の性格考えたらもう関わりたくないって言いそうだし」
「まぁね……でも、まぁ。少し、気になったしね」
美月ちゃんはそう言いながら私に視線を送った。
そして病室で会った時の事を思い出す。
そう言えば、結局呼ばれなかったから、あの時の約束を守れていなかったのだ。
「ん? なに? ひかりと美月って何かあったの?」
「うん。メイド服で美月ちゃんのお部屋のお掃除しないといけないんだ」
「ちょっと! ひかり!!」
「は? なに? 美月、そういう趣味あったの?」
「ちがっ、違うから! 勘違いしないでよ! ひかり! 情報は正確に伝えなさい!」
「あー。うん。そうだね。ちゃんと覚えてるよ。メイド服着て一生ご奉仕するんだよね?」
「ひかり!!!」
「あぁー。美月。そういう趣味だったんだね。まぁ、確かにひかりってばスタイル良いからなぁ。なるほどなるほど」
「違うからね!! リーダー勘違いしないでよ!? 由香里も! ひかりは適当な事言わないの!」
「でも~。美月ちゃんそう言ってたし~」
「違うでしょ! 私は、実家の大掃除を頼んだの!」
「あはは。そうだったね」
「アンタ。分かっててやってるでしょ? 確信犯でしょ? 正直に言いなさい。痛めつけてあげるから」
「きゃ~。こわいー。沙也加ちゃんたすけてぇー」
「ひ、ひかり……ふふっ。そうだね。美月。あんまり、ひかりを虐めちゃ駄目だよ」
「リーダーはすぐにひかりの肩を持つ! 平等でアレ!」
「アハハ。懐かしいなぁ」
「本当にね。でも良いんじゃない? これから私たちはスターレインとして出るんだからさ。たまには」
「そうだねぇ。たまには」
「うん。私も良いと思うよ。ね? 沙也加ちゃん」
「……ひかりは、私と一緒でも良いの?」
「うん。ずっとはまだ分からいし、選べないけど。沙也加ちゃんは、大切な友達だから。親友だから。一緒が良いんだ」
「そっか……そうなんだね。うん」
私はただ静かに目を閉じながら涙を流す沙也加ちゃんの頬に流れる涙を見つめた。
その一粒の涙には多くの感情が込められているのだろう。
見ようと思えば見えるけど、私はその光から目を逸らした。
きっと、それは見てはいけないものだから。
「スターレインの皆さん。お揃いみたいですね」
そんな中、スタッフさんが話しかけてきた。
私たちは笑顔で頷いて、ヒナちゃんねるの出演準備をするのだった。
「はい。こんばんは。今日はね。超スーパースペシャルゲストが居るんだよ?」
「は? 超を二回言ってる? 煩いなぁ。細かい事ばっかり言ってるとハゲるよ? あぁ。もうこれ以上髪の毛は抜けないか」
「アハハ。ごめんごめんて。じゃあ紹介しようかな。この人たちは私が凄く感謝してる人たちなんだ」
「そう。私がアイドルとして活動する第一歩を助けてくれた人たちだよ」
「お。察しの良い人は気づいてるみたいだね」
「じゃあ呼ぼうか!」
「私のお友達を」