俺は四郎。この時代だから当たり前に名字はない。年齢は言わないし性別も言わない。なぜならそういう時代だからだ。だが俺は男よりも女のほうが好きだ。俺は中学生のとき初めて彼女ができた。その子の名前は、折湯ユリオ。付き合い始めてから1週間経った頃、彼女に誘われてラブホテルに行った。年齢はまあ誤魔化せたんじゃないか? で。そのラブホテルでいざおっ始めようとしたとき、ロビーで人が殺されたと電話が入る。その瞬間、俺と俺の息子は萎えてしまった。ユリオはやる気満々だったが俺は纏わりついてくる彼女の手から逃れて1階まで走った。いや。この話はまたいつかしよう。──────マゴリはかつて、暴走家の一員だった。しかし、彼女が拳銃を手に入れたことで世界が変わる。世界というのは、ワールドのことではない。ワールド。つまり世界という意味ではない。ひとりの人間が世界を変えることは異常に難しいとされている。マゴリだってそれを知っている。マゴリに限らずみんなが知っていることである。マゴリの世界。つまりはマゴリの世界である。彼女の目に映る世界。彼女という世界。世界とは、脳である。誰の脳か? もちろん彼女、マゴリの脳みそである。彼女の脳みそは少し特殊で、脳がほとんど入っていない。頭の中に。それゆえに、マゴリは記憶力や思考力が著しく低いためにいじめられていた。いわば障害者、のようなもの。で、いじめは当然のように発生した。これは仕方がないと、彼女の両親は言った。もう最初から諦めていたのだ。しかしそんな両親の態度とは真逆だったのがマゴリである。マゴリは決して諦めるということを知らない人間だった。知らない理由は簡単で、頭が単純に小さく悪いからである。頭が小さく悪いことは、デメリットばかりではなかった。マゴリは美しかった。脳がほとんど存在しないおかげで頭が小さく、目鼻立ちも整っており、いじめを受けた原因のひとつとして彼女の美しさが挙げられるだろう。「あいつ、脳がめちゃくちゃ小さいらしいぜ! 殴ったら凹むんじゃねw」「それマジ?」「うおすげーじゃん。じゃ殴ってみっかw」「ひゃははは!」「おい、マジで凹んでんぞw」「あっ! 写真撮ろうよ写真」「よし。おっしゃマゴリ。こっち向けや、写真撮るから」「お前みたいなブスと一緒に撮ってやるんだから感謝しろよおい」「おいなんか言えやコラ!」「ちょっとー。あんまり怪我させちゃまずいっしょw」「ええやろ別に。コイツの親はもうコイツのことどうでもいいと思ってるって噂聞いたしw」「え。あそうなん。あーかわいそ」「あれれれれ? かわいそうでちゅねw 飴玉あげまちゅうううう!!」「だめー! あげませぇ〜〜んw」「おおそれひどいてw」「てか飽きた。コイツ全然喋らんし」「それなー」「帰ろうぜ。な?」「いいけど凹んでるコイツどうすんの?」「ほっとけば勝手に膨らむやろw」「そうやね。じゃ、ばいばいな〜マゴリちゅわ〜んw」「きめえ!」「はいはい帰ろ。こんなブス置いといてさ」「マゴリちゃんばいばぁ〜い!」「ぎゃはっ」という風に、彼女はよく揶揄いの標的となっていた。しかし何も言い返したりはしなかった。余計に酷くなることを知っていたからである。その程度の思考力はあったのだ。だがここで考えるべきなのは、実際のところ彼女はどれほどの知能を有しているのか、という話である。