絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める   作:

12 / 17
新キャラ登場です。


第8軒:味処 花風(かふう)

 

【美玲視点】

 

私は、清楚系ギャルである――少なくとも、外見的には。

ふんわりカールの黒髪ロング。ピアスは小さく上品に。リップはピンクベージュ。

ネイルは透け感のあるピンクベースで、ラメは最低限。

 

そして極度の潔癖症である。

 

カバンには常に除菌シート×4、アルコールスプレー(無香料)、使い捨て手袋(マットピンク)。

家ではドアノブとスマホを一日3回拭くし、外食時はカトラリーを最低2回ふく。

……けれど、人前では“普通の女の子”を装っている。特に、照真くんの前では。

 

照真くん――背が高くて、ちょっと無愛想だけど、笑うと可愛い。

清潔感がある。字がきれい。物を丁寧に扱う。

私の理想が、彼の中には“静かに全部そろっている”。

 

だから今日、くれはちゃんと葵と照真くんが「ご飯行こう」と話しているのを耳にしたとき――

私は反射で、口を挟んでいた。

 

「え、楽しそう! わたしも行っていい?」

 

***

 

【問題の店:『味処 花風(かふう)』】

 

見た目は普通だった。少し古びた和風の外観。

看板には「素材にこだわる、昔ながらの味」とある。

 

……が、店内に一歩踏み込んだ瞬間、私は悟った。

 

あ、これヤバい店だ。

 

テーブルはベタつき。

水のグラスには“曇りと小さな浮遊物”。

トイレからの空気が店内に流れ込んでいる意味不明な構造。

 

でも、照真くんが平然と座っている。

くれはちゃんは、満面の笑みで「この店、レビューひどくて逆に気になって」なんて言ってる。

 

私は――除菌スプレーを握りしめた手を、そっとカバンの中で止めた。

 

「……ふふ、なんか懐かしい感じの店内だね」

喉が震えながら、いつもの“清楚ボイス”を出した。

 

葵が横で私の目元をチラ見した。

たぶんバレてる。完全にバレてる。

 

***

 

【注文:日替わり定食】

 

メニューは雑にラミネートされており、ところどころ醤油らしき染みがある。

日替わり定食は「焼きさば&だし巻き玉子」。

 

悪くない……と自分に言い聞かせた。

 

が、運ばれてきた皿を見て――限界が訪れた。

 

・焼きさば→半分黒焦げ、もう半分は明らかに生っぽい

・だし巻き→端が緑がかっており、たぶん前日の再加熱

・ご飯→黄色がかっており、なぜか中央がぬるく外が冷たい

・味噌汁→表面に“何かの皮”が浮いている。豆腐は量が多い上にくずれて飛散。

 

 

「……すごいね……焼きのムラ……芸術だ……」

くれはちゃんが真顔で言った。

 

「これ、味噌汁の豆腐が“鶏そぼろ”みたいになってる……」

葵が遠い目でつぶやいた。

 

照真くんが、笑った。

 

「この店、家族経営っぽいし、たぶん昔からこうなんだろうな。……まあ、ちょっと胃には重いけど」

 

その笑顔が――あまりにも自然で、“ふつう”で――私をさらに追い詰めた。

 

私は震える指で箸を取り、サバの“黒い部分”を避けて、端のほうを小さくちぎる。

 

内心では叫んでいた。

(ちがうちがうちがうこれ無理火通ってないアルコールスプレー今すぐ出したいグラス拭きたい)

 

でも、私は――飲み込んだ。

 

***

 

【食後】

 

「大丈夫? 美玲、顔色やばいよ」

葵が心配そうに言った。

 

「ちょっと……寝不足かな」

私は笑った。

涙目で。

 

照真くんが、レジ前で言った。

 

「またどっか行こうよ、今度はもうちょっとちゃんとしたとこでさ」

 

その一言に、私は一瞬、空気を吸い直した。

 

「うん……次は、今風のおしゃれなとこがいいな」

 

くれはちゃんが笑った。

 

「そうだね。任せて。お店はちゃんと私が探しておくよ」

 

その声に力無く私は肩を落とすのだった。

 

(くれはちゃんって、怖い……!)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。