絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
【美玲視点】
私は、清楚系ギャルである――少なくとも、外見的には。
ふんわりカールの黒髪ロング。ピアスは小さく上品に。リップはピンクベージュ。
ネイルは透け感のあるピンクベースで、ラメは最低限。
そして極度の潔癖症である。
カバンには常に除菌シート×4、アルコールスプレー(無香料)、使い捨て手袋(マットピンク)。
家ではドアノブとスマホを一日3回拭くし、外食時はカトラリーを最低2回ふく。
……けれど、人前では“普通の女の子”を装っている。特に、照真くんの前では。
照真くん――背が高くて、ちょっと無愛想だけど、笑うと可愛い。
清潔感がある。字がきれい。物を丁寧に扱う。
私の理想が、彼の中には“静かに全部そろっている”。
だから今日、くれはちゃんと葵と照真くんが「ご飯行こう」と話しているのを耳にしたとき――
私は反射で、口を挟んでいた。
「え、楽しそう! わたしも行っていい?」
***
【問題の店:『味処 花風(かふう)』】
見た目は普通だった。少し古びた和風の外観。
看板には「素材にこだわる、昔ながらの味」とある。
……が、店内に一歩踏み込んだ瞬間、私は悟った。
あ、これヤバい店だ。
テーブルはベタつき。
水のグラスには“曇りと小さな浮遊物”。
トイレからの空気が店内に流れ込んでいる意味不明な構造。
でも、照真くんが平然と座っている。
くれはちゃんは、満面の笑みで「この店、レビューひどくて逆に気になって」なんて言ってる。
私は――除菌スプレーを握りしめた手を、そっとカバンの中で止めた。
「……ふふ、なんか懐かしい感じの店内だね」
喉が震えながら、いつもの“清楚ボイス”を出した。
葵が横で私の目元をチラ見した。
たぶんバレてる。完全にバレてる。
***
【注文:日替わり定食】
メニューは雑にラミネートされており、ところどころ醤油らしき染みがある。
日替わり定食は「焼きさば&だし巻き玉子」。
悪くない……と自分に言い聞かせた。
が、運ばれてきた皿を見て――限界が訪れた。
・焼きさば→半分黒焦げ、もう半分は明らかに生っぽい
・だし巻き→端が緑がかっており、たぶん前日の再加熱
・ご飯→黄色がかっており、なぜか中央がぬるく外が冷たい
・味噌汁→表面に“何かの皮”が浮いている。豆腐は量が多い上にくずれて飛散。
「……すごいね……焼きのムラ……芸術だ……」
くれはちゃんが真顔で言った。
「これ、味噌汁の豆腐が“鶏そぼろ”みたいになってる……」
葵が遠い目でつぶやいた。
照真くんが、笑った。
「この店、家族経営っぽいし、たぶん昔からこうなんだろうな。……まあ、ちょっと胃には重いけど」
その笑顔が――あまりにも自然で、“ふつう”で――私をさらに追い詰めた。
私は震える指で箸を取り、サバの“黒い部分”を避けて、端のほうを小さくちぎる。
内心では叫んでいた。
(ちがうちがうちがうこれ無理火通ってないアルコールスプレー今すぐ出したいグラス拭きたい)
でも、私は――飲み込んだ。
***
【食後】
「大丈夫? 美玲、顔色やばいよ」
葵が心配そうに言った。
「ちょっと……寝不足かな」
私は笑った。
涙目で。
照真くんが、レジ前で言った。
「またどっか行こうよ、今度はもうちょっとちゃんとしたとこでさ」
その一言に、私は一瞬、空気を吸い直した。
「うん……次は、今風のおしゃれなとこがいいな」
くれはちゃんが笑った。
「そうだね。任せて。お店はちゃんと私が探しておくよ」
その声に力無く私は肩を落とすのだった。
(くれはちゃんって、怖い……!)