絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
【葵視点】
港町の風は心地よく、空は澄んでいた。
今日はくれはと二人で“観光ガイドに載ってたスポット”を巡る予定だった。
海辺のベンチでちょっとだけ休憩して、
「そろそろお昼にしよっか」って話してた時。
くれはが、例の声で言った。
「……あそこ、どうかな?」
指差した先にあったのは――
『豪快!地魚きらめき丼 本店』
白い壁。手描きの看板。写真付きメニューが入り口に貼ってある。
サーモン、イクラ、ウニ、ホタテ……眩しいまでに“完璧な海鮮丼”のビジュアル。
「ねぇ……くれは。言っとくけど私、信じないからね? この豪華写真。ぜったい加工してあるよ」
「わかる。でも、この手の“映えるのに妙に空いてる店”が本物なんだよね……」
「“本物”って言い方やめて!! それ不味い方の“本物”でしょ!!」
……でも、くれはの目が光ってた。
入らないという選択肢は、なかった。
***
【店内】
・BGMは微妙に音割れしてる演歌
・壁には「地魚命」と墨で書かれた額縁(ヒビあり)
・カウンター席には誰もいない。客は私たちだけ
「すごい静かだね……観光地のど真ん中なのに……」
「静けさは“信号”だよ。“誰も踏み抜いてない地雷があるよ”っていう」
くれは、何それ名言!? 違う意味でゾクっとしたんだけど!?
メニューを開くと、案の定――
> ◆地魚たっぷりきらめき丼(¥1980)
◆ぜいたく三色丼(¥2200)
◆ウニとろとろ丼(¥2500)※入荷不安定
「……高くない?」
「安心して。**高くて不味いのが“絶飯界のS級”**だから」
「そんな安心いらない!!」
私たちは定番の「きらめき丼」を注文した。
……これが、地獄の入口だった。
***
【料理登場】
まず目に飛び込んできたのは、“ありえない光沢”。
マグロ、サーモン、イカ、エビ、ホタテ、イクラ――
まるで**“ニスを塗った食品サンプル”**みたいにテカっていた。
■ 問題点その1:冷たすぎる
・刺身が“キンキンに冷えてやがる”レベル。
・酢飯までガチガチ。噛むたびに口内の水分が持っていかれる。
■ 問題点その2:魚の質
・サーモン→脂が回って“ぬるっ”とした口触り
・マグロ→繊維が崩壊していて、噛むと“粉”
・イカ→噛み切れず、靴底感
・イクラ→異様にしょっぱい。“味というより罰”
・エビ→たぶん解凍ミス。“生温かい透明物体”
「くれは……なにこれ……全部、“魚の幽霊”みたいな味する……」
「“きらめき”って、“死後の光”だったんだね……」
「ポエムじゃないからこれ!!現実なの!!」
くれは、スプーンを置いてじっと海鮮丼を見つめた。
「このマグロ、“嘘つき”の味がする」
「え!? マグロに人格あるの!?」
「ううん、わかる。『私はマグロです』って顔してるけど、口に入れると『すいません、違いました』って謝ってくる」
……怖い。納得できるのが怖い。
***
【退店】
結局、半分でギブ。
会計時、店主のおじさんに「どうだった?」と聞かれて、
くれはは満面の笑みで答えた。
「すごかったです。味覚じゃない場所で感じる味って、あるんですね」
私は震えた。
店を出ると、海風が吹いていた。
でも、私たちの口の中には、“冷たい魚の余韻”だけが残っていた。
「……ねぇ、今日のやつ、夢だったことにしない?」
「うん。でも、ちゃんと写真撮ったから、“忘れない夢”になるよ」
「くれは、お願いだからそういう時だけ記憶力良くするのやめて!!!」
でも――
二人でしか見れなかった“あの味”を、きっと私は忘れない。
そして、絶飯はまだまだ、私たちの旅の先に待っている。