絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
【くれは視点】
夜の観光地は、昼間の喧騒が嘘みたいに静まり返る。
宿に戻った葵はすでに眠っている。
私は静かにサンダルを履いて、宿の裏口から抜け出した。
――まだ、終わってない。
今日の“きらめき丼”は確かに絶飯だった。でも、あれはまだ“浅い”。
本物の絶飯は、もっとこう――**“生理的な違和感が首を絞めてくる”**ような、
そういう場所にしか存在しない。
スマホを見ない。Googleマップも開かない。
ただ、歩く。
あえて裏通り。人の気配がなく、街灯の少ない筋を選ぶ。
そこで、見つけてしまった。
【店:味乃たましゐ】
■ 看板
・筆で殴り書きしたような文字:『味乃たましゐ』
・“ゐ”の字が上手く書けずに潰れてる。
・照明はオレンジ色の裸電球。蛾が三匹止まっていた。
■ 外観
・木造二階建て。1階は窓がなく、内部は完全に見えない
・玄関のガラス戸に手形のような脂跡
・ドア横に書かれた文字:「独鍋歓迎」「胃に訴ふ味」
(うん、ここだ)
吸い寄せられるように、引き戸を開けた。
***
【店内】
・畳敷きの小上がりにテーブル2つ
・天井に近い場所から異様に低い音のラジオが流れている
・壁には「魂鍋」「湯煮」「噴撃鍋」などの謎メニューが墨書きで貼られている
・客はゼロ。店主らしき男がカウンター奥に、顔の半分が影に沈んだ状態で佇んでいる。
「……いらっしゃいませ、ひとりで……?」
「はい、ひとりで」
「…………“魂”、入れますねぇ」
会話が、意味ではなく“雰囲気”で成り立ってる。
***
【メニュー選択】
置かれたメニュー表は、何かの紙の裏面に手書きされていた。
> ・魂鍋(塩味)
・魂鍋(醤油)
・魂鍋(赤)
・魂鍋(白)
・“声鍋” ※品切れ
ええと。1番ヤバそうなのは……。
「……“赤”で」
「…………ふふ、ようこそ、“たましゐ”へ」
厨房へ戻る店主の背中が、どこか透明に見えた。
***
【料理到着:魂鍋(赤)】
やがて、火の入った鍋が運ばれてきた。
まず、匂いが異常。
■ 嗅覚への第一波
・獣の脂と、古い味噌の焦げたような臭い
・そこに、微かに“甘ったるい香水のような残り香”が混ざっている
・火にかけて蒸気が上がるたび、部屋の空気そのものが重くなる
鍋の中には――
・ピンクがかった肉(部位不明)が、くたくたに煮込まれている
・野菜はキャベツと謎の白い球体(根菜ではない)
・表面には“何かの膜”がうっすら張っていて、スプーンを入れると膜が“破裂音”とともに裂けた
「……はじまったな」
これぞ真の鍋。ワクワクが止まらない。
***
【味覚レビュー】
■ 一口目(スープ)
・熱くない。ぬるい。なのに、舌に刺さるような塩気
・後味に、異常な“酸味”が残る。乳酸系ではなく、歯医者で嗅いだことのある刺激臭
・スープを飲むと、胃が反射的に“後退”するような感覚
■ 二口目(肉)
・嚙んだ瞬間、繊維が“歯の裏”に貼りつく
・味はなく、臭みだけが残る。でも喉を通るとき、やけに滑る
・食べ終えた瞬間、なぜか唇がピリついた
■ 三口目(白い球体)
・柔らかい。いや、柔らかすぎる。
・噛むと中から“甘じょっぱい液体”がじゅわっと染み出す
・素材は不明。食感は解凍したこんにゃく……いや、杏仁豆腐+膨らんだティッシュ
私はゆっくり箸を置いた。
そして、スープを再びひと口すすり――
吐き気に近い“拒絶反応”とともに、妙な笑いが込み上げてきた。
(ああ、これは“味”じゃない。“生命”だ)
壁の貼り紙を見上げると、こう書かれていた。
> 「一人ひとりの“たましゐ”に、答えは出るのです」
……たしかに、出た。
私の“魂”は、今この瞬間、口から出て行きそうになってる。
***
【退店】
店主は無言でレジを打った。
「ごちそうさまでした」と言った私に、
彼はただ、こうつぶやいた。
「また、あなたはここに来るでしょう……」
「……そうですね。まだ魂が……胃に残ってたら」
私は店を出て、夜風に当たった。
口の中にはまだ、“白い球体の甘さ”が残っていた。
でも、それでも――
私の絶飯巡礼に、“またひとつ確かな証”が加わった。
参考に「1番もっと見たいと思ったテーマ」を教えてください!
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くれはの絶飯一人旅
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くれは&葵(その他)の絶飯巡礼
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VSくれは 料理人視点