絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
意外と拮抗しててびっくりしました。
【くれは視点】
翌日、昼の海鮮丼に夜の魂鍋――
「味覚的に死んだ翌日」だった。
さすがに今日は控えようと思っていた。
本当に、思っていた。
夜になっても胃がずっしり重く、
口内には未だ「白い球体の甘さ」が居座っていた。
だが。
ロビー奥の“共用冷蔵庫”を見つけてしまった。
その中に、白いトレイが一つ。
ラップで包まれたおにぎりが、6個並んでいる。
上に貼られた紙には、こう書かれていた。
「ご自由にお召し上がりください」
※本日の具:日替わり(ご確認ください)
“確認してください”って、なんだ。怖い。
でも、私は手を伸ばした。
ラップ越しでも、明らかにご飯が締まっていた。
***
【共用スペース:深夜0時】
誰もいない談話室のテーブル。
白熱灯が1灯だけ灯るなか、
私は黙って、電子レンジにおにぎりを入れる。
“チン”の音が、不気味なほど響いた。
テーブルに座り、慎重にラップをはがす。
見た目は……悪くない。
少し乾燥して表面がひび割れてるくらい。
でも中身は――見えない。
おそるおそる、かぶりつく。
……第一感想:
「米が、指示を待ってる」
***
【味覚レビュー】
■ 外米(表面)
・カチカチ。冷蔵庫の奥で乾いたような、**“壁紙の裏に貼りついてた米”**のような味
・歯で噛むと“くしゅっ”という音が出る
・温めたのに冷たい。熱と冷の層が交互に現れる
■ 内米(中心)
・明らかに“熱が届いてない”。
・芯がある米+中心に染み込んだ謎の汁が、唾液腺を黙らせる
■ 具材:……何かの魚?
・噛んだ瞬間、甘い味噌のような何かがぬるっと出てきた
・すぐに感じる、酸味。
・次いで、軽い苦み。最後に何も残らない。記憶すら持っていかれる系の味。
もう一口――
■ 二個目(昆布おにぎり)
・具が入っている部分だけ、異様にしょっぱい
・しかも海苔が部分的に再発酵してるのか、ぬめりがある
・まるで、**“昆布の怒り”**を食べてる気分になる
私は、箸を置いた。
いや、握り飯だった。握りを、置いた。
これは、善意の皮をかぶった、完全なトラップだ。
冷蔵保存。提供者不明。具材は未確認。
“口に入れて初めて全容が判明する”というタイプの絶飯。
つまり――地雷。
***
【その後】
私は結局、一個と半分を食べて諦めた。
だが、席を立つ直前――
トレイの上に、ふと気づいた紙切れが一枚。
「本日の具:焼き味噌・煮魚佃煮・梅みりん・しそ味・???」
“???”ってなんだよ。
全身の細胞が、今日の敗北を受け入れた。
そして私は悟った。
絶飯は、料理屋の中だけじゃない。
冷蔵庫の奥でも、
誰にも知られず、
今日も味覚を試してくる。
私は口の中の味を、宿の自販機のミネラルウォーターで薄めながら、誓った。
──**「次は、冷蔵庫の中身にも心を許さない」**と。
──共用冷蔵庫の闇に、今日もまた、ひとつ灯が消えた。