絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
――「もう、私が選ぶ! 今度こそ“まともな”カフェ行くから!!」
【くれは視点】
その宣言は、いつもの放課後。
ベンチで胃薬を飲んでいた葵が、ついにブチギレた。
「いや、くれはさ。ここ最近の外食、何が“絶飯”じゃなかったか言ってみ?」
「うーん……“絶飯じゃなかった飯”は……なかったね」
「それ! そういうとこ!!」
そうして葵が選んだのが、駅前に最近できたばかりのカフェ。
白い壁にドライフラワー、SNSでは“穴場で映える!”とそこそこバズっていた。
名前は――『Cafe NIL(ニル)』
「“ニル”ってどういう意味?」
「知らない。でも響き良くない?」
「“無”って意味なんだけどな……」
「やめてくれその絶飯レーダー!!」
***
【店外】
新築のビルの1階。
ガラス張りのファサードに、白い壁。
外からはテーブル席と観葉植物。BGMは静かに流れるピアノジャズ。
一見、まったくの普通。
「ね、ね! ちゃんとしてるでしょ!?」
「うん。今のところ“絶飯”じゃない匂いがしない。むしろ無臭」
「“してない”んだからやめて!? 予言しないで!」
私たちは扉を開けて、カフェに入った。
***
【店内】
ドライフラワーの装飾、淡い色の家具、統一感のあるメニュー表――
完璧な“女子カフェ感”。
だけど、少し気になる点があった。
・空調が微妙に湿っぽい
・客が少ない(インスタでは人気と聞いたのに)
・メニューの写真がすべて“やけに加工されている”
・店員の動きが、ちょっとぎこちない。新人研修かな?
でも、葵は満足そうだった。
「はい! くれはもこれ頼んで! 写真撮ってインスタに載せよ!」
「うん。じゃあ、私は“焦がしキャラメルプリン”と“ハーブミルクティー”で」
「私は“苺とピスタチオのパフェ”と“アイスカフェラテ”ね!」
注文が通る。
そして、何も知らなかった私たちに、“食の無慈悲”が牙を剥いた。
***
【料理登場】
まずは葵のパフェが到着。
見た目は完璧。苺の赤、ピスタチオの緑、グラスに盛られたクリームとアイス――でも、何かおかしい。
「……ねぇ、このアイス……溶けてなくない?」
「……ん? 確かに……っていうか、これ“アイス”?」
葵がスプーンを刺すと、ガリッという音。
「固っ!? なにこれ!? プラスチック!?」
「食べてみて」
一口。
……甘く、ない。
苺ソースが……“しょっぱい”。いや、“酸っぱくてしょっぱくて水っぽい”。
ピスタチオのムースは……粉っぽくて、ザラザラしていて、味がしない。
「これ、味が“設定されてない”感じしない……?」
「“見た目だけにパラメータ全振り”ってやつだね」
「いやRPGのキャラメイクじゃないから!」
そして私のプリンが来た。
……炭だった。
焦がしキャラメル? 違う。黒光りした“表面が割れるレベルの硬さ”。
スプーンを入れると、“コンッ”という乾いた音が響いた。
「これプリンじゃなくて“グレーズ加工済みの岩”だよ……」
中は……すが入りすぎていて、空気の泡だらけ。味は卵っぽいけど、あとからくる異様な苦味。
「焦がしたというより“焼けすぎたレバー”みたい……」
葵は、そっとパフェを置いた。
「……ごめん。私……やらかした」
「ううん、いいチョイスだった。今日のは“見た目絶品系絶飯”として最上級だよ」
「違う! そういう褒め方やめて!」
さらに来たハーブミルクティーは、ぬるい。甘くない。ミルクが分離している。
葵のアイスカフェラテは……氷が“氷じゃない”。
溶けない。舐めたら、薄いゼリーだった。
「えっ、なにこれ。偽物!? スライム!? えっ溶けない!?」
「凝ってるね。“氷っぽく見えるけど氷じゃない演出”」
「意味がわからない!!」
***
【他の客】
となりの席の女子大生グループが、明らかに不満そうに囁いている。
「これ、写真と違くない……?」
「なんか、味ないんだけど……でも、言いづらい……」
「え? クレーム言っていいかな? てかこれ“映え専用”? 食う前提じゃないの?」
そのうち一人が立ち上がり、店員に言った。
「すみません、このケーキ、苦すぎて……」
「あー、それ“焦がしの演出”です」
「演出って……食べ物じゃないの?」
言い合いになる気配を察して、私たちはそっと目を逸らした。
葵はすでに目を伏せていた。
「私が……“絶飯”を……引いた……」
私は静かにプリンの最後の一口を運んだ。
苦くて苦くて、口の中が空になるような一口。
でも、私は満足だった。
これはこれで、“自分じゃ絶対に選ばない絶飯”。だからこそ、価値がある。
「ありがとう、葵ちゃん。今日の一杯、忘れないよ」
「いやだあああああああああああ!!!!」
***
【帰り道】
「ごめん……私、もう“見た目がいい”だけじゃ信用しない……」
「それが絶飯の一歩目だよ」
「私、絶飯に“染まって”るの……?」
「うん。でも、君はまだ戻れる」
「戻る!! 絶対戻るから!!」
くれはの笑顔が、どこか神々しく見えた。