絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める   作:

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ちょっとだけラブコメ?要素を追加しました。


第6軒:居酒屋 ふじなみ

 

――「くれは、たまには“ふつうのご飯”食べようよ」

 

【葵視点】

 

もう慣れた。慣れたくなかったけど、慣れてしまった。

 

駅から10分、住宅街の奥にある古びた居酒屋『ふじなみ』。

のれんの文字が薄れすぎて「ふ し な み」になってるのはもう気にしない。

 

問題は、ここが「昼だけやってる居酒屋で定食が“致命的”」という情報をくれはがどこからか仕入れてきたことだった。

 

「昼だけ営業の居酒屋って、妙に侘しさがあるでしょ?」

 

「それ絶飯ポイントじゃないから……」

 

でも今日は少し気分が違った。

なぜなら――一緒に来たのが“くれはだけじゃなかった”から。

 

「ここの店、昔よく親父と来ててさ。最近やってるって聞いて、ちょっと懐かしくて」

 

その声の主は、西條 照真(さいじょう・てるま)くん。

同じ高校の男子で、真面目で優しくて、どこか落ち着いていて――

正直、ちょっと、ずっと、気になっていた。

 

今日、偶然くれはが彼を誘ったのだという。

**「胃が強そうだから連れてきた」**という動機に殺意が湧いたけど、断る理由がなかった。

 

***

 

【店内】

 

中は予想通りの昭和風。

床がキシキシ鳴り、壁には黄ばんだメニュー短冊。メニューは全て「本日限定」なのに全く日替わってない。

 

「……けっこう味ある店だね。好きかも、こういう雰囲気」

 

「西條くん……すごいね。心、強いんだね……」

 

「え? どういう意味?」

 

「なんでもないです」

 

カウンターの奥には店主らしきおじいちゃん。

無言でメニューを渡してくる手が震えていて、ちょっと怖い。

 

おすすめ定食:天ぷらと煮物のセット ¥950

 

「私、これにする。くれはは?」

 

「うん、同じでいいや。天ぷらの衣に“過去の味”が染みてそうで」

 

「過去、要らない……今が大事……」

 

「葵ちゃん、今日はなんか詩的だね?」

 

「心の声が漏れてるだけだよ!」

 

照真くんも同じセットを頼んだ。

 

「いやー、居酒屋の天ぷら、絶対うまいっしょ!」

 

その笑顔を見て、思った。

この人は……まだ知らない。ここが“絶飯の地”だということを。

 

***

 

【料理到着】

 

出てきた定食は――一見、普通だった。

 

だがそれは、“絶飯”の常套手段。

 

■ 天ぷら

・衣が油で透明化し、湿気てベタつき、かつ厚みが異様

・一つめのかぼちゃを箸でつまむと、ズッ……と衣が剥がれて中身なし。

 

「え、これ“かぼちゃの亡霊”……?」

 

■ 煮物

・煮崩れしすぎて原形不明

・だがなぜか、芯が残っていて硬い。“柔らかい”と“石”が共存している

・味は……甘い。とにかく甘い。

 

「これ、煮物というより“砂糖煮”。おばあちゃん家でもここまで甘くないよ……」

 

■ ごはん

・部分的に茶色

・水分飛びすぎて、米が“羽根つき餃子の端っこ”みたいにパリパリ

 

■ 味噌汁

・味なし

・なぜか中に大根の切れ端と福神漬けが浮かんでる。なぜ……?

 

「これ、何を信じればいいの……?」

 

「食欲……?」

 

「それは死んだ……」

 

照真くんは、一口目で止まっていた。

 

「……あれ? これって……もしかしてヤバい系の店……?」

 

「ようこそ。ようこそ、絶飯の世界へ」

 

「え、何? 何でくれはちゃんが嬉しそうなの?」

 

「だって、仲間が増えたから」

 

「ちょっと待って、僕、選んでないから!? 自由意志だったからね!?」

 

そのやりとりを見ながら、私は思った。

 

――それでも、こんな時間が、嫌じゃない。

 

絶飯は、確かに不味い。胃が悲鳴を上げる。

でも、そんな中でも誰かと笑える瞬間があって。

照真くんが眉をひそめながらも、「いや、これはこれで話のネタに……」と笑った顔を、私はたぶん、忘れない。

 

くれはが完食して満足げに言った。

 

「今日の天ぷら、何層にも衣が重なってて、歯ごたえが“大地”だったね」

 

「それって褒めてるの!?」

 

「自然への敬意だよ」

 

照真くんが言った。

 

「でも……面白かった。こういうの、たまにはいいかも」

 

「え!? マジで!? じゃあまた来ようよ、今度“無銘”ってラーメン屋が――」

 

「いやそれはちょっと……胃薬持参で……」

 

私はそっと笑った。

 

そして、心の中で誓った。

 

次は私から誘おう。絶飯じゃない場所で。ちゃんとした場所で。

 

 

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