絶飯巡礼 ― JKが『日本一飯のマズイ店』を追い求める 作:隼
何かの間違いでアニメ(実写)化したら、絵面が終始絶望的すぎる……
【葵視点】
「“まごころ”って名前の店で外れたらもう、どこにも行き場ないと思うんだけど」
「大丈夫。名前がやさしいほど、期待を裏切るときの破壊力が強いの」
「ねえそれ、名言風だけど嫌な予感しかしない……」
駅の南口からバス通りを10分。
住宅街にぽつんと現れるのが、今日の目的地――『まごころ亭』
外観は小奇麗で、遠目には普通の定食屋に見える。
のれんは真っ白で「まごころ亭」とだけ手書き。横には控えめに“家庭の味”とある。
くれはは言った。
「Googleマップのレビューに、“味は無害、記憶には有害”って書かれてた」
「それもう詩でしょ……?」
照真くんが苦笑する。
「でも葵、前回よりはマシそうじゃん? 看板も新しいし、匂いもしない」
「……それが一番不安になるやつなんだよ……」
店に入ると、まず、人がいない。
いや、店員がいない。
代わりに、受付カウンターに**“自動配膳対応:ご注文はタッチパネルにて”**と貼られていた。
奥の厨房からも音はせず、代わりに無人で動く小さなロボットが皿を運んでいる。
「わぁ……なんか未来感ある……」
「でもこれ、“まごころ”って言っていいの……?」
***
【タッチパネル:メニュー選択画面】
> ◆まごころ定食(注文できません)
◆焼き魚(風)定食 ¥880
◆しょうが焼き(風)定食 ¥900
◆唐揚げ(風)定食 ¥850
◆味噌汁(風)単品 ¥180
「ねぇ、くれは……“(風)”ってなに!?」
「葵ちゃん、冷静に。これはつまり、“それっぽい何か”が出てくるっていう、店側からの事前の謝罪。」
「いや謝られてもさ!!」
照真が肩をすくめながら言った。
「たぶん……法的リスクを回避しようとしてるんじゃないかな。“本物のしょうが焼きじゃありません”って予防線」
「どうして本物を作ろうとしないの……?」
そして極めつけが――
「“まごころ定食”が注文できません、ってなってる」
「えっ、店名のやつじゃん!? なんで!?」
「……これはたぶん、“幻の定食”ってやつだね」
「デジタルメニューに幻入れないで!!」
***
【料理登場:自動配膳ロボット】
15分後、小さな配膳ロボットが音もなく私たちのテーブルへ身を滑らせてきた。
■ 焼き魚(風)定食(照真)
・白身魚と思われる何か。焦げ目なし。
・中は明らかに冷凍魚特有のゴム質、塩気はゼロ
・添え物の大根おろしは“ゼリー状”
「これ……“ただ焼いただけの魚”って感じ……」
■ しょうが焼き(風)定食(くれは)
・豚肉のような何かが5枚、透明なタレで泳いでいる
・タレの味は砂糖と醤油だけ、しょうがの風味は行方不明
・キャベツは水分過多、ドレッシングなし
「しょうが焼きというより、“レンジで3分加熱した肉”って感じかな」
「まごころとは……」
■ 唐揚げ(風)定食(葵)
・一見、普通の唐揚げ。だが中が“ぬるい”
・衣はべちゃつき、肉はパサつき、そして味が……うっすら甘い?
「……え、なにこれ? 鶏肉のマフィン?」
「新ジャンル開拓、おめでとう」
味噌汁(風)は、もはや語るに値しない。
“具なしで、すまし汁より薄い茶色の液体”。
そして、隣の席のサラリーマンがつぶやくのが聞こえた。
「……ここ、なんでこんな客多いんだ……?」
くれはがぽつりと呟く。
「たぶん“味じゃない何か”が刺さるんじゃないかな……“やさしい裏切り”っていうか……」
「ここに来るお客さん、なんか怖い……」
***
【完食】
いつものように、くれはは完食していた。
照真は、8割食べたところで箸を置いた。
「……味覚は無事だったけど、色々なものに裏切られた気がする」
葵は半分残した。
「……私、今日……夢で“(風)”に追いかけられる気がする……」
そこで、何気なく視線が交差した。
くれはが少し笑って、照真が、その横顔をじっと見ていた。
私はその様子を、真正面から見ていた。
言葉にできない、でも確かに芽生えていく何かが、ここにはあった。
それが何かは分からないけど――
少なくとも“まごころ”ではないことだけは、確かだった。