負けヒロインのよもやま裏話 作:名無しのツブワキ生
市内でエリート高校なツブワキ高校において底辺の成績。つまり相対的に見れば上の下だと本人は主張している。全国模試の結果は一旦脇に置いておこう。
受験生らしく「勉強ってクソだわ」などとボヤきながら勉強したり息抜きをしたりを繰り返している。
だがその晩はいつもより更に勉強に身が入っていなかった。
「やっぱり小鞠ちゃんが心配だわ」
ツブワキ高校文芸部の後輩にして同士。古都が目に入れても痛くないレベルで可愛がっている
ツブワキ祭と3年生の文芸部引退におけるゴタゴタでもう小鞠ちゃんは大丈夫だと知りはしたけど、それと心配してしまう心とは別の話だ。
「生徒会に顔つないどけばトラブルがおきても安心なんだけどなぁ」
現生徒会会長
問題はカリスマ性の高さ故に存在感の圧が強いことだ。人見知りの激しい小鞠ちゃんが話しかけられるとは思えない。
「ん? てことは放虎原に話しかけやすくするキッカケを作ればいいのよね?」
参考書を閉じ、邪魔になりそうなので机の脇にどける。これも後輩のため、正義のためだ仕方ない。
「私の後輩同士って会わせてもダメよね。放虎原の圧に小鞠ちゃんが逃げちゃう。そもそも2人は学年が違うんだもの。
放虎原を文芸部に呼ぶ? ダメね。生徒会で忙しいし、ただ会わせただけじゃ意味がない。
いっそ放虎原を同士に引き込む?」
月之木古都と小鞠知花は腐女子である。カップリング論争においては普段弱気な小鞠ちゃんも自分の意見を主張する。カップリングの攻め受けの論争は文芸部の日常風景となっていた。
いや。古都の見たところ放虎原はBLよりも乙女ゲーの適性がある。世間では一緒くたのジャンルにされがちだが界隈では大きな違いだ。ここで語るには余白が足りない。
ならばいっそのこと。
「やるか。放虎原を主人公にしたナマモノ同人小説執筆」
どうせなら小鞠ちゃんのとっつきやすいように放虎原を男体化したBL小説。毒を食らわば皿までだ。
邪魔な参考書とノートをベッドの上に放り投げ、設定を練るために頭を腐女子脳へと切り替える。
昨今LGBTが叫ばれ、腐女子への偏見も減ったものの普段から腐女子を公言するような真似はしない。普通の女子へと擬態し趣味の場でのみ己の腐女子脳を解放するのが現代の腐女子の処世術というものだ。
さて、放虎原を男体化するならば必要なのはこの男性が放虎原だと示すための記号である。生徒会長、文武両道、揺るがない自信、深い情、強い信念。
放虎原だと示すならば生徒会長という立場は活かしたい。ならば学園もの……いや、以前から書いている異世界太宰とのシェアードワールドというのはどうだろうか。
魔法学園の俺様生徒会長。攻めでも受けでも映える使いやすいポジションだ。
魔法学園の生徒会となれば役員もツブワキから持ってきたいところではあるが難しい。
残る
となると生徒会長単独の話。つまり他の生徒会役員には秘密の関係となるわけだ。これはこれでおいしいじゃない。
「相手は小鞠ちゃんの知ってる相手がいいわね。つまり慎太郎か
何が悲しくて長年費やしてせっかく捕まえた彼氏を相手役に後輩の男体化BLを書かなきゃならんのか。温水くんなら事後承諾でも受け入れてくれるだろう。諦めてくれるとも言うが。
温水くんと放虎原の関係性を書くならば温水くんの受けが常道だろう。氷の生徒会長の唯一の弱点。凛とした姿とのギャップも書ける王道のシチュエーション。小鞠ちゃんの好みとしても温水くんは受けの側だ。
『そこをあえて右にまわす……せ、世代交代……』
ふといつかした小鞠ちゃんとの会話を思い出す。
だからこそあえて、あえてここは温水くんを左に添える。つまり温水くんの
温水くんが攻めになるということは放虎原を受けにまわすということ。氷の生徒会長が受けにまわらざるをえなくなる状況……つまり温水くんの鬼畜強気攻め!
バラバラに置いてあったピースが次々とはまる。
なぜ他の生徒会の役員を出さないか?
なぜ文武両道の生徒会長が受けになるか?
なぜ平凡で目立たない温水くんが放虎原を攻められるか?
つまり他の生徒会役員と分断して嵌められたから!
平凡な生徒の仮面を被ったクール系強気攻め。裏では魔法学園を牛耳る影の支配者温水くんの誕生である。
文芸部用のノートに思い浮かんだ構図のラフをいくつか描き殴る。こんな時は絵も字も書けてよかったと思うわけよ。
「せっかくだし製本もしちゃおうかしら。奥付に文芸部の名前入れちゃったりして」
発行人を温水くんにするのも面白いかもしれない。
走り出したペンは止まらない。欲望のおもむくままに書いた放虎原男体化BL小説同人誌はこの後数奇な運命を辿ることになるのだが神ならぬ月之木古都には知る由もなかった。
4巻ラストで「今回ばかりは反省したから志喜屋も入れた続編書いた」と月之木先輩が言ったのを見て本当に善意から書き始めたならこうかなと書いてみました。