負けヒロインのよもやま裏話 作:名無しのツブワキ生
「
通話の終わったタイミングを見計らって従兄弟に声をかける。私が迷惑をかけていないかをチェックするために
「どうしたのひば
「リコ君のリベンジ大作戦で偽カメラマンとして田中先生と会話することになってな。
練習に付き合って貰いたい。さすがにひとり芝居では限界がある」
「あの作戦、そんなことになってたんだ」
文芸部新入部員候補の白玉リコのリベンジ大作戦。それは白玉(姉)の結婚式で新婦より先にウェディングドレス姿で白玉リコが新郎とツーショットを撮ってしまおうという作戦である。
私は弘人の紹介で強引に参加したものの弘人本人はこの作戦に参加していない。
「止めきれなかった立場で言うのもなんだけど、ひば姉はなんでそんなに乗り気なの」
「言わなかったか? 一人の乙女として叶わぬ恋を応援したいと」
「それにしたって入れ込み過ぎだよ。受験生なのもあるし参加者で年長者なんだから万が一の時はひば姉の責任になるかもしれないんだよ。
後方でのサポートならともかく偽カメラマンとして直接騙しに行くのはリスクが高すぎる」
弘人から耳の痛い小言が飛び出す。うむ。何ひとつ間違ってはいないな。
もしもの時は大学受験にも響くし普通に刑事事件にもなり得る。そのくせ成功しても得られるのはリコ君の小さな満足だけ。ハイリスクノーリターン。他の誰が聞いても呆れられる作戦だろう。
だが私はこれに参加すると決めた。
「
ふむ。温水君か。気に入ったかどうかで言えば気に入っている。同じ先輩を持ち直々に走りの指導をした愛弟子とも言える。
「温水君には借りもある。人への
「それって夢子さんと
前に走りの指導をしたことで貸し借り無しでいいんじゃない」
「前のは生徒会としての借りで今回は私人としての借りの返済だ。
こう見えて気を揉んでたんだぞ」
ほぼ1年近くの間
「単に恩だけの話でもない。生徒会役員として停学経験者への温水君の姿勢に感銘を受けたというのもある」
「うん。それは僕も感じてるよ」
生徒会として停学明けの生徒への偏見を減らし学校へ通いやすくする。言うは易し行うは難しとはよく言ったものだ。停学明けの新入生にあれだけ親身になってくれる人もそうはいないだろう。
温水君は『新入部員を得るために』などと言ってはいたが、少し考えればそれが表面上の事だとすぐわかる。
リスクを負ってまでリコ君を勧誘するより友人に頼んで文芸部に入ってもらうほうがよっぽど確実でローリスクだ。温水君は友人が多いようなので頼む相手に困らないだろう。
もちろん生徒会として幽霊部員の存在は追及するが、塾や外部のスポーツクラブメンバーなど元々帰宅部の人間の名義ならば追及を躱すのも容易い。
そういった
だが、今回の件にこれほど入れ込むのは。
「なぁ弘人。夏休みに親戚で集まると子どもたち皆で映画館に連れて行ってもらったろう」
「ヨーカドーに併設されてる映画館だよね。今は安さの殿堂になってるけど映画館自体はそのままの」
観たのは大体子ども向けの劇場版アニメやアクション映画。子どもたちだけの大人の知らない大冒険。
つまりはそれと同じだ。
「大人になって『あの時は若かった』なんて笑い飛ばせるような。
誰も知らないけど私たちは大きなことをしたんだぞって胸を張れるような。
そんな経験をした主人公たちを羨ましいと思わなかったか?」
好き勝手やっていた自由人の前生徒会長や古都先輩でもやったことのない大作戦。
それに
「ひば姉ってさ」
「うん?」
「意外とロマンチストだよね」
「知らなかったのか?
女の子は誰でもロマンチストな面があるんだぞ」
弘人が降参と手を上げる。
そもそもロマンチストじゃなかったら生徒会長になんてなってないぞ。
朝雲君から貰った田中先生のプロファイルノートを弘人へ渡す。
田中先生になったつもりで受け答えてくれ。違和感や疑問を感じたらすぐに教えてほしい。
やるからにはキッチリとやり切る。私がそんな女だと弘人は知ってるだろう?