「――って、アニ。聞いてる?」
一人で喋り続けるのも飽きてきた。テーブルに肘をついて、正面のアニを問いただす。さっきからアニはわたしへ目もくれず、スマホばっかり弄ってる。そんなんだから、友だちが増えないんだ。わたしも人のこと言えないけど。
「ねえ」
「何?聞いてなかった」
二度目でやっと、アニはスクロールに取り憑かれていた指を止めた。悪びれもなんのへったくれもないアニの態度に、「また?ひっど」口を尖らせる。これで、何回目だと思ってるんだか。親友じゃなかったら縁切ってる、ほんと。
「いいから、結末は?」
アニがわたしをあしらって、急かしてくる。今の今まで大好きなバンドのSNSでも追ってた癖にして、随分な扱いだ。腑に落ちなさを抱えつつも、椅子の背に体重を預けた。忘れかけていたけど、今日の午前中に観てきた映画のことを愚痴ってたんだ。わたし。
「だから、悪魔の方が死ぬの」
「へえ。死ぬんだ」
「そう。あっさり」
「男は?」
「え、知らない」
急に関心を持ったらしいアニが畳み掛けてきて、わたしは首を横に振った。
「なんで」
「つまらな過ぎて……途中退席した」
「なんで観に行こうと思ったの」
「ほんとそれ」
ごもっともな意見に頷いておく。わたしだって最初は期待していた。それを裏切られたのだから、これくらいは当然の報いだ。
「まあ。男の方は……狂ったとか。死ぬまで想い続けました、とかそんなじゃないの。大抵」
「へえ」
「……そっちが聞いたのに」
「ごめん、思ってたより面白くなかった」
「分かるけど!」
だからって、勝手に期待して勝手に落胆するの、やめてくれないかな。わたしが最後まで観れなかった。とかは、今のところどうでもいいとして。
「レビュー、賛否両論じゃん」
「え?見せてよ」
スマホをまた触り出したから何してるのかと思ったら、有名な映画レビューサイトを突きつけられる。タイトルの横にあるのは、「うわ」これまた微妙な星の数。観に行く前にちゃんと確認しとけばよかった。
「あんたは、なにがそんなに嫌だったの」
「いや、その悪魔が屑過ぎて……他もだけど」
「同族嫌悪?」
「やめて」
そういう些細な暴言が意外と効いてくるんだから。上映中のイライラと言い、心当たりがないでもないけど。色々吐き出してしまいそうになるのを、注文しておいた紅茶で流す。
「あとは……全編通して、なんの成長もなかった」
「成長?」
「そう。ずーっと同じこと繰り返してんの」
「ふぅん」
なんて言えばいいんだろ。あの、茶番を見せられているような嫌悪感は。いつまで経ってもなんの解決もしないから、最後に何かあるのかと思って。ダメだった。
「……でも、それって。人間らしいんじゃない」
「え?」
「罪を重ねて、後悔したのに、同じことを繰り返していくんでしょ?」
アニが手に持っていたスマホを置いて、真っ直ぐに見つめ返してくる。
「一度の過ちで全てを正せるより、よっぽど人間らしくて好きだけど」
「……アニ」
頬杖をついたまま、フッと笑みを溢すアニに、わたしは口を開いた。
「レビュー、読んだでしょ」
映画の愚痴ついでに、学校のことも話したりなんかして。わたしたちは数時間後にカフェを出た。バンドの練習があるとかいうアニと別れて、一人寂しく大通りを歩く。このまま帰宅というのもなんなので、何かして帰りたいのだけど。スマホのチャットアプリを開いて、呼び出せそうな人を探す。一番上に並んでいるアニは、さっき別れたばっかで。次にさっき連絡を入れたパパ。その下に羅列されていたのは、アニとは別の幼馴染の名前。ライナーだ。
ぶっちゃけ、ライナーたちとは最近全然話してない。謎のクラブに入っているのもそうだけど、暇つぶしに誘っても「すまない……俺にはヒストリアが」とか言われるようになったから。わたしはただ遊びたかっただけで、そういう目的じゃないってことくらい分かるはずなのに。まさか、10歳にした結婚の約束を引き摺っているとか。ふと考えて。あれ。なんか、そんな気がしてきた。
長考の末に、メッセージを打とうとしていた手を離す。ベルトルトも、いいや。お互い無言になる未来しか見えない。それでもいいけど、今はそんな気分じゃないし。
「あーあ」
一人寂しく暇を潰すことが確定して、スマホから顔を上げた。美味しそうな匂いが何処かから漂ってくるけれど、店に入ろうとは思えない。ぶらぶらとそこらを練り歩いて、信号待ちをする。
その対岸。おひとり様のわたしへ見せつけるかのように、同い年くらいの3人が並んでいた。喧嘩でもしてるのか、向かい合って何かを言い合ってる。それを眺めていたら、信号は青に切り替わっていた。どこかで見たような3人組とすれ違って、歩きながら伸びをする。
「なんか、起きないかなあ……」
そう願って天上を仰ぐも、そこにあるのは青い空。うんざりするほどの快晴だ。
見飽きた色にため息を噛み殺して、わたしは行き場もなく歩き出した。
生きているのって、こんなにも――退屈だ。
ノエルはライナーのずっとそばにいます。約束通り、永遠に。
最後まで、読んでいただきありがとうございました!感想とか評価いただけると大変嬉しいです。完結の余韻は活動報告で吐き出してます。良かったらどうぞ。