島の悪魔【本編完結】   作:死にかけの細菌

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第XX話 XXXX年後の君は

 

「――って、アニ。聞いてる?」

 

 一人で喋り続けるのも飽きてきた。テーブルに肘をついて、正面のアニを問いただす。さっきからアニはわたしへ目もくれず、スマホばっかり弄ってる。そんなんだから、友だちが増えないんだ。わたしも人のこと言えないけど。

 

「ねえ」

「何?聞いてなかった」

 

 二度目でやっと、アニはスクロールに取り憑かれていた指を止めた。悪びれもなんのへったくれもないアニの態度に、「また?ひっど」口を尖らせる。これで、何回目だと思ってるんだか。親友じゃなかったら縁切ってる、ほんと。

 

「いいから、結末は?」

 

 アニがわたしをあしらって、急かしてくる。今の今まで大好きなバンドのSNSでも追ってた癖にして、随分な扱いだ。腑に落ちなさを抱えつつも、椅子の背に体重を預けた。忘れかけていたけど、今日の午前中に観てきた映画のことを愚痴ってたんだ。わたし。

 

「だから、悪魔の方が死ぬの」

「へえ。死ぬんだ」

「そう。あっさり」

「男は?」

「え、知らない」

 

 急に関心を持ったらしいアニが畳み掛けてきて、わたしは首を横に振った。

 

「なんで」

「つまらな過ぎて……途中退席した」

「なんで観に行こうと思ったの」

「ほんとそれ」

 

 ごもっともな意見に頷いておく。わたしだって最初は期待していた。それを裏切られたのだから、これくらいは当然の報いだ。

 

「まあ。男の方は……狂ったとか。死ぬまで想い続けました、とかそんなじゃないの。大抵」

「へえ」

「……そっちが聞いたのに」

「ごめん、思ってたより面白くなかった」

「分かるけど!」

 

 だからって、勝手に期待して勝手に落胆するの、やめてくれないかな。わたしが最後まで観れなかった。とかは、今のところどうでもいいとして。

 

「レビュー、賛否両論じゃん」

「え?見せてよ」

 

 スマホをまた触り出したから何してるのかと思ったら、有名な映画レビューサイトを突きつけられる。タイトルの横にあるのは、「うわ」これまた微妙な星の数。観に行く前にちゃんと確認しとけばよかった。

 

「あんたは、なにがそんなに嫌だったの」

「いや、その悪魔が屑過ぎて……他もだけど」

「同族嫌悪?」

「やめて」

 

 そういう些細な暴言が意外と効いてくるんだから。上映中のイライラと言い、心当たりがないでもないけど。色々吐き出してしまいそうになるのを、注文しておいた紅茶で流す。

 

「あとは……全編通して、なんの成長もなかった」

「成長?」

「そう。ずーっと同じこと繰り返してんの」

「ふぅん」

 

 なんて言えばいいんだろ。あの、茶番を見せられているような嫌悪感は。いつまで経ってもなんの解決もしないから、最後に何かあるのかと思って。ダメだった。

 

「……でも、それって。人間らしいんじゃない」

「え?」

「罪を重ねて、後悔したのに、同じことを繰り返していくんでしょ?」

 

 アニが手に持っていたスマホを置いて、真っ直ぐに見つめ返してくる。

 

「一度の過ちで全てを正せるより、よっぽど人間らしくて好きだけど」

「……アニ」

 

 頬杖をついたまま、フッと笑みを溢すアニに、わたしは口を開いた。

 

「レビュー、読んだでしょ」

 

 映画の愚痴ついでに、学校のことも話したりなんかして。わたしたちは数時間後にカフェを出た。バンドの練習があるとかいうアニと別れて、一人寂しく大通りを歩く。このまま帰宅というのもなんなので、何かして帰りたいのだけど。スマホのチャットアプリを開いて、呼び出せそうな人を探す。一番上に並んでいるアニは、さっき別れたばっかで。次にさっき連絡を入れたパパ。その下に羅列されていたのは、アニとは別の幼馴染の名前。ライナーだ。

 ぶっちゃけ、ライナーたちとは最近全然話してない。謎のクラブに入っているのもそうだけど、暇つぶしに誘っても「すまない……俺にはヒストリアが」とか言われるようになったから。わたしはただ遊びたかっただけで、そういう目的じゃないってことくらい分かるはずなのに。まさか、10歳にした結婚の約束を引き摺っているとか。ふと考えて。あれ。なんか、そんな気がしてきた。

 長考の末に、メッセージを打とうとしていた手を離す。ベルトルトも、いいや。お互い無言になる未来しか見えない。それでもいいけど、今はそんな気分じゃないし。

 

「あーあ」

 

 一人寂しく暇を潰すことが確定して、スマホから顔を上げた。美味しそうな匂いが何処かから漂ってくるけれど、店に入ろうとは思えない。ぶらぶらとそこらを練り歩いて、信号待ちをする。

 その対岸。おひとり様のわたしへ見せつけるかのように、同い年くらいの3人が並んでいた。喧嘩でもしてるのか、向かい合って何かを言い合ってる。それを眺めていたら、信号は青に切り替わっていた。どこかで見たような3人組とすれ違って、歩きながら伸びをする。

 

「なんか、起きないかなあ……」

 

 そう願って天上を仰ぐも、そこにあるのは青い空。うんざりするほどの快晴だ。

 見飽きた色にため息を噛み殺して、わたしは行き場もなく歩き出した。

 

 生きているのって、こんなにも――退屈だ。

 




ノエルはライナーのずっとそばにいます。約束通り、永遠に。

最後まで、読んでいただきありがとうございました!感想とか評価いただけると大変嬉しいです。完結の余韻は活動報告で吐き出してます。良かったらどうぞ。
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