適正判断は兵士の素質を見抜く。才能とも言い換えられるだろうが、敷居はもっと低く設定されている。訓練兵になってから初日に行われるのはその為だ。適正判断を一度でパスできないのは全体の一人いるかいないかだと後で知り、日々の訓練をこなしながら相応の結果になっている自分に不甲斐なさを感じていた。素質とは生まれつきでそう簡単に捻じ曲げられないらしい。あの子なら立体機動も軽々こなしたに違いないのに。
立体機動術で班に分かれて巨人模型を討伐する訓練中、仲間が風を切って移動する音を聞きながら移動する。序盤からガスをふかし過ぎたせいで勢いを出せず、仲間が周りの模型を倒していくのを眺めているしかなかった。なんとか中間地点まで到着するも、討伐数は1にも満たない。その癖、三ヶ月経っても筋肉がついてきている実感もなく巨人模型に近づいても規定の範囲で削げるか怪しいのだ。体力のなさに絶望しながら、膝をついて呼吸する。何もしていない無能が休んでいては迷惑だと、頭の中では理解できているのに体が言うことを聞かなかった。
「お陰さまで、この調子じゃトップを狙うのは無理だな」
見上げた先にいるのは目つきの悪い男だ。成績優秀者の一員としてよく名を馳せているし、エレンとよく口論しているから話さずとも名前は知っていた。嫌味な言い方に聞こえるだろうが、それは事実だ。言い返す気は起きなかった。
「そんな言い方は良くないだろ」
「なんだよ、マルコ。俺はお前と一緒の班で得点を稼げると思ったのに、噂の下手くそがいてガッカリだ」
「ジャン!」
温厚そうな顔のマルコが顔を顰めて、ジャンを咎める。二人は早くも有名なコンビで両者共、成績優秀者上位だけが入団を許される憲兵団を希望していると聞いた。二人からしたら、自分はお荷物でしかないだろう。
「いいんだ、ジャンは事実を言っているだけだし」
「ヘタクソなのによく分かってんじゃねえか」
「そう!立体機動がとてつもないヘタクソなんだよね、だから……二人にアドバイスして欲しい!」
一直線に見つめると、ジャンは素っ頓狂な声を出した。言葉を咀嚼して理解した後に苦い顔をされる。隣のマルコは驚いてはいるものの、嫌そうな雰囲気は感じられない。
「はあ?お前何言ってんだよ、教えてやったとして俺たちになんのメリットがあるってんだ」
「目標地点まであと半分ある。あたしが少しでも上達してみんなに貢献できれば成績は上がるはず」
「このまま最下位はいやでしょ」そう語りかけるとジャンは出し抜かれたのが悔しいのか、表情はそのままだが納得した様子だ。最初から承諾してくれそうだったマルコは頷いて協力の意思を示してくれた。
「いいじゃないか、ジャン。さっきダメ出ししていた所を言ってあげればいい」
「チッ、仕方ねえ。一度しか言わねえから、よく聞けよ」
「ありがとう!」
前のめりになって感謝の言葉を告げると、あたしの行動にジャンは頬をかいた。考えていたよりもずっとあっさり教えてもらえたことに胸が躍る。お世辞にも優しさとはかけ離れた顔をしているし、喧嘩している姿ばかり見てきたから驚きだ。他の人たちと違って暴言を吐いていた訳でもないから、悪い人じゃないのかもしれない。
「お前はガスをふかし過ぎだ。俺も調整中だが……一瞬だけ強くふかしてみろ。あとは遠心力に任せるんだ」
「僕からは…そうだな。仲間の位置を避けているように見えるんだけど、何か意図があったりする?」
「う、うん。思い当たることがある」
予想外の指摘に面食らってしまう。理由には心当たりがあった。最初の頃に一人の同期が飛ぶ邪魔をしてしまい、怒鳴られたからだろう。たいして気にしていないのに、無意識で避けていたらしい。
「恐らく、早くガスが減ってしまうのはそれのせいだよ。気にしなくて良いから自由に飛んでみて」
「わかった」
それにしても、マルコの観察力には目を見張るものがある。今回も班長を勤めているのはマルコだ。大まかな指揮をとっていたが、後ろでノロノロと動いているあたしにまで気を配っていたなんて。素質、というものを目の当たりにした気がした。
「おいおい、ぼーっとすんなよ。俺たちはこっから巻き返さなきゃいけねぇんだから」
「ガスは最初の一瞬だけ……だね」
「ああ、頼むぜ」
改めて礼を伝え、定位置に立つ。教官から再開の合図が送られると、各々が立体機動に移った。二人に教えてもらったアドバイスを何回も頭の中で反響させて、木にアンカーを射出する。グリップを力強く握って勢いよくガスを噴射し、ぐんと体の引っ張られる感覚がすると噴射するガスの量を一気に弱めた。ジャンの言っていた通りになった。遠心力で投げ出されてギリギリの所で次の木にアンカーを刺す。あとは慣れだった。
「すごいじゃないか!」
「アドバイスが効いたみたい!次は模型を狙ってみるよ。二人に貢献しなきゃだからね!」
マルコは一連の動作を見ていたようで、隣に並ぶと褒め言葉を送ってくれた。喜んでいる暇はない、立体機動を使いこなすのは基礎中の基礎だ。模型を倒さなければ実践では木偶の坊だし、二人に恩も返せない。本来、巨人模型は訓練兵が来たタイミングを狙って現れる。巨人がなんの予兆もなく現れるのは痛いほど知っているから、実際と近い環境を想定しているんだろう。幸いにも、マルコは列の真ん中にあたしを配列してくれている。前列が最初に巨人模型と出くわすので、大抵の場所が予測できた。
前を飛ぶ同期のすぐ下から、軋むような音を立てて巨人模型が立ち上がる姿を捉える。咄嗟に一番近い同期の様子を見るけれど、慌てた情けない声が聞こえてきた。それを耳にして、アンカーを別の枝に再度さして、体の向きを調整する。一気にガスをふかし、銀に輝くブレードで模型のうなじ付近まで近づいた。頸を模した場所目掛けて腕を振り上げる。瞬きをする間も無く、模型の一部が吹っ飛んだ。猫が引っ掻いたくらいの深さだが、あたしは大きな成果を成し遂げた気分だった。興奮で息が荒い。見慣れてきたはずの森が別の場所に見えていた。木々を追い抜き鳥のように空中を移動する。頬にあたる風がこの上なく気持ちよい。突然後ろから前を見るように促され、体勢を変えて木の幹をどうにか避ける。もし少しでも遅かったら林檎ジャムみたいに潰れていただろうが、微塵も怖くなかった。
結果として、その後模型に攻撃できたのは3回だけだった。ジャン率いる前列が狩り尽くしていたのと、軌道上にうまく乗らなかったからだ。二人にも悪いかもしれないが、あたしは結果に大満足だ。ほんの小さな一歩でも貢献できたし、ノエルをまだ演じてもいいんだと赦されたようだった。
「おい、ヘタクソ。少しはマシになったじゃねえか」
「アドバイスが役に立ったんだ!」
兵士としても大きな一歩を踏み出せた要因の一人であるジャンが、近寄って話しかけてきた。的確なアドバイスでガスの制御の仕方と使い方が分かってきている。説明も簡潔でわかりやすく、すぐに実践できて良かった。ベルトルトもそうだったけれど、優秀な人ほど頭の中で考えていることを言葉にするのが上手い。
「成績優秀者からのアドバイスはやっぱり違うね」
「……まあな!お前も俺くらいになれば自分で気づけるだろうよ」
ジャンがふんぞり返ってそっけなく言うけれど、頬が若干赤らんでいる。隠そうとした彼の動作も愉快に感じてしまい、陰で笑みを溢した。そこで確信する。言葉が強いから誤解されているだけで、ジャンは親切だ。穏やかな性格のマルコと一緒にいるのを不思議に思っていたけれど、観察力の鋭いマルコはジャンの性格を見抜いているんだろう。二年前から連れ添ってきた三人以外に仲の良いと呼べるような人ができないあたしにとって、二人の関係は羨ましい。
「あっノエル!凄い成長ぶりだった!」
ジャンに続いて、遠くからマルコが手を振りながら駆け寄ってきた。班長である彼は教官に行った作戦や訓練中のメンバーの態度などを報告する義務がある。人によっては自分の活躍を過剰にしたり、気に食わない人間の評価を下げたりするらしい。マルコがそんなことをするとは思えないので、仲間も安心して訓練に励める。生まれつきの誠実さがあってこそだ。マルコは考えれば、考えるほど班長に向いている。
「優秀な二人に協力して貰ったんだから、めちゃくちゃ頑張った!」
あたしなんかの頑張りで二人を満足させられるとは思えない。ジャンに何か言われるかもしれないと思って身構えたが、鋭い指摘は飛んで来なかった。言葉こそないけれど、ジャンは頑張りを認めてくれているんだ。柔らかでむず痒い感覚が胸の内に広がった。
「ノエルは理解して呑み込むのが上手なんだよ」
「そ、そう?」
きょとん、とマルコを見上げる。座学は他の科目に比べたら良い方だけど、まずまずだ。自分にマルコの言っている力が備わっているとは到底思えない。
「まあ、アドバイスしてやったとこはできてた。他に直す部分もあったけどな」
「自分の強みを探すのもいいかもしれないね。きっと探すのも上手いだろうから」
優秀な二人に言われてしまうと、そんな気がしてくる。根拠のない自信が沸々と湧いてきた。今日の立体機動の感覚を忘れないようにしよう。過去の自分を大切にして、強みを見つけ出すのだ。マルコの指摘通りなら、こんなあたしでも秀でている所があるはず。
「強みか……意識してみる」
「応援してるよ」
考え込んで俯きがちになっていた顔をあげ、背中を押してくれるマルコに笑顔で頷く。隣のジャンは腕を組んで偉そうにした。
「なら俺はヘタクソがどう成長しやがるのか、見物でもするか」
「ジャン、その呼び方やめろって」
「い、いいよ。マルコ……気にしてないから」
ジャンの呼び方もあだ名の中に入れるのであれば、生まれて初めてのあだ名になる。憧れがあったものの、いざ呼ばれてみるとなんとも言えない気持ちだ。ヘタクソ。一歩間違えば暴言になりかねないそれを、あだ名と呼んでいいならの話だけれど。あたしの表情が強張ったのか、怪訝そうなマルコが改めて聞き返してくる。
「本当に?」
「う……そのうち!そのうち、ジャンより上手くなるから!」
明らかな虚勢だ。これからの三年間でどれだけ足掻いても、ジャンを超えられるとは到底思えない。圧倒的な素質の差が、ここでも凡人と差をつける。
「生意気なこと言うじゃねえか。さっきまで立体機動装置すらまともに扱えなかった奴が何言ってんだ」
「いいんじゃないかな、ノエルには伸び代があるんだから」
マルコは望み薄のあたしにも優しい言葉をかけてくれる。彼の期待に応えるほどのポテンシャルが自分にあるとは信じきれなくて、真っ直ぐ見つめてくる視線へ曖昧に笑っておいた。
「マルコお前っ、俺の味方じゃねえのかよ」
予期しない裏切りにジャンは抗議の声を上げる。笑って誤魔化しているマルコに食い掛かる気も無くしたようで、わざとらしいため息を溢した。
やっと、訓練も一区切りだ。辺りの森から後続の班が歩いてくる。もしかして。同じ兵服でも背の高い彼は抜きん出て目立つ。真っ先に長い影を探すと、遠くで歩いているベルトルトを見つけた。あたしよりも前の班だったライナーが奥から出てきて合流した所のようだ。
「ライナーとベルトルトに成果を伝えてくる!また、食堂でね」
「おう、じゃあな」
今日一日付き合ってくれた二人に挨拶して別れる。三ヶ月目立った成果も上げられなかったあたしがやっと自慢できるくらいの成果を持ち帰ってこれた。ライナーとベルトルトの二人は立体機動装置が使いこなせていないと知ってから、自主練に付き合ってくれたりした。特にライナーは訓練兵になってから兄貴分として引っ張りだこなのにわざわざ教えがいのないだろうあたしを指導していたのだ。アニだって、いつもの辛口で遠回しにアドバイスしてくれた。周辺にはいないみたいだから、食堂で話してみよう。
「ライナー!聞いてよ」
喜びを抑えきれなくて大声で名前を呼んだら、他の同期が振り返ってしまった。好奇の視線に恥ずかしさを覚えて意味もなく小さくなる。何やら話し込んでいた二人は満面の笑みで走ってくるあたしを不思議そうに迎えてくれた。
「お、なんだ。木に激突でもしたか?」
ライナーの第一声は的外れとまでは言い難く、微妙な気分だ。あの瞬間は何も感じていなかったのに、後から恐怖心が湧き起こってくるような気がして断ち切るように声を上げる。
「それはしかけたけど……もっと大事な話!」
「しかけたって、怪我はないんだろうな」
「無理しちゃ駄目だよ」
あたしを理解しているが故の言葉だった。お弁当を徹夜で作ってアニに怒られる、とか。後で思い返したら、どうなるか分かるのにあたしは肝心な時ばかり頭が働かない。分かっているけど、自分以外に指摘されると不貞腐れてしまう。
「ちょっと!怪我してる前提で話さないで!」
あたしが馬鹿をしている体で話す二人を遮る。抗議しても、二人の表情は変わらずのままだった。
「そんなに信用ないの?」
「お前の立体機動術の下手さは兵団内でも知れ渡ってる。知ってるだろ」
ライナーの言う通り。ここ三ヶ月であたしは不名誉な知られ方をしている。団体の訓練ならライナーやらベルトルトがさりげなくカバーしてくれたりするけれど、班行動や個人でヘマしていたら意味がない。今日のように班のメンバーから怒鳴られることも増えてしまった。出来損ないのイメージを払拭するのは難しい。ジャンやマルコが知っていたのも噂を聞いたからなんだろう。
「今日も班長補佐の人にヘタクソって呼ばれてたから知ってるよ。何回も……」
「…そ、それで大事な話って?」
自虐的に笑ったらなんとも言えない顔をしたベルトルトが聞き返してくる。待ちに待った質問を前にして、胸を張って答えた。
「模型を二体攻撃できたの!」
「攻撃?」
「一体は傷が浅くて……でも、もう一体は討伐した!」
サプライズでもするような勢いで成果を発表する。二人はぽかんとしていたが、すぐに表情を変えて褒め立ててくれた。
「初日の立体機動術でどうなることかと思ったが、ようやく乗り越えたか」
「なでてくれないの?」
「……は」
固まるライナーに頬を緩ませて頭をかく。二年間過ごしてきた中で、ライナーの撫でる手つきはどちらかと言うと苦手だった。髪がぐちゃぐちゃになるからなのだが。最近は力強く撫でてくれる大きな手のひらが、パパを思い出す。親がつけてくれた名前を捨てた娘が今更縋るなんて、馬鹿らしい。分かっていても、失った温もりを求めてしまう。強欲なあたしは衝動を抑えきれなかった。
「……いやぁ、なんか適正判断の時から癖になっちゃって。ここに来たのも実は期待してた…」
口にするとなんだか照れ臭くて、地面を見ながら言い切って反応を伺う。ライナーは驚いた表情のままだった。反射で隣のベルトルトに視線を移すけれど、微妙な顔をしていて表情が読めない。
「どうしたの?なんか顔怖いよ」
「いや、なんだ…昔は嫌がってのにな」
ゔ、と罰が悪そうに目を逸らす。笑い声が聞こえ、頭に手のひらが乗った。豪快に掻き回されるのと、やっと成果を出せた達成感が混じりあって勝手に口角が上がる。手が離れそうになったら、もうちょっと。なんておねだりもしてみる。ライナーは優しいから文句も言わず続けてくれた。
「ねー、ベルトルトもよろしく。撫で待ちしてるから」
「ぼ、僕も?いいけど……ライナーはいいの?」
「なんでライナーが出てくるの?」
「そ、それは…」
掻き回されて崩れた髪を手櫛で撫で付けながら聞き返す。口籠ったベルトルトに首を傾げた。つまり、ベルトルトがライナーを撫でると言うことだろうか。普通なら考えもしない想像が浮かんで消えた。この二年間、あたしが見てきた中では見たことない。あたしは届かないけれど、ライナーならベルトルトの頭まで手が届くんだろうな。特に何かが達成できる訳でもないのに、胸の内でむずむずしたものが湧き上がってくる。身長がもっと伸びたらよかったのに。
「はあ…ベルトルト。気にするな、こいつが悪い」
「ああ、うん……」
「なんであたし…」
ちょっとだけむくれたけれど、ベルトルトに撫でられてそんな思いは消えてしまった。ベルトルトの撫で方は髪に沿って手を滑らせるような感じだ。撫でられている感覚は少ないけど、大人しい彼があたしのために行動してくれている事実が嬉しい。
「よっし、この調子でライナーもベルトルトも追い抜くんだ!ついでに身長もね」
「……ベルトルトは絶対に無理だ」
爪先立ちまでしてアピールしたのに、間髪入れずに否定される。元々ベルトルトは背が高くて今は明らかに差をつけられているが、あたしの成長期はまだ残っているはずだ。そう、思いたい。大差はつけられているものの、勝負はここからだ。
「え、なんで?急成長すればワンチャンあるよ」
「ベルトルトが急成長したらどうする?」
「うわ、それは無理だ」
「ライナー……」
複雑な表情をしたベルトルトは、名前を呼んで肩をすくめた。
その日の食堂で隅に座るアニを見つけて、飛び上がるくらい嬉しかった。三ヶ月経ってもアニの単独行動は変わらない。周りも理解したのか、最初の頃より声をかける人も少ないようだった。訓練兵団の一日で数少ない憩い場になる食事時にはそれぞれが賑やかに雑談している。アニは大抵その輪から外れるような位置に座っているので、分かりやすかった。
「隣、いい?」
「好きにすれば」
これがアニの通常運転だ。この言葉を自分勝手に肯定だと解釈して、隣の席に座る。討伐できた達成感からだろうか、机の上のスープから食欲を唆られる香りが漂って来た。真っ先にスプーンを手に取って、食べ始める。いつもは塩気のない無機質なスープが、体に染み渡るようだった。
「おいしいね、アニ」
「別に。普通だよ」
感動をアニに伝えてみるも、正面からバッサリと切られてしまった。今はアニのドライな対応すら嬉しくて、ニコニコしてたら顔を逸らされる。
「あんたさ、なんでそんなにテンション高いの」
「ふふ、それはね」
待ちに待った言葉を前に、あたしは意気揚々と話し出した。ジャンやマルコのアドバイスを受けたこと、一体討伐するまでの道のり。脚色をつけた気がしなくもないが、あたしにはやっと訓練兵としての一歩を踏み出せた記念だ。話している最中に席を立つこともできるのに、それをせず聞いてくれるアニの優しさが身に染みた。
「とにかく、やっと一体討伐できたの!」
「へぇ、あんたにしては……よくやったんじゃない」
「あ、アニ……!」
抱きつこうとしたら、腕を引かれて地面に叩きつけられた。食堂が騒めき、何があったのかと視線が突き刺さる。好奇の視線に晒されるのは二度目だ。背中と腕が痛かったけれど、数少ないアニの褒め言葉が嬉しくて笑う。
次の日からあたしがマゾヒストであるという噂が出回って、誤解を解くのに数日間かかった。