次々と流れゆく景色に意識を取られ、目的地に到着するのはあっという間だった。行者の一声で馬車が止まり、前のめりになっていた姿勢を正す。ずっと同じ姿勢でいたからだろうか。伸ばした背は、若干の痛みを訴えてきた。
「着いたよ」
「ありがとうございます」
財布代わりの皮袋から硬貨を取り出し、差し出された手のひらへ落とす。自分の全財産ではとても往復なんかできなかったから、経費で落としてもらえるのはありがたい。元はと言えば、自分が無理を言ったようなものなのに。協力して話を通してくれたリヴァイ兵士長や上官方へは、もう頭が上がらなかった。
行き交う人々や建物に気を取られ、目の前の目的地へと足が向かない。ここへ来たのは二度目だが、やっぱりどこか居心地が悪い。豪華に装飾された服、立ち並ぶ建物もそうだけど、みんなどことなく余裕があるような。明日のことを考えずとも生きていける、ある意味での自信のようなものがあった。
ひらりとした裾のワンピースを靡かせながら談笑している二人組とすれ違う。僅かながら向けられた視線に、やっと体が動き出した。好奇の目を浴びるのは、あまり得意じゃない。最も、憲兵団の兵舎前に調査兵団がいたら、あたしだって見てしまうだろうけれど。
ふう、と息を吐いて、見慣れた兵舎よりも小綺麗な門を潜る。これ見よがしに掲げられた旗の紋章は、パパが読みきかせてくれた絵本にも出てきていた伝説の生き物。
そう。ここはストヘス区の憲兵団支部だ。思い直すなり、姿勢を正す。向かうのは、この兵舎の地下深く。数ヶ月前に別れた友人の元だった。
「調査兵団特別作戦班所属、ノエル・ジンジャーです。アニ・レオンハートとの面会をお願いしていたのですが」
「その話は担当の奴を通してくれ」
「は、はあ」
いつだって所属を告げる時は、敬礼する手が震える。片言で要件を言い切るも、対応した憲兵はそれどころではないらしい。書類整理の手も止めずに応対した憲兵は、そう言うなり別の兵士へ言伝を頼む。その数分後。ドアから覗かせた不満顔は、よく見知ったものだった。
「こんな時に面会なんて、どこの変人かと思ったけど。あんたなら……まあ、納得だわ」
「変人……」
「何?違わないでしょ」
これでも常識人であると思っているんだけど。チクリ、と刺さった心の痛みを吐き出すも、ヒッチは飄々としたまま首を傾げた。
事実。こんな作戦前に訪問するような人間はいないだろうから、弁解もできない。逃げるように目を泳がせてから、あたしは話題を逸らすことにした。
「面倒なことをやらされるようになったって、このことだったの?」
「そう」
事の顛末を聞き終えた時、あたしが真っ先にしたためた手紙はヒッチへのものだった。と言うのも、ヒッチがあたしの身を案じていた、とジャンから聞いたからだ。
他に出せる相手もいないので、手紙を書いたことはほとんどない。返事は期待せずに託した手紙は、数日と経たずに返ってきた。アニとは違って、ほんのりと色づいた便箋。内容はダメ出しから始まったが、読み進めていくうちに自然と口元が緩んでいった。あれからすぐさま返事を出して、調査兵と憲兵の奇妙な文通は続いている。
「改革で急に暇がなくなったからって、こんな秘匿事項をほぼ新兵の私に押し付けるとか。信じられる?」
「あはは……やっぱり大変なんだね。憲兵団も」
「ほんと。誰が好きで喋りもしない女の世話をしなくちゃなんないのよ」
皮肉めいた喋り方は文面でも変わらずだが、生だとさらに饒舌だ。分かりやすいくらい口をへの字に曲げたヒッチのぼやきに、乾いた笑い声を出すしかできない。はあ、と。日頃の不満を吐き出すように。背中を落としたヒッチが、一拍置いてから口を開く。
「こんな時に他の兵団へ移った馬鹿もいるし……」
「マルロのこと?」
調査兵団はウォール・シーナ奪還作戦にあたって、他兵団からも兵を急募した。そこで、マルロは調査兵団へと入団してきたのだ。紹介された時は目を剥いたが、エレンと似た熱血気質もあり、今はもうすっかり調査兵に馴染んでいる。
「……そう。そっちでもどうせ、暑苦しいこと言ってるんでしょ」
「まあ。確かに、言ってるかも」
「やっぱりね」
うんざりしたように言っているが、ヒッチはどこか誇らしげだった。あたしの視線を感じたのか、「あいつ、最初からそんなのばっかだったから」と、言い訳のように付け加えてみせる。
そういえば、マルロが来た初日。ジャンが真っ先に聞いたのは、ヒッチのことだった。当の本人は、なぜここでヒッチが出てくるのか、と至極不思議そうに首を傾げていたが、最近になって分かってきた。多分、ヒッチはマルロのことが好きだ。それが、どう言う形か。あたしには分からないけれど。流石はルームメイト同士と言うべきか。どうやら、ヒッチはアニと同じで不器用な所があるらしい。
「……ほんと、いなくなってせいせいした」
言葉の割に、ヒッチの表情は暗い。その意味を問いただすのは野暮に思えて、段下へと視線を投げた。
好き。好き、か。そういえばマルコは、あたしが調査兵団に入るのを止めようとしたりしなかった。あたしの意思を一番に考えて、それでも支えたいと。いつ死体になって帰ってくるのかも分からないあたしを、待ち続けると言ってくれた。
いっそ、引き止めてくれれば良かった。あたしが、ライナーたちにしたみたいに。そしたら、また。なんて——ことをいつまでも考えてしまうあたしは、卑怯で愚かなままだ。
「あ、最初に言っておくけど、期待しない方がいいわよ。知っての通り、死ぬほど愛想ないから」
この場所は、元々賊や盗人からの押収品を溜め込んでいたらしい。階段の上り下りが面倒だ、と文句混じりに語っていたヒッチが言う。足元も見えずらい仄暗さの先に、最後の一段が見えた。カツン、と石畳に靴底がぶつかる音。一足早く降りていたヒッチが、松明へ火をつける。
「あ」
真っ暗な闇に浮かび上がったのは、結晶だった。中に閉じ込めている影を映すなり、膝から力が抜け落ちていく。
「ちょっと……どうしたの」
わかってた。きっと、誰よりも先にわかってた。でも、誰よりも遅く知ることになったのは。あたしが、信じたくなかったからなんだろう。
「あは……あはは!なんでだろう。びっくり、しちゃって」
腰が完全に抜けてしまったらしい。膝を曲げたまま、へらり、と笑ってみせる。差し出されたヒッチの手をとらず、「ありがとう、大丈夫」震える手で体を持ち上げた。
希望なんかあるはずなかったのに。立ち止まらずに行ってしまった二つの影がよぎる。やっぱり、ひとりぼっちになってしまった。
顔を持ち上げる。数ヶ月ぶりの友人は、いつの日かパパが読み聞かせてくれた絵本の、眠り姫みたいだった。縋り付くように近づいて、中にいる体はピクリともしない。
許可なく触れるのに、いい顔をされたことはなかった。悪くて肘蹴りで、あれが結構痛いんだ。ライナーはよく庇ってくれたし、容赦してやれと言ってくれたけど、元はと言えばあたしが悪い。
ライナーに同意を求められ、狼狽するベルトルトを思い出しながら、腕を伸ばす。探るように持ち上げた指先が、結晶に触れた。
「なんだか……ひさしぶりだね」
またか。この温度を初めて知ったのは、数ヶ月前。あたしは、あと何度この冷たさを知ればいいのだろう。いや、違う。次は、あたしが奪うことになる。奪わなきゃ、いけないんだ。
「アニ」
込み上げてきたものをぶつけても、答えはない。もう一度。馬鹿みたいに呼び立てたら、あのうんざりした瞳を覗かせてくれるかもしれないのに。両手をついて、下を向く。ひくついてばかりの喉は、結局。何も吐き出さなかった。
――――
「アニ!」
それを思い出したのは、この闇に浸かってからどのくらいだっただろう。ここに囚われてすぐだったような気もするし、ずっと。ずっと後だったような気もする。
「アニってば」
あいつは、いつもそうだった。何度無視しても、バカの一つ覚えみたいに私を呼び立てて、隣へ追いついてくる。私より無駄に長い足を振り切るのは中々に面倒で、何をしても意味がない。いつの日か無視を決め込むのが定番になって、あの日もあしらっている最中だった。
「ぎゃっ」
呼びかけが途切れ、短い叫び声。続けて、砂と何かが擦れる音。少しでも振り返ってしまったのは、あまりにもその悲鳴が汚かったからだろう。
ノエルは無様にも地面に転がっていた。ここには、つまづくような岩も段差もない。大方、焦って変な足のつき方でもしたのか。あまりの鈍臭さにためを堪えた。地面に手をついたノエルの姿を最後に歩き出そうとして、別の足音が近づいてきた。
「お前ら、何やってんだ」
さっさと、立ち去ってしまうべきだった。また別の耳障りな音に、すぐさま後悔が滲む。兵士らしく訓練に興じているはずの男が、息抜きに兄貴面でもしたくなったらしい。
「アニにやられたのか?」
「違う……ただ転んだだけ」
「何もないところで転ぶって、そりゃあ……重症だぞ」
「わ、分かってるもん」
背後を見ずとも、どんな茶番が繰り広げられているかわかった。
この男は、いつもそうだ。悪魔がどう、とか高らかに語っていた癖して、一番に飛んでくる。無知な悪魔に感謝を告げられ、なけなしの自尊心でも満たしているのだろう。他の何よりも、くだらなくて、不愉快な光景だ。そんなものを見たところで、何の足しにもならない。足早に立ち去ろうとして、「おい、アニ」元凶が語りかけてきた。
「……何」
しつこく絡んできそうな気配に、無視はできなかった。前に垂れてきた髪を流し、その場で立ち止まる。本当なら振り向きざまに足でも出してやりたかったが、あの教官がどこで見ているかもわからない。
「親友が転んでんだ。手くれぇは貸してやったって良かったんじゃねぇのか」
「そんな態度で、ノエルに愛想を尽かされても知らんぞ」ペラペラとよく回る口に、自分の眉が動くのがわかった。
こいつは本当に、余計なお世話を焼くのが好きらしい。もしくは、自分を慕う悪魔に甲斐性でも見せつけているつもりなのか。どちらにせよ、全身に鳥肌が立ちそうだ。
「それは言い過ぎなんじゃ……」
「ベルトルト。お前はあれが、兵士としての立ち振る舞いだと思うのか?」
「僕は、えっと……」
問いかけられたベルトルトは、そう歯切れ悪く言って口籠もっている。いつも通りの煮え切らない返答。どっちつかずの曖昧な素振りが、今日はやたらと気に障った。
「ライナー、いいよ。あたしが勝手に転んだんだから」
「お前が良くても、俺は見過ごせんな」
目を合わせずとも、あたりに立ち込める不穏な空気を感じ取っていたらしい。ノエルは隠し事のある子供のように声を顰めるが、話し相手が悪かった。気遣いの甲斐もなく、ライナーがすかさず言ってのける。
「大体、こういう時に見捨てず助け合うのが仲間ってもんだろ」
「誰が。仲間だって?」
「笑わせないでくれる」あまりの馬鹿馬鹿しさに。つい、声をあげていた。丸く縮んだ瞳を睨み返してやって、ハ、と息が漏れる。好きに喋らせていたらこれだ。早々に黙らせなかった数分前の自分へ、苛立ちさえ湧いてくる。
「ああ、少しくれぇは笑ったらどうだ。そうすりゃあ、お前にもノエル以外の仲間ができるだろ」
じゃあ、今すぐ地べたにひっくり返って、あんたの大好きなお仲間とやらに心配されていればいい。正面のみぞおちへと標準を合わせる。
「アニ……」
勢いをつけた足で踏み抜いてやろうとして。交わった瞳に、動きを止めた。弱々しく嘆いたそいつは、何をしてもヘラヘラとしている口元を歪め、不安げに私を見つめている。
どうして、私がこんな気分にならなければならないのか。もう、何もかも馬鹿馬鹿しい。体を突き動かしていた熱が急激に冷えていって、私はそのまま踵を返した。
「……次、くだらない兵士ごっこを私に押し付けたら。二度と歩けないようにしてやるから」
なにも言わずに去るのは癪で、せめて吐き捨ててやる。今までの残状からして、まあ。数分後には澄ました兵士面をしているんだろうけど。
「ノエル、やめとけ。分かってるだろ」
「分かってる、けど……」
鼻で笑っていたら、後ろから声がしてきた。私を追おうとしているノエルを、得意の兄貴面で嗜めているらしい。数秒も経たずにこれだ。さっさとこの場から離れたい一心で、歩が早くなる。
「待って、アニ」
呼び止められても、振り返りはしない。
そう。だって、あいつはいつもそうだった。
「アニ!」
どんな時でも。すぐに私を追いかけてきて、許しもなしに隣へ並ぶ。緩んだ笑みを浮かべながら、言ってくるのだ。
「アニ」
きっと、私はそれが嫌いじゃなかった。むしろ。気に入ってさえ、いたのかもしれない。
「あたし、人を殺したよ。人類を……救うために」
その告白に、大した驚きはなかった。私たちからしてみれば、当たり前のことだったから。
他人の命なんて、紙切れよりも軽い。軽く扱っていいのだ、と教わってきた。震える声に吐き出された懺悔へ、同情も哀れみも湧いてこない。ただ、何故だろう。自分が初めて人を殺した時よりも、喉のあたりが苦しくなっていく。
「アニも、そうだったの?何かのために……みんなを、マルコを……殺した」
なんて。私は、今になって言い訳をしていたいのだろう。じゃなきゃ、狂ってしまいそうになるから。
「あたしを、殺そうとした」
今だけじゃない。あの日もそうだ。さっさと逃げて仕舞えばいいのに。やっぱり、あいつは追いついてきた。それなら、私が終わらせてやればいい、と。摘み上げた体は、あまりにもちっぽけだった。
ひっくり返った頭。小刻みに震えている振動が、指先からでも伝わってきた。化け物を前にしたように怯えている瞳。開いた瞳孔が、やけに神経を逆撫でした。
骨だけは、拾ってあげる。過ったのはいつの日かにした与太話だった。正確には胃袋の中だが、大して変わりはしないだろう。約束通り、それだけは叶えてやろうとして。
こいつは、私に言った。
「アニ」
全てを失った憐れな被害者と、全てを奪った加害者。それだけなら、ここまでのことにはならなかったはずなのに。なんで、こいつは。この女がそばにいるだけで、こんなにも。こんなにも、息が――しやすい。
「あたしは、ライナーとベルトルトを殺す……あたしが、殺さなくちゃいけない」
本能が、止めろと叫んでいた。なぜかは、わからない。このまま放っておけば、勝手にのたれ死んでくれるのに。最初から望んでいた通り、私の。知らないところで。
「人類を、救うために」
あの男が、何度も囁いてきた言葉。ああ、だから嫌だったんだ。あんたが、通過儀礼で叫んでいた時から。身の丈に合わない夢を、何も知らずに語っている。語らされているような横顔。私の知らない、別人みたいなそれが。
「あの時、連れて行ってくれて。ずっと、一緒にいてくれて……ありがとう」
「ノエル」
震えを帯びたそれに、嗚咽が混じっているのか。醒めることのない微睡では、それさえも確かめられない。
「解散式の日。まともに別れも言えなくて、ごめんね」
「違う。ノエル、私は——」
「さようなら」
響いていた声が遠ざかり、意識が闇へと落ちていく。もがきたいのに、どうして。自分の指が、どこにあるかさえわからない。
「待って」
どうしようもない叫びが、闇に溺れて。
「ノエル」
そのうち、何も聞こえなくなった。
――――
立ち止まり、意味もなく息を吐いた。上官の部屋に赴くのは、いつだって緊張する。それが、自身の所属する兵団の長となれば尚更だった。始末書の提出じゃないだけ何倍もマシなのかもしれないけど。エルヴィン団長とまともに対面するのは、廊下ですれ違って以来だ。それに、あの青い瞳に見下ろされると、どうにも居心地が悪くなる。あたしがどう取り繕おうと、全て見透かされているような気がしてならない。
耳元で鳴る鼓動を諌めるように深呼吸する。息を吐き切ってから、あたしはドアを数回ノックした。
「面会の報告書を提出しに来ました」
最初から身構えていたはずなのに。その人物を目に入れてすぐ、全身が強張るのを感じた。脳内で何度も繰り返し呟いていた言葉を吐いて、ぎくしゃくしたまま報告書を手渡す。
「何か進展は?」
書類を手渡して、立ち去るだけ。それだけを思い描いていた意識の中に、団長が質問を投げかけてきた。大丈夫。それくらいのことは想定済みだ。ドキリ、と跳ねた胸を抑え、もたついた唇を動かす。
「いえ……以前の報告と変わりありませんでした」
「そうか」
小さく頷いたエルヴィン団長に、安堵が広がっていく。ひとまずこれで、やるべきことはできた。しばしの沈黙に紛れて、あたりをこっそり観察してみる。
ハンジさんの部屋くらいしか入ったことはないが、作りは他の部屋と変わりないようだった。中央に置かれた重厚な机、びっしりと埋まった本棚。唯一違うのは、うず高く積まれた書類の山や何かもわからないような部品がとっ散らかっていないことくらいだ。あの乱雑さを見慣れてしまったからだろうか。整然と片された空間は、どこか無機質に感じる。
「エルヴィン団長」
その落ち着かなさを誤魔化すように、あたしは口を開いた。一呼吸おいてから、用意していた言葉の続きを紡ぐ。
「この大変な時期に、無理を通していただいて……ありがとうございました」
言いながら、頭を下げる。一兵士の我儘を許してくれたのは団長だ。結果的に、何も成果も得られなかったけれど。
ちゃんと、アニにお別れができた。これで、壁内に心残りはない。
「失礼します」
あとは、すべきことをやるだけだ。曲げていた腰を正す。敬礼のあとに立ち去ろうとして、「君は」不意に背後から声がかかった。
「確か……シガンシナ区の出身と言っていたな」
「は、はい」
どうにかして踏みとどまり、乾いた返事をする。耳元で連続して刻まれる音は、数ヶ月前と同じもの。
「君のご両親は、今何を?」
心臓のあたりが、小さく悲鳴をあげた。荒くなりかけた息を、慌てて喉奥へと押し込める。引き攣りそうな口元を堪えながら吐き出すのは、幾度となく口にしてきた常套句だった。
「両親は……5年前に死にました」
「そうか」
エルヴィン団長が言って、会話が途切れる。急に舞い戻ってきた静寂がさっきよりも、ずっと重くのしかかってくる。
なんて事はない。ただの雑談だ。余計な心配する必要なんか。訓練だってまだ残っているし、早くみんなの元へ行かないと。
そう自分へ言い聞かせても、動悸は治らない。だめだ。前みたいに立ち去ればいいだけなのに。あたしは、「あの」好奇心を抑えきれなかった。
「どうして、両親のことを……?」
しん、と。あたりが、より一層静まり返る。カーテンがそよ風に揺れる音。アニとは違う青色が、まっすぐにあたしを映していた。
「——君の母君とは。知り合い、だった」
女型の時に捕食しておくのがアニにとって最善手だったという皮肉です