島の悪魔【本編完結】   作:死にかけの細菌

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訓練兵団編:男子会の夜

 自室で男数名が集まっている時にする事としたら、大抵は決まっていた。男子寮ではフランツがハンナと付き合った話題で持ちきりだ。自然と会話がそういう流れになるのも必然で、男数名が円座になって集まっていた。

 

「ジャン、僕はやっぱりこういうのは……」

「いいだろ、今日くらい。貴重な体験をした経験者がいるんだからよ」

 

 そういうのに毎度参加しないマルコも誰かが無理言って連れてきているようだ。円に連なる人間とは違う、不服そうな顔で並んでいる。

 

「で、キスはしたのか?」

「流れで、まあ……」

「ど、どんな感じだよ」

 

 紳士なフランツもジャンに詰められて渋々と言った様子で話し出す。生々しい会話を聞いて、数名がごくりと喉を鳴らしていた。

 

「俺たちも彼女欲しいぜ」

「全くだよ……」

 

 彼女を欲しがる声が上がると、話題は大抵派生していく。同期の女子を名指しで指名しては体つきがどうだとか下世話な話に移り変わっていった。自分はどうなんだ、と振られたので当然の如く腕を組んで答える。

 

「俺は尻だな」

「ライナーの尻好きは変わんねぇな」

「ああ、引き締まってればなおのこといい」

「で、ジャンは黒髪だろ」

 

 部屋の誰かがやじを飛ばすと、ジャンは分かりやすく不機嫌になって周りに噛みつき始めた。またやってるよ、と誰かが茶化してジャンが喚き出す。

 

「ちっげぇよ!馬鹿」

「いいだろ、ジャン。事実なんだから……」

 

 マルコがいるとジャンを的確に宥めてくれるから助かる。俺もうまく言葉をかけてやれたら面倒にならずに済むんだろうが、兵団内でジャンの世話役はマルコと決まっていた。

 

「なら、お前はどうなんだよ。マルコ」

 

 マルコの困惑する声が聞こえてくる。それもそうだ。マルコは普段からこういう集まりを避けている優等生で、考えたこともない口だろう。ジャンから思わぬ反撃を受けたマルコは、悩んだ末に口を開いた。

 

「重要なのは性格だろ」

「まったお前、そりゃないだろ」

 

 まさに模範解答をしたマルコへ、期待外れの集団からブーイングが起こっている。ジャンもマルコの肩をどついて、不満の声を上げた。だが、それもすぐに流されテーマは、同期の中で誰か好みかに変わる。定期的に開催してるので、誰が誰のタイプなのかは大抵分かっているが、同じことを言い合うのが定番だ。

 一番手に上がるのは、やはりクリスタだ。当たり前だろう。あんなに可愛い上で性格も女神ときた、訓練兵団にこれ程までの出会いがあるとは誰も思わなかったはずだ。俺も意気揚々とクリスタの名を挙げたが、見てればわかると反応は乏しい。毎度参加しているメンバーでは飽きが来て、同期が部屋の隅にいるベルトルトなんかにも会話を振る。まごつくばかりで解答を得られなかったら、アルミンなんかにも聞いていた。

 

「そういうのは、よく分からないな……」

「大体、好みなんか話し合ってどうすんだよ」

 

 エレンに雰囲気をぶち壊されつつ、最後の希望にマルコが選ばれる。再度巻き込まれるとは思っていたかったのだろう。マルコは難しい顔をして、ジャンが仕返しとばかりに至極楽しそうに解答を待っていた。

 

「同期の中で、だ。名前だぞ」

 

 ジャンが喋りかけたマルコに念を押す。開きかけていた口を閉じてから沈黙が続いた後、満を辞してマルコが言ったのはあまりにも以外な人物だった。

 

「強いて言えば、ノエルだ」

「なっ」

 

 自分が考えていたよりも何倍も大きい声が出てしまう。視線が一斉にこちらへ向いたので、驚いただけだと言い訳をして心臓を落ち着かせた。

 

「いや、なんだ。なんでもない」

 

 ノエルを名指しされたのは初めてではないが、好みだとかそういう話では聞いたことがない。俺たちにとっては大切な存在であっても、訓練兵団の中では目立つ存在ではない。愛嬌のある顔をしているものの、クリスタやミカサがいれば霞んでしまう。その魅力を知っているのは俺とベルトルトくらいだ。それが、知られていたのか。マルコの口から語られた事実に衝撃が走った。

 

「ノエル?なんでヘタクソなんだよ」

 

 マルコの発言を聞いた男たちも聞き慣れない名前に首を傾げて数秒後に思い出しているようだ。不思議がる声がジャンから上がると、マルコは頭を掻きながら答える。

 

「みんなはそうやって言うけど、彼女はすごくいい子だ。な、ライナー」

「あ、ああ。ノエルは前から良い奴だよ」

 

 マルコに振られて、肯定するように頷く。ノエルは本当に可愛くて良い奴だ。本人に言ったら怒るだろうが、俺の後ろをひょいひょい着いてくる姿は、飼い主を追う犬に似ている。俺ら以外の悪い奴に騙されねえか心配になるくらい素直で、その反面、芯の強い奴でもある。訓練にどれだけ苦戦していようと、地道に努力し続けている。立体機動装置の自主練に付き合ってやった数は数え切れず、上手くいった時に上目遣いで頭を撫でることを強請る姿がたまらない。風邪の件と言い、警戒心に欠けるのが心配だが。よく考えれば、周囲を注意深く見ているリーダー気質のマルコがノエルの名を挙げるのは頷ける。

 

「ライナー、アイツと仲良いだろ?そこんとこどうなんだよ」

「妹分だ。お前らからしたら、残念かもしれんがな」

「ライナー……」

 

 急に俺たちを静観していたベルトルトが声を上げた。ベルトルトは何か言いたげにしてから、黙り込んでしまう。ジャンが問いただしてもよく分からず仕舞いで、話はそのままノエルのことに移っていった。

 

「大人しそうなのに、明るいっていうギャップがくるよな」

 

 誰かが思い出すように言うのを聞きながら、胸が燻った。俺はその理由を知っている。ノエルには緩急があるからだ。アニと一緒にいると気分が高揚しやすいのか、明るい振る舞いが増える。俺といると、落ち着きが前面に出て甘え出すようになるんだ。ベルトルトは揶揄うのが楽しいらしく、その中間だった。顔つきは大人しく見えるかもしれんが、ギャップを感じるにはお前らが知らん理由がある。

 

「よく見たら可愛い」

「でも、胸がねぇんだよなー」

 

 俺は貧乳が悪いとは思わない。育ててやる楽しみもあるし、アイツが抱いてるかわからねえが、コンプレックスを抱いている様子が唆るだろ。デケェのも浪漫があるが、ちいせぇのも敏感さがあるとか聞いたことがある。

 大体、アイツは胸よりも尻に良いもんを持ってんだ。その良さに気づいている俺からすれば、ノエルの胸がどうこうという話は戯言に等しい。こっちは既に触って確認もしているのだから、間違いのない話だ。引き締まった形の良い尻が目の前にあったら、男として叩かねぇ方が失礼だろう。ノエルはいつもビクリと肩を跳ねさせてから、凄みのない目つきで俺を見てくる。そのまま揉んだらどんな反応をしてくれんのか気になるが、今の所実行はできていない。大抵は隣で居座っているアニが睨みを利かせてくるからだ。

 

「幼いっつーか。色気がねぇ」

 

 お前らは知らない。ノエルは容姿より行動で色気を発揮するタイプだ。病室で寝た時は腕に擦り寄ってくるから心臓が止まるところだった。離れようとしたら腰に手を回して離さないし、受け入れたのは俺だが色々と危なかった。全身で自分を求められて、とろんと目尻を下げられてみろ、色気がないなんて言えなくなる。

 

「ライナー」

 

 ノエルの話は大して続かなかった。胸の内で燻っていた正体不明の靄が霧散していく。誰だって近しいやつの魅力を貶されたら複雑な気分になるだろう。俺はそう結論づけることにした。長く感じた時間を終え、何を思ったのかマルコが話しかけてくる。

 

「ノエルのこと、話題にしちゃってごめんな」

 

 マルコは自分がノエルを話題にしたので、責任を感じているようだった。他にも話題にされている奴はいるのに、わざわざ言ってきたマルコの真意を読み取れず、俺は適当な返事を返す。

 

「そんなん今更だろ。女子たちだって俺たちで盛り上がってんだからお互い様だ」

「……そうだね」

 

 返事をしても、マルコは煮え切らない表情のままだ。よく話を聞く前に、ジャンから意見を求められてマルコにはついに聞けなかった。

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