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帝国暦486年4月、クロプシュトック候領 シルトシュテルン星系 side: リリーナ
アイルシュトック星系での殲滅を終えると、メルゲントハイム艦隊は予定通り、本星周辺の攻略へと進んだ。
進撃速度があまりに速すぎたのか、星系によってはまだ脱出しきれない輸送艦団と遭遇する場面もあった。しかし、リリーナは足を止めなかった。敵艦を鹵獲するよりも前進を優先し、後方に分艦隊を残して殲滅を任せていった。
そしてついに、クロプシュトック侯領で首都星に次ぐ人口を抱える惑星ペルスフェルトに至った。本来であれば、本星と隣接するこの星系でブラウンシュバイク公率いる中央軍と合流するはずだった。だがミッターマイヤーの差配もあってメルゲントハイム艦隊は、あまりにも早く到達しすぎていた。
「ここがクロプシュトック候領第二の惑星、ペルスフェルトね」
リリーナは艦橋の前方に広がるスクリーンを見つめた。そこに映し出されていたのは、厚い雲に覆われた、鈍色の惑星だった。
「さっさと落として、先に行きましょう」
中央軍を待つという選択肢もあったが、リリーナはそれを良しとしなかった。討伐軍の総指揮官はブラウンシュバイク公とはいえ、惑星の攻略開始について中央軍を待つか否かはリリーナが決められる範囲だった。
惑星ペルスフェルトは、いくつかの防御設備と軌道上の小型要塞、そして衛星砲台によって一応の備えを固めていた。だが、本星からクロプシュトック艦隊が出撃する気配はない。この星系に本格的な援軍が来る可能性は低く、ここも単なる障壁のひとつにすぎなかった。
「敵方から通信です。回線を開きますか?」
オペレーターの問いに、リリーナはちらりと視線を向けたものの、すぐに小さく首を振った。
「いいえ、無視して」
一拍置いて、リリーナは淡々と続ける。
「下手に抵抗力が残っているうちに降伏されても、面倒だわ。地上の占領処理に手間がかかるだけよ。先に叩けるものを叩いて、完全に抵抗の芽を潰してから投降させる方が、ずっと効率的だわ」
事実、リリーナの艦隊には陸戦戦力は皆無に等しい。惑星の中枢が降伏を決断しても民衆が従わず、人口一千五百万にもなるこの惑星で反乱の芽が燻ぶられるのは勘弁してほしいというのがリリーナの正直な思いだった。
艦隊はゆるやかに広がりながら、惑星ペルスフェルトを包むように接近していった。防衛網の密度と射程を見極めたうえで、リリーナは少し離れた宙域で進軍を止めさせる。
それは交戦距離としてはいささか離れすぎていたが、だからこそ数隻単位でのミクロ統射撃管制システムの調整として有効であると考えていた。
「ここからでいいわ。始めさせなさい」
その一言と同時に、艦隊の主砲が一斉に開かれ、空間に光線の奔流が走る。迸る光線はしかし、遠距離からの砲撃ゆえに命中弾は決して多くはない。だが、軌道上からの反撃もこちらには届かないか、届いてもメルゲントハイム艦隊の装甲を貫くには至らなかった。
ペルスフェルト周囲の砲台や衛星要塞は、惑星ペルスフェルトの周囲を軌道上で巡っている。その動きを読み、二千隻の火力をもってすれば、命中率が多少低かろうが撃破は決して難しくなかった。
「エネルギー残量については気にしなくていいわ。とにかく火力を最大限発揮することだけに集中しなさい」
リリーナは冷静に指示を下す。
艦隊は、輸送艦からの燃料補給を交代で受けながら、途切れることのない砲撃を続けていた。まるで手順の決まった作業のように、前方の目標を一つずつ、確実に消していく。
また一つ、また一つと、衛星が爆炎を上げて沈黙していく。
視界の中、ほとんどの砲撃は、標的に命中することなく背後へ抜けていく。遠距離からの中性子衝撃砲は、衛星軌道を通過して背後の惑星へと吸い込まれていった。
その視線は、前方の衛星だけに向けられていて、背後に広がる惑星本体については誰も気を配ってはいなかった。リリーナを始めとして指揮所にいた誰もが、砲台の破壊のみに意識を集中させていた。
「惑星ペルスフェルトの様子が……」
異変に気づいたのは、ほとんどの衛星を排除し終えた直後だった。観測担当の一人が、ふと背後の惑星をモニターに拡大した瞬間、画面に広がったのは凄絶な光景だった。
赤く燃え上がる火災と、黒いチリに包まれた地表。雲の切れ間から覗く街並みは、すでに存在しなかった。そこにあるのは、瓦礫と化した建築物と、焼け焦げた地面。
中性子衝撃砲は大気圏を突き抜けると、惑星表面にまで着弾していたのだった。
政庁らしき巨大な建造物跡も、跡形もなく崩れ去り、周囲にあったはずの市街地も地表ごと抉り取られている。
「……これは……」
指揮所に沈黙が落ちた。
やがて、オペレーターが確認を取るように声を上げた。
「惑星側、緊急帯域で通信要請。内容は……ののしりや非難、救難信号の混在ですが....」
「いいわ、開きなさい」
回線を開くと、破れかぶれの怒声が艦橋を突き刺した。
『貴様らは人間じゃない!! この悪魔めが!!』
『ここには子供もいたんだぞ!! なぜだ、なぜあんな攻撃を!!』
『救助は……まだか!? 誰か、応答してくれ……誰か……!』
それはもはや軍の公式通信ではなく、生き残った誰かの絶望の叫びだった。リリーナはしばし無言で聞いていたが、すぐに小さく息をつき、背後に目を向けることなく静かに言った。
「起きてしまったことは仕方がないわ。抵抗する力がないならこれ以上ここにいる必要もないわね」
その声に、指揮所にいた者たちは誰も返す言葉を持たなかった。だが、リリーナの表情には、後悔も動揺も見られなかった。
むしろリリーナはまったく別のことを考えていた。
あの距離から大気圏と雲を抜いてなお、これだけの破壊力を通せる。予想以上の破壊力ね。大気が力を弱めるどころか、運動量を伝達して周囲に被害を拡大したというのは意外だったわ。やはり、弱場ライフリング形式を採用したのは正解だったわね。
自らが開発した中性子衝撃砲の性能。その威力が、予想以上に効果的であることを、リリーナは確かに確認していたのだ。
帝国暦486年4月、クロプシュトック候領 シルトシュテルン星系 side: 惑星ペルスフェルト
「降伏信号、発信準備完了しました!」
通信士の叫びに、惑星ペルスフェルト政庁地下の作戦室は緊張に包まれた。雲の向こう、軌道上に展開しながら接近する敵の艦隊にペルスフェルトはほとんど抗うすべを持っていなかった。
防衛用の衛星はあるものの、ここまで侵攻してくる艦隊をどうにかできるものでもない。それに、クロプシュトック艦隊の過半が討たれた今となってはペルスフェルトに援軍がくる期待も薄かった。
艦隊は一定の距離を保ちつつ、横一列に広がっていく。
その様子はまるで、こちらに最後の選択を迫る“威圧”のようにも見えた。
今ならまだ.....。
「すぐに送れ!我々には戦う意志がないことを明確に示せ!」
司政官の声は震えていたが、必死だった。
「降伏信号、送信……応答なし。再送信中……」
やがて、通信士がかすれた声で言った。
「……完全に、無視されています」
「敵は何をしたいのだ!! 降伏すら受け付けないというのか!?」
作戦室に動揺が走る中、観測官が別の警告を発した。
「艦隊、全艦が砲門を展開……撃ってきます!」
「……撃つ? まだ距離が……!」
だが、次の瞬間、艦隊の一斉射撃が始まった。数千条にも及ぶ青白い光線が宇宙を焼きながら飛来する。
砲火は、まず軌道上の衛星砲台を狙っていた。反射的に衛星側からも応戦するが、旧式砲では大した反撃も行えない。それでも一矢報いようと、数だけはある衛星で必死に火線を幾筋か返す。
しかし、すぐに異変が起きた。
「あれは……!」
衛星を狙ったはずの砲撃は衛星軌道を超えて、そのまま地表へと落ちてきた。
雲を突き抜け、成層圏を貫通し、白熱した閃光が惑星全体へと次々と降り注ぐ。
次の瞬間、政庁の通信に次々と報告が入ってくる。
「着弾確認……地表への直撃です!」
「ありえない。一体、何が起きている!!」
「至急、被害状況を確認。各管区からの報告を待て!」
政庁地下の作戦室には、通信端末を通じて各地から悲鳴のような報告が押し寄せてくる。
その間にも次々と惑星表面に青白い光線が突き刺さる。火の雨が降り注ぎ、都市も道路も農場も次々と閃光の中に飲み込まれた。
防衛の意志も、降伏の意思表示も、すべて無視された。敵はただ、破壊していた。
それは戦いではなかった。
政庁にほど近い商業ビル。そこが、光と音の奔流に飲まれた。遅れて振動が走り、余波によって政庁に瓦礫が突き刺さる。
炎と破片、焼けた空気、地響き。次の一撃は、変電施設に命中する、さらに数分後には負傷者で溢れた病院が青白い光線によって灰燼に帰す。
「回線っ……再接続を!誰でもいい、やめさせろ!やめ――!」
しかし、もう送信設備は焼け落ちていた。地下にも破片が飛び込み、天井が崩れ落ちる。
地上は地獄と化していた。
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流れ弾には気を付けないとね....