銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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難産.... 短めです。
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略奪の宇宙

帝国暦486年4月、クロプシュトック首都星系 第四惑星宙域 side: リリーナ

 

 

 

「取り放題よ。取り放題。これだけあれば艦隊だろうと要塞だろうと、加速器だろうと作り放題よ」

 

リリーナは、珍しく感情を爆発させていた。その金色の瞳に宿る光は、喜悦と興奮、そして新たな可能性への期待が入り混じったものだった。

これまであらゆる計画のたびにリリーナを悩ませてきたもの、それは、軍事力でも人材でもなく、重金属元素の絶対的な不足だった。これまであらゆる計画のたびに頭を悩ませてきた重金属元素の不足、その最大の障壁が、今まさに、リリーナの足元に転がっていた。

 

砕かれた衛星は、もはや球体を維持していない。かつての軌道をなぞるように、無数の破片となって漂っている。その断面には鈍い金属光が宿り、重金属元素をたっぷり含んだ密度の高いコアの名残がむき出しになっていた。

 

まるで血の匂いに誘われた獣のように、膨大な数の輸送艦と工作艦が、群れを成して破片へと取りついていた。

アリのように這い回り、切断し、分類し、梱包する。岩石の断片は小惑星として惑星への落下軌道に乗せられ、金属核由来の高密度破片は慎重に捕獲され、外縁軌道へと移送されていく。

 

 

破片は、重金属濃度と純度に応じて即座にスキャンされ、分類・処理された。

 

大型の金属コアには工作艦が直接取りつき、補強フレームを組み、ワープエンジンを接続する。同時に大型破片の「直接ワープ」のために必要なあらゆる加工、衝撃を最小限に抑えるための面取り、内部の応力解放加工、推進ユニットの搭載、バランス修正が行われる。そうして即席の「金属輸送天体」が、次々と星系外縁部へと押し出されていった。

 

より小型の破片は扱いやすいように小さく砕かれて、様々なサイズの輸送艦に積み込んでは順に射出していく。最後には駆逐艦や砲艦まで使用して輸送の任に充てていた。

 

そのすべてが、この「破片の海」の中で、同時進行で行われていた。

 

 

 

 

 

 

帝国暦486年4月、クロプシュトック首都星系 

 

 

ブラウンシュバイク公が戦場に到着したときには、すでにすべてが終わっていた。

 

急報により、クロプシュトック候領第二の惑星、シルトシュテルン星系の惑星ペルスフェルトが陥落したことを知った公爵は、満を持して大艦隊を率いて進軍した。だが、彼の到着は遅すぎた。クロプシュトックの首都星系制圧から、すでに三日が経過していた。

 

戦術的には完璧だった。ミッターマイヤーが率いる艦隊は、クロプシュトックの最後の戦力を艦隊戦で撃破し、その後、徹底的な包囲と威圧によって惑星全体の抵抗意志を砕いた。

首都星クローネンブルクを守る守備艦隊は、衛星の爆破により戦意を喪失しており、地上もまた混乱のなかで沈黙した。

 

絶望したクロプシュトック候とその一族は、自邸にて毒杯を回し、自裁。

その報せが公的に確認されたとき、戦争はすでに終わっていた。

 

リリーナは、すでに次の段階へと動いていた。

戦闘後の艦隊を遊ばせておくことなど考えられなかった。リリーナは残された戦力を、破砕された衛星の金属資源の輸送に充てるため、第四惑星軌道へと移動させていた。

よって、惑星クローネンブルクの地上における治安維持と行政対応は、すべてミッターマイヤーに任されることとなる。というよりも、リリーナが放置したがために宙に浮いたそれをミッターマイヤーが差配していた。

 

 

手続きとしては簡単なはずだった。既に討伐軍が制圧した以上、帝国法に則れば、クロプシュトック家の滅亡により、その領地と財産は帝国財務省へと移管される。すなわち、すべての資産は国有化され、再分配の対象となる。それで終わるはずだった、建前の上では。

 

だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

門閥貴族たちの目には、首都星クローネンブルクの都市と倉庫、財宝と美術品、そして人民さえもが、合法的な「戦利品」に映っていた。

彼らはすでに、ひとつ前の戦場、惑星ペルスフェルトにおいて思うような略奪ができなかったことに不満を募らせていた。

あの惑星は、リリーナのうっかりにより、灰燼と化していたのだ。

 

今度こそ逃すものか、その意志は、もはや露骨だった。

 

公爵に随行していた一部の帝国財務官僚たちは、貴族たちによる買収や接待により早々に懐柔されていた。そしてブラウンシュバイク公が黙認の姿勢を取るのを確認した貴族たちは、形式だけの降下許可を得ると、地上へと降り立った。

 

そこから先は、これまでの人類史をお手本としていた。

 

戦闘行為の終結に安堵していた住民たちに対し、貴族たちの私兵は容赦なく襲いかかった。

 

商館は焼かれ、倉庫は「臨時接収」の名目で略奪され、富裕層の邸宅は片端から破壊された。

女たちは暴行を受け、老人は街路に倒れ、誰も助ける者はいなかった。

市民が必死の抵抗を試みた場面もあったが、彼らは即座に撃たれ、「治安維持上の正当な武力行使」として報告された。

 

ミッターマイヤーはそれを止めようとした。

 

帝国軍の将官として、一艦隊の司令官から地上の治安維持を任されていた。だが、その権限は「暫定的かつ軍事的」に過ぎず、行政や財産の管理には及ばない。

地上に残されたリリーナ艦隊のわずかな陸戦部隊も、黙して動かず、唯一動ける立場にあった彼は結果として何もできなかった。皮肉なことに、陸戦部隊の「主人」であるリリーナ自身が、軌道上で遥かに大規模な資源の収奪作業を進めていたのだから。

 

彼は幾度となく諫言を試み、進言を重ね、時には明確な指示として略奪行為の中止を命じた。だが、門閥貴族たちは耳を貸さなかった。軍人の言葉を戯れ言としか受け取らなかった。

その忠告が警告に変わり、やがて怒りに染まりつつあることに、誰も気づかなかった。

 

彼の怒りの堤防は、すでに決壊寸前だった。

 

だが、地上で略奪に耽る貴族たちは、それがどれほど危うい水位に達しているかを知る術もなく、ましてや理解しようともしなかった。

 

 

 

なお、それが当然だったのか、あるいは必然だったのかは判然としないが、リリーナについて苦言を呈する貴族は、ついぞ一人として現れなかった。

 

すでに中性子衝撃砲による殲滅戦の映像は共有され、衛星を一撃で粉砕した炭素爆弾の威力は、彼らの脳裏に焼きついていた。あれはもはや戦略でも政策でもなかった。狂気だった。

 

ゆえに、地上で貴族たちは好き勝手をしたが、軌道に浮かぶその影だけは、誰一人として見上げようとはしなかった。

 






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