銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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ストックが尽きたのでゆっくりになります....




クロプシュトック事件の後始末

帝国暦486年5月、クロプシュトック首都星系 第四惑星宙域 side: リリーナ

 

クロプシュトック侯領での一件以来、リリーナの名は銀河に轟いた。

もっとも、それは名声というより悪名だった。

 

惑星全体を軌道からの砲撃で焼き払い、炭素爆弾を用いて直径千キロメートル級の衛星をまるごと吹き飛ばした女、その名は、帝国全域に広まった。

さらに尾ひれがつくのは常で、噂話の中ではいつの間にか「クロプシュトック候に対して“次は惑星ごと吹き飛ばしてやる”と脅した」という凄まじい逸話にまで発展していた。

 

「どうしてよ! 誰も住んでない衛星の一個や二個くらい、別にいいじゃない。

確かに艦隊戦では結構殺したかもしれないけど、衛星の爆破解体で誰が死んだというのよ!!」

 

リリーナは納得しかねていた。むしろ、やや本気で憤慨していた。

 

「それに、“持ち去り自由”と言ったのはブラウンシュバイク公でしょう? 私はそれに基づいて、使ってなさそうな衛星をいただいただけだわ」

 

リリーナの主張は、ある意味で論理的だった。

戦場での掠奪といえば、通常は補給施設や資材倉庫、敵艦などの人工物が対象とされる。

誰がその言葉を根拠に、惑星の衛星までもぎ取って持ち去るなどと想像できただろうか。

ましてそれが、解体され、恒星間航行すら可能なワープユニット付きの金属資源塊として輸送されることになるとは、ブラウンシュバイク公とて、夢にも思わなかったに違いない。

 

それにリリーナは、すでに前科がある。

クロプシュトック侯領侵攻の最中、「誤差の結果」と釈明しながらも、艦隊砲撃で惑星ペルスフェルトを実質的に灰燼と化した実績がある。次は何をするかわからない。そして、やろうと思えば本当にできる、それを現実に示したことが、リリーナの“抑止力”として最大の効果を発揮していた。

 

 

その後、一部の官僚や門閥貴族から、形式的な抗議が提出された。

衛星の爆破解体が「帝国の自然秩序を乱した」とか、「使用した炭素爆弾に“皇帝爆弾(カイザー・ボンベ)”などという不敬な名をつけた」など、笑うしかないような理由だった。

 

しかし、それが政治的に無視できない程度には膨れ上がっていたのも事実だった。

現実の見えていない若手の一部貴族のひがみ、リリーナに好意を持たぬ省庁の高官たち、そういった不満の寄せ集めが、ちょっとした追及の形をとって現れた。

 

 

だが、クロプシュトック侯領でリリーナの所業を目の当たりにした門閥貴族たちは、誰一人としてそれに荷担しなかった。新型艦艇の性能と、兵器の使い方と、何よりその迷いのなさを知る帝国軍の高級将校たちも、また沈黙した。

 

 

彼らは分かっていた。もしリリーナが本気で怒れば、もしかして気まぐれでも、判断一つでヤケクソになって帝都オーディンすら爆破しかねないことを。

 

そして、誰だって、そんなときに巻き込まれる側にはなりたくなかった。

 

それゆえ、戦闘中に偶然爆破された衛星の破片を安全上の理由から除去するという名目で、リリーナはさらなる資源回収を続ける許可を獲得した。書類上は、戦闘後の宇宙空間の安全確保であり、実際には、金属塊の独占採取であった。

 

 

ただ、帝国軍はその動きに警戒を強め、中性子衝撃砲艦を含む大艦隊をメルゲントハイム領周辺のいくつかの基地に展開する措置を取った。この配置はあからさまではあったが、形式上はイゼルローン方面航路の防衛強化のための既存基地への通常の駐留補強であり、戦術的にも外交的にも強硬策とは言い難い措置であった。

 

配置の正式命令は参謀本部から発せられ、駐留の期間は「当面の間」とされている。文書上の任務は治安維持および宙域安全の確保となっているが、実際にはリリーナ艦隊の行動監視および帝都への航路の確保を目的とした牽制行動であった。

 

もっとも、リリーナがそれを気にすることはついぞなかったが.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦486年5月、ヴァルハラ星系 帝国首都星オーディン side: リリーナ

 

 

 

衛星の破片の回収にいそしむリリーナのもとに、一本の報せが届いた。それはリリーナにとっても少々意外な内容だった。

 

クロプシュトック事件のあと、リリーナは急な出立により帝都オーディンでの後処理を放置したまま、現場へと直行していた。報が入ったのは、破砕された衛星の積み込み作業を一段落させ、ようやく帰途につく途中、 帰りがけに帝都へ立ち寄った際のことだった。

 

その内容というのはクロプシュトック候討伐においてリリーナの戦闘技術顧問として共に戦ったミッターマイヤー少将。 その彼が帝都において一時的に拘禁されたというのだ。

 

詳しい事情は多く語られていなかったが、どうやらクロプシュトックの本星で略奪行為を行っていた門閥士官と衝突し、揉め事を起こしたらしい。

 

表向きの理由ですら曖昧な拘禁だったが、実態としてはリリーナに向けられるはずだった批判や怒りを、彼が肩代わりした側面があるのかもしれなかった。

 

もっとも、その「拘禁」がどれほどの意味を持つかは疑わしかった。

もし本当に軍紀違反であれば、しかるべき手続きを経て軍法会議にかけられているはずだ。憲兵による取り調べも行われただろう。

だが現実にはそうなっていない。拘束は曖昧なままで、形式的に身柄を預かっているだけ。

政治的に後ろ盾のない者には効果的な処置だが、何らかの支援があればすぐに解放せざるを得ない。つまり、拘禁とは名ばかりの牽制にすぎないのだ。

 

 

リリーナにとって、ミッターマイヤーはそもそも軍隊などで使いつぶすには惜しい逸材だった。

 

戦闘指揮や戦術理解に優れていることは、リリーナも百も承知している。だがむしろ注目すべきは、彼の持つ判断力や実行力であり、それは本来、資源管理やプロジェクトマネジメントの分野でこそ最大限に発揮されるべき資質だった。

 

非生産的で無益な殺戮のために有能な人材を浪費すること、それはリリーナの価値観にはそぐわない。 もっとも、こうした評価が強まった背景には、リリーナ自身が科学者や技術者ばかりを無理に引き上げた結果、リソース管理やプロジェクトの復旧に必要な実務人材が不足していたという事情もある。

 

だからこそ、帝都に立ち寄ったついでに、まるで古本屋で気に入った絶版本でも見つけたかのように、ミッターマイヤーを連れて帰れたなら、それほど嬉しいことはなかった。

 

それは、少し前に技術局から有望な人材を引き抜こうとして叱責を受けたことへの、ささやかな意趣返しでもあった。

 

「捨てるなら、拾うのはこちらの勝手よね」

 

軽口混じりにそうつぶやいたリリーナの口元には、わずかに皮肉な笑みが浮かんでいた。

 






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