銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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内政のみで刺激が少ない回が続きそうですが、良ければお付き合いください。







地盤固め

帝国暦486年6月、メルゲントハイム伯爵領 首都惑星トワングステ side: リリーナ

 

 

しばらくにわたる帝都滞在と外征を終え、リリーナが本拠たるメルゲントハイム領の首都星トワングステへ帰還したのは、6月も末に差しかかろうかという頃だった。人材の獲得とは行かなかったが、それよりも大事な資源の確保に成功したリリーナは満足だった。

 

これでようやく、外ばかりを向いていたリリーナにも、内政に目を向ける余裕が出てきた。帝都オーディンで寝かせていた数々の構想とアイディアを、実行段階に移す時が来たのである。

 

だが、ことはそう簡単には進まなかった。領内の根本的な労働環境は未だに改善の途上にあり、急速な変革の波に順応できない領民も少なくなかった。

彼らの中には、目に見えぬ不満や不安を蓄積させている者も多く、それは一部で顕在化し始めてもいた。つまり、反発の種は、すでに領内のいたるところに燻っているというわけだ。

 

この時は珍しいことに、リリーナはまっとうな認識をしていた。

これから推し進める各種プロジェクトにとって、何よりもまず地盤の安定が不可欠だと。制度と秩序を欠いた土台に、技術革新を積み重ねることなどできるはずもない。

 

 

 

 

 

加えて、最近では外部からの干渉も顕著になってきていた。旺盛な労働需要による新たな移民の流入に紛れ、爆弾を持ち込む不審者や、産業スパイのような連中が次々と送り込まれてくる。

 

それらの摘発がすべて成功しているとは限らず、見えているのは氷山の一角にすぎない。本当に面倒だなあとリリーナは心の中で舌打ちした。

 

ちなみに、爆弾を所持していた男は、領主館を狙っていたらしい。

だがそこには今、リリーナ本人ではなく、リリーナに反抗してきたので強引に押し込められた親戚筋や分家筋が暮らしているに過ぎなかった。リリーナは数年間、その館に足を踏み入れてさえいない。

 

そもそも、かつて反対勢力だった彼らをまとめて押し込んだのは他ならぬリリーナ自身である。反対理由もある程度まともな理由だったために、いけば怒られるか愚痴を聞かされるか。いずれにせよ、足を運ぶ理由は乏しい。

 

そんな場所を狙ったあたり、テロリストはメルゲントハイムの内情に明るくない外部犯だろう。ただし、リリーナが多方面から恨みを買っているのも確かで、誰がその黒幕なのかまでは見当がつかなかった。

 

黒幕にたどり着くため、リリーナは幾つかのより直接的で、外科的とも言える手段を試みた。対象の脳へと介入し、記憶の深層を覗き見る。神経接続を一時的に拡張し、潜在記憶の表層化を試みる。

 

だが、残念ながら結果は芳しくなかった。いくつかの記憶に関わると思われる部位から信号を抽出するも、核心に触れるような情報にはまったく届かなかった。

 

ただただ頭の中を乱雑にかき回しただけ。

 

効果としては、かつて人体研究の余興で設計した拷問装置にも劣る有様だった。あれの方がまだ耐久力が試せる分、人体の研究には有用ではないかとリリーナは内心で皮肉げに思った。結局のところ、対象が何も知らなかったのか、それとも驚くほど口が堅かったのかを判断する術はない。いずれにしろ、そうした技術も進歩を余儀なくされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好き勝手にやっていい技術革新とはことなり、地盤となる行政の改革には多少の猶予と瞬間的な強権が必要だ。

 

そのためにこそ、クロプシュトックでの勝利の余韻と、お祭り騒ぎにも似た喧噪は格好の寄りかかり先となった。リリーナの帰還に先立って、クロプシュトック星系での艦隊殲滅戦や衛星破壊の映像は、立体ホログラムとして領内の各地で繰り返し上映されていた。

 

技術こそが勝利をもたらすという成果を映像という形で可視化し、演出することで、民衆は目に見える力に喝采を送り、そこに立つリリーナに一時的とはいえ強い求心力を感じ取った。

 

それが所詮は一時凌ぎに過ぎないことは、リリーナ本人が誰より理解していた。だが、それでも地盤が揺らぐ前に得られる支持は、十分に意味があった。

 

さらに、リリーナが面倒だと言って放置していた新型艦艇の艦級命名について、家臣団が主導して領民からの公募という形を取ったのは、予想以上に功を奏した。

 

最初に完成した中性子衝撃砲搭載艦には、ザクセン級という名が与えられ、第二陣として配備された新型戦艦・駆逐艦・砲艦も、それぞれブランデンブルク級、ヴィッテルスバッハ級、ドイッチュラント級と命名された。

 

戦場で名を上げた艦がその名を背負って報じられるたび、民衆は親しみを持った艦が戦っていると錯覚する。そうしたソフトパワーは制度の不備を一時的には誤魔化すことが可能だ。

 

 

 

 

それをもって真っ先に手をつける必要があったのが戸籍システムの改修だった。管理の強化など、勢いがあるうちにやらねば強烈に反対されるのは目に見えている。

 

従来のそれは、時代遅れの帳簿データを寄せ集めたような、欠陥だらけのデータベースでしかなかった。形式的な登録はあっても、実態との連携は乏しく、人口動態も正確に把握できていない。ましてや行政との統合など夢物語だった。

 

「古臭いデータの塊はもう終わり。領民一人ひとりの認証システムと統合された、行政の中核システムをつくるのよ!」

 

会議室でそう宣言したリリーナはすぐさま明確なプランを実行に移させた。

 

超小型の埋め込み型個人認証チップ、それを基礎とし、各種の遺伝子情報、疾病履歴、学習歴、労働実績、さらには血縁構造や居住環境といったデータから、位置情報や経済活動といったリアルタイムな情報まで一元管理可能とする。

単なる戸籍ではない。人間の“機能情報”そのものを行政基盤に取り込むための統合的システムである。

 

リリーナは、個々の領民の能力、健康、教育履歴、犯罪歴、社会的関係性をすべて見渡せる全領域型の監視・運用体制を視野に入れていた。それは“管理”を可能にするだけでなく、“最適化”を現実のものとするための下地でもある。

 

 

 

 

 

これに基づき、リリーナが軌道上に新たに建設したのが劣悪遺伝子排除センターだった。

 

この機関は、単なる優生思想の焼き直しではない。リリーナにとって、これは社会の安定と医療的福祉の中間に位置する実用装置であった。

 

その目的は、生殖前の遺伝子検査と必要に応じた修正、ならびに劣悪・有害遺伝子によって生じる疾患の予防・修復、すなわち「治療」である。劣悪遺伝子による社会的な被害の最小化のための管理・研究、そして潜在的な劣悪・有害な遺伝子発生の防止までを包括して扱う必要性がそこにはあった。

 

リリーナは、「人間そのもの」=「遺伝子の集合」といった短絡的な見方を取らなかった。

むしろ、これまで人類が“利己的な遺伝子”に使役される立場だったのを、“遺伝子を使役する側”へと転換する必要があると考えていたのだ。

 

 

だが、真の核心はそこではなかった。

このセンターにはもうひとつの目的があった。それこそが生殖行動そのものへの直接的な行政の関与、もっと言えば管理であった。

 

人口の急激な増減、あるいは階層による出生率の偏差は、あらゆる計画を脅かす。リリーナは、それを「マルサス的指数関数という罠」と呼んで忌み嫌っていた。

指数的な人口変動の前では、安定的な社会発展など無力に等しい。ましてや、人口に応じた成長が義務として課される社会においては、致命的な脆弱性となりどうしようもない社会矛盾が生じる。

 

一方で、国家が間接的・政治的に生殖をコントロールしようとすれば、即座に不満と反発を招き、無敵の人たち、何も失うもののない、社会破壊を厭わぬ個体群、を量産することにもなる。

 

それを避け、かつ将来を見据えて安定した人口構造を形成するには、生殖を市場にも民間にも委ねるのは愚行だとリリーナは断じていた。あくまで、生殖もまた行政が掌握すべき制度の一環である。それがリリーナの判断だった。

 

 

 




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