銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

22 / 73
感想・お気に入りモチベになるのでありがたいです!!






リリーナ地球(テラ)へ…

帝国暦486年10月、太陽系外縁部 side: リリーナ

 

 

太陽系、それは人類誕生の地にして、文明の揺籃だった。だが、かつての内乱によってその地位は著しく低下し、今やわずかばかりの人口を養うだけの片田舎と化していた。

 

帝国の片田舎に存在するその惑星はある種特殊な立場にあり、政教一致の体制を取る惑星地球は半ば無視される形でその自治権を認められていた。

 

 

その黙認の形で与えられる自治権すらも太陽系ではなく地球にのみ付与されており、地球は太陽系全体すらまともに支配できていない。つまり、それ以外の惑星、火星も、木星も、そして水星すらも、事実上、無主の地なのだ。

 

仮に地球側に訴えられたところで、相手は名ばかりの弱小勢力。政治的にも、軍事的にも、大した影響力はない。まず取り合われることは無いだろう。

 

 

 

 

「ワープアウト完了。目標座標、第三惑星宙域まで、あと2万光秒です」

 

「約40天文単位ね。木星...第五惑星軌道を越えたら、地球の衛星、月への降下準備に入りなさい」

 

艦橋の正面スクリーンに、ゆっくりと拡大されていく青き地球を見つめながら、リリーナは淡々と指示を出す。今回は輸送艦の都合がつかなかったため、暇になっていた戦闘艦500隻を伴っての遠征だったが、メルゲントハイムからの航程は比較的近く、航行は順調そのものだった。

 

人類の故郷たる太陽系方面とはいえ、今は大して栄えているわけでもない。普段なら多少の警戒をする宇宙海賊すらも、この航路では獲物が少なすぎて飢え死にしかねない。

唯一と言っていいのはフェザーンや帝国各地からの貧乏巡礼者であり、星間輸送の積荷としてはあまりにも奪う気の起きない程度のものだった。フェザーンから地球への航路がメルゲントハイムを経由するために一応は航路と呼べるという程度の閑散ぶりと言えるだろうか。

 

故に戦闘を想定していない任務。よい意味での緊張感の緩みが、むしろ気分を軽くしていた。

 

 

 

そんな太陽系において、リリーナの目的は二つの天体にあった。

 

一つは、地球の衛星、月である。

ここには、地球統一政府が最も繁栄していた時代に「太陽系の首都」とまで謳われたルナシティが存在し、その周囲には数多くの研究施設が建設されていた。

地球統一政府の潤沢な資金が、文字通り湯水のように注ぎ込まれたそれらの施設群は、当時の亜空間技術において、現在とも張り合えるほどの水準に到達していた。

リリーナはそのことを十分に把握しており、たとえ数百年が経過していても、そこに残された記録や設備は回収の価値があると判断していた。

 

 

 

だが、本命は月ではなかった。

 

リリーナがより強い関心を寄せていたのは、太陽系第一惑星、水星である。

この惑星は直径こそ5,000キロほどと小型だが、その内部には巨大な金属核を抱えており、潜在的な資源量は、かつてクロプシュトックで獲得した資源を遥かに凌駕するものだった。早くもナッサウ級と名前がついて建造が急ピッチで始まった新造戦艦をはじめ、幾つかのプロジェクトでの消費を考えると、早晩新たな入手先が必要だろう。

 

とはいえ、従来の技術では岩石層があまりにも分厚く、開発は事実上見送られてきた経緯がある。だがリリーナにとって、その程度の障壁は問題にならなかった。

 

確かに、惑星規模の爆破を一度で行うのは現実的ではない。だが、岩石層を段階的に剥がし、時間をかけて慎重に開発していくのであれば、それはむしろ利点にもなり得る。

 

何よりもこの惑星は無主地である。

 

地球にのみ限定的な自治権が与えられている現在の状況下では、太陽系内の他の惑星は法的空白にあり、誰の支配も受けていない。ゆえに、一度占拠してしまえば、他者の干渉なしに継続的な採掘が可能となる。

 

また、水星はかつて何度も探査対象とされていたため、既存の地質・鉱物データも比較的豊富であった。今回は、その価値を見極めるための事前視察としての遠征でもあった。

 

 

 

しかし、リリーナ一行が木星軌道を越えた頃、太陽系の内側、地球軌道上では不穏な動きが起きていた。

 

「第三惑星軌道上に多数の戦闘艦を確認。推定数、約200隻。いずれも戦闘態勢を取っています!」

 

報告を受けたリリーナはすぐに前方スクリーンに目を向けた。そこに映し出されたのは、旧式の艦艇群が整然と並び、まるで儀式のようにこちらへ武器を向けている光景だった。大きなものでも巡航艦クラス、小型のものは旧式の警備艇と思しき船体。いずれも装備は貧弱で、火力も装甲も帝国軍標準にすらはるかには遠く及ばない。しかし、その配置と姿勢からは、明確な敵意だけがはっきりと伝わってきた。

 

「こちらから太陽系に向かうと事前に通知しておいたはずだけれど……まったく。これが地球流の歓迎というものなのかしら?」

 

リリーナの言葉には、呆れと苛立ちが混じっていた。とはいえ無理もない。リリーナの名はこの太陽系でも悪名として知られており、送った通達も内容次第では宣戦布告と取られても不思議ではなかった。なにしろ、文中にははっきりと「水星を頂きます」と書いてあったのだ。

 

「どっ、どうなさいますか?」

 

オペレーターの声が一段と緊張をはらむ中、リリーナは冷静に命じた。

 

「戦闘準備。敵の射程内に入らない距離まで接近しなさい。それから通信回線を開いて、意思疎通を試みるわ」

 

残念ながら、開かれた通信から得られたのは意味不明な言葉の羅列だけだった。「地球の神聖性を汚すな」「全宇宙を律する超越的意思が地球を再び人類の中心にするのだ」、宗教的熱狂に満ちた断片的な言葉たち。唯一理解できたのは、間違いなく彼らが「地球教」と呼ばれる一種の原理主義的宗教の信徒であるということだった。

 

艦橋の空気は次第に慌ただしさを増していったが、リリーナは内心で迷っていた。もともと地球に対して敵意を抱いていたわけではない。ましてや貧相なこの艦隊を撃滅したところで得られるものは何もない。実証にも練習にもならない無意味な殺戮だ。

 

未知の宗教勢力「地球教」は不気味ではあるが、もし単なる誤解であるならば、外交的に解決できる可能性もある。リリーナとしては、地球を武力で制圧するなどという無駄な事業に関わるのは、心底避けたかった。

 

だが、リリーナの思慮深さとは裏腹に、敵艦隊の方に理性はなかった。

 

「敵艦隊、針路を変更せず、直進してきます! 速度上昇!一部の艦が撃ってきています!」

 

 

リリーナは舌打ちした。

 

「……ああもう! 中央艦隊は前進を中止。現在の距離から迎撃態勢を取って。両翼は展開して逃さないように包囲を。全艦、砲撃開始!」

 

その瞬間、リリーナ艦隊の主砲群が一斉に火を吹いた。青白い粒子ビームが宇宙空間を切り裂き、旧式艦艇を容赦なく貫いていく。その光景は、美しくも悲惨であり、一切の反撃を許さない無慈悲な攻撃だった。

 

そして、交戦が始まってから5分も経たないうちに、地球教の艦隊は完全に沈黙した。

 

 

 

だが、それで全てが終わったわけではない。

 

確かに敵艦隊の殲滅には成功した。しかし、太陽系の問題は、そう単純に片付いたと言える性質のものではなかった。何より地球含む太陽系はメルゲントハイムからも遠くはない上に、今後の資源開発拠点となりうる水星との資源輸送のルートを安定させるためには無視できない存在だ。地球を放置すれば、輸送船が襲撃される可能性は高く、後々の災いの種となるのは目に見えている。

 

リリーナはその現実に思い至り、静かにため息を漏らした。

 

結局、地球をある程度までは制圧しなければならない。せめて百隻単位の艦隊で抑え込める程度には、徹底して潰しておく必要がある。

 

やる気の起きない後始末の作業。リリーナは無言のまま、艦橋のスクリーンを見つめていた。

 

 




お気に入り登録・評価付与等よろしくおねがいします。
感想もありがたく読ませていただきます。



地球滅亡まで あと○○日

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。