銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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カストロプ動乱

帝国暦487年3月、ヴァルハラ星系 帝国首都星オーディン side: ブラウンシュバイク公爵オットー

 

「――あの小娘め!! 調子に乗りおってからに!」

 

声の主はブラウンシュバイク公であった。赤らんだ頬をさらに怒気で染め、テーブルを拳で叩く。

 

「当てつけのように艦隊を集め、帝都に威圧をかけるとは、もはや反逆も同然ではないか!」

 

「全く同意のことだ。」

 

リッテンハイム候もそれに同調し、鼻を鳴らす。

 

「もとより貴族の風上にもおけぬ女だが、領民にまで手を出してくるとは何事だ。ルドルフ大帝の定めた封建の秩序を、あやつはどこまで軽んじるつもりだ?」

 

「うちとも懇意にしておった輸送艦をまるごと奪われたせいで、領地に物資が届かんのだ。」

 

別の貴族が、手にしていたグラスを振りながら声を上げた。

 

「あの令嬢の理屈にかかれば、伝統も慣習も泥より安い!」

 

「うむ、まさに悪例だ。」

 

また別の貴族がため息まじりに言葉を継ぐ。

 

「ヴェスターラントを任せていた代官が、あろうことか買収されておった。

領民のほとんどが買い叩かれて持ち去られていたわ。あれは下人のやり口よ。貴族がやることではない。」

 

一同の間に、しばし苦い沈黙が落ちる。

やがて、老伯爵の一人がぽつりと漏らした。

 

「あの女、いったい何を考えておるのだ。

帝国を繁栄させるというなら、まず貴族を支えねばならぬだろう。

我らがあってこそ、この帝国は成り立ってきたのだ。」

 

「それを理解できぬのが、あの小娘というわけだ。」

 

ブラウンシュバイク公が椅子にもたれかかり、唇を歪めた。

 

「伝統あるメルゲントハイム伯の家名を汚すとは、貴族の義務や誇りを知らぬやつめ。聞くところによると領民を機械としてしか見ぬという、もはや支配者ではなく機械工だ。」

 

「しかし、あの艦隊は脅威だ。」

 

別の貴族が低く言った。

 

「新型艦、そして新型砲。あの女がどこまでやるつもりか分からんぞ」

 

「新型砲なら帝国軍にも配備されているでしょう。」

 

血気にはやった若手貴族が鼻を鳴らす。

 

「結局は器の問題です。オオカミに率いられたヤギの群れは、ヤギに率いられたオオカミの群れに勝つといいます。 同じ土台に上がれば、我らのものです。」

 

「それは心強い……それに実はな、こんな話もある。」

 

ブラウンシュバイク公がゆっくりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年3月、メルゲントハイム伯爵領 side: リリーナ

 

観艦式の派手な演出が行われる中、リリーナは頭の中で数字をはじいていた。リリーナは単純な実数同士の計算が特段得意なわけではなかったが、それでも普通の人よりもはるかに容易にこなして見せる。

 

そして、その計算の結果が良くないことであることは数字の意味を理解すれば計算しなくても分かるものだった。

 

「あーー、お金が、資源が、エネルギーが足りないわ!!!!」

 

観艦式の先頭を行く艦の中でリリーナはあらゆるものが自転車操業に陥っている現状と向き合っていた。根本はエネルギーと資源の物理的な不足であったが、外部からの調達には金銭が必要になる。鉱山採掘権、土地利用権、人的資源の購入などが止まってしまえば、メルゲントハイムの経済は急ブレーキを踏む羽目になるだろう。支出は収入の10倍を超えており、経済規模の増大によって辛うじて持ちこたえているといったものだった。

 

もちろんリリーナも打てる手は打っている。例えば領内の貨幣と外部のそれを分離して領内では独自の信用貨幣を流通させ、領内にあった帝国マルクを借金の返済に使ったこともあった。

 

リリーナのもとに朗報が届いたのはその時だった。

 

 

 

「カストロプ公、謀反。」

 

その報が届いたとき、リリーナは思わず椅子から立ち上がった。 そして、ほんの一瞬、小躍りした。

 

理由は単純である。

メルゲントハイム領は、カストロプ家に多額の借財を抱えていたのだ。 事故死した先代カストロプ公は、蓄財家として帝国内でも名を馳せた人物だった。莫大な富を背景に、各地の貴族や商人へと貸付を行い、政治的影響力を拡大していた。リリーナもまた、その融資の恩恵を受けた一人である。

 

恩恵という言葉が適切であるかどうかは別として、リリーナにとってカストロプ公は違う意味でも資金源であり、 型落ち兵器や廃棄艦を最新改良型と称して売り払うこともあった。そして、将来の引き渡しを約束しての借財までしていたほどだった。

 

そんな折に届いた、カストロプ家の謀反の報。それはまさに、リリーナに天が与えた好機だった。

 

「……全軍を、カストロプへ向けるわ。」

 

報告を受けたリリーナは、即座にそう命じた。

家臣たちは一瞬顔を見合わせた。リリーナの表情は冷静そのものだったが、その瞳の奥には冷たい炎のようなものが宿っていた。

 

「観艦式を終えたばかりで、艦隊は確かに集結しています。」

 

その報告に、リリーナは満足げに頷いた。

 

「なら好都合ね。艦の整備も完了している。あとは向かうだけ。」

 

その声には、軍人らしい昂揚もなければ、復讐者の熱もなかった。ただ、帳簿を一行削除するような静かな決意があるだけだった。

 

リリーナにとって、今回の遠征の目的は明確である。

第一に、借財の証拠を完全に消し去ること。

第二に、売却した兵器群を破壊すること。

この二点に尽きた。

 

反乱の鎮圧など、その副産物に過ぎない。特に具体的な額さえ隠せればいくらでもどうにかなるとリリーナは考えていた。

 

もちろん、いくら反乱が起きたとはいえ、 勝手に攻め入るわけにはいかない。帝国法上、諸侯間での直接戦闘は正式な命令や皇帝親裁による許可が必要とされている。また、反乱鎮圧とあれば、もちろん帝国軍の指揮下で働くことになる。

 

だが、幸いなことにカストロプは愚かだった。反乱の第一報によれば、カストロプ家の新公爵は即座に星系周辺の艦隊を撃退し、その中にはメルゲントハイムの輸送艦も含まれていたとしても誰にもわからない状況にある。つまり、帝国貴族として当然の自衛権の範囲での武力行使というのを彼自身の手で許可してくれたのだ。

 

「ありがたいことね。」

 

リリーナは皮肉まじりに微笑んだ。

 

「無許可の出兵ではなく、帝国貴族としての自衛行為として記録できるわ。」

 

リリーナの指先が端末に触れ、数行の命令が打ち込まれる。それだけで、数千隻の艦が動き出す。

 

「艦隊に通達。目的地はカストロプ宙域。皇帝陛下に弓引き、メルゲントハイムに仇なすカストロプを討つ!!全艦隊、全速力でカストロプ本星に進撃!!!」

 

 

 





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