銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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ヴァンフリートに輝く光

帝国暦485年3月、自由惑星同盟 ヴァンフリート星域 side:リリーナ

 

 

「こんなこともあろうかと、私の艦隊の主砲は中性子衝撃砲を搭載しているの。これならこの距離からでも戦艦の装甲を容易に貫ける筈よ!!」

 

 

決まった!!

リリーナは叫びだしたくなるところだったがそれを心の中で必死で抑えていた。

 

リリーナの艦隊の属する分艦隊、それを指揮するラインハルト・フォン・ミューゼル准将の旗艦にシャトルから乗り込んだリリーナは非常用通路を使って艦橋に降り立っていた。この艦がもともと伯爵家から軍に売却された艦艇だからこそ出来た荒業だが、これによって不意を突いたリリーナは見事にラインハルトに衝撃砲を売り込むことに成功していた。

 

若い将官というのは得てして血気に走りがちである。実際この分艦隊も左翼の最前線にくるまでに前方に行こうとして何度も巧みながらやや強引な艦隊運動を行っている。そんな相手に対し、ちょうど目の前に中性子衝撃砲のターゲットになりそうな艦隊が来るという絶好機を逃さずに売り込んだ。この点をリリーナは心の中で自賛していた。

 

しかし、リリーナの手ごたえに対して目の前の若き指揮官とその副官の反応はいまひとつといったところだった。ただ、話が通じないという訳でもなさそうだ。どちらかといえば突然そんなことを言われても信じられないという感じだろうか。

 

そうであるならば話は早い。実際にその威力を体験してもらうことが一番に違いない。

 

「閣下、お疑いのようでしたら試されてはどうでしょうか?失敗したとしても多少エネルギーを使うだけですわ。何をためらうことがあるのでしょうか?」

 

敵艦への攻撃をしたくなる程度に挑発し、リリーナに怒りが向くほどには怒らせない。絶妙なバランスを考えながらの言葉は結果としてはラインハルトに攻撃を決意させることになる。

 

 

 

「俺としたことが、こんな幼子に諭されるとはな。分かった。ではメルゲントハイム艦隊を前に出せ」

 

ラインハルトはその命令に続いて前面に展開していた駆逐艦と砲艦に対して上下左右に細かく指示を出していく。同時に副官のキルヒアイスがメルゲントハイム艦隊の中性子衝撃砲搭載艦隊に細かな指示を出し、効率的かつ滑らかに布陣が変更されていく。二人の若き指揮官の見事な艦隊運動によって見る見るうちにメルゲントハイム艦隊は押し広げられるように前面に展開していく。

その顔は先ほどまでの不平を述べていた時とは違い、生き生きとして活力とエネルギーに溢れていた。元からの端整な容姿とあいまって、リリーナの中身が乙女であったらそれだけで惚れていたかもしれない。しかし、リリーナの愛人枠には既に衝撃砲が居座っており、その実戦機会とあってすっかりそちらに夢中になっていた。

 

 

 

 

「全艦砲撃準備、目標前方反乱軍艦隊。.........ファイエル!!!」

 

 

 

号令一下、前面に展開したメルゲントハイム艦隊は主砲へのエネルギー供給を始める。正面から見ればそれは高速でスピンしている奇妙な艦艇がその中心部に青白い光を蓄えつつある様子が見られたであろう。

 

ドギュゥゥルルルルルルルーーーーーーーァァン!!

 

ドギュゥゥルルルルルーーーン!!

 

 

 

 

一瞬の静寂をおいて各艦から極太の青白く発光したエネルギー弾の筋が次々と打ち出される。柱のように伸びたそれは宇宙を引き裂くように伸び、電磁パルスを通して艦内に独特の音を響かせながらただひたすらまっすぐに直進する。

 

到達までの僅かな時間をラインハルト分艦隊の誰もが固唾を飲んで見守る。

 

そして、数光秒もの距離を大した減衰もなく飛んだエネルギー弾はあっさりと同盟軍艦艇の横腹を貫いた。ラインハルトの指示によって砲撃が集中した迂回艦隊の先頭付近で次々と艦が爆散する。完全なアウトレンジからの攻撃であったそれは、完全な不意打ちとなって組織的な回避運動を取らせる隙を与えなかった。

 

 

 

「素晴らしいわ!!!予想通りの威力よ!!」

 

「反乱軍の艦艇に命中!!!撃沈多数!!」

 

予想通りの遠距離砲撃が決まったことに興奮し出すリリーナの声と敵の損害を淡々と告げる観測手の声が艦橋に響く。その他の乗員は皆その威力に驚き、ただただ映し出された敵艦隊の姿を見ることしか出来ない。それは明らかに量産型かつ戦艦と呼ぶには小さいような艦艇が出してよい威力の攻撃ではなかった。

 

もちろん、三千隻を超える迂回艦隊に対して高々百隻の攻撃では所詮は引っ掻き傷のようなものだ。実際の損害は数十隻に過ぎない。しかし、迂回機動中にアウトレンジで突然叩かれた艦隊は大混乱に陥っていた。

届かないにも関わらず主砲でもって応戦しようと撃ち返してくる艦もあれば、バラバラの回避運動を行う艦もある。ヴァンフリート星系特有の通信の悪さも手伝って無秩序状態に陥りつつあった。

 

ここを逃すラインハルトでは無い。リリーナもその視線に応えるように口を開く。

 

「中性子衝撃砲は精度は落ちますが十分に連射可能です。指揮権は閣下にあるのですから好きにして頂いて構いませんわ」

 

リリーナとしては多少の損耗は覚悟の上だった。その性質上、中性子衝撃砲が暴発する可能性は高くはない。ただ、連射すればエネルギー供給系が使い物にならなくなるようなことは十分にあり得る話だった。しかし、リリーナはその先、つまり実戦での酷使時におけるデータと戦果による褒賞を見据えていた。

 

 

 

「よし、第二射は敵艦隊後部に目標を修正。撃て!!」

 

 

ラインハルトの指示から一瞬の間を置いてエネルギー弾が閃光を引いて放たれる。その数は第一射から少し減っているものの、やはり数十隻が貫かれて爆散することになる。

一瞬にして艦隊の前後に攻撃を受けたことで混乱は極致に達する。目の前で蠢き回る艦隊は帝国軍にとってまさに無抵抗の獲物そのものであった。

 

 

ラインハルトはこの戦果を確実にするために、第三射の準備とともに艦隊に前進命令を出していた。駆逐艦と砲艦を持って紡錘陣形を取ったラインハルトの艦隊は帝国軍左翼が動きだした瞬間にその先鋒となるべく万全の状態を維持していた。

 

「今左翼を前進させれば混乱している艦隊ごと敵右翼を押し込んで敵をなぎ倒すことができるではないか!!グリンメルスハウゼン!!その程度のこともあの老いぼれにはわからんのか!!」

 

 

ただ、その先が続かなかった。敵右翼の混乱はこの戦いにおける決定打になり得たにも関わらず、グリンメルスハウゼンはやはり左翼を動かせなかったのだ。赤毛の副官の好意的解釈によってなだめられるまで怒りを爆発させたラインハルトのことをリリーナは表面上だけしか理解出来なかったが、この若き准将がただものではないことを感じ取っていた。

ただ、ラインハルトがいくら怒ろうと艦隊の指揮権が手に入る訳ではない。

敵が混乱している間、リリーナはラインハルトに中性子衝撃砲の長所と短所を説明し、それをもとにラインハルトは適切な運用方法を模索するのだった。

 

 

 

 

 

翌日からの戦いでは同盟軍の右翼艦隊も当然ながら中性子衝撃砲を警戒してくる。無理に攻める気が無いからなのか、遠距離からの命中率を下げて狙いを定めにくくするために艦隊を薄く広げてかつ彼我の距離をとって布陣してくる。

こうなってしまうと数の少ない中性子衝撃砲で出来る戦略的に意味のあることは無いに等しい。だからこそ敵の混乱を狙って用いるべきなのだが、肝心の絶好期を逃している以上これからも戦局に影響を与えるとは考えにくかった。

 

もちろん、敵の布陣は大規模な艦隊突撃には極めて脆弱であるが、それを敢行するほどの戦いに対する構想力があれば戦いは昨日のうちに決していただろう。

 

 

とはいえ、中性子衝撃砲は遠距離に構えた相手に対しても細々ながら戦果を上げ続ける。これはエネルギー出力を無理をして上昇させることで射程を伸ばすことで実現された。その度に故障と修理を繰り返しながら敵を削り続けた艦隊は、結果として数百隻規模の分艦隊にしては異例なほどの撃沈数を誇ることになっていた。

 

 

 

 

そんな局地戦の細かな動きに対してヴァンフリート星系全体としては完全なる膠着状態に陥っていた。互いが互いに決定打を欠いた状態故に戦いをだらだらと継続し、攻勢に出た側が損害を受けるということを繰り返す。そんなこんなでヴァンフリート星域での戦いが開始してから一ヶ月が経ったころ、埒が明かないと判断した互いの指揮官はようやく撤退を決断する。

 

帝国軍は警戒程度の一部の艦隊を残し、残りの大半がイゼルローン回廊を抜けて帝国に帰還することになる。ここにリリーナの初陣となったヴァンフリート星域の戦いは終結し、メルゲントハイム艦隊とともに領地への帰途に着くのであった。

 

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