銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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カストロプ動乱3

帝国暦487年3月、カストロプ公爵領 side: リリーナ

 

通信が終了すると同時に、カストロプ艦隊が両翼を広げて進んできた。

 

怒り任せの突撃に思えたその陣形は、意外にも計算された散開、半包囲を狙う形をとっていた。特に右翼の一部は軌道面と垂直方向に機動しながら進撃してくる。

 

 

これを見て、リリーナも迎撃態勢に移行した。手始めに先ほどから炉圧を上げていた要塞主砲、それも瞬間物質移送器のプロトタイプによる直撃砲を距離があるうちに撃つことにする。

 

「対消滅直撃砲、発射シーケンス第二段階完了!!」

 

「目的座標確認。星系内天体による微小重力波補正計算、開始!」

 

「主反応炉、炉圧上昇。各要塞、順次加圧装置による圧力制御に移行!」

 

連続する報告の声が、緊張したリズムで重なっていく。スクリーンには、カストロプ艦隊の進撃経路と星系内各天体からの微小重力波分布が重ねて表示され、電子雲のような青白い線が星系の空間を縫って走っていた。

 

リリーナは、静かに手を組み、発射準備を見守る。これほどの数の瞬間物質移送器を星系内部で使用するのは前例がない。

 

「戦艦主砲の射程内に入るまでには、まだ数分あるわ。」

 

リリーナは短く息を吐き、全艦隊に通信を繋ぐ。

 

「要塞主砲を撃ったら、足を止めた敵から各個撃破。側面艦隊は両翼を叩き、その勢いで敵の側面から包囲。要塞と中央艦隊は下がりながら正面で迎え撃ちなさい!」

 

その命令が伝わると、艦列がわずかに形を変えた。無数の戦艦が淡く光を放ちながら回頭し、前方の虚空を狙うように艦首を傾ける。

 

「三番要塞、対生成サイクルに移行できません!」

 

「三番要塞、主砲発射中止!」

 

通信が短く切られる。

リリーナは眉をひそめたが、声を荒げることはなかった。

 

「残り九基で十分よ。同期を取って――始めなさい。」

 

指令の瞬間、艦隊中枢の照明が一斉に落ちた。要塞群の炉心が深紅に輝き、空間が震える。電子と陽電子の奔流が、まるで光の奔馬のように蠢き出す。

 

「対消滅直撃砲――発射まで、カウント開始。」

 

「10……9……8……」

 

要塞の外殻に沿って、青白いエネルギーが奔る。それは空間を捻じ曲げたことによって生じる波長分離が色として認識されているものだった。物理法則が一瞬だけ歪み、空間の膜が薄く透ける。

 

「……3、2、1――発射!」

 

虚空が、音もなく裂けた。

 

瞬間物質転送装置が開放され、電子と陽電子の渦が空間ごと転送されていく。閉じ込められていた電子陽電子の渦が砲身にそって加速され、砲身から出た瞬間に瞬間物質移送器によって放たれた。

 

光速を越えた閃光は、距離の概念を無意味にし、カストロプ艦隊の中央部に向けて空間跳躍する。

 

次の瞬間、光が裏返る。閃光は爆発ではなく、吸い込みであった。わずかに転送範囲を超えた電子と陽電子の渦が対消滅を繰り返しながら無音の空間に拡散していく。

 

 

 

 

 

 

「カストロプ艦隊への被害は?」

 

リリーナの声が艦隊指揮所に響く。

スクリーンに投影されたのは、要塞主砲の着弾座標と効果範囲。衝撃波の軌跡が複雑にねじれ、重力干渉の乱流を描いている。

 

「……敵中央部の二割が効果範囲に収まりました。範囲内の艦はおおよそが破壊されております。同期ズレによる干渉で転送経路が一部歪んだようです。」

 

「そう。」

 

リリーナは短く頷いた。スクリーンに映し出されたカストロプ艦隊が爆散する影響を見ながら、まるで研究結果のデータを確認する学者のように、リリーナは静かに分析を続けた。

 

「艦内部への直接転移が発生した艦は、内側から爆散したわね。……面白いわ。シールドの透過干渉が予想以上に不安定。エンジンと通信機器、主砲を破壊して無力化できると思っていたけれど、命中した艦のかなりが爆発している。命中率は悪いけど――威力はそれなり」

 

いずれにしろ、敵艦隊は動きを止めるだろう。

 

「左右の艦隊に回り込むよう伝えて!」

 

リリーナは間髪入れず命じる。

 

「中央艦隊は敵中央部に突進。目標はカストロプ公マクシミリアン。生死は気にしなくていいわ!!逃がさないで!」

 

指令系統が瞬時に稼働し、艦隊陣形が再構成される。

 

「要塞主砲、再発射可能か確認。全シーケンス走らせて。」

 

「各炉心、冷却サイクルに移行。圧力降下後、再充填開始。」

 

報告の声が飛び交う中、リリーナはスクリーンの隅に映る、敵陣形を見つめていた。点滅する赤い光は、沈黙した艦の信号。しかし、意外なことに残りの艦隊は気にせず突っ込んできていた。

 

 

 

 

 

帝国暦487年3月、カストロプ公爵領 side: カストロプ公爵マクシミリアン

 

「なんだあれは?」

 

艦橋に怒号が響いた。

カストロプ艦隊の主、マクシミリアンの鎮座する艦橋のスクリーンには次々と破壊された艦艇の情報が更新され、断続的に明滅していた。

 

「全艦隊の十パーセントを損耗!」

 

通信士が声を裏返らせながら報告する。

 

「原因不明! 突然、高エネルギー宇宙線のようなものが観測されました! 敵の何らかの攻撃と思われます!! 被害がでたのは中央だけです!!両翼には被害ありません!」

 

「高エネルギー宇宙線だと? ふざけるな!」

 

マクシミリアンが吠えるように叫んだ。

 

「あの気狂い女のことだ!敵の要塞から放たれたものに決まっている! あれだけあってごく一部にしか当たらんとは、威力は凄まじいが狙いすら定まっていないのだ!こちらとの通信中から準備していたとあれば再装填にも時間がかかるはずだ。再装填までにこのまま前進して踏みつぶせ!!!」

 

マクシミリアンは乱暴に立ち上がり、拳で通信卓を叩く。

 

 

オペレーターたちは一斉に指を走らせた。 慣性制御が悲鳴を上げ、艦体が振動する。数百隻の艦艇が一斉に推進を上げ、白い尾を引きながら前方へ突進していく。

 

「敵、突っ込んできます!!」

 

副官が叫び、マクシミリアンの拳が飛ぶ。

 

「何を弱気になっている!!構うな! 真正面から叩き潰せ!奴らの新兵器が沈黙している間に、壊滅させるのだ!!」

 

 

マクシミリアンは笑った。

 

「両翼の艦隊を散開させて、敵の側面艦隊を誘い出せ! 食いつかれなかった艦は側面から中央に!! 突っ込んでくる敵をまとめて叩くぞ!」

 

その指示は粗削りではあるが、的を射ていた。

 

「敵艦隊、食いつきました!!」

 

報告と同時に、艦橋中央の主スクリーンが拡大表示へと切り替わる。青白いホログラムが空中で展開し、両軍の動きが立体地図として浮かび上がった。時刻表示が刻一刻と進み、艦艇一つひとつが光点として動くたびに、航跡が尾を引いては消えていく。

 

カストロプ艦隊は左右が前進する形になり鮮やかな鶴翼包囲を形成しつつあった。対するメルゲントハイム艦隊は、一時的に陣形が乱れ、応戦に移らされている。

 

「ふんっ、所詮は気狂い女。戦の定石を知らん。よし、全艦隊で敵本隊を叩く!! 包囲網を狭めて、あのデカいだけの艦を蜂の巣にしろ!!」

 

スクリーン上で、無数の光点が交錯し、艦隊が複雑な軌跡を描く。

だが次の報告が、その笑みを凍らせた。

 

「誘引をしていた左右の分艦隊、壊滅!誘い出した敵側面艦隊からの猛攻を受け、損耗率上昇!!」

 

ホログラムの左右に広がった点が真っ赤に染まり、味方が次々と消滅していく。点滅していたものが突然すっと光を失い、ただの影のように消える。

 

「なにっ!?」

 

マクシミリアンは叫ぶ。

 

「今さら左右に掃けた程度の艦隊、戦局に影響など及ぼさん!ここまで本隊を包囲すれば、もう逃げようがないぞ!射程に入り次第、撃て!!」

 

だがその瞬間、通信士の声が悲鳴に変わった。

 

「て、敵、撃ってきます!!」

 

ホログラムの中央が一瞬、白く飛んだ。それは光量が限界を超えたときの表示異常ではなく、空間そのものが飽和したような白さだった。

 

「なっ、まだ射程には――」

 

言い終えるより早く、艦橋全体が白い光に飲み込まれた。

 






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