銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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感想楽しく読ませていただいています…………






同盟領侵攻作戦

帝国暦487年6月、メルゲントハイム伯爵領 自由浮遊惑星トルン side: リリーナ

 

リリーナは回廊がそろそろ同盟領近くまで届くと聞いて同盟への遠征を企図していた。

 

「全くもって足りないわ」

 

リリーナはスクリーンを睨みつけた。

 

整然と並ぶ数字はメルゲントハイム艦隊で即応できる全部隊を示していた。

 

メルゲントハイム艦隊の主力となるのは三千メートル級の新型戦艦プロシア級二百隻と旧式のブランデンブルク級戦艦六百隻。純粋な火力だけを見れば、辺境貴族の私兵としては異常な規模だ。それどころか、正規軍一個艦隊と撃ち合っても余裕で張り合えるほどの圧倒的な攻撃力を持っている。

 

「決戦なら勝てるわ」

 

同盟の一個方面軍程度なら当然ながら正面突破可能。それに、機動力で勝るなら、敵が散開したところに戦いを強要できる。

 

「だけど、戦争は決戦だけでは終わらないわ。むしろ、それを避けられるとして考えるべきね」

 

補給とその護衛、そして征服した星系への航路確保。火力の劣るヴィッテルスバッハ級駆逐艦やドイッチュラント級砲艦を合計五百隻ほど集めたが、これでは継続した補給を続けるのは難しい。

 

「千隻規模の艦隊だけど、そもそもプロシア級は大きい分補給も相応に必要だわ。持久戦をやられたら、こっちの脚が止まりかねないわね」

 

さらに深刻なのは輸送艦の絶対数だった。

資源買い付けのために派遣しすぎて数が減っているのもあるが……

 

「新回廊を通れる耐久性を持つ船が少なすぎるのよね」

 

飛び石的に生成された新回廊には、航行可能宙域とはいえまだ微細な乱流が残っている。

亜空間揺らぎ。局所的磁場偏差。不規則な荷電粒子密度変動。

 

「理論上は安全、というだけね。こんなこともあろうかと追随可能な装甲輸送艦だけは手元に残していてよかったわ」

 

船体に瞬間的な応力がかかる。外板が軋み、内部構造材に疲労が蓄積する。厚い装甲をもつ軍艦ならともかく、それに耐えられる輸送艦は多くない。それに加えて高精度航法装置、長距離跳躍能力、高速亜空間航行能力を要求するとなれば当然基準を満たす船は限られる。

 

補給線は細く、不安定だった。

というより、継続的に補給を送り続ける体制ではない。輸送艦に積めるだけの物資を積み込み、それを持って進出するほかなかった。

 

「同盟領は、早めに処理しておきたいわね」

 

それに、リリーナがやるべきことがあまりないうちに事を進める必要もある。

 

「これは私自身が行く必要があるわ」

 

航法の最終判断。臨機応変の進路修正。宙域変換の緊急運用。

誰かに任せるには、不確定要素が多すぎる。

さらに占領したとして、どこまで破壊するか、どこを残すか。そしてどの惑星を接収し、どれを切り捨てるか。

 

そして交渉。同盟側の地方指導層が降伏を選ぶ可能性もある。その判断を即断できるのは、最終決定権を持つ者だけだ。

 

「仕方がないとはいえ、あまりにひどいわね。まあ、そのうち増強すればいいわ」

 

通信環境はさらに問題だった。新回廊内部では、様々な乱流の影響で超光速通信が著しく減衰する。それに、連絡線構築完了までは完全に連絡が断たれる。

 

信号は届くが、遅延とノイズが激しい。ときには、数時間の空白が生じる。

 

「帝国側と常時連絡は取れないから、メルゲントハイム伯領は貴方たちに任せるわ。基本的にはこれまで通り進めなさい。帝国政府や帝国軍から何か言ってきた場合は、問題にならない程度に従っておくこと。それ以外の相手は私が不在だといって引き取ってもらいなさい。」

 

そして、リリーナは艦隊配置図を閉じた。

 

「全艦、出航準備を急がせなさい」

 

奇しくも同盟で帝国領侵攻が決定したのと時を同じくして、リリーナは動かせるほぼ全艦隊を編成して、一路同盟側へと開かれた細く不安定な新回廊へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年7月、ヴァルハラ星系 帝国首都星オーディン  side: ブラウンシュバイク公爵オットー

 

怪しげな辺境宙域での実験に加え、大艦隊を組織して突如として姿をくらましたというリリーナの行動は、帝都オーディンの貴族社会に大きな動揺をもたらしていた。

もともと帝国貴族たちは、カストロプ公討伐以来、緊張した状態にあった。

 

帝国領防衛の要たるイゼルローン要塞の失陥、ラインハルト・フォン・ローエングラムの急速な台頭、そしてそれと並行するように勢力を拡大するメルゲントハイム伯領。これらは旧来の大貴族たちにとって不安の種でしかなかった。

 

そこへ来て、リリーナが突如として艦隊を率い、辺境の彼方へ姿を消したという報告が入る。

それは、彼らの想像力を刺激するには十分すぎる出来事だった。

帝都ではすぐさま様々な噂が飛び交い始めた。

 

ある者は、それを未知宙域の開拓だと主張し、ある者は、新型兵器の実験だと断言し、

そして多くの者は、それを帝都攻撃の準備ではないかと疑い始めたのである。

 

ブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯を中心とする大貴族たちは、自邸に評議場を設け、連日のように集まっていた。

 

しかしそこで交わされる議論は、実質的には何の結論も生まない空論ばかりであった。

誰もが危機を語り、誰もが憤り、だが誰も責任を負おうとはしない。

 

その間にも不安は広がり続けていた。

 

ついには彼らは帝国政府に働きかけ、メルゲントハイム伯討伐令の発布すら求めるようになる。

 

それだけではない。

 

血気に逸る青年貴族の一部は、自領へ戻り、私兵艦隊の準備を始めていた。中には、無謀が恐怖を乗り越え、独断でメルゲントハイム伯領への先制攻撃すら企てる者もいた。

 

リリーナが気付かぬうちに、状況は急速に不安定化していた。

 

さらに事態を悪化させたのは、リリーナとの接触の失敗である。緊張を緩和し、真意を確かめるために派遣された使者は、釈明を求めるどころか、礼儀も何もない形で門前払いされ、そのまま追い返されてしまった。

 

本来これは、余計な失策や不用意な約束、あるいは帝都貴族の策謀に巻き込まれることを避けるため、留守を預かる者に対してリリーナ自身が命じていた措置だった。リリーナとしては、外部との接触を極力断ち、余計な隙を見せないことが最善だと考えていたのである。

 

しかし、その意図は完全に裏目に出た。

 

帝都の貴族たちにとって、それは慎重さの表れではなく、むしろ疑惑を裏付ける証拠にしか見えなかった。

 

「やましいことがあるから使者を追い返したのだ」「すでに謀反の準備を整えているのではないか」そうした噂は、あっという間に広がっていった。

 

リリーナの沈黙は、リリーナ自身が思っている以上に多くの想像と恐怖を生み出していた。

 

ブラウンシュバイク公の邸宅。

 

豪奢な会議室の一角で、フレーゲル男爵が低い声で囁いた。

 

「伯父上、このままでは早晩帝都を占拠し、恐れ多くも皇帝陛下にまで害を及ぼしかねません」

 

ブラウンシュバイク公は黙っていた。彼の脳裏に浮かんでいたのは、ただ一つの疑問だった。

 

リリーナは何を考えているのか。

 

それが分からない。

 

単純な野心家ならまだいい。権力欲で動く人間なら、ある程度行動を予測できる。権勢を強めようと中央政界に進出しようとして、その仕掛けの痕跡が残る筈なのだ。

しかしリリーナの行動は、既存の政治的常識に当てはまらない。

 

吸い上げた富で買い集めたメルゲントハイム伯領では領内の資源のほとんどが艦隊建設に注ぎ込まれ、周囲の星系には膨大な軍需物資が集積されているという。

 

その目的が分からないことが、何よりも不気味だった。ブラウンシュバイク公の中で、リリーナという存在はすでに銀河帝国の枠組みそのものを破壊しようとする狂人として像を結びつつあった。

 

しかも、フェザーンからも不穏な情報が届いていた。リリーナが帝国に叛意を抱いている可能性があるというのである。

 

その報告を聞いたとき、ブラウンシュバイク公の胸中で、ばらばらだった疑念が一つの像を結び始めていた。

 

そうしてみると、カストロプ公討伐の異様な早さにも説明がつく。あれほど徹底的で、しかも容赦のない殲滅。

 

最初からその事実を知っていたのか。

 

あるいは…………本人がそそのかしたのではないか。

 

カストロプ公を動かし、反乱を誘発し、それを口実に討伐する。もしくは、共に蜂起するつもりが何かの仲違いを生じた。そして証拠を残さぬよう、都市も艦隊も何もかもを破壊する。

 

そう考えれば、あの苛烈さにも筋が通る。カストロプ公もまた、結局は利用された駒に過ぎなかったのではないか。

 

ブラウンシュバイク公の中で、疑念はもはや仮説ではなくなった。それは、ほとんど確信に近い形へと変わりつつあった。

 

ゆっくりと息を吐く。

 

重たい空気が部屋に沈んだ。

そして、低い声で言った。

 

「……危険すぎる」

 

その言葉には、怒りよりも警戒が強く滲んでいた。

 







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