銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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帝国領侵攻作戦2

帝国暦487年8月、ヴァルハラ星系 帝国首都星オーディン side: ラインハルト

 

自由惑星同盟の侵攻は、帝国にとって完全な不意打ちであった。

 

同盟側は作戦準備の段階から徹底した情報封鎖を行い、イゼルローン回廊はもちろん、フェザーン経由の諜報網にもほとんど痕跡を残さなかった。

 

その結果、帝国側は作戦発動の直前まで大規模な動きを察知できなかったのである。

 

フェザーン駐在武官レムシャイド伯は、この失態の責任を問われ解任寸前に追い込まれていた。だが、その責任を個人に帰すには、事態はあまりにも急激に展開していた。

 

帝国側の警備艦艇は、回廊周辺に配置されていたものも含めてすべて撃破された。

辛うじて帰還した哨戒艦の報告によれば、敵戦力は最低でも五個艦隊規模。

しかも、その行動は統制され、明らかに周到に計画された侵攻作戦であった。

 

この報告は、帝都オーディンを揺るがした。

 

帝国政府は、当面の国内問題をすべて後回しにするほかなかった。

 

だらだら続いていたリリーナに関する騒動も、いったん棚上げされ、討伐令の発動も、イゼルローン要塞陥落の責任問題もとりあえず先送りにされる。

 

それよりも、いま帝国が直面している危機の方がはるかに重大だったからである。

これに対処すべく、帝国元帥として元帥府を開いていたラインハルトに討伐令が下った。

大挙して押し寄せる同盟艦隊は、すでにイゼルローン回廊の制圧を開始し、その脚を止めることなく帝国本土へとなだれ込もうとしている。帝都オーディンに届く報告は、いずれも深刻なものばかりだった。

 

それに対してラインハルトは、オーディン周辺に配置されていた艦隊に出撃準備を命じ、配下の提督たちにもそれぞれ配置と行動計画を指示した。軍務は迅速に処理された。命令は明確であり、誰も迷うことはない。

 

 

 

 

だが、命令を出し終えたあと、ラインハルトは一人執務室に残り、窓の外の宇宙を静かに見上げていた。

 

「ラインハルト様」

 

控えめな声が背後から聞こえる。

 

「キルヒアイス」

 

ラインハルトは振り返らずに言った。

 

「俺が何に悩んでいるか分かるか」

 

キルヒアイスは少し考えてから答えた。

 

「敵とどう戦うかではなく、何を敵にするか……でしょうか」

 

ラインハルトはわずかに口元を歪めた。

 

「叛徒の相手など容易い。確かに初戦の勢いは凄まじいが、それがオーディンを含む帝国中枢に届かない限り、こちらが優勢な兵站と兵力で押し潰せる」

 

帝国の人口、産業、補給線。

同盟がどれほど艦隊を送り込もうとも、長期戦になれば帝国が優位であることは明らかだった。決戦に及んで負けるような愚を犯さなければ、功績は自ずから転がり込んでくる。

 

そして、その後に起こるであろうことをラインハルトの目は捉えていた。

キルヒアイスは静かに続ける。

 

「メルゲントハイム伯領をどうなされるか、でしょう」

 

ラインハルトはゆっくりと頷いた。

 

メルゲントハイム伯領は、オーディンからイゼルローン回廊へ向かう航路の途中に位置する。そしてそこは帝国内でも屈指の軍備を備えた軍事拠点だった。

 

帝国領内には多数の基地が存在する。だが、地理的条件、規模、補給能力、そのすべてを考えれば、メルゲントハイムほど条件の整った場所はない。

 

巨大な造船施設。

発達した工業基盤。

そして何より、リリーナが整備した資源輸入のための大量の輸送艦隊。

 

それらを徴用できれば、遠征軍の兵站拠点としてこれ以上ない場所になる。帝国軍の補給基地はいくつもあるが、それらは国内での補給のための拠点であって、長期かつ大規模の艦隊根拠地としては不安であった。

 

「そうだ」

 

ラインハルトは静かに言った。

 

「あそこを当面の根拠地とするところまでは自明の理だ」

 

だが問題はそこではない。

 

「問題は、それを今領地にいないというあれに向かってどう使うかだ」

 

キルヒアイスは慎重に言葉を選んだ。

 

「ラインハルト様、あの令嬢が帝国を裏切るとは思えません。きっと何か考え有ってのことでしょう。」

 

ラインハルトは軽く鼻で笑った。政治的野心について、ラインハルトは大した疑いを持っていなかった。

 

「そうだろうな。おおかた、またなにか怪しい実験でもしているのだろう」

 

だが、と続ける。

 

「キルヒアイス」

 

ゆっくり振り向いた。

 

「――あれを止める、これ以上の機会があるのか」

 

その声は静かだったが、決意の色を帯びていた。

 

ラインハルトは、遠からず帝国内の他の勢力と戦うことになるだろう。

 

それは姉を皇帝から取り戻すため。

腐りきった特権階級から権力を奪い取るため。

命数の尽きた王朝に終止符を打つため。

そして、新しい秩序をこの銀河に築くためだ。

 

広大な私領と多数の艦隊を持つ大貴族。オーディンで蠢く官僚と政治家。それらから特権を奪い、腐敗をふりはらう。

 

自分とキルヒアイスがいれば、ほぼ確実に勝利できる。

 

ラインハルトはそう信じていた。

 

だが、その未来の中でどうしても排除しておかなければならない存在が一つある。

 

メルゲントハイム伯リリーナ。

 

オーディンで無為な権力争いに人生を費やしている門閥貴族とは違う。あの少女は、力を持ち、そしてそれを使うことを躊躇わない。

 

子供ゆえの無邪気さなのか。それとも門閥貴族の血がそうさせるのか。宇宙を破壊し、殺戮することに、まるでためらいがない。

 

怒りに支配されているわけではない。狂気に呑まれているわけでもない。快楽のために破壊するのでもない。

 

それでいて、結果として現れる行為は、しばしば狂人のそれよりも徹底していた。あえて言えば、統治者としての視点があまりにも欠けているとでもいうのだろうか。自分の行為によって生じた犠牲、特にそれが戦闘員かそうでないかという点に無頓着で、そこに何ら倫理的な正当性を争わなかった。

 

同時に戦争という名の儀礼や名分にすら、あまり価値を見出していないように見える。

 

辛うじて帝国貴族としての体裁は保っているが、それもただ形式に過ぎないのかもしれない。

 

意味もなく反逆するようなこともないだろうが、もし許されるならばノイエ・サンスーシだろうと、皇帝だろうと、ためらいなく艦砲射撃の照準に収めるだろう。その危険さを、ラインハルトは理解していた。

 

そして、ラインハルトが考えるような政治を行うためには、間違いなくそのような状態が出現する。クーデターや政権交代での正統性の揺らぎは軍事力によって収める必要がある。その時に、オーディンを疎ましく思って反乱鎮圧の名目で惑星ごと吹き飛ばさない保証など、どこにもない。

 

さらに、貴族特権を剥奪するとすれば、メルゲントハイムが帝国の一部である理由などどこにもなくなる。辛うじて細い鎖で繋がれている猛獣の首輪を外し、尻を蹴り上げるようなものだ。そこで大人しく政治闘争などするまえに、よろこんで艦隊戦力と可住惑星への破滅的な攻撃を加えるにちがいない。

 

そのとき、どれほどの被害が生じるのか。想像することすら難しかった。

 

 

そして何より。

 

 

リリーナの保有する兵器は、その性能において明らかに既存の帝国軍兵器から隔絶している。

ラインハルトは、自分の用兵に絶対の自信を持っていた。戦術と戦略で、どんな不利も覆してきた自負があった。

 

そして、そんなラインハルトだからこそ理解していた。

 

用兵による逆転にも限界がある。敵の速度が上回り、射程が上回り、火力が上回るとき。戦場の選択肢そのものが消える。ヴァンフリートでの戦いで見た程度であれば、工夫次第で戦えただろう。ただ、カストロプで確認された巨大な新型戦艦はそうした工夫でどうこうできる相手ではなかった。

 

今のところその気がないのが幸いだが、もし帝国を征服する気になればそれが可能な艦隊を建造してくるだろう。そのとき、誰がそれを止められるのか

 

窓の外の宇宙を見つめながら、ラインハルトは静かに言った。

 

「惜しいな……」

 

その言葉は、野心とも後悔ともつかぬ響きを帯びていた。

わずかに目を細める。だが、すぐにその考えを振り払うように首を振った。

 

 

 

 

 





感想・評価よろしくお願いいたします。


今更ですが、本作では
○○星系 : 対象の恒星の重力圏くらい(約1光年)の範囲、もしくは特に内側100AU程度の惑星や小惑星帯が位置する領域を指す。
○○星域: 中心となる星系が政治的、軍事的に影響を及ぼす多数の星系(恒星 数十個-千個)を含む宙域 10光年-50光年くらいを指す。
という理解で書いてます。多分…………
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