銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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同盟侵攻の続きです……




同盟領侵攻作戦3

帝国暦487年8月、自由惑星同盟 シヴァ星域 惑星サラスヴァティ side: リリーナ

 

「新回廊とこの惑星を、あらたに帝国領とすることを届け出たいところだけれど」

 

リリーナは、軽く肩をすくめるように言った。

その言葉を遮るように家臣が報告する。

 

「姫様、やはりメルゲントハイム本国との連絡は取れません。回廊内部で通信が乱れているようです。おそらく増強を進めているとは思いますが、構築には少なく見積もってもあと数日は要すると見られます」

 

報告を受けても、リリーナは前方スクリーンから視線を外さなかった。

 

新回廊に進出するにあたり、リリーナは連絡確保のため多数の通信衛星を配置してきた。だがその大半は、航行不能宙域を越えて通信する必要がある。重力乱流と電磁ノイズの影響で回線品質は著しく悪く、安定した通信網とは言い難かった。

 

首都星トワングステを出発して新回廊に突入してから、すでに一か月以上だ。不安定宙域故の機関トラブルやワープに慎重を期してきたせいだったが、その間、帝国側の情勢はほとんど入ってきていない。

 

それでもリリーナの態度に変化はなかった。リリーナも流石に同盟領をまるまま手に入れるのにはそれなりに時間のかかることだとは分かっていた。やることを残してきたわけではなかった。

 

「仕方がないわ」

 

あっさりと言った。

 

「予備の中継を置けるほどの余裕はなかったもの。あちらはあちらでよほどのことがない限り問題ないわ」

 

リリーナはスクリーンに映る惑星サラスヴァティ周辺宙域を見つめた。

軌道上には、まだ破壊された艦艇の残骸が漂っている。守備艦隊はすでに壊滅していた。

 

散乱する金属片が、恒星の光を受けて鈍く輝いている。それは、戦闘がつい先ほどまで行われていた証でもあった。

 

「それより」

 

リリーナは言った。

 

「惑星の占領を進めるわよ。多少は破壊してもいいけど、今回は政庁の破壊は許可しないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵基地および敵艦隊の無力化、完了しました」

 

スクリーンに軌道基地の映像が映し出される。装甲が破壊され、回転を失った巨大構造物。

 

大した防御力を持たない基地に過剰な火力が叩き付けられたことで、すでに戦闘能力は完全に失われていた。

 

「宇宙港上空、確保。降下部隊の展開準備、完了しています」

 

さらに報告が続く。

 

「惑星政府の行政長官からの通信です。降伏の申し入れと思われます。」

 

予想通りの結果だった。

 

辺境補給惑星が、まともな艦隊と戦う理由はない。軌道上の基地を破壊され、頭を押さえられた時点で抵抗するすべは残っていなかった。

 

「とりあえずは宇宙港の物資の接収以上のことはしないと伝えなさい。それから、その行政長官とやらを連れて来なさい。それから補給艦が到着し次第補給を開始できるように、各艦に準備を始めるように伝えなさい」

 

命令はすぐに実行された。

 

数時間後。

 

惑星サラスヴァティ行政長官ラジヴ・ナンダが旗艦ヴュルテンベルクに連れて来られた時、リリーナは政庁から送られてきたデータに目を通していた。

 

この惑星の人口、産業、航路、備蓄物資。どれも予想の範囲内だった。辺境補給惑星。戦略価値はゼロではないが、補給線を維持し続ける気がないなら決して重要でもない。

つまり、足止めされる価値のない惑星だ。

 

リリーナが入室を許可すると、ナンダが部屋に入ってきた。

 

緊張しているのは一目で分かった。まあ当然だろう、とリリーナは思う。

自分の惑星が三時間で制圧され、気づけば敵艦隊の旗艦に連れて来られているのだ。

 

しかも、その敵が誰なのかすら分からない。恐怖としてはかなり上等な部類だ。

 

「まず名乗っておくわ」

 

ナンダは思わず姿勢を正した。

 

「私はリリーナ・フォン・メルゲントハイム」

 

リリーナは淡々と言う。

 

「皇帝陛下よりメルゲントハイム伯爵位を拝命しているわ。そして、この艦隊の司令官でもあるわよ」

 

ナンダの顔色が変わる。

 

帝国貴族。しかも伯爵。つまりこの艦隊は…… と理解したのだろう。

 

リリーナはその反応を一瞥だけ確認すると、特に興味を示す様子もなく本題に入った。

 

「この惑星はこれから帝国施政下に入ることになるわ」

 

ナンダの表情が凍る。

 

なるほど、とリリーナは思う。同盟人にとって帝国は「敵」だ。だが、今ここで重要なのはそこではない。

 

「まだ陛下に奏上していないけど認められ次第、我がメルゲントハイム領の一部として組み入れられることになる」

 

リリーナは淡々と言った。

 

「要するに私の領土ということね」

 

ナンダは何か言おうとしていた。

 

だが、言葉が出てこないらしい。

無理もない。惑星を占領した側が、まるで不動産でも取得するかのように話しているのだから。

 

リリーナは構わず続けた。

 

「安心していいわ」

 

そして、わざと軽く言った。

 

「大した惑星じゃないし、燃やしても脅しにならないでしょうし」

 

これは本音でもあった。

 

「こちらの要求は三つ」

 

指を立てた。

 

「航路図と通信網の情報を提供すること、宇宙港を優先的に使わせること、必要な物資を供出すること」

 

簡単な条件だ。もともと艦隊は壊滅しているし、宇宙港もすでにリリーナの手にある。今更わざわざ要求するほどのことでもない。

 

リリーナは書類を差し出した。

 

「とりあえず面倒だから、あなたがこのまま管理しなさい」

 

ナンダが顔を上げる。

 

「行政は今まで通りでいいわ。税も法律も好きにやればいい」

 

そして少しだけ声を低くした。

 

「ただし、私の艦隊の邪魔をしない限りはね」

 

ナンダは理解したようだった。

 

少なくとも、惑星を破壊する気はない。それが分かっただけでも、彼にとっては救いなのだろう。

リリーナはペンを差し出した。

 

「ここにサインして」

 

ナンダはしばらく迷っていた。だが迷う意味はない。軌道上には二百隻の巨艦。防衛艦隊は存在しない。つまり選択肢は一つだけだ。

 

ナンダは署名した。

 

それを確認して、リリーナは書類を閉じた。

 

「結構よ」

 

それだけだった。

 

それが終わるとナンダがいそいそと退出していった。

 

リリーナはすでにその出来事に興味を失っていた。書類を脇へ押しやると、視線は艦隊運用の表示へと移る。

 

 

軌道の外縁では、後続していた補給部隊がようやく追いつきつつあった。物資を満載した輸送艦隊と、急いで先行するために残していた旧式戦艦・小型艦一千隻である。さらに、対消滅直撃砲を搭載したシュタウフェン級小型要塞もそれに従っている。

 

「再編してさっさと進むわよ!」

 

リリーナは占領した惑星に長く留まるつもりはない。必要なものを回収し終えると、艦隊はただちに次の目的地へと進む。

 

リリーナは進路を慎重に選んでいた。航路図をもとに航行不能ではないものの、重力乱流や微小隕石帯が残る危険宙域をかすめるように、なお可能な限り最短となる経路。リリーナの艦隊は、無駄な戦闘も停滞も嫌うかのように、冷静に星域を横断していく。

 

その先にあるのは、シヴァ星域最大の惑星、惑星カルティケーヤであった。

 

 







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