銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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アムリッツァ遭遇戦

帝国暦487年9月、イゼルローン回廊 アルテナ星系 side: リリーナ

 

ダゴン星系での戦いを終えたリリーナは、艦隊に補給を行わせると、そのままイゼルローン回廊へ進路を取った。

 

回廊は広大な宙域ではあるが、その周囲には複雑に入り組んだ航行不能宙域が広がっている。重力乱流と微小天体群が絡み合うその領域での跳躍は、ほとんど自殺行為に等しかった。

 

それゆえ、回廊を避けて進むことはできない。そして、その中央部にはこの宙域の門番のように、イゼルローン要塞が鎮座している。

 

要塞砲の射程に入る前に、リリーナは艦隊を広く展開させていた。複数の艦列が互いに距離を保ちつつ、索敵と機動の余地を残した配置である。

 

同盟軍の邀撃艦隊が出てくる可能性を警戒しての陣形だった。

回廊の宙域は静まり返っている。だが、静寂は必ずしも安全を意味しない。むしろ、何も現れないこと自体が警戒を強めていた。

 

その横で、輸送艦隊の隣に並んだシュタウフェン級小型要塞が、ゆっくりと回頭していく。

 

巨大な構造体が軸を変え、主砲軸を回廊の狭隘部へと向けていた。

 

指揮所の照明が、緊張を帯びてわずかに暗く感じられる。

リリーナは静かに前方のスクリーンを見つめていた。

 

「全要塞――」

 

短い命令だった。

 

「対消滅直撃砲――発射ッ!!」

 

次の瞬間、一瞬だけ宇宙が白く裂けた。

3基の対消滅直撃砲が一斉に発射される。

 

圧倒的なエネルギーの奔流が、イゼルローン要塞周辺の航行不能宙域へと叩き込まれた。

 

航行不能宙域を満たしていた相対論的荷電粒子の濁流が、電子・陽電子対の爆発的反応で形成された泡によって清められていく。

まるで幕が裂けるように空間がクリアになり、その中心に、暗い回廊のような空隙が生まれる。

 

「とりあえず、要塞は放っておいて、さっさと帰るわよ」

 

手間をかけてイゼルローン要塞を落とすつもりはない。ここは帝国領への通り道を開ければそれでいい。下手に手を出して壊してももったいない。

 

同盟軍の遠征艦隊の補給線であるがゆえか、同盟側の輸送艦隊はこの宙域に頻繁に現れていた。結果として、いくつもの輸送船団がリリーナ艦隊の前に現れ、ほとんど抵抗もなく捕獲もしくは撃沈されていった。

 

捕獲した輸送艦には、前線へ向けた大量の物資が積み込まれていた。質は悪いが推進剤の補給は当面の間問題ない。

 

とはいえ、メルゲントハイム領がどうなっているかは分からない。それを確かめるためにも、早く帝国領に戻る必要があった。

 

「全艦隊、空間の安定を待ってから、要塞主砲の範囲外を通って回廊狭隘部を脱出。帝国に帰るわよ!!」

 

艦隊がゆっくりと空隙へと進んでいく。

イゼルローン要塞は沈黙したままだった。

 

 

 

 

 

しかし、そこから先はリリーナにとって苦難の道のりだった。

第12艦隊壊滅の報を受けた同盟軍は、これ以上の遠征は不可能と判断し、全面撤退を決断する。

 

狭いイゼルローン回廊には、進撃してきた多数の艦隊と、それを支える輸送船団が存在していた。それらが一斉に反転したことで、回廊内には大小さまざまな艦艇が入り混じる混乱した状況が生まれる。

 

同盟にとっては幸いなことに、帝国軍主力との本格的な衝突が起きる前だったことが功を奏した。撤退はその規模に比して比較的秩序を保ったまま進み、大きな損害を出さずに成功していた。

 

その流れの中をリリーナの艦隊は、あたかも逆走するかのように進んでいた。

宙域の特性の関係上、撤退する同盟軍の艦隊群の中を縫うように航行するしかなく、そのたびに哨戒艦隊や護衛艦隊と遭遇する。規模は数百隻から千隻程度のものが多かったが、回廊という狭い宙域では回避も容易ではない。どうやったってどこかで探知範囲に入ってしまう。

 

その結果、リリーナの艦隊は頻繁に戦闘に巻き込まれることになった。

ある時は輸送船団の護衛艦隊と短時間の砲撃戦を交え、またある時は撤退途中の巡航艦部隊を高速突撃で突破する。近くにワープアウトしてきた分艦隊を叩き潰す。相手は制式艦隊ではなかったが、その総数は輸送艦、工作艦のようなものまで含めれば一万隻に近い。

 

 

戦闘の多くは短時間で終わったが、それでも消耗は確実に積み重なっていった。それは物資的というよりも精神的なものだったが、確実に艦隊の動きを鈍らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年10月、アムリッツァ星系 side: リリーナ

 

 

一方、回廊に向けて引き上げてきた同盟軍主力の第3,10,13艦隊は、イゼルローン回廊の入り口に位置するアムリッツァ恒星系付近に達していた。戦闘態勢をとりながら進む巨大な艦隊群は、撤退中とはいえ依然として圧倒的な戦力を保っている。

 

しかし、その配置や規模をリリーナは把握していなかった。

むしろ、回廊を抜けたという事実が、わずかな油断を生んでいた。

 

帝国領に戻った、そう思った瞬間だった。

 

 

 

「ワープアウト!!」

 

次の瞬間、艦隊指揮所の照明がわずかに揺れた。

 

「艦影多数……!」

 

「これは……敵です。目の前に大規模な敵艦隊!!」

 

アムリッツァ星系外縁部。ワープアウトした瞬間、リリーナの視界を埋め尽くしたのは、スクリーンに表示された無数の赤い光点だった。

 

同盟軍の艦隊。

 

しかも100や1000ではない大艦隊だ。

 

「敵、撃ってきます!!」

 

「敵が近すぎます!この距離では……」

 

回避も隊形展開も間に合わない距離だった。ワープアウト直後の艦隊は機動が鈍い。

 

そこへ、同盟軍の砲火が一斉に降り注いだ。

 

リリーナは瞬時に判断した。

 

「ここから回避するのは無理だわ」

 

一拍の沈黙。そして命じる。

 

「全艦隊!!前方に火力を集中!!」

 

戦術スクリーンを指差した。

 

「中央突破するわよ」

 

後退はできない。旋回すれば包囲される。

ならば正面を叩き割るしかない。

だが、もう一つ問題があった。

 

1AU程度背後にワープアウトしてくる予定の輸送艦隊。

 

ここで速度を上げれば戦闘艦だけは簡単に突破できるかもしれない。だが、それは補給艦と小型要塞を見捨てることを意味する。

 

リリーナは短く命じた。

 

「後ろの艦隊に連絡!!補給艦と要塞を艦隊中央部に、そして最低限の人員以外は護衛の砲艦に移乗。いつでも自沈できるようにしなさい」

 

最悪の場合、敵に奪われる前に沈める必要があった。

 

 

「駆逐艦、沈没五! 機関大破三!」

「砲艦、沈没六!!」

「戦艦、中破二!!」

 

リリーナはスクリーンを見つめた。

 

至近距離からの攻撃だけあって、メルゲントハイム艦隊も無傷ではいられない。

機関部や主砲への命中弾は、装甲の薄い艦を中心に確実な被害をもたらしていた。数隻の砲艦が火球となり、多数の駆逐艦も推進器を損傷して隊列から脱落していく。

 

まるで罠だ。

 

そう思うほど、状況は出来すぎていた。

 

だがリリーナは一瞬たりとも躊躇しない。改めて全艦に火力の投射を命じる。

 

「焼き切れてもいいわ」

 

リリーナの声が艦橋に響く。

 

「全力で撃ち尽くしなさい!!」

 

その火力は圧倒的だった。

 

至近距離から浴びせられる高密度の砲撃に、同盟艦隊の戦列は急速に崩壊していく。戦艦が装甲ごと貫かれ、巡航艦が爆発の連鎖に飲み込まれる。

 

特に新鋭のプロシア級戦艦の主砲は凄まじかった。巨大なエネルギー束が同盟艦を貫通し、背後の艦をも巻き込んで爆沈させる。一撃で三隻、四隻と戦列が消えていく。

スクリーンの敵影が、みるみる減っていった。

 

「……今よ」

 

リリーナは静かに言った。

 

「この中を突破するわ」

 

メルゲントハイム艦隊は即座に隊形を変える。装甲の厚い戦艦群を先頭に、不格好ながら紡錘形の突撃陣形が形成された。

 

そのまま艦隊は、崩壊した同盟艦隊の隙間へ突入した。相手はすでに組織的な艦隊運動を維持できる状態ではない。大打撃を受けた同盟艦隊は、突破していく敵を止めることができなかった。

 

「このまま離脱するわ」

 

リリーナがそう言った――その時だった。

 

「新手です!」

 

「左右から……艦影多数!」

 

スクリーンに新たな赤い光点が広がる。

 

「合計……最低でも三万隻以上います!!」

 

リリーナの目がわずかに細まった。

 

激戦の最中、破壊された艦隊の残骸や爆発の光で索敵は著しく妨げられていた。しかも接敵後すぐに戦闘に入ったため、周囲を確認する余裕もほとんどなかった。

 

そして今、崩壊した艦隊の向こう側にあったものが姿を現す。

別の同盟艦隊。左右から接近してくる巨大な艦隊群が、ゆっくりと包囲を閉じようとしていた。

 

リリーナは瞬時に決断した。

 

「全艦隊、左の艦隊に向かってこのまま突っ込みなさい!!」

 

戦艦群が再び加速する。

 

紡錘陣形を保ったまま、左翼の同盟艦隊へと突入していった。

プロシア級戦艦の主砲が火を吹き、敵戦列に巨大な穴が開く。

 

爆発が連鎖し、同盟軍の巡航艦や駆逐艦が次々と吹き飛んでいく。

しかし、その機動はすべての艦にとって同じ意味を持つわけではなかった。

継戦能力の乏しい砲艦や駆逐艦にとって、それはあまりにも過酷だった。

 

前方の戦艦群が火力で道を切り開く一方、後方の小型艦は追随するのが精一杯だ。そこへ、右翼側にいた同盟艦隊がメルゲントハイム艦隊の側面と背後にまわりこみ、そこから苛烈な砲火が降り注いだ。

 

「砲艦隊、被害拡大!機関部が狙われています!!」

 

小型艦の損害が急速に増えていく。至近距離からの撃ち合いを想定していない古い小型艦は破れかぶれになった同盟艦艇の自殺まがいの攻撃によって損耗していく。

 

「背後の敵は気にせず、前に突き進むわ。こっちの艦隊を崩してから反転して背後を叩く!!」

 

そして、リリーナの艦隊の損害とは比べ物にならないほどの勢いで同盟の艦の爆沈が相次いだ。みるみるうちに、進路上とその周辺の艦が宇宙の藻屑となっていく。

 

そして、リリーナの目の前から艦影が消え去る。それを見たリリーナは即座に命じた。

 

「全艦反転!後方の敵を撃つわ!!」

 

突撃で艦列を全て貫いた直後に反転し、追撃してくる艦隊を叩く。

 

理屈としては正しい判断だった。

だが高速機動を続けながら艦隊陣形を整然と反転させるには、熟練した艦隊運用が必要だった。

 

リリーナにはまだその経験が足りない。各艦がばらばらに旋回を始めたところへ、小艦隊単位で接近した同盟艦が全方位から嫌がらせのように砲撃を加えてくる。

 

戦場は一気に混乱した。メルゲントハイム艦隊は沈没した艦艇を出したことで浮足立っており、反応すべき敵とそうでない相手との区別がつかず、挑発に引っかかって他の艦の進路を妨害するようなことが相次いだ。

 

「隊形崩れています!」

 

「背後から敵!」

 

「エネルギー残量低下!」

 

ようやく艦隊が反転を終え、再度攻撃体勢を整えたころにはすでに同盟艦隊の大半は宙域から離脱していた。

 

深追いはしてこない。リリーナとしても追撃するだけの気力はなかった。

 

戦場には、破壊された艦艇の残骸だけが漂っている。

 

リリーナはスクリーンを見つめた。

自艦隊のエネルギー残量も、無駄撃ちが多すぎたのかもはや心もとない。

 

「……いいわ」

 

短く言う。

 

「直ちにこの宙域から離脱するわ」

 

背後の宙域にワープアウトしていた輸送艦隊と素早く合流し、隊形を整える。そしてメルゲントハイム艦隊は、アムリッツァ星系から離脱するために静かに針路を変えた。

 






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ビュコック、ヤンそれかキャゼルヌあたりの誰かの視点を描きたいが、全員難しすぎる……
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