銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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本当に今更ではありますが、本作にはキャラクターの解釈・改変が含まれる可能性があります。原作のイメージと異なる場合がありますので、ご注意ください。





人民の守護者

帝国暦487年10月、メルゲントハイム伯爵領 首都惑星トワングステ side: ラインハルト

 

 

リリーナ率いる艦隊の力が想定以上であることは、ラインハルトにとって喫緊の問題だった。そして、その暴走が時間の問題であり、数年後には間違いなく誰も止められなくなるのは火を見るよりも明らかだった。

 

ラインハルトは諸将とそれを討議したが、結論らしきものがでることはなかった。

 

沈黙がしばらく続いたあと、ラインハルトはゆっくりと視線を巡らせた。

 

「意見があるのかオーベルシュタイン」

 

オーベルシュタインは一歩前に出る。そして、ためらいもなく言った。

 

「簡単なことです。閣下とメルゲントハイム伯がご結婚なさればよろしいのです。メルゲントハイム伯は未だ幼い。夫たるものがその代理として権限を握ることは、帝国の慣習法でも認められております」

 

その場の空気が一瞬で凍りついた。

 

あまりにも突飛だった。それは手段を選ばないという点のみについてはオーベルシュタインらしいといえる提案でもあった。

 

結婚というものは、あらゆる外交折衝の中でも特別な意味を持つ。

それは互いの利害を調整することではなく、双方の利益そのものを一体化させることで目的を達成しようとする手段だからである。

 

通常の条約や同盟は、あくまで別々の主体が互いの利益を計算し、折り合いをつけることで成立する。だが婚姻は違う。両者の利害を切り離せなくすることで、対立そのものを消してしまおうとするのだ。

 

もちろんそれは、互いの利益だけでなく不利益まで共有するという意味でもある。

一方の失敗はそのまま他方の失敗となり、一方の敵は他方の敵にもなる。

まさに劇薬と言ってよい。

 

だが同時に、それでしか解決できない問題が存在することもまた事実だった。

 

しかし、そんな提案が容易に受け入れられる訳もなかった。

 

「なっ、結婚だと」

 

戦術ホールの空気が一瞬で変わった。

 

「出過ぎた真似をするな!」

 

ビッテンフェルトが椅子を鳴らして立ち上がる。

 

「何が悲しくて門閥貴族のような真似をせねばならんのだ!!よりにもよって閣下にそれを申し上げるとは、貴様は一体何を考えている!!!」

 

その声は怒りというより、嫌悪に近かった。周囲の提督たちも沈黙していたが、その空気はほとんど同意を示していた。

 

門閥貴族の政治を打ち破るという考えを持ちながら、婚姻を政治の道具にするなというのはもっともだった。なにしろ、ラインハルトはそれをこそ正すためにこの道を志したのだ。

 

しかし、反論が続かなかったのは、誰も、ラインハルトも、キルヒアイスすらもそれ以外の代案を持っていなかったからだった。

 

もっとも、リリーナという人物が結婚相手としてふさわしいかどうかという点であれば、議論はいくらでもできただろう。むしろ、その倫理観や行動原理を思い返せば、誰一人として歓迎できる相手とは思っていないに違いなかった。

 

だが、その問題は本質ではなかった。

 

リリーナの人格がどうであれ、帝国にとっての問題はただ一つ、リリーナが保有する軍事力だった。そして、その事実においては、感情も倫理も、問題の解決にほとんど影響を与えない。気まぐれに宇宙を破壊できる存在を許容できるかといえば否である。

 

沈黙が落ちたあと、ラインハルトが口を開いた。

 

「オーベルシュタイン」

 

声は静かだった。

 

「そもそも、私は二年前に婚約を断られている。それも知っての通り、不適格という烙印を押されてな」

 

その言葉とともに、当時の怒りが胸の奥から再び湧き上がってくる。

誰かに明確に無能扱いされること。しかも、それを理由付きで公開されること。ラインハルトの生涯においても、それは最も屈辱的な出来事の一つだった。

 

拳がわずかに握られる。その時、隣にいたキルヒアイスがそっと手を握った。

ラインハルトは一瞬だけ目を閉じる。

怒りは完全には消えない。だが、少しだけ落ち着きを取り戻した。

オーベルシュタインは表情を変えなかった。

 

「承知しております」

 

淡々と答える。

 

「しかし、攻めるべきは本人ではなく母親の伯爵夫人です」

 

その言葉に数人の提督が眉をひそめた。

オーベルシュタインは続ける。

 

トワングステでは、リリーナの親族が半ば幽閉された状態にある。 その中には、リリーナの母親も含まれている。

 

そしてオーベルシュタインは、すでにその伯爵夫人と面会していた。

伯爵夫人は、娘の現在の行動を深く憂慮していた。誰かが止めなければならない、と。

そして、かつて成立しなかったラインハルトとの婚約について、今でも悔いているという。

 

もしあの時、婚約が成立していたなら。少なくとも娘は、誰かと対等に言葉を交わす関係を持っていたはずだと。

 

オーベルシュタインは最後に言った。

 

「帝国貴族の慣習では、爵位を持つ当主本人が未成年の場合、両親の同意で婚約が成立します。この場合、母親である伯爵夫人が同意すれば、まずは婚約が成立します」

 

沈黙が落ちる。

 

「旧態依然とした法ですが、使えるものは使うべきかと」

 

オーベルシュタインは静かに付け加えた。

 

 

 

「しかし、それをもとに結婚を申し込んだとて受けるかな」

 

ラインハルトの問いに、オーベルシュタインは迷いなく答えた。

 

「受け入れざるを得ないでしょう」

 

静かな声だった。

 

「これを拒む場合、トワングステをはじめとした領地を焼き払う……そう暗に通告すればよろしいのです」

 

数人の提督が顔をしかめたが、オーベルシュタインは続けた。

 

「いくら彼女が専制君主であろうとも、実際に艦を動かすのは現場の兵士。主君が殺されるならともかく、結婚となれば抵抗は小さい。主君を裏切ったのではなく、母親が認めた婚約に基づいた結婚に賛成したと、そう解釈すれば自分の家族が焼かれずに済むならそうしたいと考えるでしょう。技術は生活を変えても、価値観はそう速くは変化しないものです」

 

わずかに視線を動かす。

 

「かつて帝国宮内省から正式な婚約話があった相手。そして形式でいえば爵位も釣り合っている。本来異論を挟む方が難しいというものです」

 

ビッテンフェルトが腕を組んだまま唸る。

 

「……だが、そもそも叩き潰せば済む話ではないのか?」

 

オーベルシュタインは首を振った。

 

「今の段階でメルゲントハイム伯を滅ぼすことは不可能でしょう。確かに本拠地の星系を破壊することは可能です。しかし、その場合はあの艦隊と戦うことになります」

 

一瞬、沈黙が落ちた。

 

「我々より速く、我々より遠距離からこちらを撃破する艦隊。見ての通り、少なくともこちらも数個艦隊で挑まねば一方的に撃破されるでしょう。」

 

少し間を置く。

 

「そして激昂すれば、あえて艦隊戦を挑まず、オーディンだろうとフェザーンだろうと、衝動的に破壊しかねません」

 

「オーディンをか……」

 

ラインハルトは視線を落とし、しばらく黙り込んだ。

 

頭の中で戦場の図が組み立てられていく。

 

速度。火力。砲戦距離。

それらのすべてがこちらより優れている艦隊を相手に、正面からの艦隊戦を挑むこと。それがどれほど無謀なことか、ラインハルトにはよく分かっていた。

 

特に問題なのは戦場だ。

 

リリーナは、ラインハルトのことを多少なりとも知っている。ラインハルトがどこを守ろうとするか。どこを捨てられないか。それを理解している可能性が高い。

 

つまり、リリーナが激昂した場合、その戦場はおそらく帝都オーディンになる。

 

帝国の政治と権威の中心。そして…………。

 

そこを背にして戦うということは、守るべきものを抱えたまま戦うということだった。

 

もしリリーナが、オーディンそのものを害することを目的に動いたなら。それを完全に防ぎきることは、極めて難しい。都市防衛と艦隊戦を同時に成立させることは、理論上は可能だ。だが実際には、ほとんど不可能に近い。

 

まして相手は、あの艦隊だった。ラインハルトの指先が、無意識に拳を握る。

もし領地を焼かれたなら。その時、リリーナはどう動くか。怒り狂ったメルゲントハイム艦隊が、どのような非常手段に訴えるか。それはラインハルトの想像の範囲に収まるものではない。

 

都市への軌道砲撃。小惑星の落下。主星そのものの破壊。

 

これまでの戦歴を見れば、リリーナがそうした手段をためらうとは到底思えなかった。

ラインハルトの胸の奥に、静かな苛立ちが生まれる。

 

 

ラインハルトはゆっくり顔を上げた。

 

「……なるほど」

 

小さく呟く。

 

「確かに」

 

そして静かに言った。

 

「敵に回すには、あまりにも危険だな」

 

ラインハルトにとってリリーナは、自分と対等であることをしぶしぶながらも認めざるをえない相手であった。艦隊戦とは方向性こそ違うが、力と意思でもって世界を動かしている点では、自分と同じ側に立つ存在でもある。

 

そして同時に、あの屈辱を晴らし、屈服させたい相手として意識した唯一の女性でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年10月、メルゲントハイム伯爵領 首都惑星トワングステ side: ミッターマイヤー

 

 

「卿はクロプシュトック侯討伐の際、あれとともに乗艦していたではないか」

 

ロイエンタールが言った。

 

ミッタマイヤーは腕を組み、しばらく考え込んでから首を振った。

 

「……分からん」

 

短くそう言う。

 

「ただ、あの艦隊があまりに非常識なのは確かだ」

 

少し苦い顔になり、言葉を選ぶように続けた。

 

「伯爵本人について言うなら……人間としての何かがないことは前提だが…………そのうえで無邪気、というのが一番近いのかもしれん」

 

ロイエンタールの片眉が上がる。

 

「無邪気だと?」

 

「ああ」

 

ミッタマイヤーは頷いた。

 

「新しく手に入れたおもちゃを試す子供のように、新しい凶器を振り回している」

 

ロイエンタールは鼻で笑った。

 

「笑えんな」

 

「笑えんとも」

 

ミッタマイヤーは即座に答えた。

 

「そんな戦い方でもクロプシュトック侯の艦隊とは、まともな戦いにはならなかった。あの時の艦隊でも最初の主砲斉射で敵艦隊は殆ど壊滅するほどだ。」

 

ロイエンタールは静かに言う。

 

「メルゲントハイム伯は統治者としてはいざ知らず、技術者としては当代一。それを手中にすれば帝国軍が大きく強化されることは自明の理だ」

 

ミッタマイヤーは頷いた。

 

「それは分かる」

 

だが、と続ける。

 

「民間人に対しても容赦がなく、いたずらに民衆を傷つける」

 

少し間を置いた。

 

「クロプシュトック事件では都市ごと焼き払い、先のカストロプ公討伐では、惑星に小惑星をぶつけて居住不能にした」

 

ミッタマイヤーは低く言った。

 

「果たして、本当にあれに歯止めを利かせられるのか」

 

ロイエンタールはしばらく沈黙したあと答えた。

 

「分からん」

 

だが、続ける。

 

「ただ、ローエングラム伯がそのような暴挙を無制限に許すとも思えん…………あの方は人民の守護者たろうとしていることは疑いようがない」

 

ミッタマイヤーが顔を上げる。

ロイエンタールは淡々と言った。

 

「艦隊さえ粗方握っておけば、あれがどれほど危険な兵器を作ろうと、それを使うかどうかは結局こちら次第だ…………いざとなれば…………」

 

ミッタマイヤーは苦笑した。

 

「ずいぶん危険な話だな」

 

ロイエンタールの口元がわずかに歪む。

 

「ああ、危険な女だ」

 

ロイエンタールは肩をすくめた。

 

 

 

 

 





お気に入り・評価よろしくお願いいたします。












いつの間にか、敵と死闘を繰り広げていた少女が弱った隙に、敵でもないのにその本拠地を大艦隊で占拠し、脅しをかけて結婚を迫るというとんでもないラインハルトが完成していた。

ラインハルトファン、ヒルダファンの方すみません。頭おかしいリリーナってやつが悪いんです。勝手にこうなってました……

あと、オーベルシュタインファンの方も…………
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