銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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リリーナの帰還

帝国暦487年10月、セクスティア星系 side: リリーナ

 

「ものすごい複雑な気分だわ……」

 

リリーナは椅子の背に体を預けながら、小さく呟いた。

リリーナ個人として、ラインハルトのような人間は評価が難しい。

 

軍事的才能があるのは間違いない。それを動かす政治力もある。兵站や後方組織についても理解しているのだろう。

 

少なくとも、ただの無能な戦争狂いではなく、極めて有能な戦争狂いだ。

 

だが、科学技術に対する態度だけは、どうしても引っかかった。

 

どこか冷笑的にすらみえ、距離を置いた見方をしている。技術者としての基盤を、全く持っていない。それはリリーナにとって、少し不思議な感覚だった。

 

この宇宙を動かしているのは、結局のところ技術だ。 艦隊も、経済も、輸送も、すべてその上に成り立っている。艦隊の人員も戦闘員というより技術者に近い役割のものも多い。

 

それを差し置いて戦争にのめりこむというのは理解できない。……理解できないけれど。

リリーナは小さく息を吐いた。

 

その能力や熱意を、戦争なんかではなく研究や開発に使えば、どれほど面白いことになるだろう。そんなことを思う一方で。あの性格なら、戦争の方が向いているのも確かだとも思う。

 

むしろ、上手く使えば便利なのかもしれない。

 

面倒な内政や貴族との折衝を、誰かが代わりに引き受けてくれるなら。

 

「できることは、もっと増えるはず」

 

リリーナは椅子の背にもたれながら、天井をぼんやりと見上げた。

 

帝国貴族とのやりとり。

領地の統治。

資源配分。

輸送路の調整。

 

そういったものは、はっきり言ってリリーナにとって最も時間を浪費する作業だった。

もしラインハルトがそれを引き受けるなら……

 

 

 

そう考えると、リリーナは自分でも妙な気分になった。

 

評価が定まらない。

 

敵としては厄介。味方としては便利。人間としては……よく分からない。

 

幸いなことに。女の扱いが上手そうなタイプにはとても見えなかった。むしろ、そういうことに興味がなさそうだ。少なくとも、本当にロリコンだから結婚を申し込んだわけではないだろう。それが、リリーナが辛うじて結婚に同意した理由の一つでもあった。

 

「変に色気を出されるよりは、戦争してる方がまだマシね」

 

そう呟いてから、ふと考える。……自分も大して変わらない気がしてきた。

なにしろ、さっきまでのリリーナの目標は自由惑星同盟。人類の生存圏の半分に居座っている反乱軍をどうにかすることなのだから。

 

「まずはあれを滅ぼしていろいろ使わせてもらいましょう」

 

そして、そこからの収入をもらう。

 

同盟が占拠している広大な星域。その経済圏と人口が丸ごと手に入れば、研究資源は桁違いに増える。そして、その管理はラインハルト持ちなのだ。

 

いや、そうなるとむしろ手近の大貴族のほうがいいかもしれない。領民は領主に従うことになれているので、同盟よりは扱いやすいにちがいない

 

リリーナは星図を眺めながら、小さく呟いた。

 

「そう考えると……結婚も、悪くないかもしれないわね」

 

口元にわずかな笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

 

通信スクリーンには、二人の提督の姿が映し出される。

 

「メルゲントハイム伯爵閣下、お迎えに上がりました」

 

ルッツが敬礼する。ワーレンもそれに続いた。

 

それにリリーナは軽く頷いた。

 

「我々とは別にメックリンガー艦隊とケンプ艦隊がこの宙域に駐留しています。万一を考えて、反乱軍のイゼルローンへの撤退を見届けるとのことです」

 

ルッツが説明する。

 

「ローエングラム伯閣下もトワングステに滞在されています。閣下をそこでお出迎いたします」

 

リリーナは苦笑いしながら頷いた。

 

ルッツ、ワーレン両艦隊と合流し、改めてリリーナはトワングステへ向けて針路を取った。

周囲を二万隻近い大艦隊が取り囲んでいる。その大半がリリーナ艦隊の後方に位置を取り、距離を保ちながら進んでいた。

 

陣形は丁寧だった。とはいえ護衛というより、監視に近い。

リリーナは戦術スクリーンに広がる青い光点の群れを眺めた。

 

「……ずいぶん丁重ね」

 

誰に向けたわけでもなく呟く。リリーナは少しだけ口元を歪めた。

 

「酷い恐れられようだわ」

 

二万隻の艦隊が、一人の少女の艦隊を囲んで航行している。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年10月、メルゲントハイム伯爵領 首都惑星トワングステ side: リリーナ

 

首都惑星トワングステ。

 

リリーナが愛した美しい星は、軌道上を無粋な帝国軍の艦艇によって埋め尽くされていた。

 

銀色や黒色の戦艦が幾重にも並び、星の周囲に巨大な輪を作っている。

 

ラインハルトの本隊だけでも五万隻を超える。そこにルッツ、ワーレン両艦隊まで合流したのだから、混雑はひどいものだった。

 

航路管制の光点がびっしりとスクリーンに並ぶ。リリーナはそれを眺めながら呟いた。

 

「よくこれでぶつからないものね」

 

一つ間違えば艦隊同士の衝突事故になりかねない密度だった。

その中で、ひときわ白く輝く艦があった。

 

ラインハルトの旗艦ブリュンヒルト。

 

純白の船体は他の帝国艦よりも滑らかな曲線を持ち、まるで彫刻のように星光を反射している。

 

その近くに停泊せよ、と経路指示が届いた。それは、リリーナの旗艦ヴュルテンベルクの主砲がブリュンヒルトに向かないようにあえて複雑な経路を指定している。

リリーナは即座に顔をしかめた。

 

「ここは私の星よ」

 

腕を組む。

 

「私の好きなところに止めるし、用があるならあちらが来ればいいでしょう」

 

それに……リリーナはスクリーンに表示されたブリュンヒルトの艦影を眺めた。

 

ブリュンヒルトの全長はおよそ一千メートル。帝国戦艦としては大型の部類だが、リリーナの旗艦ヴュルテンベルクと比べれば話にならない。

 

ヴュルテンベルクは四千メートルを超える巨大艦だった。ブリュンヒルトに対して全長で四倍、質量では百倍近くある。帝国艦隊の整然とした狭い艦列の間を、そんな巨艦で縫うように進むというのはあまりに面倒だった。

 

その要求は、意外なほどあっさり受け入れられた。

 

滑らかに帝国軍の艦列がゆっくりと動き始める。巨大な艦隊が、まるで一つの生き物のように形を変えた。

 

数万隻の艦艇が少しずつ位置をずらし、通路を作る。その動きは混乱とは程遠く、整然としていた。

 

やがて、その間を押し出されるようにしてブリュンヒルトが前へ出てくる。

帝国艦隊の中央からゆっくりと抜け出し、広く取られた空域へと進んでくる。その動きには、無駄な推進も、急な修正もない。

 

そしてそのまま、滑るようにヴュルテンベルクへ接近した。

巨大な四千メートル級艦の横に、千メートル級の旗艦がぴたりと位置を合わせる。

リリーナはスクリーンを見ながら感心したように言う。

 

「艦隊運動は本当に見事ね」

 

リリーナは椅子から立ち上がった。

 

「ローエングラム伯に、こちらへ来るよう伝えて」

 

そして少し考え、付け加える。

 

「あー……応接室に案内しなさい」

 

そこはヴュルテンベルクの中央部にある広い部屋だった。

 

旗艦として来客を迎えるために設けられた空間ではあるが、実際に使われる機会は多くない。そのため、いつの間にかリリーナの思索の場になっていた。

 

壁際にはいくつものスクリーンが設置され、星図や設計図、実験データを同時に映し出せるようになっている。本来なら調度品や装飾が並ぶはずの場所には、代わりに端末が置かれている。

 

辛うじてスクリーンにそれらしい映像を流すことで、応接室であることを主張していた。

 





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